《現代における最も模範的なディストーションサウンド》ブラウンサウンド特集

[記事公開日]2020/9/8 [最終更新日]2020/9/8
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

どんなギターが必要か?

ブラウンサウンドを出そうとするギターには、まず第一に「リアにハムバッカー搭載」が必須となります。エディ氏のようにボディに直接マウントする設計でなくても大丈夫です。大音量でしっかり歪ませることを考えると、ハウリング予防のためにボディ構造はソリッドが理想です。FRTなどアームが付いているとなお良いでしょう。

また、ハムバッカーはパワー勝負のものではない、パッシブのヴィンテージ系がベストです。

EVH Wolfgang Special

EVH Wolfgang Special

EVH「ウルフギャング・スペシャル」は、比較的求めやすい価格のモデルでありながら、ブラウンサウンドを出すギターに必要な要素をすべて備えています。ボディに直付けされたハムバッカー・ピックアップは、アルニコII磁石を使用したヴィンテージ系のキャラクターを持っています。FRTブリッジは底面がボディに接した形でマウントされることで、通常時の振動伝達に優れます。またDチューナーが標準装備されているので、一瞬にして「ドロップDチューニング」に設定できます。

グラファイト製ロッドで補強された柾目メイプルネック、コンパウンド・ラジアス指板といった高級機に匹敵するスペックがあるほか、カラーバリエーションが豊富で、指板にもメイプルとエボニーがあり、選ぶ楽しさがあります。

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ブラウンサウンドの出るアンプ

エディ氏は、歪みをすべてアンプで作ります。よってエディ氏の音に肉迫するためには、同じアンプを使うのがもっとも近道だと言えるでしょう。シグネイチャーアンプ「5150 III」シリーズはサウンドが美しく多機能で、バリエーションが豊富です。

EVH(5150 IIIシリーズ)

エディ氏のシグネイチャー・アンプ「5150」シリーズは、ピーヴィーで「5150」、「5150 II」が作られていました。EVHがリリースしているのは、第三世代となる「5150 III」です。「5150 III」には一見すると膨大なバリエーションがありますが、頑張って整理すると以下の4タイプにまとめられます。

基本モデル「5150III 100W/50W 6L6」

5150 W6L6

5150 IIIシリーズの基本モデルは、プリ管JJ ECC83S(12AX7)、パワー管JJ 6L6の組み合わせです。クリーン/クランチ/リードの3チャンネル構成で、「レゾナンス」つまみは全チャンネル共通です。


Dave Nassie from Bleeding Through demos his EVH 5150III®
果たしてエディ氏でなくてもブラウンサウンドは出せるのか?そんなわけでメタルコアバンド「Bleeding Through」に所属していたデイヴ・ナジー氏のプレイ。やはり暖かさとジューシーさを感じさせる極上のディストーションサウンドになっているのではないでしょうか。
またこの動画はスマホを置いてそのまま撮ったようで、ピッキングのパチパチ音が出ています。けっこう勢いよく弾いているのだということが分かり、大変参考になります。

カスタムモデル「5150III 100S/50S 6L6」

こちらはエディ氏がツアーに出るため、基本モデルに対して施したカスタマイズをそのまま反映しています。クランチのゲインを上げ、またリードのサウンドを再構成しています。プリ管JJ ECC83S(12AX7)、パワー管Shuguang 6L6の組み合わせで、「レゾナンス」つまみは各チャンネルに備わっています。

ブリティッシュ系「5150III S100W EL34/50W EL34」

5150III EL34

こちらは基本モデルに対し、パワー管をJJ EL34に変更するなどのカスタマイズが施されています。マーシャルを使っていた時代のブラウンサウンドが得られますが、現代の感覚ではブリティッシュ系のモダンサウンドとも言えます。「レゾナンス」つまみは各チャンネルに装備されています。


EVH 5150III 50W EL34 Demo
ザクザク感を内包したジューシーなサウンド、まさにデビューしたころのVAN HALENのサウンドです。それでいて澄み渡るクリーンやホットなクランチもあり、またフットスイッチの操作でエフェクトループのON/OFFもできます。
50Wのヘッドアンプはクリーン/クランチ両チャンネルでEQこそ共通ですが、ゲインと音量のツマミは「スタックノブ」になっており、各チャンネルに適切なゲインと音量が設定できます。

EVH 5150III – Supernice!ギターアンプ

小型アンプヘッド「LBX」シリーズ

「LBX」は「ランチボックス」の意味です。15Wの小型アンプヘッド「LBX」シリーズは、お弁当箱を持ってく感覚でブラウンサウンドを持ち運ぶことができるわけです。出力を3.5Wに落とす機能があるので、自宅練習にも利用できます。こちらはプリ管JJ ECC83S(12AX7)、パワー管 JJ EL84の2チャンネル構成ですが、モデルごとに各チャンネルのサウンドが異なります。

  • 5150III 15W LBX:クランチ、リードの2チャンネル構成。
  • 5150III 15W LBXII:クリーン、クランチの2チャンネル構成。
  • 5150III 15W LBX-S:クリーン&クランチ、リードの2チャンネル構成。チャンネルに合わせてライトアップされる。


EVH 5150III 15W LBXII Head Demo
可愛らしいサイズでありながら美しいクリーンもハードなディストーションも得られ、エフェクトループも備わっている、高性能フルチューブアンプ。スタジオミュージシャンが携行するにも良好なサイズ感で、特にレコーディングの現場で活躍しますが、この性能ならライブでも使ってみたくなります。

EVH 5150III 15W LBX – Supernice!ギターアンプ

Peavey (6505シリーズ)

かつてピーヴィーからリリースされてきた5150シリーズは、「6505」シリーズに改名されて存続しています。この数字はピーヴィーの40周年(1965~2005)に由来します。名前こそ変わりましたが、まぎれもなくエディ氏のブラウンサウンドを支えてきたまさにそのアンプに違いなく、しかもコストパフォーマンスに優れています。

リズム/リードの2チャンネル構成ですが、リズムチャンネルにはフットスイッチで起動できるクランチブーストがありますから、実質的に3チャンネルのフルチューブアンプとして使用できます。

Peavey 6505/6505 Plus

Peavey 6505+

長きにわたってエディ氏を支えてきた「5150」アンプの末裔「6505」は、プリ管12AX7、パワー管6L6GC、リズム/リードの2チャンネル構成で120Wのアンプヘッドです。EQは各チャンネル共通ですが、超高音域を操作するプレゼンスの反対、超低音域を操作する「レゾナンス」つまみは画期的な発明でした。

現在の最終進化版「6505プラス」は、プリ管を1本追加し、各チャンネルそれぞれにEQを備えた「5150 II」に、さらにチャンネルごとのプレゼンスとレゾナンスを追加して強化したモデルです。

Peavey 6505+ – Supernice!ギターアンプ

Peavey 6505 MH

Peavey 6505MH

ミニヘッドアンプ「6505 MH」は、プリ管12AX7(ECC83)、パワー管EL84、リズム/リードの2チャンネル構成で、唯一リバーブを備えています。出力は20W、5W、1Wの3段階で選択でき、キャノン出力とUSB端子を備えており、自宅練習から録音、本番のステージまで幅広く使用できます。


Peavey 6505MH – Demo
ピーヴィーの5150シリーズはエディ氏の手を離れ、新たに6505として存続しました。そもそもブラウンサウンドを作るために開発されたアンプですが、この暖かくジューシーなハイゲインサウンドは、メタル志向のサウンドにも大変に良好です。何よりVAN HALENのイメージから解放された意義は深く、このアンプならブラウンサウンドを狙ってもいいし、そこから隔絶した極悪なディストーションへも躊躇なく突入できます。

Peavey 6505MH – Supernice!ギターアンプ

ブラウンサウンド系ペダル

いくらエディ氏がアンプで歪みを作っているとはいえ、そのためにアンプを買い替えるのは、ハードルの高い選択肢です。エフェクターでどうにかならないか?そんなわけで、設定次第でブラウンサウンドを手に入れることができるとされるエフェクターがいくつかリリースされています。

Amptweaker 「TightRock」

「アンプトゥイーカー(Amptweaker)」は、ギターアンプのエンジニアとして名高いジェームス・ブラウン氏が主導するエフェクターブランドです。ブラウン氏は南ミシシッピー大学で数年間教鞭をとったのち、ピーヴィー社にて5150アンプの開発に携わったことで特に知られています。また同社にてジョー・サトリアーニ師匠のシグネイチャー・アンプ「JSX」も手掛けました。このほかKustom社、シェクター社のアンプ開発も手掛けています。

ブラウンサウンドを知り尽くした、その名もブラウン氏による「タイトロック(TightRock)」は、エディ氏のサウンドに迫る可能性を持った高機能ドライブペダルです。9Vと18Vの両方で駆動しますが、18Vで駆動させた時にラウドでクリアな「バリアック・トーン」が得られるとされています。

メインのツマミは音量、トーン、ゲインに加え、独特な「タイト(Tight)」を備えています。これはサウンドの太さやアタックの立ち方を操作し、上げればアグレッシブな、下げればディープなディストーションを作ることができます。このほかヴィンテージライクなサウンドを作る「Plex EQ」スイッチ、ゲイン量に連動する「ノイズゲート」スイッチ、モダンなハイゲインサウンドを作る「ゲインブースト」スイッチを備え、さまざまなサウンドにアクセスできます。

エフェクトON/OFFそれぞれのために2系統のエフェクトループを備えているのも大きな特徴で、ドライブペダルを人生の中心に据えたいギタリストにうってつけです。

Amptweaker TightRock – Supernice!エフェクター

Amptweaker「TightRock JR」

Amptweaker TightRock JR

「タイトロック・ジュニア(TightRock JR)」は、先述のタイトロックから基本機能を抜きだしたモデルです。しかしそれに加えてタイトロックの対極にある「ファットロック」のサウンドを出す機能もあり、単なる廉価版ではないポテンシャルを持っています。本機も9Vと18Vの両方で駆動させることができます。


TightRock Demo.m4v
開発者ジェームス・ブラウン氏ご自身が解説するタイトロック。さまざまなスイッチ、2系統のループ、サウンドのキャラクターを激変させるタイトつまみなど、多機能ぶりに頭がクラクラしないギタリストならば、ディストーションを探す旅が終わってしまうのではないかと思わせます。

Amptweaker TightRock JR – Supernice!エフェクター

320design「Brown Feather」

320design Brown Feather

「320design(さんにーまるでざいん)」は、武骨さと洗練さを兼ね備えた強烈な存在感の外観、高級部品を惜しげもなく使用する妥協のない設計で知られるメイドインジャパンのエフェクターブランドです。同社の「ブラウン・フェザー(Brown Feather)」は、軽めのクランチからハードロック/ヘヴィメタルまで幅広く対応する、図太いサウンドを持ったディストーションペダル。製品名も手伝い「ブラウンサウンドが出せるエフェクター」として注目を集めています。

先述の「タイトロック」と対照的に「わずか4つ」というシンプルな操作系は、音量/ゲインに加えて「wide」と「narrow」という2系統のトーンという個性的な構成です。「wide」は狙った周波数帯を中心に広く、「narrow」は狭くブースト/カットできるEQのように働きます。それぞれ狙っている周波数帯に違いがあるので、組み合わせによってさまざまなニュアンスのサウンドを作ることができます。


【320design】Brown Feather 【Official】Sample video
蒔絵の職人が1台1台丹念に仕上げているという外装デザインも、所有欲をくすぐる要素です。1分40秒あたりから、「wide」と「narrow」二つのトーン回路がどう機能するのかを確認できます。わずか4つのツマミで、たいへん幅の広いサウンドメイキングができます。

320design Brown Feather – Supernice!エフェクター

MAD PROFESSOR 「1」

Mad Professor One 1

「マッド・プロフェッサー(MAD PROFESSOR)」は、手に入れやすい工場生産モデル(FAC)とハンドワイヤリングの高級モデル(HW)の両面でラインナップを展開するフィンランドのブランドです。同社の「1(ワン)」は、クリーン設定のアンプからブラウンサウンドをぶっ放すために開発されたディストーションペダルです。

4つのツマミは音量、ゲイン(BROWN)、プレゼンス、リバーブというたいへん尖った構成で、ブラウンサウンドから逸脱することがありません。リバーブのタイムとトーンは内部のトリムポットで操作できます。残念ながらメーカーの生産は終了してしまいましたが、今なお在庫するショップはあり、中古もわずかながら散見します。


Mad Professor “1” Reverb/Distortion Pedal Demo
一聴して「おお、あの音だ」と分かるまさにこのサウンド。生産終了がたいへん悔やまれます。なお、パッシブのギターを直接つなぐことを想定して設計されているので、ボードに組み込むには注意が必要です。

Mad Professor One 1 – Supernice!エフェクター

MXR「EVH5150 OVERDRIVE」

EVH5150 OVERDRIVE

エフェクター大手「MXR」は、かねてよりフェイザーやフランジャーなどでエディ氏のシグネイチャーモデルをリリースしていました。満を持して登場した「5150オーバードライブ」は、まさにエディ氏公認のブラウンサウンドが手に入るペダルです。「Multi-Stage MOSFET(多段トランジスタ)」と称するアナログ回路により、単体で十分満足できる深さと太さ、そしてピッキングへの追従を達成しています。

操作系も充実しており、音量とゲインに加えて3バンドのEQを備えています。EQは自然なかかり具合でありまた強力すぎもしないため、どこをどう回してもブラウンサウンドから逸脱することはありません。ここに同社のノイズゲート「Smart Gate」のノウハウを活かした「GATE」ツマミ、もう一息歪みを濃くする「BOOST」スイッチを備えています。


Introducing The EVH 5150 Overdrive
EQの操作によって、初期から近年までのブラウンサウンドを再現することができます。ツマミいっこながらGATE機能は優秀で、サスティンに合わせてじわじわと閉じたり、休符にあわせてバッサリ切ったりしれくれます。

MXR EVH5150 OVERDRIVE – Supernice!エフェクター


以上、ブラウンサウンドとは何か、またどうやってその音を出すかについていろいろ見てきました。本記事では特にドライブサウンドに注目していますが、隠し味的にうっすらとフランジャーをかけるなど、本家のブラウンサウンドにはさまざまな工夫が込められています。

果てしなくエディ氏を追うもよし、テイストだけ頂いて自分のサウンドを作るもよし、ドライブサウンドを使用する上で、ブラウンサウンドはたいへん頼りになります。また、まったく違う新しいサウンドメイキングに挑戦するにしても、既存の常識や基準をわきまえていなければ何がどう新しいのかがわかりません。決してエディ氏を追わない人も、現代における最も模範的なディストーションサウンド「ブラウンサウンド」についてはぜひ知っておいてください。

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