ギターの音をラインで出力する《キャビネット・シミュレーター》特集

[記事公開日]2023/10/27 [最終更新日]2024/6/23
[編集者]神崎聡

キャビネット・シミュレーター

ギターの音をラインで出力する際に欠かせないキャビネット・シミュレーター。アンプ・シミュレーターなどに比べてあまり目立たず、表立って語られることが少ない要素でありながら、最終的な出音に及ぼす影響度は絶大。今回はそんな縁の下の力持ちに迫ってみましょう。

キャビネットシミュレーターとは

ギターアンプは、音を作り増幅するアンプリファイヤー部と、それを発音するスピーカー部のふたつの機能がセットになっています。エレキギターの発音はアンプ部で増幅の上、スピーカーで出力、というふたつの過程を経る必要があり、さらにそれをオーディオ信号として記録するために、出音をマイクで拾うという最終工程が必要です。

キャビネット・シミュレーターは「スピーカーキャビネットから出力された音をマイクで拾う」という、エレキギターの発音に必要な最後の作業をバーチャルでシミュレートしたものです。アンプで増幅されただけの音は聴くに耐えない代物であり、それはキャビネットから発音した際に初めてエレキギターらしい音色となるのです。そのため、この部分は省略できない重要な要素です。

エレキギターの音色のほとんどはキャビネットで決まる

キャビネット

エレキギターの音色のほとんどはアンプで決まると言われます。アンプの及ぼす割合は7割とも8割とも言われますが、そのアンプの中でもスピーカーキャビネットの及ぼす影響は絶大です。同じマーシャルのヘッドを4×12の大きなキャビネットにつなぐのと、1×10の小さなスピーカーに繋ぐのではまるで違う音に聞こえます。また、これはマイキングにも同じことが言え、マイクをスピーカーに密着させるのと10cm離すのでは、それだけでも全く違うサウンドになります。

ギターアンプのキャビネットについて

マルチエフェクターやモデリングアンプにも入っている

ほとんどのアンプ・シミュレーターやマルチエフェクターにはキャビネット・シミュレーターが搭載されています。前述したように、基本的にアンプモデリング単体では到底ギターの音として聴けるものにならないため、どのような機材であっても必然的に付随することになります。

キャビネット・シミュレーターの用途

ラインでのレコーディング

真っ先に思いつくものがレコーディングでしょう。相応の音量でアンプを鳴らし、マイクを立て、それを別室で聴ける環境。これはスタジオ以外ではなかなかに実現できません。キャビネット・シミュレーターを経由すれば、オーディオインターフェースやMTRにケーブル一本で接続するだけで、まるで本当のキャビネットからマイクで拾ったような音色でのレコーディングが可能になります。

コンソールに直接送ってライブする

昨今多くなっている手法です。ギターアンプからは音を出さないか、あるいは自分のためのモニター程度の音量だけ出しておき、メインはキャビネット・シミュレーターを経由して直接PAミキサーに送ります。特に大きな会場ほど効果的で、マイキングの手間やハウリングなどとも無縁です。作り込んだ音色をほぼそのまま再現できるところも魅力です。

IR(Impulse Response)について

ある空間においてインパルス音(パチっと一度だけ鳴ったような音)に対する響きをデータとして収録したもので、コンボリューションと呼ばれる演算を行うことで、その空間の響きが再現可能となります。これをインパルスレスポンス(Impluse Response)と呼称し、一般的に”IR”と略されます。主にリバーブエフェクトに使用され、これを使ったリバーブは特に「コンボリューションリバーブ」「IRリバーブ」と呼ばれることがあります。エレキギターではキャビネットを通した際の空間的な共鳴をIRから再現することができ、そのリアルさから現在ではキャビネットシミュレーションについては、ほとんどがIR使用によるものとなっています。

有料のIRデータファイル

有名なキャビネットを高品質なマイクで集音したIRデータは、様々なブランドが独自に販売しています。有名どころではスピーカーメーカーのCelestionが自社製品のIRを販売しており、マルチエフェクターなどに付属するIRデータに比べて極めて高い品質を備えているため、人気を誇ります。有料のIRデータは手っ取り早く音を良くする手段ですが、狙った音が得られるかは試してみるまでわからないため、はじめは複数のキャビネットがセットになったものなどを探すとよいでしょう。また有料のIRファイルは収録マイクごとに膨大な数のファイルがセットになっていることが多く、一つ一つを試すのには大変な時間と労力が必要で「何を使えばいいかわからない」となりがちです。ちなみに、Two notesのDynIRはこの点を克服した存在と公式に謳われています(後述)。

キャビネット・シミュレーター単体機の魅力

Two notes Torpedo C.A.B. M+

前述の通り、キャビネット・シミュレーターはわざわざ用意せずとも、様々な機材に内臓されています。そのため、通常その機能だけをもつ機材を単体で用意する必要はなさそうに感じます。では単体機の魅力はどこにあるのでしょうか。

高品位なサウンドが手軽に手に入る

アンプシミュレーター系製品におけるキャビネット・シミュレーターはあくまで”いち機能”であり、おまけの扱いであることがほとんど。対して単体機はそれを専用としているため、大抵の場合、音質で遥かに上回ります。アンプシミュレーターのキャビネット部をオフにして外部の専用機につなぐとサウンドが激変した、といったケースは往々にしてよくある話。それもキャビネット・シミュレーター部分の音質の差によるものです。

セッティングの柔軟さ

キャビネット・シミュレーター専用機はセッティングがかなり柔軟に行なえます。まずほとんどの機種に内蔵されるのがEQ。そしてパワーアンプの飽和感、箱鳴り感がシミュレートできるパワーアンプ・シミュレーション機能、さらにプリアンプやリバーブが内蔵されているモデルもあり、このような機種では音の出口部分としての作り込みが非常に細やかに行えます。
キャビネット・シミュレーターには大きく分けて、バーチャルにマイクをセッティングするもの、そしてIRデータをそのまま使うものの2タイプがありますが、前者では多いもので20~30のキャビネット、多数のマイクを収録しており、マイクの位置調整、複数マイクのブレンドなどを自由に試したりすることもできます。後者はそこまで自在な調整はできませんが、細やかなEQやパワーアンプの設定などで最終的な仕上げを緻密に追い込むことができます。前者のタイプであっても外部のIRファイルは読み込むことができ、ファイルを複数ミックスできるような機種も多く存在します。
その反面、一部のギタープロセッサーでできるようなダブルアンプ、ダブルキャビネットのような使い方には対応しません。あくまで一つのキャビネットやIRデータを軸としてサウンドを作り込むスタイルになります。

単体機ならではの使い方

キャビネット・シミュレーター

プリアンプからの接続

古くはKoch “Pedaltone”、Hughes & Kettner “Tubeman”など、ペダルタイプのプリアンプは歴史的にも多くのモデルが生み出されており、現在でも多数の製品が市場に出回っています。これらのプリアンプはアンプ部がメインであり、内臓のキャビネットシミュレーターはあくまで補助機能の扱いです。上質なキャビネット・シミュレーター単体機に繋げば、その音質の良さに改めて気づくことができるでしょう。

歪みエフェクターを使う

昨今のコンパクト・エフェクターは非常にクオリティが高いものが多く、ギタリストによってはアンプではなく、エフェクターをメインに音作りしているケースも珍しくありません。プリアンプ機能を持たない普通のコンパクト・エフェクターでも、キャビネット・シミュレーターを使うことでギターアンプで鳴らしたような自然な音でライン出力できるようになります。プリアンプ機能やパワーアンプシミュレーションが内蔵されていたりする機種だとさらに深く作り込むことができ、エフェクターひとつで作った音とは思えないほどの質感を得ることもできます。

アンプのラインアウトから接続

昨今、家で練習できる小型の真空管アンプや、有名なアンプの小型バージョンなどが多くリリースされています。このようなアンプにはそのまま録音に使用できるようにラインアウトやヘッドフォンアウトなどが搭載されていることが多く、この部分からキャビネット・シミュレーターに送り込むことで、実機アンプの生々しさをそのままにハイクオリティなサウンドをラインレベルの信号として取り出すことができます。録音のほか練習にも有用で、優れたモニタースピーカーを併用することで、キャビネットから出す以上の音質が得られることも。アンプにラインアウトがない機種はダミーロード、ロードボックスを併用する必要があります。

アコースティックギターで利用

アコースティックギターのブリッジサドル下に仕込むピエゾピックアップは、大抵の場合不自然な音になりやすいものです。IRデータはその不自然な音色をマイクで拾ったような自然な音色に変えることもできます。このようなIRデータはアコースティック用として販売もされており入手も容易。これをキャビネット・シミュレーターに入れておくことで、アコースティックギター用のDIとして機能します。tc electronicの製品(後述)については、そのためのIRがはじめから内蔵されています。

おすすめのキャビネット・シミュレーター

IRベースのもの

tc electronic Impulse IR Loader

25種類のIRデータを内蔵したtc electronicのモデル。そのうちの12種類はCelestion公式のもので、5種類がアコースティックギター用です。内蔵IRが入っていない残りの74は、サードパーティ製品IRがロードできる空きスロットとなり、24bit、200msまでのIRを読み込むことができます。環境に合わせて自在に使えるグローバルEQを装備、フットスイッチで異なるIRをワンタッチ切り替え、パワーアンプシミュレーターの内蔵など、ミニサイズの小さな筐体でありながら機能は多彩で、さまざまな局面で柔軟に使用できます。パワーアンプシミュレーターはコンパクトエフェクターと直接の連携に特に威力を発揮し、アコギも頻繁に弾くタイプのギタリストにとって、アコースティックIRの内蔵は心強いところです。

TC Electronic IMPULSE IR LOADER – Supernice!エフェクター

HOTONE Omni IR Cab

40種のIRデータを含むHOTONEのシミュレーター。24bit / 48khzの外部IRが読み出し可能で、4バンドのEQを装備、40のプリセットを保存して使うことができます。フットスイッチの他、音量とプリセットを編集するつまみがひとつずつあるだけのシンプル設計ながら、Aux入力、ヘッドフォン出力、XLR出力など、あらゆる接続端子が揃っており、練習からレコーディング、ライブまであらゆる場面で活躍できる機能性を持ちます。ミニエフェクターのサイズでかつ9V電源で駆動可能というところもその機能性に拍車を掛けており、一台あればあらゆるシーンで助けとなるでしょう。

HOTONE OMNI IR CAB IR Loader – Supernice!エフェクター

バーチャルマイキング可能なもの

Two notes Torpedo C.A.B. M+

ロードボックス、キャビネット・シミュレーター関係でハイクオリティの製品を出し続けるフランスのTwo notes。同社の独自規格であるDynIRは、マイクの種類や位置が固定されてしまう従来の”静的”なIRの形式に異を唱えた末に生まれたもので、一つのキャビネットごとにマイクポジション160,000種類のファイルを収録、PCなどでグラフィカルなバーチャルマイキングを試すことでその膨大なファイルが逐一連動するというもの。そんなDynIRが当製品の主要機能となり、マイクを数種類から選び、前面、背面を含めた位置に自由にセッティング、それらを2種類ブレンドして立体的なサウンドが構築できます。もちろん外部IRデータの読み込みにも対応し、こちらも2種類をブレンドして音作り可能。またFender Bassmanをモチーフとしたプリアンプを内蔵しており、コンパクトエフェクターからの直接入力に高い親和性を発揮するほか、クリーントーンだけであればかなり優れた音をこれ一台で作り込むこともできます。その他、パワーアンプシミュレーション、エンハンサー、EQ、リバーブなど、付随機能の豊富さも随一で、今回紹介する中でもやや高価な部類に入る製品でありながら、それを補って余りある凄まじいクオリティの音質と幅広い付随機能で、単なるキャビネット・シミュレーターの枠に留まらない高いポテンシャルを持っています。

Two Notes Torpedo C.A.B. M – Supernice!ギターアンプ

UAFX OX Stomp Dynamic Speaker Emulator

Universal Audio社のロードボックス”OX Amp Top Box”に備えられたシミュレーター部を元として作り上げられた製品。同社はTwo notesと同じく、静的なIRに疑問を呈するスタンスを取っており、このストンプ型のシミュレーターでは完全に動的な独自のエミュレーション技術を内部に備えています。初期フェンダーアンプに始まり、Two Rockやメサブギーに至るまで、22の多様なキャビネットモデルと8のマイクモデルを備え、種類を変えるだけでなくマイク位置や角度の調整も行えます。このシミュレーター部分のクオリティだけでも十分すぎるほどでありながら、さらにディレイやリバーブ、コンプレッサーなど、評価の高いUADのエフェクトまでも内蔵しており、特に同社の看板”1176”がモデルとなるコンプレッサーの存在感は圧巻。音質から調整の幅広さまで、まさに死角のない製品で、キャビネット・シミュレーターのカテゴリ内においてトップクラスの製品と言って良いでしょう。100以上のリグを保存できフットスイッチで切り替え可能。コンパクト・エフェクター然とした外観ではマイクの種類やスピーカーの飽和感などが設定できますが、キャビネットやマイクエフェクトなどの細かな設定を行うのにはスマートフォンアプリを使用します。

UAFX OX Stomp Dynamic Speaker Emulator – Supernice!エフェクター

Mooer Radar

現在最も勢いのある中国のブランドMooerのキャビネットシミュレーター。30種類のキャビネットと11種類のマイクモデル、4種類のパワーアンプシミュレーターを持ち、それらを自由にセッティングしてエミュレーティングしていく構造になっています。30種類のキャビネットモデルはフェンダー、マーシャルを始め、メサブギー、ソルダーノ、ディーゼルなど主要なアンプを網羅しており、ベース用のアンペグも5種類含まれています。マイクは11種類のモデルが選べる他、位置や距離なども設定でき、緻密な音作りが可能です。36種類のプリセットが保存可能な他、もちろん外部IRの読み込みにも対応しており、24bitのファイルを読み込み可能。Torpedo C.A.B. M+と同じく電源が12V対応なので、持ち出す際には注意が必要です。

Mooer Radar – Supernice!エフェクター

NUX Solid Studio

昨今勢いのある中国のブランドNUXの送り出すキャビネット・シミュレーター。内部の動作部分はデジタルプロセスながら、外観と操作体型をアナログライクにすることで直感的な音作りと高い機能性を担保しています。バーチャルキャビネットとマイクモデルはそれぞれ8種類づつを内蔵、マイクについてはアンプのセンター、ミドル、エッジの3箇所から位置を選ぶこともでき、様々な組み合わせをワンタッチで試すことができます。3種の真空管タイプを選べるパワーアンプ・シミュレーションも搭載し、フットスイッチでのオンオフに対応することで、ライブ中に任意の場所でパワーアンプ・シミュレーションのみオンにするといった使い方も可能。外部IRファイルを読み出せる他、IRを収録するIRキャプチャー機能を搭載。自分の好きなアンプのキャビネットにマイクを立て、本体に収録させることで、オリジナルのデータが確保できます。コンパクト・エフェクターのような外観とは裏腹なこの中で唯一といえる設計志向を持ったモデルです。

NUX Solid Studio NSS-5 – Supernice!エフェクター

アナログ系

Suhr A.C.E.

一切のデジタルプロセスを排した完全アナログのシミュレーター。同社のReactive Loadとの併用が想定されている製品ですが、単体でも問題なく使用可能です。他の製品と違い、キャビネットやマイクを選ぶのではなく、Sub、Highs、Presenceといった3種のEQを駆使して自分で音作りを行うという操作体系のため、アンプの延長に近い感覚で音を作ることができます。幅広いレンジが特徴で、3EQというシンプル設計を思わせない様々な質感の音色を出すことができ、デジタルにはないゼロレイテンシーは魅力。通常の9VACアダプターで動作するため、ペダルボードに設置するのも良いでしょう。

Suhr A.C.E. – Supernice!エフェクター

Hughes & Kettner Red Box 5

ハイゲインアンプでおなじみのHughes & Kettnerからリリースされているキャビネットシミュレーター。同社のTriAmpを始めとするあらゆるアンプ、デバイスに付属しているシミュレーター機能が一つの製品として独立したもので、5つのスイッチがあるだけのシンプル設計。音質に関わるのはそのうちの3つで、これらを操ってキャビネットのサイズやサウンドの傾向をセッティングします。SM57でマイキングしたような明るめのサウンドが特徴です。今回紹介した製品で、唯一ファンタム電源で駆動可能です。

AMT Electronics Chameleon CAB CN-1

小型のプリアンプを多数リリースするロシアのAMT Electronics。同社のプリアンプに内蔵されているシミュレーターを独立させて一つの製品にしたのが当モデルで、4つのコントロールのみのシンプルな設計でありながら、キャビネットのサイズ感やマイクの位置取り、角度までを柔軟にセッティングすることができます。9V~12V電源で駆動でき、AUX IN、ヘッドフォンアウトを搭載することで、練習からライブまで、アナログでありながら幅広い用途に使用可能です。

AMT Electronics CHAMELEON CAB CN-1 – Supernice!エフェクター


キャビネット・シミュレーターは国内に流通していない製品も多く、アンプメーカーenglやドイツのギタリストThomas Blug氏の手掛けたBluguitarの製品など、世界的にはより多くの製品を目にすることができます。それだけ今ホットで注目に値する製品ということの裏返しでもあり、現在ではライブでの使い方なども含め随分と様変わりしてきています。今まであまり深く考えてこなかった方も、色々な使い方を模索しつつ音作りのひとつの要素として改めて考えてみてはいかがでしょうか。

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