Fender American Ultra IIシリーズ:フェンダーが追求するモダン・スタイル

[記事公開日]2024/12/5 [最終更新日]2024/12/12
[ライター]森多健司 [編集者]神崎聡

Fender American Ultra IIシリーズ

2024年秋に発表されたAmerican Ultra IIシリーズは、フェンダー社が追求する理想的なモダンスタイルを体現した存在です。選別された優れたハードウェアや、プレイアビリティの高さに最大限配慮した作りなど、随所に細かな特徴の見られるこのシリーズは、ギターからベースまで非常に優れたモデルが並びました。その魅力に迫ってみましょう。

森多健司

ライター
モリタギター教室 主宰
森多 健司

新大阪に教室を設立し10年弱、小学生から70代まで、音楽経験皆無の初心者から歴20年のベテランまで、幅広い層に教える。2015年 著書「ロック・フュージョン アドリブ指南書: マイナー7th上で多彩なフレーズを生み出す方法」、2016年 著書「六弦理論塾〜ギタリストのためのよく分かる音楽理論」上梓。

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webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。

American Ultra IIとは

モダンスタイルのモデルを大々的にシリーズとして打ち出した前シリーズの”American Ultra”は2019年に登場しました。この時点でUltra Noiseless Pickupや握りやすさを追求したModern Dシェイプのネックなどが採用されており、Ultra IIへ続く基本的な要素がすでに盛り込まれています。今回紹介するUltra IIシリーズは、そんなAmerican Ultraの理念を受け継ぐ形で、ブリッジやピックアップを新たにブラッシュアップし直し、独自のカラーリングを纏って正当な後継シリーズとして5年の時を経て登場しました。
ラインナップにはフェンダーの顔とも言えるストラトキャスター、テレキャスター、ジャズベース、プレシジョンベースに加え、新機軸のラインとしてメテオラが名を連ね、さらなる進化が図られています。

American Ultra IIシリーズの特徴

ハードウェア

American Ultra II Stratocaster:ボディ

ハードウェアは以下のものが採用されています。同じものが採用できる場合(ナットやフレットなど)には共通のものが使用され、その他はそれぞれのモデルごとに適したパーツが選ばれています。

  • Graph Tech TUSQナット
  • Ultra II Noiselessピックアップ(シングルコイルの場合)
  • Haymakerハムバッカー
  • 蓄光式Luminlayサイドポジションマーク
  • Ultra 2 Activeプリアンプ(ベースのみ)
  • 調整式HiMassブリッジ(ベースのみ)

TUSQナットはチューニングの安定性に定評があり、メーカー問わずモダンスタイルの楽器によく採用されている定番。ノイズを最大限打ち消すUltra II Noiselessは、このシリーズのために開発された、最先端を行くシングルコイルです。ハードウェアを確認しても、チューニングの安定性には特に注意が払われている事がわかり、特にブリッジについてはベースは4弦ごとを調整可能とするHiMassが標準装備となり、ギターの方はトレモロユニット、ハードテイルブリッジともにシリーズのために開発されたオリジナルのものが搭載されます。

蓄光ポジションマーク

プレイアビリティに特化した作り

American Ultra IIシリーズのコンター

10~14インチのコンパウンドラディアス指板、ミディアムジャンボフレット、Modern Dシェイプのネック、新形状としてあらたにデザインされたコンターなど、諸々の作り込みの部分が考え抜かれています。これらが全モデルの共通要素であることからも、一見ではわからないこの細かな部分こそがシリーズ全体を象徴していると言えるでしょう。弾きやすさ、持ちやすさと音色のバランスが取られ、演奏にストレスを感じないという、プレイヤーにとって非常に重要な要素がこの細やかな作り込みによって生み出されています。

木材

柾目ネック

木材にはシリーズ全モデルについて、厳選されたアルダー材をボディに、クオーターソーン(柾目)のメイプルをネックに使用しています。アルダーは一般的なものよりやや重く密度の高いものが選ばれているようで、どっしりとした中低域とボディの安定感は、ここに理由の一端を見ることができます。クオーターソーン(柾目)メイプルのネックはハイグレードのギター、ベースによく使われるもので、その剛性の高さから反りに強く、さらにしっかりしたアタックを得ることができます。当シリーズはモダンギター、ベースに見られるパワー感と、フェンダーの特性であるきらびやかさがうまく両立されており、これら木材の選定が細やかに行われていることを示しています。指板にはメイプルがそのまま使われているものと、エボニーを採用しているものとの二通りがあります。

S-1スイッチ

ピックアップの構成などを変えるS-1スイッチが搭載されています。ギターではモデルによって効果は違いますが、ベースではアクティブとパッシブの切り替えをこれで行います。このスイッチによる音色幅の拡張はかなり大きく、幅広い音楽に対応するための大きな武器になり得ます。

モダンなルックス

見た目からもトラディショナルな風合いが排除されており、カラーバリエーションはいずれも古さを感じないものがラインナップに並んでいます。サンバースト系のモデルでも、オレンジバーストという名が付き、伝統的なものとは少し違った色合いになっています。さらに導電性が高く素材として優良と言われるアルミピックガードがついに正式採用。アルミについてはかつてレオ・フェンダーが採用にこだわったと言われ、現代のアノダイズ処理技術がそれを可能にしました。そのルックス面での高級感の演出に、アルミピックガードは大変良い働きをしています。


未来感じる音とルックス!Fender American Ultra II Stratocasterを弾いてみた

ギターのシリーズを深堀りする~ストラトキャスターの印象

American Ultra II Stratocaster:カラーリング

ここからは実際にストラトキャスターを演奏しての印象です。

音色のバランス

一般的なストラトと比べ、重量はやや重く、ネック落ちに煩わされることがありません。ボディの鳴りはこれぞストラトといった風情ですが、やや重めのボディがそれをしっかり受け止めています。アンプを通して出すサウンドは低域から高域まで非常に良いバランスが保たれ、Ultra II Noiselessピックアップのサウンドはシングルコイルのレンジの広さは保ちつつも、芯の細さは感じない、良いバランスでチューンされており、低域、パワーともにシングルコイルとしてはやや強めです。

ヴィンテージ感のある鈴鳴り感は希薄ではありますが、ボディ、ネックのバランスが極めて良いため、もしヴィンテージ系のピックアップに交換したとしても、腰の砕けた音にはならず、ピックアップの良いキャラクターを出してくれるでしょう。

弾きやすさ

カリフォルニアのコロナ工場による製作で、ネックやフレット周りなど、個人工房もかくやと言えるほどの丁寧な作りです。ネックのサテン処理は触り心地も良く、演奏上のストレスを感じません。Modern Dシェイプのネックは日本人の手にも握りやすく、複雑なアルペジオ、コードカッティングから速弾きに至るまで、あらゆる奏法を無理なく受け止めてくれます。特にテクニカルなプレイについてはコンパウンドラディアス指板であることもあってか、どのポジションでも弾きやすく、ヒールレス加工されたネックジョイントの恩恵もあり、従来のストラトに比べてハイポジションへのアクセスはかなり容易に感じます。

S-1スイッチ

ベースではアクティブとパッシブの切り替え、テレキャスターでは強制シリーズ配線、メテオラではハムバッカーのコイルスプリット、と各モデルによって機能の違うS-1スイッチですが、ストラトではブリッジ、センターピックアップの際に、ネックピックアップを常時オンにする効果を持ちます。これを利用してのネックとブリッジの二連は素晴らしく透明感のあるサウンドで、アルペジオ系のフレーズには大いに使いたくなる格別の美しさです。スイッチひとつとは思えない高いポテンシャルはUltra II Noiselessピックアップとの相性もあるのか、デフォルトでこのサウンドが得られるのは大きな魅力です。

American Ultra IIシリーズのラインナップ

ラインナップに挙げられているのはストラトキャスター、テレキャスター、メテオラ、プレシジョンベース、ジャズベース、メテオラベース。メテオラは初登場が2018年であり、前のAmerican Ultraにはラインナップとして存在しませんでした。ストラト、テレキャスをはじめとするクラシカルスタイルのモデルに、2018年登場のモデルが横並びでラインナップされたことには、フェンダーの歴史に大きな要素が一つ加わったかのような印象を覚えます。
ストラトキャスターはノーマルラインの他、HSSモデルがラインナップ。ベースはすべてがアクティブ仕様(パッシブとして使うことも可能)となり、トラディショナルなスタイルのものに比べて、非常に幅広い音楽へ対応できるようになっています。前述の通りメテオラという新モデルが増えましたが、前シリーズに存在した5弦ベースはなくなっています。

American Ultra II Stratocaster [HSS]

American Ultra II Stratocaster

ストラトのハムバッカー仕様モデル。ブリッジピックアップに備えられたハムバッカーについてはメテオラと同じくHaymakerが搭載され、分厚いサウンドが得られるようになりました。Haymakerハムバッカーはレンジが広く、高域の再生能力が高いため、他ポジションのシングルコイルとのバランスが良く、切り替えの際に音色が激変するようなことがありません。他のスペックはSSSのストラトと変わらず、ピックアップだけの差ですが、S-1スイッチはブリッジピックアップのコイルスプリットという機能になっています。

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American Ultra II Telecaster

American Ultra II Telecaster

テレキャスターにはピックアップにUltra II Noiseless Vintage Teleという専用のものが搭載されます。テレキャスのイメージ通りのジャキジャキとした質感は損なわないまま、パワーと粘り気が加えられたサウンドとなり、歪ませた時の質感にはより存在感が増しています。6連のブラスサドルを装備したハードテイルブリッジが採用され、ピックガードもストラトと同じくアルミ製のものが装着されています。
S-1スイッチの機能は他のモデルとの最大の差で、テレキャスの場合はブリッジ、ネック両ピックアップをシリーズ配線させます。これによる中域が押し出されたハムバッカーのようなサウンドは、テレキャスのイメージを覆す興味深いもので、テレキャスターという楽器の取りうるスタイルの幅を大きく広げることができます。

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American Ultra II Meteora

American Ultra II Meteora

メテオラは2018年に初めてフェンダーのラインナップに名を連ねた新機軸のモデルです。ジャズマスターに近いアシンメトリーなデザインは非常によく考えられており、その演奏性の高さ、フェンダーのスタイルを受け継いだ高品質なサウンドから人気を誇り、今回Ultra IIシリーズに仲間入りするに至りました。Heymakerハムバッカー二基、そしてテレキャスターと同じハードテイルブリッジ(サドルはステンレス)が採用され、サウンドも外見も、ストラトでもテレキャスでもない第三の軸として存在感を放っています。
テレキャスと異なるステンレスサドルの採用や、もとより高域再生能力の高いHeymakerの存在もあってか、ハムバッカー二基にしてはサウンドの方向性はブライトで、フェンダーギターらしい明るさを良く感じさせます。もちろんハムバッカーの持つ重さや高出力はセッティングによっては出すことが可能で、ストラトやテレキャスには難しいジャンルの演奏も担うことができます。
S-1スイッチはコイルスプリット機能ですが、その際のサウンドはストラトにかなり近く、コイルスプリット特有の芯がない”似非シングルコイル”のようなサウンドにはなりません。ここはHeymakerハムバッカーの高度な調整によるものでしょう。

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エレキギター、エレキベースのパイオニアとしての矜持と、現代に求められるスペックをうまく同居させたAmerican Ultra IIは、王道のギター、ベースを指向する層にとっては大きな魅力となる選択です。楽器としての作り込みも非常に高く、どのようなプレイヤーをも満足させる高いポテンシャルを有しています。

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