《良い楽器は、偶然にはできない》エピフォン ・ギター徹底分析!

[記事公開日]2023/4/25 [最終更新日]2023/5/9
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

エピフォン・ギター

「Epiphone(エピフォン)」は気軽に手に入れられる「超」が付くような低価格モデルから、プロミュージシャンの要求に応えられる高級機まで、たいへん幅広い価格帯でギターをリリースしています。ギブソン傘下ブランドとしてリリースしているレスポールやSGは、低価格/高品質が支持され、他社製コピーモデルの追随を許さないシェアを獲得しています。

エピフォンは戦前をピークとし、ギブソンを相手に熾烈な開発競争を繰り広げました。その過程でギター本体以外にも、ギター本体のトーンコントロール、ダブルネック、ボディ側から操作するトラスロッド、トーン・エクスプレッサー(ワウペダル)、電子チューナー、ボリューム・ペダルなど、現代では当たり前になっているさまざまな機能を発明したといわれています。
特に「アーチトップ」の分野では、ギブソンと競った「エンペラー(Emperor)」や「ブロードウェイ(Broadway)」、ジャズの偉人ジョージ・ヴァン・エプス氏(George Van Eps、1913-1998)が愛用する7弦ギターなど、今なお語り継がれる多くの名器を生み出しています。

ギブソンの傘下になってからも、

  • ビートルズのトレードマークとなった「カジノ(Casino)」
  • ポール・ギルバート氏が「レーサーX」時代に愛用した「ウィルシャー(Wilshire)」
  • 奥田民生モデルとして復刻した「コロネット(Coronet)」

といったオリジナルモデルを生み出しています。エピフォンは決して「ギブソンの廉価版」だけのブランドではなくオリジナルモデルにも魅力があり、ヴィンテージ市場でも高い値段が付けられています。
ここでは「ギブソン傘下ブランド」と「オリジナルブランド」という二面性を持ったエピフォンの魅力を追ってみましょう。

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1: エピフォンの歴史 2: エピフォン・ギターの音や特徴 2.1: 150年の歴史を物語るヘッド形状 2.2: ギブソン直系のピックアップ 2.3: 便利かつ音が伸びるブリッジ 2.4: エピフォンが活躍する音楽シーン 3: エピフォン・ギターのラインナップ 3.1: Inspired by Gibson Custom Shop 3.2: Inspired by Gibson 3.2.1: エピフォン・レスポールのラインナップ 3.2.2: SG のラインナップ 3.2.3: Original ES 3.3: エピフォン・オリジナルモデル 3.3.1: エピフォンの真骨頂、アーチトップ・シリーズ 3.3.2: エピフォンオリジナルのソリッドギター 4: 資料編~エピフォンの近年史~

エピフォンの歴史

著名なブランドには、長い歴史と輝かしい実績が付きものです。エピフォンもその例に漏れず、その歴史は前史も含めると150年にも及びます。まずはこのエピフォンの長い歴史をざっとついばんでみましょう。

前史

エピフォンの前身はギリシャの木材商で、1873年にトルコに移住し、のちにニューヨークに渡ったのが1904年といわれています。この「1873年(明治6年)」、マーチンの創始者マーチン一世がニューヨークに渡った1833年の40年後であり、またギブソンの創始者オーヴィル・ヘンリー・ギブソン氏が楽器工房を開いた1896年に先駆けています。日本では徴兵令が発令され、地租改正が行われました。トルコにいたころから楽器のリペアをしていたアナスタシオス・スタトポウロ氏はここで工房を開き、マンドリンを製作していきます。

「エピフォン」設立

22歳で後を継いだエパミノンダス・スタトポウロ氏が社名を「エピフォン(エピフォン・バンジョー・コーポレーション)」としたのは1928年です。「エパミノンダス」のニックネーム「エピ(Epi)」とギリシャ語の「音(phone)」を合わせた造語ですが、「epiphonous(ギリシャ語。「父の夢を息子が叶える」)」という意味も込められています。

「良い楽器は、偶然にはできない(Good musical instruments do not just happen.)」とは、エパミンダス氏の言葉です。斬新なアイディア、確かな設計や製造といった人間の営みによって、良い楽器は作られるのだという信念をもって、エピフォンは楽器を生産し続けました。当時流行していたバンジョーをメインに製作しており世界恐慌(1929年)でも安定した売り上げを記録しましたが、ギターの人気が高まるにつれ、ギブソンをライバルと定めてギターに傾倒していきます。

ライバル、ギブソンとのシェア争い

この時代にはエレキギターはまだなく、ジャズのアンサンブルに埋もれない大音量を持つためには大きなボディのアコースティックギターが求められました。ジャズで用いられるギターは、バイオリンのような「Fホール」を備えるアーチトップで、「ピックギター」と呼ばれています。この分野ではボディ幅17インチの「ギブソン・L-5」が定番機の名誉を勝ち取っていましたが、その後発表されたボディ幅18インチの「ギブソン・スーパー400」に対しては、ボディ幅18.5インチの「エピフォン・エンペラー」で対抗します。裸の女性にエンペラーを構えさせた広告写真は、当時話題となりました。ボディがあまりに大きくて女性の身体はすっかり隠れてしまっているのですが、お色気の表現に寛容でなかった時代においては、かなりアグレッシブな広告だったに違いありません。

しかし大音量を競ったボディサイズ合戦は、ここで終了します。力強いサウンドを持つアコギとしてはマーチン D-28が定番機になり、またエピフォンがエンペラーを発表した1936年にギブソンがピックアップ搭載モデル「ES-150」を発表、ジャズバンドの定番機はピックギターからフルアコに移行していきます。

偉人レス・ポール氏との関係

エピフォンのショールームは当時のトッププレイヤーの溜まり場になっていたようで、著名なジャズプレイヤーであるレス・ポール氏もその一人でした。レス氏はかねてから夢見ていた「ソリッドギター」の構想を実現させるため、エピフォンの工房を借り、またパーツをもらって試作機「ザ・ログ(The Log。”丸太”の意味)」を完成させます。角材にネックとホロウボディをとりつけた、セミアコに近いものだったそうです。しかしその年1941年には真珠湾攻撃が起こり、アメリカは第二次世界大戦に参戦、いろいろとそれどころではなくなります。

戦前のエピフォンは、ギブソンに並ぶギターのトップブランドとして一世を風靡しました。しかし1945年、終戦の直前にエパミノンダス氏が亡くなって弟が後を継ぐと、エピフォン社内での労働争議、他社による買収、工場の移転などがおこり、また多くの職人を失うなど存続の危機を迎えます。これを見かねたレス・ポール氏は、テッド・マッカーティー氏(当時のギブソン社長。経営手腕と多くの製品開発でギブソン黄金時代を築く)にエピフォンに手を差し伸べるよう勧めました。

新しいスタート

マッカーティー氏にも思う所があり、1957年にギブソンはエピフォンを買収、子会社化します。エピフォンはギブソン傘下ブランドとして存続することになりました。ギブソンにとってはアップライトベース(=ウッドベース)やバンジョーなどエピフォンにしかないノウハウが得られるため、両者に利益のある買収でした。ギブソン・ファイヤーバードレスポール・デラックスに搭載されるミニハムバッカーも、本来はエピフォンのものでした。

エピフォンの製品はギブソンギターのエピフォン版として開発され、ヘッド形状や装飾などに違いのある別のギターとして受け入れられていきます。ギブソンの販売戦略上、エピフォン版のギターはインレイやバインディングなどによって豪華な意匠を凝らした「高級機」として生産されました。またこれら「エピフォン版」ばかりでなくエピフォン独自設計のギターも生産されたので、ひとつのブランドとしてのアイデンティティが保たれました。現在ではそれだけでなく、ギブソンギターの廉価版として、コピーモデルではない本物のギブソン・レスポールギブソンSG、またES-335などの定番ギターをリリースし、人気を集めています。


The Beatles – Revolution
「誰が愛用したか」は、ギターの価値を大きく左右する重要な問題です。ジョンとポールにカジノを勧めたのは故ジョージ・ハリスン氏だったそうですが、氏が出会った「当たり」の個体がエピフォンだったことが、現在のカジノ人気のきっかけになっています。

エピフォン・ギターの音や特徴

エピフォンは、買収前からギブソンに近い仕様のギターをリリースしていました。現在でも、

  • ハムバッカーやP-90を主体とするピックアップ配列と、トグルスイッチによる切替え
  • マホガニーネックがボディに接着される(セットネック構造)
  • TOM(チューン・O・マチック)を主体とするブリッジ

などの設計が、ギブソンの特徴に通じています。


B’z / TRAILER Vol.3「B’z LIVE-GYM Pleasure 2013 ENDLESS SUMMER -XXV BEST-」
B’zの松本孝弘氏が愛用するダブルカッタウェイ仕様のレスポールカスタムがリリースされたこともある。ギブソン製ピックアップを備え、現実的な価格で本格的なサウンドが得られた。

150年の歴史を物語るヘッド形状

エピフォン・レスポール・スタンダードのヘッド エピフォン・レスポール・スタンダードのヘッド形状

エピフォン・ギターのヘッドは歴代モデルにみられる特徴を継承しています。ギブソンの廉価モデルを作るときでも、連綿と受け継がれる「エピフォンブランドのアイデンティ」を誇示しているのです。

ギブソン直系のピックアップ

エピフォン・レスポール ギター博士が使ったエピフォン・レスポール。美しい木目の様子は本家ギブソン・レスポールにも引けを取らない

エピフォンのギターは「ギブソン傘下ブランド」の身の上を利用し、

  • ProBucker 2/3 : ギブソンのヴィンテージピックアップと同じ磁石、同じ材料で作り、ハウリング防止処理を施す。
  • Alnico Classic PRO : ギブソンの名機「57Classic」を再現したハムバッカー。4芯構造なので、コイルタップ機能を追加できる。
  • P-90 PRO : オリジナルを再現したP-90。「P-90タイプ」ではなく「P-90」であるところがポイント。

というように、ギブソンの設計やノウハウを取り入れた高品位なピックアップが使用されます。また上位モデルには、ギブソン製のピックアップそのものが搭載されることもあります。ピックアップ名の「2」や「3」、および「Plus」の有無は、フロント用/リア用を区別するための表示で、リア用は若干出力が上がっています。

ギブソンのピックアップについて

便利かつ音が伸びるブリッジ


Innovation The Epiphone LockTone™ Stopbar Tune o matic System
LockToneだとブリッジにはめ込んだ時にずれて落ちたりすることがない

エピフォン独自の「LockTone」ブリッジは、従来のTOMブリッジの機能に加え、スタッド(軸)に食いついて外れなくなる「爪」が付けられています。従来のTOMブリッジは弦の張力を利用して固定されるので、弦交換の際にはポロっと取れてしまうことがあります。軸が回ってしまったら、せっかくシビアに合わせたブリッジの高さを調節し直さなければなりません。

「LockTone」ブリッジは「爪」を持つお陰で、脱落が未然に防がれます。この爪は接合部分に隠れているので、TOMブリッジ本来の外観を損ねることもありません。またブリッジがスタッドに固定されることから、弦振動のロスが軽減され、サスティンが20%伸びます。エピフォンのTOMブリッジを持つギターのほぼ全てがこの「LockTone」ですが、上位機種ではテールピースにも「LockTone」が使用されています。


James Bay – Let It Go (Live From Star 94.1 Atlanta’s Jingle Jam)
デビューアルバムが全英チャート1位を記録したというシンガーソングライター、ジェイムス・ベイ氏。大物アーティストとの共演も多く、注目すべきアーティストです。フルアコは本来アコギなので、このようにアコギ的な演奏を自然に行うことができ、また電化しているためドライブサウンドも出すことができる、というメリットを持っています。NAMMショウ2017で発表されたという氏のシグネイチャーモデルは、レギュラーモデル「センチュリー」の外観をほぼ変えることなく、パーツ類のグレードを上げています。

エピフォンが活躍する音楽シーン

トレードマークにしていたプレイヤーもいたことから、エピフォンはコアなファンも多く、初心者からプロまで幅広く支持を集めています。ビートルズのメンバーが愛用した事から、「エピフォン・カジノ」はブリティッシュ・ロックにおける定番機と見なされています。さらには若き日のB.B.キング氏やオーティス・ラッシュ氏などのブルースマンもエピフォンを使用していました。

また現在では、「超高額っぽくない」というイメージから、若さや近親感を打ち出したいアーティストに愛用されるケースが増えているようです。


Epiphone Presents Toby Lee’s Rockstars in Training – 8
トビー・リー氏は、若干10歳(当時)の達人プレイヤーです。8歳からYoutubeチャンネルにて動画を公開していますが、若くして既に「顔で弾く」技を身につけています。氏が動画で使用しているギターは敬愛するジョー・ボナマッサ氏のシグネイチャーモデルです。

エピフォン・ギターのラインナップ

エピフォンのギターは、

  • ギブソン定番機の廉価版「INSPIRED BY GIBSON」
  • エピフォン・オリジナルモデル「EPIPHONE ORIGINAL」
  • ギブソン・カスタムショップとのコラボ「Inspired by Gibson Custom Shop」

この3つで構成されます。ここではこのカテゴリーで分類し、ラインナップをかいつまんで紹介していきます。

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