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「スーパーストラト」はストラトキャスターを出発点に、ハムバッカー搭載などサウンドバリエーション増強、音域の拡大、カッタウェイの拡大やヒールカットなどによる演奏性の向上、といった改良を加えた強化型のギターです。ハードロックやメタル、フュージョンなど高い演奏技術や多彩な音色が要求される現代的なジャンルで特に支持されるほか、スタジオミュージシャンの商売道具としても定番視されています。今回はスーパーストラトの基本的な特徴から、その魅力、選び方のポイントまで、また歴史や代表的なモデルについても触れていきます。
- ギター教室「The Guitar Road」 主宰
- 小林 健悟
名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。
- エレキギター博士
- コンテンツ制作チーム
webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。
- ハードロックと共に歩んだ、スーパーストラトの歴史
- スーパーストラトの特徴と、選ぶポイント
- 《部門別》おすすめスーパーストラトのラインナップ
ハードロックと共に歩んだ、スーパーストラトの歴史
《70年代》ハムバッカー搭載ストラトが模索される
Van Halen – Jump (Official Music Video)
ロックが激しさを増していく中、「ストラトの演奏性でハムバッカーのパワーが欲しい」と考えたギタリストは多く、かのリッチー・ブラックモア氏も1974年のマンチェスター公演でHHストラトを使用していることが確認されています。とはいえエドワード・ヴァン・ヘイレン氏のトレードマーク「フランケンストラト」が最も影響力のあるスーパーストラトであることに間違いはありません。なお70年代は、ストラトにハムバッカーが乗っている時点でスーパーなストラトと目されていました。
《80年代》フロイドローズの発明により、現代的なスーパーストラトが完成する
Night Ranger – Don’t Tell Me You Love Me (Live)
1977年に発明され1982年に量産体制に入ったフロイドローズ・トレモロシステム(FRT)が普及し、スーパーストラトに採用されていきます。小さめボディ&スルーネック構造のJackson「Soloist(1984~)」、同じく小さめボディ&ボルトオンジョイント構造のJackson「Dinky(1986~)」は、ハードロックシーンに欠かせないギターとなりました。
またこの頃、James TylerやTom Anderson、Sadowsky やValley Artsら、スタジオミュージシャンに訴求するハイブランドも台頭しており、ロック界隈とスタジオ界隈の両面でスーパーストラトが発展していきます。
《90年代以降》音楽の多様化に従い、スーパーストラトも分化していく
[Official MV] Unlucky Morpheus「世界輪廻 (Sekai-Rinne) 」
90年代以降、高性能なブリッジやペグの登場により、スーパーストラトにFRTが必須ではなくなっていきます。また2000年代以降、特にロックを意識したモデルでトレモロレス仕様機が支持を伸ばしていきます。
現在では各社からさまざまなスーパーストラトがリリースされる様相を呈していますが、大胆に分けると
- 万能型:コイルタップなど特殊配線をからめた豊かなサウンドバリエーションで、トレモロユニット搭載が基本
- ロック特化型:リアのハムバッカーを軸とする絞ったサウンドバリエーションで、トレモロの有無はプレイスタイルにより選択
と分類することができます。
「スーパーストラト=ディンキー」なのか?

Jackson Pro Dinky DK2Q
「ディンキー」がスーパーストラトの代名詞として使われることもありますが、厳密には間違いです。語源となったJackson「Dinky」最大の特徴は8分の7にダウンサイズしたボディにあり、「ボディが小さめのスーパーストラト」が正しいディンキーの定義です。この意味でフェンダーサイズのボディを使っている「フランケンストラト」はディンキーではありませんし、例えばIbanezの代表機種「RG」シリーズはむしろストラトキャスターより若干デカく、やはりディンキーと呼ばれるべきではありません。
Ratt – Round And Round (Official Video)
伝説的なハードロックバンド「RATT」のリードギター、ウォーレン・デマルティーニ氏は、甘いマスクと高度な演奏技術の両方を兼ね備えたギターヒーローです。氏の構えるディンキーが証明するように、ディンキーは「ウマいギタリストが持つもの」です。
スーパーストラトの特徴と、選ぶポイント
ではここから、スーパーストラトの特徴を見ながら頼れる一本を選びぬくポイントを合わせて考えてみましょう。選び方については予算やネックグリップなど一般的な観点はさておき、スーパーストラトに特化したところを重点的に見ていきます。注目するところは、ボディサイズ、音域とハイポジション、サウンドバリエーション、ブリッジ仕様、以上の4点です。
ボディサイズやルックス

同じ縮尺の画像で比較する、Jackson「Dinky」とFender「Stratocaster」
スーパーストラトのボディは多くの場合、軽量化と抱えやすさのため小型化します。小型化したボディは「ディンキーサイズ」と、またフェンダーと同程度のボディは「フルサイズ」と呼ばれます。どちらが弾きやすいかについては完全に好みの問題ですが、我々日本人よりも平均身長の高い欧米人から「小さい方が弾きやすい」という意見がでているあたり、ディンキーサイズは決して無視できません。
ピックガードの有無と演奏性の関係
スーパーストラトの中には、美しいトップ材を覆ってまでピックガードを備えるモデルも多くあります。大きなピックガードによってストラトっぽさが演出できるほか、その厚みによる底上げ効果で、ボディからの弦高が下がります。ボディ表面に指を置いてピッキングするスタイルのプレイヤーにとっては、ストラトのピックガードの有無は演奏性を分かつ重要な要素です。
フレット数とハイポジションの演奏性

Ibanez「RG」の、オールアクセス・ネックジョイント。
ストラトキャスターの音域はヴィンテージ・スタイルで21フレット、現代的なモデルで22フレットです。一方、スーパーストラトでは22フレットと24フレットが普通です。またこの音域をフルに活用できるようカッタウェイを拡大したり、ジョイントヒールを丸く整えたりして、フィンガリングにかかるストレスを少しでも軽減させようとしています。高い音域でのプレイが多い人にとって、カッタウェイやヒール部の形状は非常に重要なポイントです。
ヒールカットと音響性能の関係
スル―ネックのモデルなどではキレイサッパリ切除してしまうこともあるヒール部ですが、ネックからボディへの振動伝達に関わる、音響性能上たいへん重要なポイントでもあります。昔ながらの四角いヒールにプレートを当てるジョイント法を、いまだに採用するスーパーストラトがあるのもそのためです。しかし、逆にロックに特化したモデルなどでは、むしろヒールをバッサリとカットしたギターの音が良いという考えもあります。
フレット数とフロントピックアップの関係
22フレットと24フレットでは、フロントピックアップのサウンドに大きな違いが生まれます。22フレットでは多くの人が聞きなれている、丸くて太い昔ながらのフロントピックアップの音が出せる位置です。これに対して24フレットとなるとそこから2~3センチほどブリッジ寄りに設置されることになり、若干引き締まった音色になります。ストラト本来の音色とは異なりますが、現代的なロックやポップスではむしろこっちの方が使いやすいという考えもあります。
ピックアップの配列やサウンドバリエーション

SCHECTER 「SD-2-24-AL」
ミニスイッチで両ハムをコイルタップできる。
スーパーストラトのピックアップ配列は、HSSやHH、HSHなどリアにハムバッカーを擁する配列が基本です。ところがストラトキャスターの持ち味であるハーフトーンを得ようと思ったら、リアはシングルコイルでなければなりません。そこで、幅広いジャンルをカバーしたければ、コイルタップなどの特殊配線が必須となるわけです。逆にロックに特化したスーパーストラトでは、特殊配線が非採用のシンプルな操作系のモデルも多く開発されています。
サウンドバリエーションは、使い切らなくても良い
特に万能型のスーパーストラトは、サウンドバリエーションが多く確保されています。しかしプレイヤーは最低限ギターの操作系について把握していて好きな設定が1つか2つあればもうそれで十分で、豊かなサウンドバリエーションの全てを使い切る必要はありません。使わないサウンドバリエーションにもこの先使うかもしれない可能性が残されているわけですし、本当に使うことが無いのならいっそのこと配線を改造して、好きな音しか出ないようにしてしまえばいいのです。
ブリッジの仕様やセッティング

James Tyler「CLASSIC」
アームアップのできないシンクロトレモロだが、フローティングセッティングすることで表現に幅ができる。
ストラトキャスターには本来、シンクロナイズド・トレモロユニットが備わっています。それもあってスーパーストラトにも、特別なこだわりがなければトレモロの装備が必須だと言って良いでしょう。シンクロナイズド・トレモロユニットとFRTが主に採用されますが、そのセッティングもチェックしておきたいポイントです。
ストラト同様のセッティングの場合
ストラトキャスター同様のセッティングであれば、ボディトップに密着させる「ベタ付け」と、ちょっと浮かせる「フローティング」のどちらかを選択できます。ベタ付けはアームダウンしかできなくなりますが、チョーキングでブリッジが動揺しないようにでき、ユニゾンチョーキングやハーモナイズドチョーキングなど、チョーキング系のピッチが安定します。一方でストラトのフローティングでは、アームアップの幅はごくわずかですが、クリケット奏法や自然なビブラートができます。
フローティングを前提としたセッティングの場合
FRTは主にフローティング前提でセットアップされ、ベタ付けはできません。また一部のWilkinsonトレモロなども同様です。ボディにザグリが施されるギターでは大胆なアームアップができるなど、アームの表現力を最大に発揮できます。その一方でブリッジ位置が弦張力に追随しますから、チョーキング技のピッチに注意を要するほか、演奏中に弦が切れたら一巻の終わりというリスクがあります。
《部門別》おすすめスーパーストラトのラインナップ
ではおすすめのスーパーストラトを見ていきましょう。現代のスーパーストラトは、ロックに特化したモデルと現代的なサウンドの全てをカバーする万能型に大別できます。このロック特化型と万能型の2タイプを、海外ブランドと日本ブランドそれぞれに分けて見ていきます。なお、海外ブランドからも日本製のギターが多くリリースされています。また、万能型は現代のストラトキャスター・タイプとの区別がかなり曖昧になっているので、ストラトの記事もチェックしてみてください。
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ロック系に特化した、海外ブランドのスーパーストラト
ロック系に特化した、日本製日本ブランドのスーパーストラト
憧れの万能型ハイエンドモデル
日本のブランドがリリースする、万能型スーパーストラト
以上、スーパーストラトをテーマに歴史や特徴、おすすめモデルなどをチェックしていきました。原点であるストラトキャスターも現代の要求に応じて変化していますが、スーパーストラトはストラトの殻を破る勢いでさまざまな姿を見せてくれます。ロックにしっかりフィットする感じや一本で何でもできそうな万能感が得られますから、ぜひ実際にチェックしてみてください。
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