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甘く、くつろぎのあるトーン「フルアコースティックギター特集」

フルアコースティックギター

「フルアコ(フルアコースティックギター)」とは、「ボディ内部が完全に空洞になっているエレキギター」のことで、特に日本国内でボディ中央に木部(センターブロック)を配した「セミアコ」と区別する名前として使われます。フルアコ、セミアコをあわせて「ハコモノ」と言いますが、ジャズギター、ボックスギターと呼ばれることもあります。世界的にフルアコ(full acoustic)という言葉が使われるということはなく、どちらもボディトップがアーチを描いていることから「アーチトップ」と総称されます。

フルアコを代表する二大ブランドといえばギブソングレッチです。永らくシェアを競っていた両ブランドですが、現代ではギブソンのフルアコはジャズ/ブルーズに、グレッチはカントリー/ロックに特にフィットしていると見られています。


Nick Colionne Playability of the Guitar Part 1 of 6


Gretsch 6120SH Brian Setzer Green Sparkle Hot Rod

フルアコの魅力

フルアコは基本的に高級感と、どっしりとした風格があります。ビシっとスーツを着てフルアコを構えるギタリストの姿は、一幅の絵のようですらあります。また大きなボディに由来するふくよかなトーンは「エアー感」があると表現され、スウィートで艶やかです。同じエレキギターでも、ストラトやレスポールのようなソリッドギターではなかなか出せない「くつろぎ」や「安らぎ」のある、味わい深い音色を持っています。

混同しやすい「アコ」

フルアコは名前に「アコ」が付いていますが、セミアコ同様にれっきとしたエレキギターです。ではエレアコと何が違うのでしょうか。違いを知るには実際に触ってみるのが一番ですが、ここでちょっと「アコ」のつくギターの呼称をチェックしてみましょう。

エレキギター群

  • フルアコ:フルアコースティック。ボディ内が空洞
  • セミアコ:セミアコースティック。ボディ中央にソリッド(詰まった)部分がある

こちらはマグネット(磁石)を使用したピックアップをボディトップにマウントし、弦の音を拾います。電気回路の影響を大きく受けたエレキギター独特のサウンドになりますが、ボディの空洞により甘さと空気感がトーンに付加されます。

アコースティックギター群

  • アコギ:アコースティックギターの略称。エレアコも含む。
  • エレアコ:エレクトリックアコースティック。アコギの音をスピーカに送る。

エレアコではピエゾ(圧力素子)を使用したピックアップが楽器内部に埋め込まれます。スピーカーからの音は回路の影響を受けますが、できるだけ楽器そのままの音を出そうとします。


ソリッドギター/フルアコ/セミアコをギター博士が比較してみた!

日本と世界の呼び方の違い

日本国内では一般的に、

  • フルアコ:ボディ内部が全て空洞(ホロウ構造)
  • セミアコ:ボディ内部にソリッドの部分がある(セミホロウ構造)

というようにボディの内部構造で呼び方を変えています。よって一見セミアコに見えそうなエピフォンカジノでも、ボディ内部が空洞なのでフルアコという解釈です。

いっぽう世界的にはフルアコと呼ばれることはなく(フルにアコースティックなら、それはアコギですよね)、ざっくり「アーチトップギター」とくくっていますが、アコギとしても使用できるボディサイズがその条件のようです。よって内部が完全に空洞でも、「シンライン」の名で生産されたボディ厚を抑えたモデルや先述のカジノなどが「セミアコースティック・ギター」と呼ばれているようです。またES-175など厚みがありながらもアンプを通して使用することが前提となっているギターも、セミアコと呼ばれています。
出典:Archtop guitar From Wikipedia, the free encyclopedia

フルアコの歴史

ギブソンがリードするフルアコ黎明期

フルアコの歴史は、ヴァイオリンのスタイルをベースにしたアーチトップのアコースティックギター(=ピックギター)を作っていたギブソンが、電気的に音量を増大させるべく楽器にマイクを付けたことに始まります。鉄弦のアコースティックギターは

  • マーチンに代表されるフラットトップ
  • ギブソンに代表されるアーチトップ

の二つに大別されますが、ジャズのアンサンブルにアーチトップのサウンドがマッチするというのが当時の考え方だったようです。しかしアコースティックギターではリズムプレイはできこそすれ、音量に限度がありリードプレイ(ソロやメロディ弾き)には不向きでした。ギターを大音量化してリードプレイができるようにしたい、というのはギタリストの積年の夢だったのですが、アコースティックのアプローチではどうしても超えられない壁があり、電気的に音を増幅する試みが重ねられました。
フロントにシングルコイルを1基マウントしたフルアコ第一号「ES-150」は1936年にデビューします。このとき初めてギターはジャズバンドでリードが取れるようになり、伴奏楽器という脇役から脱却することができました。ES-150は「ジャズギターの開祖」と言われるチャーリー・クリスチャン(Charlie Christian。1916-1942)氏の愛用で有名になり、「チャーリー・クリスチャンモデル」と呼ばれます。「ES」は「エレクトリック・スパニッシュ(横に構えて弾く)」の略です。


Benny Goodman Sextet – Flying Home
チャーリー・クリスチャン氏は、ベニー・グッドマン氏(スウィング・ジャズの代表的クラリネット奏者)のバンドで活躍しながら多くのミュージシャンとジャムセッションを繰り広げ、ビバップの形成に寄与した人物です。

1940年代後半になると、ハイポジションでの演奏性を向上させるため、カッタウェイのついたモデルが、またリアピックアップが付いてトーンのバリエーションが増えたものが登場します。名機ES-175の登場は1949年で、ジョー・パス氏(Joe pass。1929-1994)を始めとする多くのジャズプレイヤーに今なお愛用されています。

群雄割拠の50年代その後

1951年には「最も代表的なフルアコ」といわれる「L-5 CES」、最高グレードの「Super 400 CES」がリリースされます。これらはもともと1930年代からアコギとして生産されてきましたが、このとき初めて電化し、ウェス・モンゴメリー氏(Wes Montgomery。1923-1968)らに愛用されました。「CES」は「カッタウェイのあるES」の略です。

これ以後グレッチがチェット・アトキンス氏(Chet Atkins。1924-2001)とのコラボレーションで「カントリージェントルマン」など独自のフルアコを発表、カントリーやロックンロールというジャンルで支持を伸ばしていく他、かねてよりピックギターを製作していたディ・アンジェリコがL-5をモデルとしたギターでエレクトリックの分野に参戦するなど、多くのフルアコが輩出していきました。

これ以後ボディの幅や厚み、弦長などに変更を加えたモデルが登場しますが、現在手に入るフルアコはこの時代のスタイルをベースにしていることから、フルアコは1950年代にほぼ完成したと見られています。

フルアコの特徴

ではここで、フルアコのざっくりとした特徴をチェックしてみましょう。各ブランドからいろいろなモデルが出ていますが、どんなところが共通しているのでしょうか。

木材とボディ構造

フルアコのベースとなっているピックギターは、ヴァイオリンの工法をギターに応用しています。その関係で、フルアコに使用される木材はヴァイオリンに使用される木材をお手本にしており、ボディのトップはスプルース、ネックとボディのサイド/バックはメイプル、指板はエボニーという構成が基本となっています。

Heritage Sweet 16:バック Heritage Sweet 16:バック

ボディトップ/バックのアーチは、厚みのある板を削って成形されます。しかしそれだけの体積のある良い木材が慢性的に不足していること、また作業行程を簡略化して価格を抑える目的から、メイプルなどの木材を何枚か貼り合わせたラミネート材を使用するモデルが開発されました。ラミネート材のギターは廉価版のピックギターとして登場し、アコースティックギターとしては音量が心細いものでしたが、これをフルアコとして使用すると適度に鳴りが抑えられることからハウリングに強く、大音量で演奏したり、また時には歪ませたりといったこれまでにない使い方ができるようになりました。

内部が完全に空洞となっているホロウボディはトップ/サイド/バックそれぞれの板を貼り合わせて作られます。セミアコなどでは厚みのある板をくり抜く工法が選択されることもありますが、フルアコでは貼り合わせでボディを作ります。 

外見的な特徴

フルアコ:ネック部分

フルアコにはベースとなっているヴァイオリンやピックギターの名残が多く残されています。
ネックジョイントが必ず14フレット接続になっており、ボディトップにFホールが空いているのが普通で、また指板には高級感のある大きなインレイが埋め込まれます。ブリッジは弦の圧力で固定されるタイプのもので、テールピースがボディの端に取付けられますが、これはヴァイオリン属の楽器に共通している特徴です。

ピックアップ

フルアコのピックアップ Heritage Sweet 16ではフロント1基のみのピックアップとなっている

フロントピックアップのみ、若しくはフロント&リアの2基が搭載されるのが基本的なスタイルです。リアピックアップの鋭いサウンドはブルーズ/ロックンロールやソウル/ファンクには良好なトーンで、グレッチなどでは必須になっています。しかしこうした音を使用しないジャズプレイヤーは、フロントのみのモデルを選ぶことも多いようです。またフロントのみのモデルはボディに載せる電気系パーツが少なく済むので、そのぶんボディの振動を大事にできるというメリットがあります。

可能な限りボディの振動を大事にしたい、という考えで考案されたのが、ディ・アンジェリコのギターに代表される「フローティング(浮いている)・ピックアップ」です。これはピックアップ本体をネックの端に固定することでボディから浮かし、振動を妨げないようにする設計になっています。ヴォリューム/トーンもピックガードにマウントすることで、ボディ鳴りを可能な限り保持しています。

弦とブリッジ

ジャズ志向のフルアコに欠かせないのが「フラットワウンド弦(フラット弦)」です。1、2弦はプレーン(裸)弦ですが、3弦以降は文字通り平ら(フラット)な線を巻いて(ワウンド)おり、つるつるで滑らかな触り心地になり、フィンガリングノイズ(「キュッ」というやつです)がほとんど出ません。これによりフィンガリングが滑らかになるとともに、パンチが適度に抑えられた甘いジャズトーンが得られるようになります。一般的なゲージ(太さ)は普通のアコギ弦とほぼ同じで太いため、フラットワウンド弦でチョーキングをすることはほとんどありません。そのためブリッジも伝統的なスタイルを維持しており、弦の圧力のみで安定させています。

いっぽうロックンロール/ブルーズなどを志向するプレイヤーはラウンドワウンド弦(ラウンド弦)」を使用します。これは一般的なギター弦のスタイルで、巻弦には円形の線が巻かれます。こちらはフィンガリングノイズが鳴りやすい代わりにアタックが鋭く立ち、歪みも良好です。ジャンル上チョーキングを多用しますが、伝統的なスタイルのブリッジではチョーキングの勢いで位置が動いてしまうことがあります。これを防ぐために、エピフォン・カジノなどではボディトップにネジで固定するチューン・O・マチックブリッジが採用されるほか、伝統的なルックスを維持したいグレッチでは移動防止用の突起を設けています。

フルアコのラインナップ

これまでフルアコについていろいろ見てきましたが、一言でフルアコといってもギブソンやグレッチといった大企業から個人で製作している手工家のブランドまで、さまざまなものがあります。ここでは設計や特徴に注目し、代表的なものをかいつまんで紹介していきましょう。

Gibson

L-5 CES

Gibson L-5 CES

1922年にピックギターとして誕生し、1951年に電化して以来セミアコの代表機であり続けている名機です。ヴァイオリン由来の工法に則ったメイプルネック、エボニー指板、スプルース削り出しトップ/メイプルサイド&バックというウッドマテリアルの組み合わせは、あらゆるフルアコの規範になっています。17インチのボディ幅に25.5弦長インチという大きめサイズでありながらプレイヤーのタッチには敏感で、なおかつギブソンらしい力強さと甘みのあるジャズトーンが持ち味です。
リアピックアップを備える基本モデルのL-5 CESに加え、ボディ厚を抑えたL-5 CT、1ピックアップ仕様のウェス・モンゴメリーモデル、フローティングピックアップ仕様のリー・リトナーモデルがリリースされています。

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Super 400 CES

Gibson Super 400 CES

ジャズではケニー・バレル氏、ラリー・コリエル氏、カントリー系ではスコッティー・ムーア氏、マール・トラヴィス氏といった名だたる偉人のプレイで知られる、ギブソン最高グレードのフルアコです。ボディはL-5よりさらに一回り大きい18インチ幅で弦長は25.5インチ、「キングオブ・ジャズギター」の異名を取ります。優美なトーンは筆舌に尽くし難いとまで賞されますが、価格も100万円を余裕で超えてくる憧れの高級ギターです。

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ES-175

Gibson Memphis ES-175

アンプでの大音量にストレスのないラミネート材でボディを成形する、現代のジャズシーンでは欠かす事のできないスタンダードモデルです。ボディ幅16インチ、弦長24.75インチというサイズは上位機種と比べ若干コンパクトで弾きやすく、現代では貴重となったマホガニーネックはサウンドを軽やかにします。
ES-175

GRETSCH

G6120EC Eddie Cochran Signature Hollow Body G6120EC Eddie Cochran Signature Hollow Body

ギブソンに次いで長い歴史を誇るグレッチからは、カントリーの巨匠チェット・アトキンス氏とのコラボレーションで開発された

や、「世界で最も美しいギター」と言われるG6136 ホワイトファルコンなどがラインナップされています。

Epiphone Elitist 1965 Casino

ES-175

Casinoはジョン・レノン氏の使用などで知られるブリティッシュ・ロックの定番機で、薄型のダブルカッタウェイというボディからES-335同様セミアコのように思われますが、内部は完全に空洞になっています。多くのフルアコがハムバッカーピックアップに移行していくなかで、このカジノはドッグイヤーのP-90を2基マウントというスタイルを固持しているほか、フルアコでは珍しくブリッジがチューン・O・マチックになっておりチョーキングを多用したプレイに余裕で答えることができます。Elitistシリーズのカジノはエピフォンの主軸となる機種で、アーティストモデル、ボディサイズを小さくしたモデルなど派生モデルが多くリリースされています。
ビートルズへのリスペクトを込めて「エピフォン・カジノ」特集

D’Angelico(ディアンジェリコ):NYL-1

「ディアンジェリコ」は、ジャズギターの名工ジョン・ディアンジェリコ氏(1905-1964)のギター哲学を引き継いだブランドで、上記グレッチとともにアーチトップの製作に世界的な定評のある寺田楽器で作られます。

通称「ニューヨーカー」と言われる、ディアンジェリコの代表機種にしてギブソンL-5のライバル的存在です。スプルース削り出しトップ&メイプルサイド/バックで17インチ幅のボディ、25.5インチの弦長という点がL-5と共通していますが、随所に階段状のギザギザを取り入れたアメリカ人らしいルックスにより全く異なる印象になっています。またフローティングピックアップ仕様であること、テールピースが木製(エボニー)であることなどスペック的な個性があります。L-5に比べてヘッドがかなり大きめですが、これはデザイン的な面だけでなく大きなボディとの重量バランスを取るための設計です。

求めやすい価格帯のフルアコ

ギブソンL-5やグレッチ6120ナッシュビルなど、フルアコで代表機と言われるものはなかなかに高額なものばかりで、「半端な気持ちでは買えない高い楽器」というイメージが永らく定着していました。しかし近年では各ブランドの企業努力により価格を抑えた求めやすいフルアコもリリースされており、10万円を下回る価格帯にまで選択の幅が広がっています。

Eastman AR-175 CE

Eastman AR-175 CE

イーストマンは長年ヴァイオリンやチェロなど弦楽器を製造していたノウハウを活かしてジャズギターに参入したブランドですが、丁寧な作りとコストパフォーマンスで支持を広げてきています。合板モデルの本機はモデル名の通りES-175をイメージしたギターになっていますが、シブい1ピックアップ仕様、10万円台という価格帯にしてラッカー塗装のゴージャス感ある一本です。

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Gretsch Electromatic “Hollow Body” Series

Gretsch Electromatic Hollow Body

エレクトロマチックはグレッチのリーズナブルなモデルのシリーズで、ナッシュビル、カントリージェントルマン、ホワイトファルコンなどグレッチの代表機を模したモデルを多くリリースしています。装飾などが若干簡略化されているなどルックスにわずかな違いがありますが、グレッチのかっこよさはそのまま残されています。

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Ibanez Artcore Expressionist AFJ91

Ibanez Artcore Expressionist AFJ91

ボディ幅15.75インチとなる小振り気味のボディに1ハムバッカー仕様のジャズ入門機です。定価で10万円を切る価格帯でありながらブリッジ/テールピース/ピックガードが木製であり、充分な雰囲気と高級感があります。

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