甘く、くつろぎのあるトーン「フルアコースティックギター特集」

[記事公開日]2018/12/22 [最終更新日]2024/4/18
[編集者]神崎聡

フルアコのラインナップ(1)定番ど真ん中モデル

Gibson

L-5 CES

Gibson L-5 CES

1922年にピックギターとして誕生し、1951年に電化して以来セミアコの代表機であり続けている名機です。ヴァイオリン由来の工法に則ったメイプルネック、エボニー指板、スプルース削り出しトップ/メイプルサイド&バックというウッドマテリアルの組み合わせは、あらゆるフルアコの規範になっています。17インチのボディ幅に25.5弦長インチという大きめサイズでありながらプレイヤーのタッチには敏感で、なおかつギブソンらしい力強さと甘みのあるジャズトーンが持ち味です。
リアピックアップを備える基本モデルのL-5 CESに加え、ボディ厚を抑えたL-5 CT、1ピックアップ仕様のウェス・モンゴメリーモデル、フローティングピックアップ仕様のリー・リトナーモデルがリリースされています。

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Super 400 CES

Gibson Super 400 CES

ジャズではケニー・バレル氏、ラリー・コリエル氏、カントリー系ではスコッティー・ムーア氏、マール・トラヴィス氏といった名だたる偉人のプレイで知られる、ギブソン最高グレードのフルアコです。ボディはL-5よりさらに一回り大きい18インチ幅で弦長は25.5インチ、「キングオブ・ジャズギター」の異名を取ります。優美なトーンは筆舌に尽くし難いとまで賞されますが、価格も100万円を余裕で超えてくる憧れの高級ギターです。

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ES-175

Gibson Memphis ES-175

アンプでの大音量にストレスのないラミネート材でボディを成形する、現代のジャズシーンでは欠かす事のできないスタンダードモデルです。ボディ幅16インチ、弦長24.75インチというサイズは上位機種と比べ若干コンパクトで弾きやすく、現代では貴重となったマホガニーネックはサウンドを軽やかにします。
ES-175

GRETSCH

G6120EC Eddie Cochran Signature Hollow Body G6120EC Eddie Cochran Signature Hollow Body

ギブソンに次いで長い歴史を誇るグレッチからは、カントリーの巨匠チェット・アトキンス氏とのコラボレーションで開発された

や、「世界で最も美しいギター」と言われるG6136 ホワイトファルコンなどがラインナップされています。


Red Hot Chili Peppers – Californication [Official Music Video]
フルアコは短めのストラップで高めに構えるのが一般的ですが、やはりロック系では思い切り低く構えるもののようです。

Epiphone

エピフォンはフルアコが電気化する以前からギブソンとシェアを競っていました。今ではギブソンの参加に甘んじており「廉価版ギブソン」のモデルも多くラインナップされていますが、アーチトップこそエピフォンの真髄であり、こちらの分野では今でもオリジナルモデルを多く輩出しています。
エピフォンの真骨頂、アーチトップ(フルアコ/セミアコ)シリーズ

Elitist 1965 Casino

Epiphone Elitist 1965 Casino

Casinoはジョン・レノン氏の使用などで知られるブリティッシュ・ロックの定番機で、薄型のダブルカッタウェイというボディからES-335同様セミアコのように思われますが、内部は完全に空洞になっています。多くのフルアコがハムバッカーピックアップに移行していくなかで、このカジノはドッグイヤーのP-90を2基マウントというスタイルを固持しているほか、フルアコでは珍しくブリッジがチューン・O・マチックになっておりチョーキングを多用したプレイに余裕で答えることができます。Elitistシリーズのカジノはエピフォンの主軸となる機種で、アーティストモデル、ボディサイズを小さくしたモデルなど派生モデルが多くリリースされています。
ビートルズへのリスペクトを込めて「エピフォン・カジノ」特集

D’Angelico(ディアンジェリコ):NYL-1

「ディアンジェリコ」は、ジャズギターの名工ジョン・ディアンジェリコ氏(1905-1964)のギター哲学を引き継いだブランドで、上記グレッチとともにアーチトップの製作に世界的な定評のある寺田楽器で作られます。

通称「ニューヨーカー」と言われる、ディアンジェリコの代表機種にしてギブソンL-5のライバル的存在です。スプルース削り出しトップ&メイプルサイド/バックで17インチ幅のボディ、25.5インチの弦長という点がL-5と共通していますが、随所に階段状のギザギザを取り入れたアメリカ人らしいルックスにより全く異なる印象になっています。またフローティングピックアップ仕様であること、テールピースが木製(エボニー)であることなどスペック的な個性があります。L-5に比べてヘッドがかなり大きめですが、これはデザイン的な面だけでなく大きなボディとの重量バランスを取るための設計です。

フルアコのラインナップ(2)求めやすい価格帯

定番のフルアコはなかなかに高額なものばかりで、「半端な気持ちでは買えない高い楽器」でした。しかし近年では価格を抑えた求めやすいフルアコもリリースされており、10万円を下回る価格帯にまで選択の幅が広がっています。ここでは「10万円台まで」を求めやすい価格帯のフルアコと定義し、リーズナブルなモデルをチェックしていきます。

ARIA FA-BW

ARIA FA-BW

ディアンジェリコの「ニューヨーカー」をイメージした日本製フルアコ。伝統を踏まえたボディ幅17インチの本体に、グローバー社製インペリアルペグ、日本製カスタムフローティングPUなど、こだわりのパーツを搭載しています。フルアコ独特の「心地よいエアー感、豊かな低音、艶やかなトーン」がありながら10万円台前半という価格を実現させているのが、アリアが「同価格帯なら最強」を標榜する所以です。
同価格帯ならウチが最強です:荒井貿易訪問インタビュー

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Eastman AR-175 CE

Eastman AR-175 CE

イーストマンは長年ヴァイオリンやチェロなど弦楽器を製造していたノウハウを活かしてジャズギターに参入したブランドですが、丁寧な作りとコストパフォーマンスで支持を広げてきています。合板モデルの本機はモデル名の通りES-175をイメージしたギターになっていますが、シブい1ピックアップ仕様、10万円台という価格帯にしてラッカー塗装のゴージャス感ある一本です。

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Epiphone Joe Pass Emperor II Pro/Emperor Swingster

Epiphone Joe Pass Emperor

巨匠の名を冠した「ジョー・パス・エンペラーIIプロ」は、抱えやすいサイズのボディに手作業で成形したブレーシングを取り付けた、本格的なジャズギターです。フルアコには珍しくフロント/リア両ピックアップがコイルタップできるため、軽やかなコード弾きなどで一味違ったサウンドを奏でることができます。

「エンペラー・スウィングスター」は、このエンペラーIIの本体をそのまま受け継ぎ、標準的なハムバッカーと一味違ったピックアップとビグスビーを備えた、ロックンロールやロカビリーを意識したギターです。こちらは両ピックアップのシリアル(直列)/パラレル(並列)を切り替えることができます。パラレルのサウンドはコイルタップしたサウンドに近い鋭さがありますが、ハムバッカーピックアップのコイルを両方とも使うため「ハムキャンセル効果」がそのまま残り、一般的なコイルタップドよりもノイズに強くなります。

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Godin「5th Avenue」シリーズ

Godin 5th Avenueシリーズ

「ゴダン」はカナダの大型ギターメーカーがプロデュースしているブランドで、生産力を武器に品質の高い製品をかなりリーズナブルな価格でリリースしています。フルアコは「フィフス・アヴェニュー」シリーズとして展開、カッタウェイの有無やピックアップの仕様でバリエーションを出しています。
ゴダンのフルアコ「5th Avenue」シリーズ

Gretsch Electromatic “Hollow Body” Series

Gretsch Electromatic Hollow Body

Gretsch Electromaticシリーズはグレッチのリーズナブルなモデルのシリーズで、ナッシュビル、カントリージェントルマン、ホワイトファルコンなどグレッチの代表機を模したモデルを多くリリースしています。装飾などが若干簡略化されているなどルックスにわずかな違いがありますが、グレッチのかっこよさはそのまま残されています。

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Ibanez Artcore Expressionist AFJ91

Ibanez Artcore Expressionist AFJ91

ハードロック系のイメージを持つ人の多い「アイバニーズ」の別の顔が、本格的なアーチトップです。ジョン・スコフィールド氏やパット・メセニー氏らトッププロからも厚い信頼を得ています。「AFJ91」は、ボディ幅15.75インチとなる小振り気味のボディに1ハムバッカー仕様のジャズ入門機です。定価で10万円を切る価格帯でありながらブリッジ/テールピース/ピックガードが木製であり、充分な雰囲気と高級感があります。

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フルアコのラインナップ(3)頑張って手に入れたい上位機種

ここからは20万台以上のフルアコを見ていきましょう。ソリッドギターの感覚でこの価格帯は高級機ですが、工程もパーツ点数も多いフルアコとしては、むしろ標準的な価格帯だと言えるでしょう。

FUJIGEN MFA-FP/MFA-HH

FUJIGEN MFA-HH FUJIGEN MFA-HH
「マスターフィールド・シリーズ」としてリリースされているフジゲンのフルアコは、

  • MFA-FP:フローティングピックアップ
  • MFA-HH:2ハムバッカー

というピックアップのキャラクターを軸に、操作系とネックの仕様で個性を出しています。

MFA-FP MFA-HH
ピックアップ フローティングピックアップ(コイルタップ可能) 2ハムバッカー
操作系 ピックガードにマウント ボディトップにマウント
ネック仕様 メイプル&マホガニー5P メイプル&ウォルナット5P
指板 エボニー ローズウッド

表:フジゲンフルアコの仕様比較
フジゲンのお家芸「サークルフレッティングシステム(CFS)」により、シビアな音程が得られます。また、交換用ブリッジが同梱されているのが面白いところで、古式豊かな木製ブリッジで出荷されますが、オクターブ調整ができる金属製ブリッジがついてきます。

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Sadowsky Archtops Series:Jim Hall Model

Sadowsky Jim Hall Model

ソリッドギターやベースで名高い「サドウスキー」は、アーチトップも積極的に開発しています。その記念すべき第一号機が、名手ジム・ホール氏(1930-2013)のシグネイチャーモデルです。16インチ幅のボディはハウリング防止のため全面合板、かつ厚みを減らしていますが、アコースティカルなレスポンスのために板材の厚みを落としています。ネックグリップはジム・ホール氏の手に合わせて幾度も再検討して完成したこだわりの形状です。


Jim Hall Trio feat. Kenny Barron & Dave Holland – Live in Concert 2009
多くの名手との共演でも有名な「生ける伝説」だったジム・ホール御大は、このとき79歳。こんなじいさんになりたい。

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フルアコのラインナップ(4)「中空」の個性派

「ボディ内部が完全に空洞」という条件を満たしながら、一般的なフルアコとは異なるスタイルのギターもいろいろリリースされています。こうしたギターは、海外的には「セミアコ」呼ばわりされることも多いのですが、日本国内ではだいたい「フルアコ」と呼ばれます(ややこしいですね)。そうは見えないルックスから、想像もできないリッチな音色が得られる面白いギターです。

Freedom CGR「Pepper」シリーズ

Freedom CGR Brown Pepper Brown Pepper

フリーダムCGRの「ペッパー」シリーズは、ボディ構造にアレンジを加え、生の鳴り方で個性を持たせることを狙った野心的なシリーズです。4機種リリースされているうち、「レッド・ペッパー」と「ブラウン・ペッパー」のボディがフルアコ的な構造になっています。「テレキャスター・シンライン」のルックスなのに、リッチなジャズトーンが得られるという意外性を楽しむことができます。
《特集》フリーダムCGR「Pepper シリーズ」の全貌に迫る!

Paul Reed Smith(PRS):Hollowbody II

PRS Hollowbody II

木材の良さや仕上がりの美しさ、楽器としての機能やサウンドで多くの演奏者に支持される「ポール・リード・スミス(PRS)」の「ホロウボディII」は、代表機種「カスタム24」などでおなじみのPRSのシルエットを変えることなく、ボディをホロウ化して驚異的な生鳴りを手に入れたモデルです。本体はソリッドのモデルと同じサイズ感なので、ソリッドの抱え心地でサウンドだけフルアコになります。バリエーションとして、ピエゾピックアップ内蔵機と12弦仕様があります。

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名だたる個人ビルダーたち

日本各地に、また世界全域に、一人もしくはごく少数のチームでアーチトップを製造しているブランドがあります。こうした「手工家」の作品にはどれも深いこだわりと追求、また達人の技術が傾注されており、一本あたり100万円をオーバーすることも珍しくありません。流通量が少ないため出会う機会はなかなか得られないかもしれませんが、フルアコにはこのようなディープな世界があって、何百万円もするような超高級機を買っていく人が、この地球のどこかにいるのです。
参考までに、著名なビルダーをピックアップしてみます。

  • Robert Benedetto(ロバート・ベネデット):「世界トップクラス」と言われるビルダー。若きジョン・サー氏(Suhr)にギターリペアの基礎を手ほどきした。
  • 山岡則正(Yamaoka Archtop Guitars):岡山に工房を構え、トッププロの愛機も手掛ける。美しいデザインと構造的な強靭さを兼ね備える作風。
  • Marchione Guitars(Stephen Marchione):クラシックギターやヴァイオリンまで幅広く手掛ける。「扱いにくいほど敏感に反応する」ことが、達人のプレイヤー魂をくすぐる。
  • 辻四郎(S.Tsuji):富山に工房を構える、日本のジャズギター製作第一人者。作るハードルの高い「フルアコのオリジナルボディシェイプ」を含め、依頼があれば何でも作る。→ 辻四郎ギター工房

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