エピフォンのヴィンテージモデル最高グレード「1959 Les Paul Standard」限定リリース

[記事公開日]2020/12/23 [最終更新日]2020/12/26
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Epiphone 1959 Les Paul Standard

ヴィンテージ・ギター市場で最も人気があり、また優秀な楽器として最も支持される「1959年製ギブソン・レスポール・スタンダード」の発表60年を記念し、エピフォンから「1959レスポール・スタンダード」が限定リリースされました。初めて実現したエピフォンとギブソン・カスタムショップのコラボレーションにより、ロックの歴史を築いた名機のレプリカを、現実的な価格で手に入れることができます。今回は、この「1959レスポール・スタンダード」に注目していきましょう。


Epiphone Exclusive Run 1959 Les Paul Standard Guitar Aged Southern Fade – AmericanMusical.com
「バースト」の名に恥じない、太く、鋭く、力強い音。鈍く光るその姿には、風格すら感じさせます。

レスポール・スタンダード「バースト」とは?

Gibson Les Paul Standard Sunburst Gibson 1958 Les Paul Standard Sunburst

「バースト」とは、1958年から1960年の3年間で生産された、チェリーサンバーストのレスポール・スタンダードのことです。ボディカラーに由来する呼び名ではありますが、単に「バースト」と呼ぶ場合、1958年~1960年の期間に製造された本物、もしくはそのレプリカのことを言います。また本物に対し、特に「オリジナル・バースト」と称することもあります。

1958年製のネックは太く、1960年製はかなりスリムです。これに対して1959年製はその中間で、バランスが良いということで最も厚く支持されています。日本では、奥田民雄氏、高見沢俊彦氏(THE ALFEE)、TAKURO氏(GRAY)、野村義男氏、松本孝弘氏(B’z)らが、1959年製バーストのオーナーとして知られています。

なお、レスポールの音の良さを証明し、その普及に大いに貢献したエリック・クラプトン氏は、スリムなネックの1960年製がお好みでした。

「バースト」の誕生(1958~1960)- ギブソン・レスポール・スタンダード徹底分析!

エピフォン「1959 Les Paul Standard」の特徴

では、エピフォンから限定リリースされた「バースト」がどういうものなのか、さまざまな仕様をチェックしていきましょう。

エピフォン最高グレードのフィギュアド・メイプルをボディに使用

エピフォン1959 Les Paul Standard 1959 Les Paul Standard(Aged Dark Cherry Burst)

マホガニー・ボディに貼りつけられるメイプルには、AAAグレードがセレクトされています。これは現在のエピフォン・ラインナップで最も高いグレードです。オリジナル・バーストにはトップの杢がバリっと出ているものも控え目なものもありますが「レプリカでは、しっかり杢が主張してこそ」という考え方が主流です。

ボディカラーには、エイジド・ダーク・バーストとエイジド・ダークチェリー・バーストの2色があります。「エイジド」と名付けられたカラーリングですが、使い込んだ感じのキズや塗装のクラックはありません。鈍く光る貫禄のある塗装は、長い時を経たラッカーが熟成し、軽く軟化した状態を再現しています。

オリジナル・バーストと同じ設計のネック

Aged Dark Cherry Burst 1959 Les Paul Standard(Aged Dark Cherry Burst)

Aged Dark Burst 1959 Les Paul Standard(Aged Dark Burst)

マホガニー製のネックは、1959年製レスポールを忠実に再現したグリップになっています。また、ボディに挿入する「ほぞ(tenon)」がフロントピックアップの下に達する「ロング・テノン」になっている点も、1959年の設計に準じています。この設計は「ディープ・ジョイント」とも呼ばれ、ボディ&ネックの接地面を多く確保してジョイント部分を強固に接続し、豊かなサスティンを得ることができます。

このほか、インド産ローレル指板、ミディアムジャンボ・フレット、ナット幅約43ミリ、グラフテック社「ヌーボーン(NuBone)」製ナット、といったところはエピフォンの仕様に準じています。

日本で月桂樹と呼ばれる「ローレル」は、乾燥させるとほとんど狂わない頑丈な木材です。緻密で美しい木理があり、ちゃんとした美しい指板としてしっかり働いてくれます。なお、この木の葉っぱを乾燥させたのがローリエで、欧風カレーやポトフなどの煮込み料理に添えられます。

「ヌボーン」は、人工象牙「TUSQ(タスク)」由来の人工骨です。当たり外れのない均一性と、骨と代わらない音響/潤滑性能、そして本物の骨よりしぶとい強度に優れます。

本家ギブソン同様の電気系

電気系にはかなり力が入っていて、本家ギブソンと同様のグレードの高い部品で構成されています。なお、ヴィンテージモデルなので、コイルタップやフェイズなど現代的な機能は非採用です。

Gibson「BurstBucker」ピックアップ搭載

BurstBuckerピックアップ

ピックアップには、ギブソン「バーストバッカー」がセレクトされています。バーストバッカーはその名の通り、オリジナル・バーストに搭載されていた「P.A.F.」を再現したピックアップです。製造元のギブソンがリリースしている製品なので、コピーモデルではなく本物のピックアップです。中高域に主張のある明るいサウンドキャラクターは、倍音が豊かでドライブサウンドとの相性が抜群です。

1~3の3タイプあるうち、「2」がフロント、「3」がリアです。各タイプはオリジナルのピックアップに見られた個体差を再現しており、番号に応じて出力が上がっていきます。「1」は繊細で甘いトーンを持つ、クリーンからクランチまでがおいしい低出力モデルです。「2」はちょうど良い出力のバランス型で、オールマイティに使うことができます。「3」はパワーと粘りを持ち味とする高出力モデルです。

ギブソンのピックアップについて

高品位な電気部品

電気部品には、一流ブランドの製品が使用されます。セレクタースイッチとアトプット・ジャックにはスイッチクラフト社製、ボリューム及びトーンのポットにはCTS社製が採用されていますが、これはギブソン・カスタムショップと同じ仕様です。

スイッチクラフトは頑丈な設計が持ち味で、たいがいの各社高級機種で採用されている実績を誇ります。CTSも同様で、絶妙に設定された電気性能によりエレキギターにとって良好なサウンドが得られ、コントロールポットの分野で高級機種の定番です。

トーンコンデンサーには、電気部品メーカー「マロリー」社製がセレクトされています。同社は1916年に創業、第二次世界大戦中に実用的な水銀電池を開発、これが現在の「デュラセル(Duracell)」の発端となりました。マロリーのフィルムコンデンサー「150」シリーズは、高音質オーディオ用として評価が高く、特に音抜けの良さが評価されており、高級ギターブランドでも採用例があります。

50年代仕様の配線

トーン回路の配線に「50年代式」が採用されているのは、マニアックながら注目すべきポイントです。「1959」を名乗るレスポールならば、やはりその時代の配線を採用するべきでしょう。しかしこれは、形だけのものではありません。ギブソンの配線にはトーンのつなげ方が異なる「50年代式」と現代標準の「近代式」があり、サウンドに影響するのです。

近代式の配線は、ボリュームを絞ると高域が削れた甘い音になる代わりに、トーンを絞っても音量に大きな影響はない、という特徴があります。これに対して50年代式は、ボリュームを絞っても高域は削られず、その代わりトーンの操作が音量に影響します。

トーン回路の使いやすさでは近代式の配線に軍配ですが、音抜けの良さを重視したいとき、またはギターのキャラクターを変えてみたいときなど、50年代式の配線は今なお「試してみるべき改造」の一つとみなされています。

高級ヴィンテージ・モデルらしい意匠

エピフォン「1959レスポール・スタンダード」は、同社のヴィンテージ・モデルでは最高グレードに位置します。高級感あるハードケースが付属するのはそのためです。また、ボディ背面のトグルスイッチ・プレート部には、「Epiphone Limited Edition」と刻まれたメダルが配置されます。

ピックガードの設計もヴィンテージ・スタイルの演出に一役買っています。現代のピックガードは外周がナナメにカットされていますが、本機のピックガードはオリジナル・バースト同様、垂直にカットされているのです。こういうちょっとしたところにも設計の古さを採り入れ、オールドの雰囲気を演出しているのです。

「エピフォン」の個性もしっかり

Epiphone 1959 Les Paul Standard:ペグ

「1959レスポール・スタンダード」は、オリジナル・バーストをかなり頑張って再現していますが、あくまでエピフォンのギターであり、エピフォンとしての個性や機能もしっかり残されています。ヘッド形状はその最たるもので、かつてギブソンと烈しくシェア争いを展開した、誇りと伝統を現しています。

ペグはエピフォン製「デラックス・ヴィンテージ・チューナー」で、18対1という高いギア比によってシビアなチューニングがビシっと決まります。ブリッジとテールピースもエピフォン製で、取り付けネジに固定される「LockTone」仕様が採用されています。本来なら弦を外すと簡単に取れてしまうところですが、この構造によって部品の脱落が回避され、弦交換作業の効率が上がり、またセッティングが保持されやすくなっています。


以上、エピフォンから限定リリースされた「1959レスポール・スタンダード」をチェックしていきました。ギブソン・カスタムショップとの初コラボレーションということで、かなり気合の入った再現ぶりが確認できました。しかしそれでもエピフォン製ギターとしての設計がしっかり残されており、伝統を受け継いだ演奏性とサウンドを持ちながら、現代的な使い勝手の得られる、性能の良いギターに仕上がっています。

これまでのギブソン社では、ブランド間のやりとりはなく部品もそれぞれで開発していた、いわゆる「縦割り」で運営されていました。しかし経営の危機を乗り越えた現在、ブランド間のコラボレートによって生産性の向上や、新しいものを生みだす挑戦が積極的に模索されています。新しいチャレンジによって生まれたエピフォンの最高グレード、ぜひチェックしてみてください。

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