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《ヘッドがない!》ヘッドレスギター特集

ヘッドレスギター SAITO GUITARS S-HL7

「ヘッドレスギター」とは、その名の通り「ヘッドの無いギター」のことです。「弦楽器には必ずヘッドがある」という常識が覆されたのは1980年のことで、世界初のヘッドレスギターを開発したスタインバーガー社はこの時代の音楽シーンを席巻しました。

  • 標準的な弦長ながらコンパクトなサイズ感
  • 伝統的なスタイルから一歩抜きんでた未来感

が支持され、現在ではさまざまなブランドからヘッドレスギターがリリースされています。そこで今回は、「SAITO GUITARS」の齋藤正昭(さいとう・まさあき)さんのご協力のもと、ヘッドレスギターに関するさまざまポイントをチェックしていきます!
男の意地と執念が生み出した革新的ギター:SAITO GUITARS訪問インタビュー

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

日本ではまだまだ珍しいヘッドレスギターですが、MAYONES(メイワンズ)しかり、KIESEL(キーセル)しかり、海外ではどのブランドもヘッドレス仕様のラインナップを持つのが当たり前になっています。小規模なギター工房でも、それは例外ではありません。ショップに並んでいるギターでは満足できない人が、自分のこだわりを詰め込んだヘッドレスギターをオーダーメイドする、ということも珍しくなくなっています。

ヘッドレスギターの構造と特徴

「ヘッドが無い」ということは、そこにペグが付けられないということを意味します。それでは弦を張れないし、チューニングもできません。ヘッドレスギターはどのように弦を張って、チューニングするのでしょうか。SAITO GUITARSの「S-HL7」を例に、ヘッドレスギターのおおまかな構造をチェックしてみましょう。

1) ネック先端部の構造

ネック先端部 埋め込まれている「ヘッドピース」に弦を通し、ネジを締めて固定します。ネジが弦と接する部分は平らに処理されているため、締めすぎて弦を切ってしまうことはありません。またナットから先の弦の角度がほぼ均一になるのも、ヘッドレスの特徴です。ヘッドのあるギターでは、なかなかこうはいきません。

ヘッドピース部分 ヘッドピースのところで余分な弦を切除します。S-HL7は飛び出した弦が手やケース内部を傷めない親切設計。

ヘッドピースのマウント 見る角度によって斜めに設置されているかのように見えるヘッドピースですが、実際には弦と直交するようにマウントされています。斜めなのは、ナットと先端部分でした。

ヘッドが無いだけに「ヘッド部」と言えないところがややこしいですが、ヘッドレスギターのネック先端部には、ペグが無い代わりに弦を固定する機能が備わっています。SAITO GUITARSではこの「弦を固定する部品」を「ヘッドピース」と呼んでおり、このヘッドピースに弦を通して、ネジを締めて固定します。

普通のギターのようにペグの軸(ストリングポスト)に弦を巻きつけることがないので「巻きムラ」が生じることがなく、ここを原因としたチューニングの崩れが未然に防がれている、というのがヘッドレスギターの大きなメリットです。反面、モデルによってはクリップチューナーを使うことができないかもしれないので、注意が必要です。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

ヘッドレスギターは、ヘッドの先で弦を固定します。固定するポイントがナット付近の横一列に並びますから、ナット部から先の弦角度が全て一緒になります。これによって弦のテンション感が揃い、ヘッドレス独特の感触が作られます。

ヘッドレスの弦角度 図:通常のギターと異なり、ヘッドレスでは全弦の角度が揃う。レスポールなど角度付きのヘッドでも、全ての弦角度を揃えるのはかなり困難。

ギタリストはヘッドへ移行する「ネックの広がり」で、1フレットのポジション感をキャッチします。ヘッドレスギターにはそれが無いので、気にせず演奏できるようになるにはある程度慣れる必要があります。弊社のS-HL7にはネック先端にわずかな広がりを付けているので、普通のギターと同じような感触で演奏できます。一般的なヘッドレスでは不可能なクリップチューナーもギターハンガーも使用できる、大変便利な構造です。

参考:スタインバーガーの「ダブルボールエンド弦」

STEINBERGERのネック先端部分 画像はSTEINBERGER OWNERS MANUALより引用。「ヘッドピース」のミゾにボールエンドをはめ込むだけで弦を固定できます。ミゾはゴムのバンドで塞ぐので、アームダウンしても弦が外れてしまうことはありません。

多くのヘッドレスギターでは普通のギター弦を使用しますが、スタインバーガーのギターでは「ダブルボールエンド弦」という専用弦を使用します。この「ダブルボールエンド弦」は、通常では片方にしかついていない「ボールエンド」が両端についている特別な弦で、現在ではスタインバーガー、ラベラ、ダダリオの3社からリリースされています。もっと選択肢が欲しい、店頭に並んでいないことがあるなど、デメリットが気になるという人もいますが、この専用弦には非常に大きなメリットがあります。それは「弦交換の圧倒的な時間短縮」が可能になることです。

スタインバーガー製ヘッドレスギターのネック先端部には、ボールエンドを引っ掛けるための溝が刻まれています。弦交換時には、ボールエンドをその溝に収めるだけで弦を固定することができるのです。もちろん「余分な弦」が発生しませんから切断する必要もなく、特別な道具もいりません。また、弦の切れ端で怪我をしたりケース内を傷めたりするリスクが無くなるのも大きなメリットです。

2) ブリッジの構造

SAITO GUITARS S-HL7:ブリッジ部分 ブリッジ部分にペグの機能が備わっています。

ブラスのブロック サドルの下に埋め込まれているブラスのブロックに、ボールエンドを引っ掛けます(画像はわかりやすいように、埋め込まれているブラス・ブロックを取り出して並べている様子)。ボディから飛び出ているネジを回すとブロックが後退していき、チューニングされるというわけです。

SAITO GUITARS S-HL7:サドル S-HL7は「ファンフレット」機なので、サドルは斜めに配置されています。

サドルから先の弦の角度 サドルから先の弦の角度は、普通のギターと同じようにしっかりつけられています。

ヘッドレスギターはブリッジ側にチューニング機構を持ち、多くの場合ペグとブリッジが一体化しています。この場合、サドルの奥に弦の端をひっかけて、ボディ末端から飛び出ているネジを回していくとチューニングされます。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

弊社製品「S-HL7」の金属パーツは全て日本製で、精度にこだわった品質の高いものを使用しています。可動部の固着を防ぐ設計になっていることもあって動きはスムーズで、チューニングやオクターブ調整がとても楽にできるようになっています。

多くのヘッドレスギターでは、ナットから先/サドルから先の弦角度が緩やかになっており、独特の軽やかな音が作られています。これは弦張力が抑えられて弾きやすい設計でもありますが、たとえば0フレットを持つヘッドレスギターでは、弦張力が足りずに0フレット地点で弦が移動してしまうこともあって、注意が必要です。弊社のS-HL7は両方にしっかり角度が付けられているので、しっかりとした張りのある弦振動が得られます。

3) ヘッドレスのメリット

「ネックの先端部」のところで、ヘッドレスギターはチューニングが安定する、というメリットを紹介しました。その他にはどういったメリットがあるでしょうか。齋藤さんのお話をお聞きしましょう。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

ヘッドレスギターの大きなメリットは、

  • 楽器の大型化を防ぐことができる
  • 多弦化しても重量バランスを取りやすい

この二つにあると思います。普通のヘッドレスギターはボディも小型化するため、楽器本体が小さくなります。軽くて取り回しが良いという楽器自体のメリットはもちろん、外へ持ち出すのにたいへん助かりますから、いわゆる「トラベルギター」としても活用できます。弦数が増えても多少弦長が伸びても、ファンフレット化して低音弦が拡張されても、楽器本体が大きくなりすぎることはありません。
また、普通のギターを多弦化すると7個、8個、9個とペグが増えていき、このペグを搭載させるためにヘッドも大型化します。大きなヘッドとたくさんのペグによりヘッド側の重量が大幅に増して「ヘッド落ち」しますから、ストラップを短くしたり、左手でネックを支えながら弾いたり、というような工夫が必要となります。ところがヘッドレスギターにはその重たくなるヘッドがないわけですから、ヘッド落ちも起きません。
ヘッドレスギターは弦長を伸ばしても弦数を増やしても、演奏性にあまり影響がありません。ファンフレットや多弦ギターという新しい分野では理想的な仕様だと言えるでしょう。

4) ヘッドレスギターの音響特性は?

弦楽器のヘッド形状やその大きさは、デザイン性にとどまらず音響性能にも大きくかかわるポイントだと考えられています。1970年代にはフェンダーギブソンもヘッドを大型化していますし、インドの民族楽器「シタール」の達人仕様機では、ヘッドにボディ並の大きな共鳴胴を取りつけたものまであります。フランス発「マグネート」ではギター各部位の音響特性を計測し、「 “Tone-Influent” Shapes(”トーンに影響する”シェイプ)」というコンセプトのもとでヘッド形状を決めています。そんなヘッドの存在を否定するヘッドレスギターの音響特性はどうなのでしょうか。齋藤さんのお話をお聞きしましょう。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

ヘッドレスギターには既存のギターとはちがう「ヘッドレス独自の音響特性」がありますから、「鳴らない」なんてことはありません。ヘッドの共振が無くなりますから、通常のギターでは物理的に不可能な、ヘッドレス特有のスッキリとした響きが得られます。しかしパーツを含む「質量」がヘッド分下がるので、ちゃんと設計しないと「鳴りきらない」ということが起きます。
ヘッドレスに限らず、ギターには弦振動を受け止めるだけの剛性や質量が必要で、それがないと音が軽くなってしまって「飛び」が悪くなると考えています。音の軽いギターでもライブハウスなど比較的小さな環境で演奏するぶんには問題ありませんが、ホールやドームといった大きな会場で演奏するときには、その音飛びを機材面でフォローする必要があります。
弊社のS-HL7では、ソリッドボディの中央部分にしっかりと厚みを残し、金属パーツにはアルミではなくブラス(真鍮)を多く使用することで、飛びの良いギターに必要な剛性と質量とを確保しています。

5) ヘッドレス独特の演奏性

ヘッドレスギターの弾き心地は、弦の感触だけが特徴ではありません。ヘッド部の重量がない、ということでチョーキングビブラートにおける左手の感触に違いを感じるという人もいるでしょう。

親指と人差し指が完全に支点になったチョーキングを行う人は、通常のギターとほぼ変わらないフィーリングで演奏できます。しかし弦を持ち上げるのにヘッドの重みを利用していた人は、ヘッドレスギターを持った時に初めてそれに気が付きます。特にヘッドレスギターでは、弦を押し上げる力を親指でしっかり受け止めるチョーキング法が必要です。

ビブラートで言えば、かのエリック・クラプトン氏のビブラートは掌を完全にネック裏から離します。ジョー・サトリアーニ氏はつまむように構えた指先で円を描くようにビブラートします。このようなスタイルでビブラートができるのは、弦の上下を受けて楽器が上下しない、ボディとヘッドの両側から重みがかけられている、通常のギターを使っているからです。ヘッドレスギターでこれをやると、特に低いポジションではネックがぶらぶら動いてしまうだけですから、やはりチョーキング同様に親指で弦を受け止めるビブラート法が必要です。

ヘッドレスギターのラインナップ

ではここから、さまざまなブランドからリリースされているヘッドレスギターをチェックしていきましょう。各モデルの詳細は各ブランドの記事に任せ、ここでは

1)クリップチューナーは使えるか
2)どんな弦を使用するか

の二つに注目していきます。「クリップチューナーが使えない」ことはデメリットばかりではありません。クリップチューナーを装着する余地がないほどにスッキリしたデザインは、やはり「これぞ、ヘッドレス」と思わせてくれます。