B.C. Rich(BCリッチ)が50周年を契機にラインナップを刷新

[記事公開日]2020/3/15 [最終更新日]2022/4/5
[編集者]神崎聡

B.C. Richのエレキギター

「B.C.リッチ」は、鋭角に尖った攻撃的なルックスの変形ギターで知られる、アメリカのギターメーカー/ブランドです。その悪魔的とも言われる禍々しいスタイルと凶暴なサウンドから、一号機であるシーガル発表以来、長らく一貫してスラッシュメタルやデスメタルなど、ヘヴィ系の中でも特にダークなイメージのアーティストに支持されています。


SLAYER – Repentless (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
ケリー・キング氏はスラッシュメタル代表格(SLAYER(スレイヤー)を牽引するギタリストで、大柄な体躯にスキンヘッド、全身のタトゥーと長いヒゲがトレードマーク。見るからに極悪人のイメージですが人懐っこい性格で、「軽いピッキングでヘヴィな音を作る」のが信条。極度の野菜嫌いで野菜はポテトしか食べないのだとか。長年V型のギターを愛用しシグネイチャーモデルをリリースしていますが、ケリー氏はボルトオンジョイントがお好みのようです。

B.C. Rich の歴史

フラメンコギター職人の父親を持つB.C.リッチ創始者のベルナルド・チャベス・リコ氏(Bernard Chavez Rico、1941-1999)は、12歳の頃からコア材でウクレレを作るなど家業を手伝いました。現在のブランド名になったのは1966年頃で、エレキギターの生産は1969年頃から開始されます。オリジナルシェイプの発表は1972年からで、この時発表されたSeagull(シーガル)によってスルーネック、アクティブ回路のB.C.リッチが確立します。

その後「イーグル(1976)」「モッキンバード(1976)」「ビッチ(1977)」「ワーロック(1981)」、「アイアンバード(1982)」など印象的な変形ギターを次々と発表し、ヘヴィメタル・ミュージックの隆盛に乗って支持を広げました。
このころのB.C.リッチは何十万円もする超高級品でしたが、80年代から日本製の手に入りやすいモデル「NJシリーズ」をリリースしていきます。B.C.リッチがのちに本社をニュージャージー州に移転したことで誤解が生まれましたが、NJは「名古屋・ジャパン」を意味します。ボルトオンジョイントやFRT、EMGピックアップなど、仕様も多様化していきました。

2019年、エレキギターのメーカーとして50周年を迎えたB.C.リッチは、新たな会社組織のもとでラインナップを一新しました。全機種スルーネック仕様に回帰しつつ、ネックグリップやパーツ類で時代に合わせたアレンジを取り入れるなど、進化を続けていくエクストリーム・ミュージックのシーンにおいて、引き続き存在感を発揮しています。


Aerosmith – Dream On
今でこそメタル用ギターのイメージが濃厚なB.C.リッチですが、若かりしジョー・ペリー氏(エアロスミス所属)がいち時期愛用したことでも知られています。現在のラインナップではやはりメタルミュージックに思い切り振りきったモデルが主流ですが、名機を再現した「レガシー」シリーズでは、特定のジャンルに特化しない汎用性のあるモデルもリリースされています。

B.C. Rich ギターの特徴

見る者を威圧する「異形」のボディシェイプ

B.C. Rich ギターのボディシェイプKERRY KING WARTRIBE ONE

世界初のヒールレス・スルーネック構造や丁寧な塗装ではなく、攻撃的なボディシェイプのみがメディアでも取りざたされる状況に、創始者ベルナルド氏は心底参っていたようです。しかしB.C.リッチのギターを語る上では、その独特のボディシェイプを第一に語らない訳には行きません。極めてデザイン性の高いボディシェイプは必ずどこかが尖っており、エクストリーム・ミュージックの世界観を強烈に主張します。また、定番のボディカラーであるツヤッツヤのブラックに「Onyx(オニキス)」と名付けられているところには、このカラーに対する同社の深いこだわりを感じさせます。

国内では故hide氏(X JAPAN)が愛用したイメージの強いモッキンバードを筆頭に、ワーロックやアイアンバードなど様々な変形ギターを発表しています。どれもインパクトの強いルックスですが、変形ギターのパイオニアであるギブソンの各モデルに比べ、重量バランスとプレイアビリティについてきっちり考慮されており、ヘッドがやたら重く感じたり座って演奏することが困難だったりという変形ギターにつきもののデメリットがほぼ解消されています。むしろ異形のイメージからは想定しがたい弾きやすさのある設計で、アグレッシブなルックスとは裏腹にプレイヤーにはとても優しいギターです。

世界初のスルーネック構造

ネック材がボディの末端まで達する「スルーネック」構造は、B.C.リッチが世界で初めて発表しました。今でこそ多くのブランドが採り入れている仕様ですが、当時としてはそれ以前にあった弦楽器の構造における常識を覆す、極めて斬新な設計です。これに加え、ネック/ボディの境界線においては、ボディ側の出っ張りを容赦なくバッサリとカットする「ノー・ヒール」加工を大きな特徴としています。左手を遮るものがなくハイポジションのプレイアビリティが極めて高い上に、中音域が豊かに響くサスティンのたっぷりある独特なサウンドも実現しています。

24フレットのモデルであっても19フレット以降のポジションマークが無い、というのが本来の姿で、この仕様に慣れきっていた故hide氏は、他のギターに持ち替える際に21フレットと24フレットのポジションマークを油性ペンで塗りつぶしていたといいます。

多機能なコントロール系

B.C.Rich のコントロール系統 MOCKINGBIRD ST のコントロール系統

人気や流行からシンプルなコントロール系のモデルも多数リリースされていますが、ミニスイッチやロータリースイッチが立ち並ぶ多機能な回路は、一目でB.C.リッチのものだと分かる大変特徴的なものです。操作系だけでブランドを判別できるギターは、古今東西B.C.リッチ以外はありません。

かつてはブースター回路などもあり10個ものスイッチが搭載されていたモデルもありましたが、現在では最大でも、両ピックアップのボリューム、マスタートーン、セレクタスイッチという基本部分に加え、両ピックアップのコイルタップ、フェイズスイッチ、プリアンプを操作する5点ロータリースイッチでサウンドバリエーションを増強するシステムにまとまっています。

ライブで使いこなすのはなかなか大変だと考えられますが、レコーディングにおいてはそのサウンドバリエーションが強みになります。しかし何と言っても、スイッチが整然と並んでいる姿はとてもかっこいいアピールポイントになるです。

ヘヴィ系に最適な、パワーのあるサウンド

全モデル一貫してパワフルなハムバッカー2基をマウントした、ハードロック/ヘヴィメタル仕様になっています。操作系のシンプルなモデルではコイルタップもありませんが、その分回路がシンプルになるためストレートなサウンドになります。変形ギターとはいえ、ボディは弦の振動を受ける本来の機能も考慮して設計されているので、クセがなく均一、かつクリアな鳴りが得られます。


Five Finger Death punch – Ashes
ラスベガスを本拠地とするヘヴィメタルバンド「ファイブフィンガー・デスパンチ」。バンド名の由来は映画「キル・ビル」に登場する必殺技「五点掌爆心拳」だという説が濃厚です。怒号も美旋律もある、時に社会へのメッセージもある豊かな音楽表現が大いに支持されており、再生回数「1億」を越える動画がいくつもあります。

B.C. Rich ギターのラインナップ

現在のラインナップは全モデル共通して、スピードプレイに有利な「シュレッジラ(Shredzilla)」ウルトラスリム・ネックシェイプを採用したスルーネック構造です。
多くのモデルが「24.625インチ」という、ギブソンスケール(24.75”)よりちょっとだけ短い弦長と大型のフレットを備えており、運動量の多いテクニカルなプレイに有利な設計です。それではシリーズごとに見ていきましょう。

「LEGACY」シリーズ

「レガシー(遺産)」シリーズは、その名の通りB.C.リッチの歴史を築いた名機を現代に呼び戻したモデルです。全機種でディマジオ社製ピックアップを採用し、バダスブリッジ搭載機やスイッチ類を多く備えるなど、昔から知っている人は「コレこそB.C.リッチ」と納得できる仕様です。24フレットまで入れられるポジションマーク、グローヴァー社製ロック式ペグなど、現代的なアレンジも施されています。ネックシェイプ、フレットともに速弾き仕様ですが、ネック裏がグロス仕上げになっていて適度なグリップ感があります。

Stealth Legacy

BC Rich Stealth Legacy

「ステルス」はもともとリック・デリンジャー氏のデザインでこそあれ、デスメタル・ミュージックの元祖と言われるバンド「DEATH」所属、チャック・シュルディナー氏の忘れ形見としての印象が強く、デスメタルの象徴というべき存在です。スリムかつコンパクトなボディは、シュルディナー氏のように高めに構えても身体への圧迫が少なく、発声への負担が軽減できます。リアに載っているディマジオ「X2N」ピックアップはシュルディナー氏が永年愛用したもので、強烈な出力が焼けつくようなドライブサウンドを生み出します。

機能面では、往年のB.C.リッチを思わせるオリジナル固定式ブリッジ、ボリュームとセレクタースイッチのみという大変いさぎよい操作系が特徴です。「エキゾチック」機には、ボディトップとヘッドストックに複雑な模様が美しいスポルテッドメイプルがあしらわれます。


DEATH – “The Philosopher” (Remixed)
デスメタルは、この押し殺したような「デスヴォイス」による独特の歌唱法が特徴です。

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Rich “B” legacy Perfect 10

Rich B Legacy Perfect 10

圧倒的な存在感を放つ10弦ギターは、1~2弦が同じ高さの複弦、3~4弦がオクターブ違いの複弦、5~6弦がノーマル、という構成です。メロディ演奏にはなかなかの工夫が求められますが、コード弾きでどんなことができるか、弾き手の感性を強烈に刺激するギターです。なお専用弦は売っていないので、12弦用セットのうち10本を使用します。海外仕様では、6弦と12弦のダブルネックもリリースされています。
リニューアルしたB.C.リッチのラインナップでは唯一、このモデルだけがナトー製ボディ&ネックという仕様です。メイプルほどではない強度をおぎなうためネックヒールが残されるほか、伝統的な19フレットまでの雲型インレイとあいまって、さまざまな面で異彩を放っています。

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Mockingbird Legacy ST / Exotic ST

モッキンバード 上から:
Mockingbird Legacy ST with Floyd Rose (Honey Burst)
Mockingbird Legacy ST with Floyd Rose ( Trans Red)
MOCKINGBIRD LEGACY EXOTIC ST WITH FLOYD ROSE – KOA

日本で特に知名度の高い「モッキンバード」には、FRT(フロイドローズ)搭載機がリリースされています。ハードロックメイプル3層構造のネック両側にウェンジの薄板とナトーのボディを取り付け、トップに化粧板を貼りつける構造で、トップ材はキルテッドメイプルとコアの2種類です。キルテッドメイプルトップの赤いモッキンバードは、スラッシュ氏(ガンズアンドローゼス所属)が若かりし頃に愛用したことで知られています。70年代のB.C.リッチはボディにコア材を使用する例が多く、コアのボディは同社の象徴的な仕様でした。

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「EXTREME」シリーズ

「エクストリーム」シリーズは、現代のヘヴィミュージックを見据えた意匠とサウンドを備えた最新版です。木材構成は全機種、サテン仕上げを施してサラッサラのメイプル&ウェンジ5層ネック、ポジションマークを排したエボニー指板、ナトーボディです。電気系も全機種でフィッシュマン社製「フルーエンス」モダンピックアップを採用、コイルタップ及びトーンポット無し、押しボタン式キルスイッチ装備、という仕様です。コイルタップがない代わりに、フルーエンス特有の「ボイス」切り替えを備えています。

サウンドの重要な要素が全機種で共通していますから、全モデルがほとんど同じサウンドキャラクターを持っています。「ボディシェイプにこそアイデンティティがある」という、B.C.リッチにしかできないであろうエクストリームなラインナップです。

現代のB.C.リッチを象徴するボディシェイプで、緩やかなアーチトップ仕様を始めボディの仕上げ、ブリッジやピックアップなどにいくつもバリエーションが存在します。24フレットまでポジションマークのあるモデルもありますが、グレードの高いモデルではやはり伝統的な仕様を守っています。

Mockingbird Extreme

Mockingbird Extreme 上から:
Mockingbird Extreme with Evertune Bridge
Mockingbird Extreme Exotic with Evertune
MOCKINGBIRD EXTREME WITH FLOYD ROSE

代表機種「モッキンバード」は、チューニングが微動だにしないブリッジ「エバーチューン」を搭載した「with Evertune Bridge」、これにフィギュアドメイプルをあしらった「Exotic with Evertune」、FRTを装備した「with Floyd Rose」がリリースされています。エバーチューン搭載機は両機ともロック式ペグが採用されており、素早い弦交換が可能です。

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Warlock Extreme / Warbeast Extreme

上から:
Warlock Extreme with Floyd Rose
Warlock Extreme Exotic with Floyd Rose
Warbeast Extreme with Floyd Rose

全方位に向かって尖っている「ワーロック」および「ワービースト」は、FRT搭載機がリリースされています。ワーロックにはキルテッドメイプルトップの「エキゾチック」版もあります。ところどころ刺さりそうな悪辣なボディデザインですが、ワーロックについては立っても座っても右腕のポジションがイイ具合に治まる、設計者の「良い仕事」ぶりがわかるデザインです。多くのモデルでリバースヘッドが採用されているエクストリーム・シリーズにおいて、ワーロックをもう1段階凶悪にしたワービーストのみ、二股に分かれたヘッド形状が採用されています。

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ニューモデル「Shredzilla」Extreme

BC Rich Shredzilla

新作「シュレッジラ」は、オーソドックスなスタイルのボディシェイプに加え、弦長もオーソドックスな25.5インチに設定されています。変形ギターが林立するB.C.リッチのラインナップにおいては異色の存在ですが、幅広いジャンルのギタリストが抵抗なく使用できる、守備範囲の広いモデルです。
このギターなら、B.C.リッチの特徴「ヒールのないスルーネック」がいかに弾きやすいのかを、多くのギタリストが体感できるわけです。B.C.リッチ全モデル共通のネックシェイプにも同じ名前が付いているあたり、このモデルに込める同社の気合いを感じることができます。聞き慣れないネーミングは、テクニカルな速弾きを意味する「シュレッド(shred)」と怪獣王ゴジラ(Godzilla)を合わせたものと考えられます。
エクストリーム版のシュレッジラは銘木をボディトップにあしらったエキゾチック仕様で、6弦と7弦の2タイプがリリースされています。ブリッジはヒップショット社製のハードテイル仕様、ペグはグローヴァー社製のロック式で、現代におけるヘヴィ・ミュージックの定番仕様となっています。

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「PROPHECY」シリーズ

1フレットのまばゆいインレイに象徴される「プロフェシー」シリーズは、充実した仕様で幅広いジャンルにフィットできる性能を持つ高機能モデルです。国内では今のところ、エキゾチック仕様のシュレッジラがリリースされています。

Shredzilla Z6 Prophecy Exotic with Floyd Rose
Shredzlla Prophecy Exotic Archtop with Floyd Rose

Shredzilla Prophecy 上から:
Shredzilla Extreme Exotic (Cyan Blue)
SHREDZLLA PROPHECY EXOTIC ARCHTOP WITH FLOYD ROSE (Trans Black Quilt)
SHREDZLLA PROPHECY EXOTIC ARCHTOP WITH FLOYD ROSE (Black Cherry)

プロフェシー版のシュレッジラは、ほんのりとアーチを描く銘木のボディトップと視認性の良い指板インレイを持つ、演奏性と美観を兼ね備えたギターです。ネック仕様はエクストリーム・シリーズ同様、サテン仕上げのメイプル&ウェインジ5層構造です。現代のヘヴィミュージックに求められるカッチカチの強靭さと、スピードプレイに有利な滑りの良さを兼ね備えています。
「Z6」はバーズアイメイプル指板でボリュームポット2基、「Archtop」はインド産エボニー指板でボリュームポット2基に加え、マスタートーンを備えます。両機ともFRTを装備しており大胆な音楽表現ができるほか、ふたつのボリュームポットそれぞれに両ハムバッカーのコイルタップ起動スイッチが仕込まれ、フロント/リア個別にコイルタップができます。FRT機でありながら、ペグはロック式が採用されています。これは「弦交換が格段に時短できる」というロック式ペグのメリットを狙ったものです。

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