ギブソン「SG」の種類と選び方

[記事公開日]2022/8/24 [最終更新日]2022/8/26
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Gibson SG

ギブソン・SGは、レスポールの後継機種として開発された同社の看板モデルです。軽量でハイポジションが弾きやすいのが特徴で、特にロック系に良好なサウンドが大いに支持されています。左右対象のボディ形状も独特ですが、これを出発点とした新しいギターがいまだに生まれていない、個性的かつ完成度の高いギターでもあります。ここではこのギブソンSGの魅力を掘り下げ、種類と選び方を見ていきましょう。


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ギブソンSGと言えば、映画「スクール・オブ・ロック」で一流小学校の講師になった主人公のメインギターとしても知られています。SGは特にロックギタリストに愛用されることが多く、しばしばロックを象徴するギターとして扱われます。

Gibson SGの歴史

SGが歩んだ歴史を見ていきましょう。まずは誕生から近年までの年代記、そしてその中での仕様の変遷を見ていきます。歴史の中で、SGはさまざまな仕様変更を経ていきました。

《レスポール→SG》SG年代記

《SG史の夜明け前》1950年代

レスポール・スペシャル SG開発の礎となった、ダブルカッタウェイ仕様のレスポール・スペシャル。

1950 年代末という時代は、フェンダーのストラトキャスターがエレキギター市場を席巻していました。1)軽量で、2)ハイポジションが弾きやすく、3)アームが使える、という高性能なストラトキャスターに対し、ギブソン社は対抗手段に迫られます。そこで第一の対抗策として1958年より、レスポール・ジュニアとレスポール・スペシャルがダブルカッタウェイ化します。

《全く新しいギター「SG」の爆誕と発展》1960年代

1961 SG Custom SGの初代、1961年式「レスポール・カスタム」。ストラトキャスターに対抗して考案された、薄くて軽くて、ハイポジ余裕で、アームまで使えちゃう、全く新しいギター。

1961年7月、シカゴNAMM ショーにて、根本的にモデルチェンジした「レスポールのニューモデル」として、SGはデビューします。カスタム/スタンダード/スペシャル/ジュニアの4モデルは1963年まで「レスポール」として生産されていましたが、1963年末からは名手レス・ポール氏との契約解消にともない、全モデル「SG」へと改称します。
極薄のボディに22フレットまで余裕で手の届くことから大いに販売を伸ばしたSGですが、60年代後半になると売り上げも落ち着いていきます。ちょうどこの時期にレスポールが再評価され、1968年にシングルカッタウェイを持つ従来のレスポールが復活しますが、その陰にはSGとレスポールの両面でラインナップを展開するというビジネス的な狙いがありました。

《新旧並び立つ》1970年代以降


Gibson „Eden of Coronet“ – Musikmesse 2015
「エデン・オブ・コロネット(2015)」は、11,441 個のダイヤモンドをちりばめたスーパーゴージャスなSGです。200万米ドルという価格は、最も高額なギターとしてギネス認定されました。

ギブソン社は1969年末に南米のECL社に買収され、1974年にはノーリン社の子会社になり、いわゆる「ノーリン期」へと入っていきます。設計/工程の合理化や製品の低価格化が進められる過程で、1976年にはカラマズーにあった工場がナッシュビルに移転するなど、激動の時代となります。このギブソン社を投資家が買収した1986年以降は、現代版に加えて60年代式のSGも作られていきます。
これ以後、時代と共にさまざまな新しいSGが考案されていますが、60年代式のヴィンテージモデルへの支持も今なお健在です。


AC/DC – Back In Black (Live at Donington, 8/17/91)
SGの使い手として最も名高いのはこの人、AC/DC所属、アンガス・ヤング氏です。氏は長いキャリアの中で、一貫してSGをしています。ボーカリストよりも目立つと言われる激しいステージングも、軽量なSGだからこそ可能だったと考えられます。

各部仕様の変遷

SGは、さまざまなマイナーチェンジを経て現在に至っています。これらは剛性の確保やチューニングの安定など性能の向上、また生産性を向上させて価格を抑えるためのものでしたが、ヴィンテージギターの人気もあって旧式の設計にも支持が集まります。

《ジョイント部》アクセスと強度の模索

ジョイント比較 1961年式(左)と現行仕様(右)。現行はジョイント強度が高いが、ピンの位置にも若干の違いがある。

SGへの抜本的な再設計は、レスポールの生みの親、ジャズギタリストのレス・ポール氏に知らされずに行なわれました。新しくなったレスポール(SG)をチェックしたレス・ポール氏はネック強度が気に入らず、ひどくご立腹だったと伝えられています。最初期のSGは22フレットでボディに接続される関係で、レス・ポール氏にはジョイント部の強度が以前より頼りなく感じられたようです。ジョイント部の脆弱性は、ネック自体をしならせる大胆なビブラート(ネックベンド)という新しい奏法を生むことにもなりました。
弱点とみられたSGのジョイント部は数年単位で仕様変更しており、詳しい人ならココを見るだけでだいたい何年あたりの仕様かが判別できます。現在では19フレットあたりからネックの厚みが増してくる設計になっており、ジョイント部の強度は高く確保されています。

ピックガードの大型化

ピックガード デビュー当時の「エンジェル・ウィング(左)」と、1966年以降の「バット・ウィング(右)」。

デビュー当時のピックガードは、1弦側のみカバーする比較的小さいデザインが、俗に「エンジェル・ウィング」と呼ばれました。1966年のマイナーチェンジでこれが大型化し、俗に「バット・ウィング」と呼ばれます。現在ではデザインで選ぶ感じにもなっていますが、大型化した当時としては最大3基のピックアップを設置する大きな穴を覆ってしまうことができる、生産性向上の策でした。

斬新なビブラートシステム

左から、サイドウェイ・バイブローラ、マエストロ・バイブローラ、ストップテールピース。

SGの開発では、ストラトへの対抗策としてビブラートユニットも考案されました。近年復活した「サイドウェイ・バイブローラ」は、フェンダーともビグスビーとも違う新しい発想で作られた斬新なユニットです。板バネを利用した「マエストロ・バイブローラ」も、他社にはない発想のシステムでした。
現在のSGはトレモロレスが一般的ですが、もともとトレモロユニットを装備することを想定して開発されたギターです。たとえアームを使う予定がないにしても、トレモロユニットを備えたSGのほうが重量バランスは良好です。


Gibson SG Standard ’61 Sideways Vibrola – New Gibson Original
冒頭のデモ演奏、17秒当たりでアームを操作しています。サイドウェイ・バイブローラはボディに対して平行に操作し、アームを引き上げるとピッチは下がり、押し下げるとピッチは上がります。

Gibson「SG」の特徴は?


Alabama Shakes – Don’t Wanna Fight (Official Video – Live from Capitol Studio A)
20代の若手にして、この底知れぬ大物感。ソロとして活動する現在ではさまざまなギターを使い分けるブリタニー・ハワード女史ですが、彼女をスターに押し上げたロックバンド、アラバマ・シェイクスではSGカスタムがトレードマークでした。

ギブソン「SG」は、レスポールの弱点だと目されていた本体の重さとハイポジションの弾きにくさを解消した、ギターのイノベーションです。ヘッド形状やセットネック構造、電気系の仕様など、ギブソンのアイデンティティをしっかり維持しながら、ボディ外周を斜めにカットする新しいデザインを取り入れた、攻めの開発姿勢もポイントです。
マホガニーボディ&ネック、ハムバッカーやP-90装備という本体仕様はドライブサウンドとの相性がことのほか良好で、特にロック系のアーティストに愛用されます。
レスポールと比較すると、その特徴は分かりやすい。

SG vs Les Paul SG Standard ’61(左)とLes Paul Modern(右)。

SGはレスポール・スペシャルを、元をただせばレスポールを出発点として開発されたギターです。両者はネック寸法やジョイント法、電気系仕様など似ているところを多く持っていますが、「演奏性とサウンド」というギターの根幹部分で大きな違いを持っています。
演奏性については、圧倒的なハイポジションの演奏性がSGの特徴です。指板の22フレット地点でボディに接するというネックジョイントが第一に挙げられますが、ボディ形状にも注目しましょう。くびれ位置をブリッジ近くに持っていくことで、座って演奏する際にハイポジションに手が届きやすくなるわけです。
サウンドについては、ピックアップの位置が大きな特徴です。SGは特徴的なネックジョイントのためフロントピックアップが22フレットから離され、ブリッジにやや近いポジションに設置されます。リアピックアップもこれに応じて若干ブリッジに接近しています。これにより各ピックアップのサウンドがレスポールよりやや硬質な、ブライトな成分を多く含む音色になるわけです。

SGのラインナップ

当初よりカスタム/スタンダード/スペシャル/ジュニアの4機種というレスポールと同様のラインナップが用意されましたが、カスタムのボディーカラーはそれまでのブラック・ビューティーからホワイトに変更。スタンダードもサンバーストからチェリーレッドの単色に変更され、定番色として定着しました。レスポールと違い、SGは4機種ともボディの基本設計が共通しています。

SG Standard

Gibson SG Standard

SGの王道「SGスタンダード」は、ヘッド中央に輝くクラウン・インレイ、指板バインディング、3フレットからのトラペゾイド(台形)インレイといった意匠が特徴です。ビブラートシステムを備えるモデルがあり、チェリー・レッドの定番色のほか、ブラックも人気です。
現在のラインナップでは、現代のギターとしてブラッシュアップされた現行モデルのほか、旧式の仕様を復刻させたヴィンテージモデルも人気を博しています。

ギブソン SG スタンダード徹底分析!

SG Special

Gibson SG Special

「SGスペシャル」はSGスタンダードの廉価版という立ち位置で、バインディング非採用、ドットインレイ採用など装飾を抑えたルックスがポイントです。もともとはバーブリッジ&P-90ピックアップ2基という仕様が基本でしたが、TOMブリッジ&オープンタイプのハムバッカー2基という、SGスタンダードにかなり近い仕様になったこともあります。
現在のラインナップでは、SGスペシャルはバーブリッジ&P-90ピックアップ2基の仕様に原点回帰しています。いっぽうTOMブリッジ&オープンタイプのハムバッカー2基のSGは、「SGトリビュート」として存続しています。

SG Tribute 一時期の「スペシャル」を今に伝える、SGトリビュート。

Gibson SG Special徹底分析!

SG Junior

Gibson SG Junior

「SGジュニア」はリアにP-90ピックアップを1基備える、シンプルなスタイルのSGです。フロントピックアップを持たない唯一のSGでもあり、フロント位置に穴があけられないのでジョイント部が頑丈です。SGスタンダードの廉価版としてリリースされたモデルではありますが、ロケンロー精神あふれるギターとして高く評価されています。

Gibson SG Junior:リアピックアップ1基のSG

SG Custom

Jimi Hendrix SG Custom

ギブソン・カスタムショップのみでリリースされている「SGカスタム」は、ヘッドに輝くダイアモンドインレイ、エボニー指板、ゴールドパーツ、1フレットからのブロックインレイなど、ゴージャスな装いの高級なSGです。ピックアップ3基搭載が基本スタイルですが、2基のモデルもリリースされています。

Gibson SG Custom:ピックアップ3基のSG

EDS-1275

Gibson EDS-1275

見るからに迫力のある「EDS-1275」は、6弦と12弦のダブルネックを最大の特徴とする、12弦と6弦を0秒で持ち替えられるギターです。もともとはホロウボディのギターだったのですが、1962年にSGに寄せたモデルチェンジを経て、今の姿で定着しています。
レッド・ツェッペリンの名曲「天国への階段」のライブ演奏での起用があまりにも有名ですが、イーグルス「ホテル・カリフォルニア」のライブでも起用され、ジョン・マクラフリン氏が自身のバンド「マハヴィシュヌ・オーケストラ」でメイン起用されるなど、音楽史の様々な場面で重要な役割を演じています。


Led Zeppelin – Stairway To Heaven (Live at Earls Court 1975) [Official Video]
EDS-1275にはさまざまな可能性がありますが、ロックバンド的には「レコーディングで12弦のアコギと6弦のエレキを駆使した曲を、ギタリスト一人でどうにかしてライブ演奏する」ためのソリューションとして、大いに活用されました。


以上、ギブソン「SG」の概観を見ていきました。基本の4タイプから、気になるSGをチェックしてみてください。SGは軽量なギターではありますが、全長はレスポールより長い、ちょっと大型のギターでもあります。付属のハードケースとは別にギグバッグを調達する際には、「ちゃんとSGを格納できるか」を確認するようにしましょう。

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