ギターアンプの真空管の種類・仕組みについて

[記事公開日]2018/3/22 [最終更新日]2024/6/23
[編集者]神崎聡

ギターアンプの真空管

真空管とはアンプの増幅回路に使われる筒状の器具のことで、アンプにおいてプリアンプ部、パワーアンプ部などに主に使用されます。古くはオーディオアンプは全て真空管アンプでしたが、挙動の安定性や消費電力の少なさから、現在ではほとんど全てがトランジスタに置き換えられました。世の中に存在するほとんどのアンプ類がトランジスタを主流とする中において、唯一とも言える例外がギターアンプです。

エレキギターの世界においては、暖かみのある自然な音、ナチュラルな歪みの音は真空管を使ったチューブアンプでしか得られないと考える向きが今でも大変多く、ギターアンプは常に真空管アンプのシェアが一定以上を占める極めて珍しい製品となっています。これは通常のアンプと違い、ギターアンプが意図的に歪み(クリッピング)を発生させるという、一種独特の音の作り方をしていることとも無関係ではないでしょう。

真空管の製造と選別ブランド

真空管を現在製造している国は3国3社しかありません。1993年、チェコと分離独立したスロバキアの「JJ Electronic」、中国の「曙光電子」、そしてエレクトロ・ハーモニクスを代表ブランドに持つアメリカの「New Sensor」社がロシアの工場で製造しているもの、この3つに絞られます。

それとは別に、独自の基準を元にそれらの製造会社より真空管を仕入れ、自社ブランドの製品として販売する選別販売会社が存在し、このような会社がブランドを付けて販売するものを選別管と呼びます。選別会社は各ブランドごとに異なる基準を持っていますが、どの会社も基準以下の製品は扱わないことから、選別管は一定以上の品質が保証されます。真空管は元よりアナログで原始的な製品であり、製品ごとの個体差やムラが非常に多く、このようなブランド付けはユーザーにとってはありがたい存在です。

選別会社にも有名なブランドがいくつもありますが、真空管の権威アスペン・ピットマンが設立した「Groove Tubes」や、アンプメーカーとして確固たる存在の「Mesa Boogie」、系列会社に製造工場を抱える「Electro-Harmonix」のものなどは、特に手に入れやすいでしょう。また、かつて製造も行っていたものの、現在は自社ブランドの企画販売のみとする「Mullard(ムラード)」などは、リスニングオーディオの世界でもよく知られる存在です。

真空管の種類

プリ管とパワー管の違いは?

ギターアンプには原音を増幅するプリアンプ部、そしてそれをスピーカーに送り込めるレベルにまで増幅するパワーアンプ部に分かれています。プリアンプは微弱な楽器の信号をパワーアンプに送り込むためのレベルにまで引き上げるのが仕事ですが、その過程で音色の根幹部分が決定されるため、音作りの中で非常に重要な部分を担います。パワーアンプはプリアンプで出来上がったものをさらにスピーカーで鳴らせるレベルにまで増幅しますが、こちらも単に増幅するだけではなく、音色の決定において一定以上の影響を及ぼします。

プリアンプに使われるプリ管は12AX7を筆頭としてミニチュア管がメインであり、パワー管に比べてサイズは小さいものの、音作りにおいて重要なパーツとなる部分です。プリ管の交換がカスタムとしてよく行われているのにはそのような理由があります。パワー管も音色を調整するためにカスタムが行われますが、プリ管に比べ扱う電圧が桁違いに大きい上、ギターアンプはパワー管に負荷を掛けやすい構造になっていることから、疲弊しやすく、音色の調整以上に寿命での交換がよく行われます。メンテナンス上での真空管の交換は、主にパワー管において見られる作業です。

代表的なプリ管

ギターアンプの音の根幹部分を作るプリアンプ部に使われる真空管。音の増幅には基本的にミニチュア管とよばれる小さなサイズの「12AX7」が採用されていることが多く、互換品に差し替えるだけで音質の差を楽しめます。

12AX7/ECC83

12AX7-ECC83 左から:Svetlana(ロシア)、Golden Dragon(イギリス)、SOVTEK(アメリカ)、ELECTRO-HARMONIX(アメリカ)、PM

ギターアンプのプリアンプに使われる真空管というと真っ先に名が挙がる存在で、「12AX7」はアメリカ、「ECC83」はヨーロッパでの呼び名であり、両社は全く同じものです。元々はオーディオ用ではなく汎用的に使われている真空管でしたが、古くからプリ管として使われてきており、製造された時代や国による音の差がよく議題に上ります。過去に製造されたものはヴィンテージ真空管として高価で取引されることもあり、今に至るまで違う音の傾向を持った無数の「12AX7」が販売されてきました。現在でも、Groove Tubes社がデザインした「GT-12AX7-M」やElectro-Harmonicsがブランドを冠した「12AX7EH」などは、手に入れやすく、格好の交換用プリ管として売れ続けています。

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12AU7/ECC82、12AT7、12AY7

ECC82 ECC82

いずれも位相反転、リバーブユニットで使用されることの多い真空管で、「12AT7」はFender Twin Reverbのリバーブ部分にも使用されています。音の増幅部分にも使われていないわけではなく、実際に使用した際には「12AX7」に比べるとローゲインに落ち着く傾向があるので、手持ちのアンプをあまり歪ませたくないという目的で「12AX7」と併用されるケースもあります。「12AY7」はフェンダー初期のTweed Deluxeなどに使われていたため、現行のリイシューもそれに沿った形で使用されています。

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6SN7、6SC7

黎明期のフェンダーアンプ最初期の「TVフロント」と呼ばれるモデルに使用していた真空管。現在では製品としてはリスニングオーディオ用が主となっており、ギターアンプ用としてはあまり多くは使われませんが、当時のヴィンテージフェンダーの音が欲しいというギタリストには未だ人気があります。最初期の Bassman や Deluxe などに使用されていますが、次のモデルでは早々と「12AY7」などに置き換えられており、短命な使用に終わっています。

Nutube

Nutube

Korgがノリタケ伊勢電子株式会社とタッグを組んで開発した新世代の真空管。従来の真空管に比べ大幅な省電力化、小型、長寿命を実現し、2000年代に入ってからの真空管の新製品ということで大きく話題となりました。Korg傘下のVOXからは驚異的なサイズと出力を持つMV50シリーズにいち早く搭載され、驚くべきリアルな真空管サウンドで一躍小型アンプヘッドの代表格となりました。VOXは2018年4月発売予定のアンプヘッドMVX-150にもこれを搭載、またIbanezはNutube仕様の「NU TUBESCREAMER」を2018年3月に発売しており、今後の幅広い展開に期待が持てます。リスニングオーディオ用においても小型アンプへの搭載が流行となりつつあり、ギターアンプのみならず真空管アンプの世界に新たな風を吹き込んでいます。

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代表的なパワー管

音をスピーカーから出力できるところまで引き上げるパワーアンプ。扱う電圧が大きく、サイズも一回り大きなGT管と呼ばれるサイズが主流です。ヨーロッパのアンプメーカーは「EL34」系、アメリカのメーカーは「6L6」系を採用していることが多く、両者の音質の差が生まれる上での重要な要素となります。EL34にはEL34系の、6L6には6L6系の交換用真空管が多数販売されていますが、下記に紹介する5種同士は相互に互換性があるわけではなく、種類ごと交換するにはアンプ本体の改造が必要となります。

EL34

真空管 EL34PM、ELECTRO-HARMONIX、Svetlana

Phillips系のMullard社によってアメリカの6L6を目標に開発された真空管。Phillipsはオランダの会社であり、当時まだ少なかった大出力の真空管の新製品であったため、ヨーロッパ全域に広まり一気にパワー管のスタンダードとなりました。ギターアンプではMarshallに代表されるヨーロッパのアンプに採用されており、ゲインを上げた時に全帯域を歪ませたようなキメの粗い攻撃的な音になりやすく、やはりMarshallアンプのサウンドがその音質のイメージとなるでしょう。

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6L6

tube-6L6GROOVE TUBES の 6L6

1936年、アメリカのRCA社によって開発された真空管。ギターアンプではFender、Mesa Boogieなどのアメリカのアンプに主に使われており、キメがやや細かく、中域にピークを持ちます。かたまりで押し出してくるような粒の立った音が特徴で、FenderのコシのあるクリーントーンやMesa-Boogieの太いハイゲインサウンドは、6L6ならではとも言えるサウンドです。

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EL84

tube-EL84JJ(スロバキア)

現在ではギターアンプ専用として製造されていることが多い真空管。プリ管として使用される「12AX7」と同サイズのミニチュア管と呼ばれるもので、「EL34」に比べてパワーは落ちますが、低出力でドライブが得やすく、音の煌びやかさにおいて「EL34」を上回るとも言われます。VOX AC30に使われているという話は有名で、他にもOrange Tiny TerrorHughes & Kettner のMeisterシリーズなど、30Wを下回るような中型以下のモデルに多く採用されています。

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6V6

tube-6V6ELECTRO-HARMONIX

もともと、「6L6」の小型用、廉価用として開発されたもの。音の傾向は「6L6」に近いですが、出力が大体20W程度に収まることが多く、小さな音量からドライブが得やすいのがポイント。その特性ゆえに、Fender Super ChampやDeluxe Reverbなどの中小型アンプによく採用されています。特にツイード期のフェンダーアンプにおけるラインナップでは、完全に出力によって「6L6」と使い分けられており、6L6、6V6の立ち位置の差がよく理解できます。

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KT88

6550/KT88

ヘッドルームが広く、出力を上げても歪みにくい頑強なサウンドが特徴。太くクリアーな音が得やすいため、ジャズやカントリーのプレイヤーにも好まれています。非常に大きなパワーを持ち、ギターアンプではBogner、HiwattやVHTなど出力に余裕のある高級アンプによく使用されます。また、かつてはジミ・ヘンドリックスもKT88仕様のMarshallを使用しており、当時のジミの音を再現するための一つのカギとなります。

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整流管

MESA BOOGIE 整流管 Mesa Boogie Triple Rectifier Solo Head の真空管:整流管は右3本の 5U4G、パワー管 6L6GC は左6本

交流電圧を直流電圧に変換するために使われる真空管を整流管と呼びます。かつては交流から直流への変換には真空管を使うしかなく、あらゆるギターアンプで標準的に使われていました。現在では効率などを考え、ダイオードを使うやり方が主流となっていますが、Mesa-BoogieのRectifireシリーズを代表として、フルチューブを謳ったアンプにおいて、なお使われ続けているモデルも存在します(ちなみに英語で整流管をRectifireと言い、Mesa-Boogieのアンプ名はそれをそのまま使用したものです)。

Mesa Boogie Triple Rectifier – Supernice!ギターアンプ

ダイオードと整流管の比較 左:ダイオード、右:整流管「GZ34」

ダイオードに取って代わられている主な理由は、音の増幅に絡むことのない電源部であることから音色に及ぼす影響が考えにくいためです。ただ、現在でも整流管の存在がまろやかな音に繋がると信じる向きは多く、整流管を未だ使用しているモデルは、そのような考えに基づいて設計されています。整流管には主に「GZ34」という真空管が使われることが多く、交換する際にも、基本的に新しいGZ34を用意することになるでしょう。

SHINOS 篠原氏

SHINOS 篠原氏のコメント:

電気回路としてはダイオードの方がはるかに優秀ですし、整流管の方が電気の流れも悪いし場所も取りますから、整流管に電気的なメリットはないんです。
ただし、電圧がちょっと劣ることから、他の真空管に送る電流も若干抑えられ、サウンドにちょっとコンプレッション(圧縮)がかかり、クリーンやクランチがとても気持ち良くなります。アンプから出てくる音に違いが出るわけです。「Luck 6V」は、このコンプ感を選択しました。
【音の良さと、現場での強さ】ギターアンプメーカー「SHINOS」訪問インタビュー

パワー管のマッチングについて


上:パワー管 EL34 EH/ペア
下:6V6R QT マッチドカルテット

大出力ギターアンプのパワーアンプは、パワー管2本を一組として「プッシュプル回路」と呼ばれる回路で動作させるものがほとんどです。このような構造のパワー管を交換する際には、特製の似たもの同士を二つセットにして交換する必要があります。これをパワー管のマッチングと言って、新しい真空管を選ぶ際には気を付けなければなりません。多くの場合、メーカーが真空管の個体差を調べ、誤差が少ない物をセット販売しています。2本セットの「ペア」、4本セットの「カルテット」といった商品ラインナップがあります。
仮に個体差のあるパワー管同士を組み合わせると、アンプの動作が不安定になるだけでなく、それが原因でアンプが壊れてしまう恐れもあります。各社から様々なマッチングセットが販売されているので、パワー管の交換は「まとめて行う」ようにしましょう。


真空管アンプは動作や挙動が非常に複雑ですが、スピーカーやエンクロージャーの材などと並び、最大の要素として真空管そのものの性質が関わってきます。個体差が激しい真空管という製品には、二つとして同じものはないと言っても過言ではないほどで、理想の真空管を見つけることはギタリストとして大きな喜びとなるでしょう。もし手持ちのアンプに不満点が一つでもあるのであれば、一度交換を試してみても面白いのではないでしょうか。

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