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《音の良さと、現場での強さ》ギターアンプメーカー「SHINOS」訪問インタビュー

SHINOS:ロゴ

アンプメーカー「SHINOS(シノーズ)」の製品は、回路もキャビネットもすべて自社ハンドメイドを貫くぜいたくな作り、音楽的な美しいサウンド、そして「現場での強さ」が高く評価されています。メーカー立ち上げ12年という比較的新しいブランドながら、愛用者は山下達郎氏、星野源氏、HARUNA氏(SCANDAL)、NAOTO氏(ORANGERANGE)、ジェイ・グレイドン氏、ジェフ・コールマン氏(矢沢永吉)など、内外の大物アーティストがずらりと並びます。

高級なアンプなので気軽に手に入れられるものではありませんが、「大物アーティストが愛用する国産ハンドメイドアンプ」とはどういうものなのか、興味は尽きません。そこでギター博士取材陣は東京都内の工房を訪れ、SHINOS代表の篠原勝さんにさまざまなことをお聞きしました。代表モデルの解説にとどまらず、真空管アンプの基礎的な知識、初歩的な話、さらにはどうでもいいことまでいろいろお聞きしましたが、篠原さんは終始にこやかに、かつていねいにお話ししてくださいました。

SHINOS:篠原勝 篠原勝(しのはら・まさる)
長野県出身。95年からミュージシャンのライブ現場でテクニシャンを始め、THE MODS、Mr.Children、TRICERATOPSなどを担当。同時にアンプビルダーの勉強を始め、06年に「有限会社SHINOS AMPLIFIER COMPANY」を設立。アンプビルダーでありながら、今なおライブ現場でのテクニシャンも続けている「現場の人」。しかし家に帰れば2歳と4歳のお子さんがいる父親であり、育児で大忙し。毎日保育園へお子さんを送り出してから出勤、オフは公園に出かけて一緒に遊んでいるのだとか。

多くのビッグアーティストに支持される「SHINOS」のアンプとは?

──よろしくお願いします。「ミュージックチャイナ2017」ではありがとうございました。今年のNAMMにも出展されたとのことでしたが、感触はいかがでしたか?

篠原 よろしくお願いします。NAMMの出展は初めてだったんですが、なかなかの好評でした。「向こうで信用してもらうためには、何度も出展し続けることが必要だ」と言われていたんですが、一回目としては成功だったと思います。ミュージックチャイナで弊社のアンプに興味を持ってくれた中国のバイヤーさんとNAMMでもお会いすることができ、ビジネスの話を進めることもできました。来年再来年と続けていくことで、より良い結果が出せると思います。

──出展を続けることで躍進していくのですね!それではさっそくですが、SHINOSのギターアンプは、どういったコンセプトで作られているのでしょうか

篠原 僕自身は現場の人間です。現場ではいろいろなトラブルが起きますし、そのたびに「アンプの設計がこうだったら」という思いが蓄積していきました。そういう思いを込めて最初に作ったのが「Luck 6V(ラック6V)」です。
現場で使うアンプは第一に、「故障せず安心して使える」こと、また「万が一故障しても、その場で対応できる」というメンテナンス性が確保されていることが求められます。特に「トラブルが起きないのが絶対条件」で、しょっちゅう修理に出さなければいけないようなアンプは、どんなに音が良くても結局は使われなくなってしまいます。SHINOSのアンプはすべて、まず故障しにくくて、かつメンテナンス性が高いというところを押さえています。

──サウンド的にはいかがでしょうか。「ブリティッシュ系」と表現されることが多いように感じますが、ジェイ・グレイドンさん(アメリカの伝説的なプロデューサー)が気に入って使っているようです。

篠原 そうですね。ジェイ・グレイドンさんは、弊社のアンプをすぐに気に入ってくれました。サウンドとしては「ブリティッシュ系アメリカ寄り」でしょうか。使ってくれるミュージシャンさんからは「VOXのAC30とフェンダーのデラックス・リヴァーブを合わせたような音」と言われたこともありますが、その通りどちらも兼ね備えている欲張りなサウンドだと思います。
僕自身、デラックス・リヴァーブがすごく好きですし、AC30も大好きなんです。VOXは「EL84」という玉(真空管)を使っているんですが、デラックス・リヴァーブは「6V6」を使っています。いろいろな理由があって、「Luck 6V」では「6V6」を採用しました。
Fender 65 Deluxe Reverb
VOX AC30CC2X

真空管のストック ラックには、真空管のストックがずらり。

整流管のお話

──そこなんです、不思議なのは。「Luck 6V」には40Wの消費電力があり、サウンドは決してメタルではありません。しかし「6V6」を使い、「整流管(レクチファイアー)」も使っています。「6V6」は、20W程度の小型アンプによく使われています(デラックス・リヴァーブは22w)。整流管はメサ・ブギー社製「レクチファイアー」が有名で、ハード/メタルなイメージです。
Mesa Boogie Triple Rectifier

篠原 まず、「整流管(レクチファイアー)」はメタル系の回路ではなく、昔から使われているいたって普通のものです。フェンダー「チャンプ(フェンダー最初期の小型アンプ)」でもデラックス・リヴァーブでも、VOXのAC30でも使われています。ヴィンテージ系のアンプに使われることが多く、モダン/ハイゲイン系のアンプではあまり使用しない、という性質のものです。メサ・ブギーの「レクチファイアー」は、「普通ならこのタイプのアンプに使用しない整流管を、あえて採用している」というところを売りにしたアンプなんです。

整流管(レクチファイアー)は、コンセントから送られる交流電源を直流に変換する「変換器」の素子です。変換器には、真空管式とソリッドステート(ダイオード)の二種類があります。

整流管

篠原 これが、整流管です。

ダイオード

篠原 そしてこれが、同じ働きをするダイオードです。これは通常4つほどを接続して使用します。簡単に言うと、これに交流電圧を通せば直流電圧になって出てきます。

整流管とダイオード

篠原 並べると、こうなります。真空管を使用していた時代から技術が進んで、ここまで小型化できた、ということです。電源部分で働く部品なので、ここに音は通りません。電気回路としてはダイオードの方がはるかに優秀ですし、整流管の方が電気の流れも悪いし場所も取りますから、整流管に電気的なメリットはないんです。
ただし、電圧がちょっと劣ることから、他の真空管に送る電流も若干抑えられ、サウンドにちょっとコンプレッション(圧縮)がかかり、クリーンやクランチがとても気持ち良くなります。アンプから出てくる音に違いが出るわけです。「Luck 6V」は、このコンプ感を選択しました。ハイゲインアンプで整流管が使用されないのは、がっつり歪ませるとそれだけでコンプ感が得られるので、わざわざ整流管にコンプ感を期待する必要がないからです。

──なるほどー!整流管かダイオードかで、真空管に送る電圧が変わって、アンプの音が変わるんですね!故障のしにくさではどうなんでしょうか。

篠原 どちらも同じように壊れます。ダイオードは、壊れたら「即終わり」です。整流管は、壊れてもしばらく踏ん張ってくれます。しかしそういう違いは大したことではありません。ダイオードは「ハンダ付け」で取り付けますが、整流管は「抜き差し」できます。メンテナンス性では、圧倒的に整流管の方が優秀です。
ただし、整流管には電流がものすごくいっぱい流れますから、真空管アンプの中で最も壊れやすい部分です。普通のアンプでは1本しか付けないところを、「Luck 6V」では安全性を見込んで2本並列で使っていて、玉に負担をかけないようにしています。おかげで「Luck 6V」については「整流管が飛んだ」という修理依頼は今の所ありません。

パワー管に 6V6 を選んだのは、「飛ばないから」

──整流管の採用は、サウンドとメンテナンス性の両方で意味があったんですね!「6V6」についてはいかがでしょうか。

篠原 「EL84」を使っているVOXのAC30、「6V6」を使っているフェンダーのデラックス・リヴァーブ、どちらも大好きなアンプなんですが、「6V6」を選んだのは、「飛ばないから」です。タフで、壊れないんです。

EL84

篠原 これが「EL84」です。音はすごく良くて、どちらを採用するか悩んだんですが、細く小さいので飛びやすいのがマイナスポイントです。現場でもトラブルが多く、さんざん泣かされました。

6V6

篠原 そしてこちらが、「6V6」です。見るからに頑丈な作りですが、現場でもトラブったのをほぼ見ません。整流管とガラスの大きさは同じですが、中身は違います。22Wのデラックス・リヴァーブにはこれが2本入っていますが、「Luck 6V」には4本入っていて、40Wにしています。

──出力を上げるには、真空管を増やす必要があるんですね!それにしても、壊れにくさと修理のしやすさをとことん追求しているんですね!

篠原 自分の会社のアンプが現場で壊れているのなんて、見たくはありませんよ(笑。「いつ壊れるんだろう」なんてハラハラしながら現場を見るのも嫌ですし。

プリ管

篠原 ちなみに、これは「プリ管」です。これにも「ECC83」と「12AX7」を代表としたいくつもの種類があり、サウンドに違いが出ます。弊社では「JJ-ECC83」を使用していますが、音が良くて「ノイズが少ない」というメリットがあります。プリ管はゲインが高い状態で突くと「カーン」という音がアンプから出てしまうことがあります。これを「マイクロフォニックノイズ」というんですが、このノイズが少ないわけです。

フラッグシップモデル「Luck 6V」の機能について

SHINOS Luck 6V 音が良くて故障に強いフラッグシップモデル「Luck 6V」。篠原さん個人としては、ストラトで鳴らすのが好きなのだとか。「26kg」という重量感ですが、これを使うような人は自分では運ばないのではないか、と思うと納得できます。

──「Luck 6V」の「TONEスイッチ」は低域を操作するとのことですが、どんな原理なんでしょうか?

篠原 ちょっと専門的な話ですが、このスイッチによって回路内の「コンデンサー」を切り替えます。コンデンサーには「容量」が決められていて、容量が大きいものは低域をよく通します。容量が小さくなっていくにつれて、低域がカットされていきます。
「TONEスイッチ」が上のポジションでは容量の大きなコンデンサーを選択しており、低域はそのまま出力されます。下のポジションにすると容量の小さなコンデンサーが選択され、低域がカットされる仕組みです。特にハムバッカーピックアップのフロントでは低域が出すぎることがありますから、こういう場合に有効な回路です。

──では、「ブースト・スイッチ」はいかがでしょうか。音量を上げる「クリーンブースト」のようなものでしょうか?

篠原 「Luck 6V」では、一本のプリ管がブースト用に待機しています。ブースト・スイッチは、このプリ管にも音を通す仕組みです。プリ管の内部は二段に分かれていて、それぞれで音を増幅する「二段増幅」になります。これによって音量が増しますが、ちょっと歪みも増えるのでクリーンブーストとは違います。

──「Luck 6V」は「自分でバイアス調整ができる」のがセールスポイントになっています。この「バイアス調整」とはそもそも何なんでしょうか?

篠原 音を出していない状態でも、真空管には一定の電流が流されています。この電流を制御する電圧を「バイアス」と言います。この電圧には「適正な範囲」というものがあるのですが、真空管ごとに「個体差」があります。
バイアスの「適正な範囲」を割り出して、その範囲内に電圧を収める作業を「バイアス調整」と言います。適正な範囲を超えた電圧がかかると、真空管にかかる負担が増して故障の原因になります。
バイアス調整は、パワー管に必要な作業です。プリ管には「自己バイアス」の機能があるため、必要ありません。パワー管に自己バイアス機能を持たせるアンプも世の中にはありますが、大多数の真空管アンプでは、このバイアス調整が必要です。
「Luck 6V」では、パワー管4本のマッチングがとれている(マッチド)ものを使います。背面の「バイアスシステム」を使い、4本まとめてバイアスの調整ができます。電圧は「バイアスメーター」に表示されますが、これは真空管のコンディションを確認するのにも使えます。どれか一本の調子が悪くなると数値でそれがわかりますし、調子が良いのも数値で確認できます。こういうのは本来なら、玉をいちいち外して測定器にかけて計測するものでした。しかしこのバイアスメーターを使うと玉を外す必要がなく、また専門家でなくてもコンディションを確認することができます。

──何と!とてもありがたい設計ですね!

篠原 例えば全国ツアーに出ますと、ギターアンプは大型トラックに乗せられて、何千キロも旅をします。その間、アンプはガタガタというトラックの振動に耐え続けるわけです。また、本番の演奏時間は長く、アンプにとっては過酷な状況だといえるでしょう。そうなると、真空管のコンディションが心配になってくるものです。しかし「Luck 6V」はバイアスメーターでコンディションを確認でき、たとえ故障してもすみやかに対処できます。

──ところで、真空管をチェックする機能が備わっているのに、「Luck 6V」にはリヴァーブも、センド/リターンも付いていません。あると嬉しい機能だと思うのですが、これらを搭載しないのはどういうことなんでしょうか。

篠原 それは、「トラブルが起きるものは、付けない」というコンセプトで設計しているからです。弊社はアンプの修理も受けますが、特にセンド/リターン端子の故障が多いんです。ジャックを交換すれば完了する修理ですが、トラブルが起きないに越したことはありません。
また、公開している「Luck 6V」はあくまでもベーシックモデルで、ここからカスタマイズすることができます。スプリングリヴァーブの取り付け、スピーカーを1発から2発に、本体のカラーリングなど、かなりの範囲でカスタマイズすることができるのですが、センド/リターンの追加だけはお断りしています。そもそも「Luck 6V」はクリーン/クランチを得意としているアンプです。歪みに頼るアンプではありませんから、センド/リターンの端子をわざわざ使う必要はありません。

──スタックタイプの「Luck 6V」は、コンボとどう違うのでしょうか。

SHINOS Luck 6V HEAD Luck 6V HEAD

篠原 大きな違いがあるわけではありませんが、専用キャビネットには違った特性を持つスピーカーを1発ずつ(セレッション製クラシック・リード、ジェンセン製ブラックバード)配置しています。同じスピーカー2発でも良いんですが、違うスピーカー同士の組み合わせをいろいろ試していたところ、この組み合わせがすごく良い感触でした。低音がしっかりあって、高い成分も十分あって、片方はアルニコマグネットなのでアルニコのサウンドも出ていて、という優秀なものです。
「クラシック・リード」は低音の迫力がしっかり出ます。「ブラックバード」は低音こそあまり出ませんが、アルニコマグネットのおかげでヴィンテージライクな音が得られます。この組み合わせが絶妙だったんです。このキャビネットありきで、これに乗せるヘッドアンプを作りました。また、いろいろなスピーカーで鳴らしたいから「ヘッドだけ欲しい」、というお客様のご要望をいただくこともありました。

多機能50W小型アンプ「WIN」

──40Wの「LUCL6V」より小ぶりにできていますが、50Wもあるんですね!やはり重いんでしょうか。

WIN by SHINOS

篠原 だいたい17kgくらいですね。自分で運ぶにしても、これくらいなら許せるんじゃないでしょうか。「WIN」は「持ち運びやすいサイズでありながら、十分な音量が得られる多機能なアンプ」というコンセプトで開発しています。「Luck 6V」と異なり、こちらはゲインを上げるとなかなかの歪みが得られます。
機能性は高く、
・クリーン/ドライブの2チャンネル
・真空管駆動式のスプリングリヴァーブ
・センド/リターン端子
・スピーカーアウトのインピーダンス切り替え
といった装備です。ドライブチャンネルの歪み方は「Luck 6V」よりもうすこしブリティッシュ寄りな印象です。

──基本的にシンプルな「Luck 6V」と比べると、ものすごく多機能ですね!「インピーダンス切り替え」がシブいです。相手の抵抗値を気にせず、いろいろなキャビネットを使うことができるんですね!

WIN by SHINOS:コントロール ドライブはハイゲインとまではいかないが、充分なところまでしっかり歪みます。篠原さん曰く「適度に歪みます」。

WIN by SHINOS:フットスイッチ フットスイッチでは、チャンネル切り替えとリヴァーブのON/OFFを操作できます。

篠原 「WIN」は若い人に使ってもらいたいと思って開発したアンプです。40万円近い定価は決して安くありませんが、弊社のアンプの中では最も多機能でありながら、最も低価格です。このアンプをリリースすることで、若いミュージシャンの活動を応援しようと思っているんです。おかげさまでこのモデルは好評です。

スプリングリヴァーブのカバー この黒いカバーでおおわれているのが、スプリングリヴァーブです。

スプリングリヴァーブ 黒いカバーの中身はこのようになっています。実際にスプリングが3本並んでいます。

バックパネル バックパネルを外してもらいました。バックパネル自体も、共振しないように分厚くて頑丈に作られています。ずらりと並ぶ真空管。とても良い眺めです。パワー管が2本とプリ管が6本という構成で、整流管は使っていません。

篠原 「Luck 6V」はパワー管4本で40Wでしたが、こちらは2本で50W出せるパワー管を採用しています。プリ管6本の内訳は、クリーンチャンネルに1本、ドライブチャンネルに2本、リヴァーブに2本、信号をパワー管に送る「フェーズ・インバーター」に1本です。一言でプリ管と言っても、それぞれに役割があるんです。


続いて防音室に入り、フラッグシップモデル「Luck 6V」、多機能50W小型アンプ「WIN」を試奏させてもらいました!