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《特集》ファンフレットのギターって、どんな感じ?

ファンフレットのギター SAITO GUITARS S-624MS Shallows

「ファンフレット」のギター、見たことがありますか?フレットの並び方を見ていると時空がねじ曲がっているかのように見える、このようなギターです。常識的なギターのフレットはすべて平行に打ち込まれていますが、ファンフレットは低音弦に向かって広がっていく「扇(ファン)型」に打ち込まれます。近年では特にヘヴィ系/テクニカル志向のギタリストが7弦など多弦ギターで使用しているのが目立ちますが、今後は他のジャンルへも扇のように広がっていくと予想されています。今回は「SAITO GUITARS」の齋藤正昭(さいとう・まさあき)氏にご協力いただきながら、このファンフレットの魅力に迫っていきます!
男の意地と執念が生み出した革新的ギター:SAITO GUITARS訪問インタビュー

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1: そもそも、ファンフレットって何? 2: ファンフレットの恩恵 2.1: 1) 音響上のメリット 2.2: 2) ヘヴィサウンドにおけるメリット 2.3: 3) とにかくかっこいい 3: ファンフレットの注意点 3.1: 1) 演奏の「慣れ」 3.2: 2) 楽器が大型化する 3.3: 3) メンテナンスの注意 3.4: 4) アーム搭載機が少ない 4: ファンフレットの構造 4.1: 1) 弦長とフレットの角度 4.2: 2) ニュートラル・ポイント 5: ファンフレット採用モデルをリリースしている主なブランド 5.1: SAITO GUITARS 5.2: Ibanez 5.3: Jackson 5.4: Legator 5.5: MAYONES 5.6: Ormsby Guitars 5.7: Strandberg 6: 紹介したギターの各弦の伸び率とニュートラル・ポイントまとめ

そもそも、ファンフレットって何?

ファンフレット プレイヤー目線では、手前に向かって広がっていきます。遠近法的に見たら、割と普通に見える?

「ファンフレット」は、高音弦側から低音弦側に向けて徐々に広がっていくように配置するフレットのことです。これによって1弦より2弦が、2弦より3弦が、というように徐々に弦長が長くなっていくことから「マルチ(複合)スケール(弦長)」と言われることもあります。これらのワードはギターブランドや販売店が各社各様に使用しているため、「ファンフレットのギターを探したい!」と思ったら、

  • ファンフレット
  • マルチスケール

の二回に分けて検索するのがいいでしょう。

フレット一本ごとに角度を変えながら打ちこんでいくなど施工に手間がかかるため、現状では低価格帯のギターに採用されることはありません(2018年時点)。しかしわざわざ加工の経費を上げてまで、「このファンフレットを採用するのに、どんな意味があるのか」というと、「なんだか凄そう」というルック上のアピールポイント以上に、いろいろイイことが起きます(後述)。また、逆にある程度の注意点もあります(後述)。普通のギターから持ち替えると最初は戸惑うかもしれませんが、コードが押さえにくいということもなく、むしろ押さえやすくなるコードは多く、「慣れてしまえばどうってことはない」と言われています。

古くはバロック時代から存在したとも伝えられていますが、これが特許として認められたのは1989年です。そこからしばらくの間、ファンフレットはアメリカの「NOVAX」社のものでした。そして特許期間の20年が経過した2009年以降、どのメーカーでもファンフレットのギターをリリースすることができるようになったわけです。そのためファンフレットは、各メーカーがリリースする仕様としては、まだまだこれから洗練されていくであろう新しい設計です。それだけに「一般的なファンフレットはコレだ!」というスタンダードは定まっていないのが現状です。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

近年の傾向として、ギターだけでなくドラムやキーボードも演奏できる「マルチプレイヤー」が増えてきたように感じています。いろいろな楽器やいろいろなジャンルを演奏する人にとっては、自分の楽曲に必要な楽器をセレクトする、という考えが普通です。そういう人々はギターに対する考えも柔軟で、王道のサウンドばかりが欲しいのではありません。ギターがそういった多様性への求めに応じていろいろ変化していくなかで、ファンフレットには大きな可能性を感じています。

ファンフレットの恩恵

ファンフレットには、いくつかの気になるメリットがあります。どんなメリットがあるのかを考えてみましょう。

1) 音響上のメリット

第一に挙げられるのが、「音響上のメリット」です。たとえば普通のギターでチョーキングをする時、1弦は硬く、3弦は比較的軟らかく感じるのではないでしょうか。また、1弦はブライトに、2弦、3弦と移るに従ってマイルドに響きます。一般的なギターの弦は、低音に行くに従って「張り」を失っていくのです。なら3弦をもっと太くすればいいのかというと、それでは音量のバランスが崩れてしまいます。3弦が1弦のような「張り」を持ち、ブライトに響くためには、本当ならもっと弦長を伸ばす必要があるのです。

ファンフレットは低音弦の弦長が段階的に延長されていくので、一般的なギターよりも低音の「張り」が増し、全ての弦が均一なブライトさを手に入れます。コードを鳴らすとオルガンやピアノを弾いているかのような、均一な響きが得られるわけです。

もちろん通常のギターが音響的に劣っているというわけではなく、全ての弦の長さが同じことによる各弦の響きこそが、いわゆるギターの響きです。ファンフレットのギターは、「鳴りの均一さ」を強化した新しいギターなのです。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

ファンフレットのギターは、特にキーボードと合わせるときの「ピッチ感の良さ」というメリットを持っています。従来のギターでは低音がベースとかぶってしまいがちですが、ファンフレットだと低音が引き締まるので、ローが出すぎずイイ感じにミッドにまとまってくれて、聞こえやすい印象です。このため低音のフレーズがくっきりと聞こえ、ギターとベースのユニゾンも映えます。

2) ヘヴィサウンドにおけるメリット

S-624MS S-624MS Shallows;ブリッジ部分
ボディカラーをトップのみに限定している点も、SAITO GUITARSの特徴です。さまざまなカラーオーダーに柔軟に応じる姿勢が支持され、クライアント自身がボディカラーに名前を付けることで愛着を一層深める、というムーブメントが起こっています。なお、こちらのカラーリングには「Shallows」という名前が付けられています。

SAITO GUITARS S-624MSのブリッジ サドルがこのように斜めに配置されるのも、ファンフレット機の特徴です。1〜6弦の弦長が異なり、6弦で最も弦長が長くなります。

ダウンチューニングでの使用を想定したギターは、ネックが長くなるのが普通です。弦長が長ければ、チューニングを下げても弦の張りが確保されるわけです。しかしあまり弦長を伸ばしてしまうと、今度は高音でのリードプレイなどが大変弾きにくくなってしまいます。

ファンフレットのギターは多くの場合1弦の弦長が25.5インチ(フェンダースケール)で親しみやすくなっています。高音弦の演奏性を残しながら、低音弦の張りが増すわけです。

7弦以上の「多弦ギター」においても、同じことが言えます。普通の弦で低音の張りが増すわけですから、より迫力のある低音を求めて弦をさらに太くする、という必要がありません。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

弊社の6弦モデル(S-624MS)をお使いの方は、普通のギターと同じようにレギュラーチューニングで使用するのが大多数のようです。いっぽう多弦モデルをお使いの方は、ダウンチューニングで使用することも多いようです。多弦ギターの低音弦は、

  • 太い弦を張ってへヴィに行くか
  • 細い弦を張って全音域を均一に鳴らすか

という「二極化」の様相を呈しています。
ヘヴィなサウンドのバンドでは太い弦を使用するのが一般的で、「低音弦のパワーが強すぎて歪んでしまう」というデメリットもこのジャンルでは強みになります。一方ジャズなどクリーンな音色が求められる音楽の場合では、比較的細い弦で、全ポジション均一な鳴り方をしてほしいものです。しかし細い弦では、じゅうぶんな張力が得られません。細い弦で十分な張力を得るためには、弦長の延長が理想的です。ファンフレットでは低音弦の音が引き締まるから、弦を太くしなくても音がしっかり前に出ます。
ピックアップについても、例えばひとつのピックアップで細い1弦とやたら太い8弦の出力をそろえるのはなかなか難しい問題です。あまりに太い弦を使用すると低音の出力がありすぎてバランスが取りにくいんですが、ファンフレットのギターで比較的普通のゲージを使用すれば、音量バランスがかなり改善できます。

3) とにかくかっこいい

SAITO GUIATRS S-HL7 SAITO GUIATRS「S-HL7」:ファンフレット/ヘッドレス仕様のモデル。独特のブリッジ構造とあいまって、ただものではない感じが漂う

ギターブランド各社が続々と参入しているとはいえ、ファンフレットはまだ一般化したとまではいかないニッチな存在です。その珍しさも手伝い、ファンフレットのギターは見る者に強烈なインパクトを与えますから、演奏者は「こいつ、ただものではない」と見られることでしょう。

ファンフレットの注意点

では次に、ファンフレットのギターを使用する上で注意しなければならないところを考えてみましょう。どんなことが考えられるでしょうか。

1) 演奏の「慣れ」

S-624MSのハイフレット 遠近法も手伝ってか、「SAITO GUITARS S-624MS」のハイフレットは普通のフレット配列のように見えなくもない

「慣れてしまえばどうってことはない」と言われるファンフレットですが、これに慣れきってしまった状態で普通のギターを弾くと、また違ったフィーリングに感じることでしょう。こういうところも面白みの一つではありますが、人によっては違和感を覚えてしまうかもしれません。また、メーカーごと、また弦高の本数ごとにフレット配置に違いがあるため、違うモデルのギターを試しにくいかもしれない、また楽器の持ち替えにもある程度の慣れが必要となる、ということも考えられます。

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

ファンフレットのモデルをご購入されるお客様は大半、すぐ慣れてしまうようです。そもそもファンフレットに興味をお持ちの時点で、ファンフレットを受け入れやすいお気持ちになっているのだと思います。しかし中にはどうしても違和感を覚えるというお客さまもいらっしゃいますから、ファンフレットを検討される方は実際に試奏してみるのをお勧めしています。

2) 楽器が大型化する

低音弦を延長することから、ファンフレットのギターは全長が長くなり、楽器自体が大きく重くなります。全長が伸びると、他社製のギグバッグに収まらない可能性があります。そういうことへの対処の意味もあり、ヘッドのぶんだけ全長を抑えられる「ヘッドレス」仕様のファンフレット機が生まれています。

3) メンテナンスの注意

ファンフレットはまだまだこれから普及していく設計ですから、日本中どこのリペアマンでもフレット交換やナット交換ができる、というわけではありません。こうしたリペアが必要になった場合には、メーカーに送るか、ファンフレットのメンテナンスができるリペアマンを探し当てるかする必要があります。ファンフレット機のフレット交換では、打ち込むフレットの曲がり具合を決定するのが難しいのだと言われていますが、ナットについては特殊なサイズが必要になるため、クラシックギターや多弦ベース用の長い材料から削り出すなど大掛かりな作業になります。

4) アーム搭載機が少ない

ファンフレットはサドルが斜めに配置されることから、アームを搭載しにくい傾向があるようです。しかし多くのファンフレット採用機がヘヴィ系のバッキングでおおいに使用されていることから、アームがない方がむしろ都合が良いとも考えられています。

ファンフレットのギターにアームを搭載させたモデルとしてはストランドバーグが有名ですが、ほとんどのブランドでファンフレット機にアームは付けないものだ、という風潮が広がっているようです。

ファンフレットの構造

1) 弦長とフレットの角度

ファンフレットのギターは、1弦から順番に弦長が少しずつ長くなっていきます。ギターの仕様書には

弦長 メーカーとモデル名 弦の本数
26.7″-25.5″ Ibanez RGDIM6FM CLF 6本
25.5″-26.5″ SAITO GUITARS S-624MS 6本
25.5″-27.5″ Ormsby Guitars TX GTR6 6本
25.5″-26.7″ SAITO GUITARS S-724MS 7本
25.75″-25″ strandberg Boden J-Series J8 Standard 8本

表:各社各様の弦長

などのように書かれますが、二つの数字のうち小さい方が1弦の弦長、大きい方がもっとも低い弦の弦長です。各社バラバラなのが分かりますね。これがどれだけバラバラなのかをもっと突っ込んで見ていきましょう。算数が苦手な人はじっと耐え忍ぶか、いっそのこと景気良く読み飛ばしてください。

算数の時間:各弦長の伸び率の計算

SAITO GUITARSの「S-624MS」をピックアップして、「各弦長の伸び率」を計算してみます。

1弦から6弦まで、どれだけ弦長が伸びたかを「%」で出します。

式:26.5÷25.5=1.039215…

およそ「3.9%」伸びた、すなわち「全体の伸び率は3.9%」ということが分かりました。

続いて、この数値を「弦の本数-1」で割って、各弦ごとの伸び方の平均を出します。

式:3.9÷5=0.78

各弦ごとに、「0.78%」ずつ弦長が伸びている、という計算になりました。

弦の本数から1を引く根拠 図:弦の本数から1を引く根拠

この計算を、先ほど列挙したギター全てで行なった結果が、以下の表です。

メーカーとモデル名 弦の本数 全体の伸び率 各弦の伸び率
Ibanez RGDIM6FM CLF 6本 4.7% 0.94%
SAITO GUITARS S-624MS 6本 3.9% 0.78%
Ormsby Guitars TX GTR6 6本 7.8% 1.56%
SAITO GUITARS S-724MS 7本 4.7% 0.78%
strandberg Boden J-Series J8 Standard 8本 3% 0.43%

表:各社のギターは、弦ごとにどれだけ弦長が変化するのか。

最も重要な数値は「各弦の伸び率」です。この数値が小さければファンフレットの傾きは小さく、大きければ傾きは大きくなるのです。ストランドバーグの8弦はかなりゆるやかな傾きで、オームスビーの6弦はかなり急な傾きであるのは見た感じでもなんとなく分かりますが、数値ではそれが火を見るよりも明らかになり、また他社モデルどうしを比較しやすくなるわけです。このように、ファンフレットは各メーカーがそれぞれの基準で試行錯誤しているのが現状です。

2) ニュートラル・ポイント

ファンフレットにおける角度ゼロ、すなわち「フレットが弦と直交する」ところを、当サイトでは「ニュートラル・ポイント」と呼びます。ニュートラル・ポイントはファンフレットの角度変化、ひいては演奏性に直接影響する重要な要素ですが、「何フレットがニュートラル・ポイントなのか」についても、現状では各社各様となっています。またニュートラル・ポイントが何フレットに設定されているのかを仕様書に表示しているメーカーが現状ではほとんど無いので、画像や店頭で確認する必要があります。

メーカーとモデル名 ニュートラル・ポイント
Ibanez RGDIM6FM CLF 12F
SAITO GUITARS S-624MS 12F
Ormsby Guitars TX GTR6 9F
SAITO GUITARS S-724MS 12F
strandberg Boden J-Series J8 Standard 9F

表:当サイトスタッフの目視による、各モデルのニュートラル・ポイント

SAITO GUITARS 齋藤氏

SAITO GUITARS 齋藤氏のコメント:

ブリッジの角度が変化すると、ミュートする時のフィーリングに違いが出ます。また弦長が同じでもニュートラル・ポイントが違う場合、弾いているとその違いを感じ取ることができます。ファンの角度とニュートラル・ポイントはいかようにも設定できますが、弊社では構えた時の演奏のしやすさを考えて6弦/7弦は「12フレット」に、8弦は「9フレット」に設定しています。

ニュートラルポイント比較 人気モデルS-HL7と、その8弦仕様のプロトタイプ。世の中の8弦がヘヴィ志向で長い弦長を採用している中、こちらの8弦プロトは「普通のギターに弦を2本追加する」というコンセプトから、1弦の長さは25.5インチとなっています。

しかしその一方で、ファンフレットは使用する弦のテンション感を操作することも可能ですから、ジャンルやチューニングを狙って設計することもできます。ギターメーカーの多くは、弦まで開発することができません。弊社も同様でして、現在流通している「8弦用の弦」のゲージに合わせて開発する必要も感じています(この時点では、SAITOの8弦はまだプロトタイプ)。
ニュートラル・ポイントについてのスタンダードも決められていないので、各社がそれぞれに決めています。このまま定番のセッティングが決まらないことも十分考えられますし、将来的にはニュートラル・ポイントの位置設定まで自由にオーダーできるようになるかもしれません。それを考えていくと、ブリッジは各弦を独立化して自由度を確保するほうがメーカーとして好都合です。