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「ビグスビー・ビブラート(Bigsby Vibrato。以下、ビグスビー)」は、1940年代に発明されて以来「アームの定番」として君臨し続けているユニットです。グレッチでの採用例がもっとも有名ですが、ギブソン、エピフォン、フェンダーなど様々なブランドのギターにも搭載されます。取り付けに際し「ギター本体への加工が少なくて済む」というメリットから、アームのついていないギターにアームを付けるカスタマイズの定番アイテムにもなっています。今回は、このビグスビーに注目してみましょう。
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1: 「ビグスビー」の仕組み 1.1: 概観 1.2: 回転式シャフト機構 1.3: スプリング・サスペンション 1.4: ボディエンドにネジ留め 1.5: 主張のあるブランドロゴ 2: ビグスビーのメリット 3: ビグスビーのデメリット 4: ビグスビーのラインナップ 5: ビグスビー搭載ギターのラインナップ 6: ビグスビーのカスタマイズ
Gretsch Electromaticシリーズを、ギター博士が弾いてみた!
リーズナブルながら本格的な「Gretsch Electromatic」シリーズのギターにも、やはりビグスビーが搭載されます。
「ビグスビー」はポール・A・ビグスビー氏によって発明された部品で、アームの操作でギターの音にビブラートをかけるためのものです。アーム自体はこれ以前にも他社のものがありましたが、ビグスビーは性能が良く、ギター用のパーツとしてヒットしたため、「アームユニットの最初の成功例」と言われています。
では、ビグスビーとは、どういうものなのでしょうか。
ギター博士が演奏した「Gretsch Electromatic G5422T」に搭載されているビグスビーをじろじろと見てみましょう。
ボディの端に取り付けられている金属部品が、我らがビグスビー(モデル名は「B60」)です。先端に渡したシャフトに弦を留め、アームの操作でビブラートをかけます。
ビグスビーは、弦を留めるシャフトが回転するようになっています。これをアームで操作することで、弦を送り出したり引っ張ったりしてピッチを上下させるわけです。
アームの付け根付近。回転式シャフトにつながっている「ブラケット」とその上のアームがピンで留められており、下からスプリングでてっぺんまで押し上げられています。アームの位置はスプリングの張力で決められるので、弦が切れても他の弦のチューニングはまあまあ保持されます。また、アームにはスプリングの力がかかっているため好きなポジションで保持できますが、逆にプラプラのセッティングはできません。
このビグスビーは、ボディトップ面にネジ留めせず、ボディエンドにネジ留めされます。これはフルアコにおけるテールピースの伝統にのっとったもので、この部分のネジ留めと弦の張力だけでビグスビーはしっかり安定します。SGやテレキャスターなどフラットトップ用や「テンションバー」を備えているものは、ボディトップからもネジ留めします。
昔から変わらぬブランドロゴ。この個体は他社によるライセンス生産なので「LICENSED」の文字が添えられています。ビグスビー製品の中には特許を示すパテント番号が入っているものもありますが、それは特許期間中の金型を今なお昔ながらの製法で使用しているからであって、権利を主張しているわけではありません。
ギター博士の「Gretsch Electromatic G5422T」には、テンションバーは付いていません。
ビグスビーはパーツ自体に高さがあるため、ブリッジにかかる弦角度が若干ゆるくなり、弦張力が抑えられます。これを弾きやすい、良い音だと高評価する人もいれば、逆の感想を持つ人もいます。そうした人の好みに合わせるべく、ブリッジにかかる弦角度を稼ぐ「テンションバー」を備えるものが開発されています。
ビグスビー最大のメリットは、「とにかくやたらかっこいい!」というルックスの良さではないでしょうか。有機的な柔らかい曲線で成形される金属部品のたたずまいには、何かの浪漫を感じさせます。では、ルックス以外のメリットも考えてみましょう。
ビグズビーは、レスポールやセミアコなど対応するギターなら、せいぜいネジ穴を空けるだけの軽い加工で取り付けることができます。これは
のような、取り付けにボディに大きな穴を穿(うが)つ必要のあるユニットと比べると、とても大きなアドバンテージです。楽器の加工がわずかなので取付工賃も安く、気に入らなかったら元に戻すのも簡単です。
ボディエンドのネジ留めで固定されているだけなので、ユニット自体は全ての弦を外した状態で簡単に外れる
ビグスビーは「ビブラート」をかけるための部品であることもあって、大変柔らかい感触の、美しいビブラートをかけることができます。しかしこのメリットは「FRTなどに比べてピッチの可変域が狭い」ことの裏返しでもあり、大胆なアームダウンやクリケット奏法などの派手なアーミングは苦手です。ギター博士の動画でもアームをグワングワン動かしていますが、FRTを見慣れている人は「動かしている割にピッチの変化が少ない?」と不思議に思われるかもしれません。
シンクロナイズド・トレモロやFRTでは「フローティング設定」や「ボディのザグり」をしなければ使用することのできない「アームアップ」が、ビグスビーなら最初からできます。スプリングが外れてしまうため大幅なアームアップはお勧めできませんが、かなりのところまでアップ可能です。
シンクロナイズド・トレモロやFRTは、アームの操作とサドルの位置が連動します。そのためアームダウンすると弦高は上がり、アームアップすると弦高は下がってフレットに接してしまうこともあります。いっぽうビグスビーは、弦を送り出したり引っ張ったりしてピッチを変化させます。そのためアームを操作していてもサドルが動くことはなく、弦高が変化しません。
「ビグスビーを装着すると、音が変わる」ということは、事実として認められています。テールピース部分の金属量が増すことがその理由だと考えられますが、一般的に
なります。この「ビグスビーの音」を求めて、アームを使わないのにわざわざビグスビーをギターに装着するギタリストもいるくらいです。
The Rolling Stones – Gimme Shelter (Live) – OFFICIAL PROMO
キース・リチャーズ氏がアームを操作する場面は全く見られません。アーミングはしないようですが、それでも「ビグスビーの音」があるため、このES-355を使用する意味があるわけです。
ビグスビーは、一般的なTOMブリッジの「ストップテールピース」と比べて重いので、ギターの重量バランスに影響します。特にSGではヘッド側が重くて「ヘッド落ち」する個体が多いですが、こういう楽器にビグスビーを取り付けることで、ヘッド落ちの解消が期待できます。
では今度は、ビグスビーのデメリットを考えてみましょう。どんなデメリットが考えられるでしょうか。
ビグスビー本体の重量は、平均してだいたい300グラム程度です。大したことのない数字にも思えますが、もともと重たい楽器にビグスビーを取り付けると、ずしりとした重量感を感じることでしょう。また、「ヘッド落ち」の解消はメリットですが、ボディエンド部の重量が上がることで、座って弾く際のバランスが崩れてしまうこともあります。
ビグスビーは「チューニングが安定しない」と良く言われますが、これについては「狂う」「それほどでも」「問題なし」などさまざまな意見があります。事実、上で紹介したギター博士の動画ではビグスビーでビブラートをかけた後でも問題ありませんね。ビグスビー本体だけでなく、ユニット取り付けの精度、ブリッジやナットやペグの性能など、いろいろなポイントをチェックする必要があります。
ビグスビーの弦交換には一定のコツがあり、慣れるまではなかなか大変です。弦の端を回転式シャフトに巻きつける必要があるので、あらかじめボールエンド側を巻きつけやすいように曲げておく必要がありますが、ペグに巻きつけている間にそこがポロっと外れてしまうことがあります。やっかいな弦交換ですが、慣れればスムーズにできるようになるでしょう。
地味なポイントですが、ビグスビーのアームは外すことができないので、そのままケースに収めることになります。ケースに収めている間はアームがボディ方向へ押しつけられているので、これを気持ち悪く感じる人もいるでしょう。しかしこれはビグスビーの宿命なのであって、さすがにどうすることもできません。
The Stray Cats – Rock This Town (Live)
世界で最もグレッチが似合う男、ひいては世界で最もビグスビーが似合う男は、長らくグレッチ一筋を貫いてきたブライアン・セッツァー氏に他なりません。大物ミュージシャンとして君臨している現在はおそらく自分で弦交換などしないでしょうが、若かりしこの時などは、エリクサーなど寿命の長い弦ももちろんありませんでしたから、ライブごと一生懸命に弦を交換していたのでしょうか。
では、ここからビグスビー・ビブラートにはどんなものがあるのかを見ていきましょう。いくつも種類があるようですが、まとめて見ればそれほどでもなく、どのギターにどのビグスビーが搭載できるかはかなり絞られます。
左から:B3、B6、B7
「ロングタイプ」はボディエンドまで達する長さのあるもので、アーチ型のボディトップのギターに搭載されるビグスビーの定番機種です。ロングタイプは基本モデル「B3」「B6」「B7」を出発点とした、いくつかのバリエーションを持っています。なお、カラーバリエーションはどのモデルもシルバーとゴールドの2色ありますが、左用があるのは基本モデルのB3、B6、B7のみです。
テンションバー | 廉価版 | シンプル版 | こんなギターにお勧め | |
B3 | なし | B30 | B11 | ボディの薄いアーチトップ |
B6 | なし | B60 | なし | ボディの厚いアーチトップ |
B7 | あり | B70 | B12 | レスポールやセミアコ |
B3を…
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B6を…
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左から:B5、B50、B5 Fender
「ショートタイプ」は全長が短く、フラットなボディトップにネジで固定するタイプのビグスビーです。基本モデル「B5」から、いくつか派生モデルがリリースされています。ほとんどのモデルにシルバーとゴールドのカラーバリエーションがありますが、左用があるのは基本モデルのB5のみです。
B5 | 基本モデル |
B50 | 廉価版 |
B16 | テレキャスター用。ヴィンテージスタイル |
B5 Fender Vibrato Kit | テレキャスター用。現代版。 |
B5を…
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以上、ビグスビーのラインナップをチェックしていきましたが、ユニットをきちんと固定させるには、ボディエンドやボディトップにどうしてもネジ穴を空けなければなりません。
「ボディエンドならまだしもボディトップにネジ穴を空けるなど、いかなる理由であれ断じて我慢ならん!」
「自力で取り付けたいが、なるべく失敗したくない」
という人のために、既存のネジ穴のみを利用してビグスビーをマウントできる「マウンティングキット」というものが製品化されています。
ビブラメイト社からは、「Vシリーズ」と称していろいろなタイプのギターごとにビグスビーB5やB7を取り付けるための部品がリリースされています(B50とB70は非対応)。
VIBRAMATE Vシリーズを…
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ビグスビーが最初から搭載されているギターについてもいくつかチェックしていきましょう。長い歴史を持つビグスビーだけに、歴史のあるモデルやトラッドな雰囲気のあるモデルに搭載されるのが一般的です。
グレッチおよびグレッチ・エレクトロマチックのギターで採用されるアームは、全てビグスビーです。G6119テネシーローズ、G6120ナッシュビルなどでは「グレッチ」ロゴの刻まれたビグスビーが見られますが、世界広しといえどギターブランドのロゴとビグスビーのロゴが共存しているのはグレッチだけです。
GIBSON 2016 ES355 VOS
ギブソンES-355は、定番機種ES-335の高級版です。多層バインディング、エボニー(リッチライト)指板、ブロックインレイなどの意匠もあってレスポール・スタンダードに対するレスポール・カスタムと同じ立ち位置です。ビグスビー搭載が標準ですが、旧式のモデルでは板バネを使用したアームが採用されることもあります。
ES-355を…
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Nothing’s Carved In Stone 『Gravity』 (Live At STUDIO COAST 2015.01.15)
かつての所属バンド「ELLEGARDEN(エルレガーデン)」でももっぱらES-355を愛用していた生形真一(うぶかたしんいち)氏。現在では随所にこだわりを効かせたシグネイチャーモデルのES-355をメインに起用しています。
バーニー(フェルナンデス)の「BLC-85」は、Fホールを持つセミアコ構造のレスポール・タイプにビグスビーB70を搭載したモデルです。こうした高級感のあるギターに「ピンク」という尖ったカラーバリエーションがあるのが印象的です。
BLC-85 2015を…
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1960年代ロンドンではじまったモーターバイク「カフェレーサー」から着想を得た、YAMAHAのギターラインナップ。8機種/17カラーリングの豊富なラインナップの中で、「RS720B」は唯一ビグスビー搭載モデルです。このモデル専用のピックアップ「YGD VT5+」によるクリアで音の分離が良い明るいサウンドと、ビンテージ感漂うルックスが特徴的です。
REVSTAR RS720Bを…
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ダンエレクトロの明日を担うフラッグシップモデル「The 64」には、ビグスビーB50が標準装備されます。大型のフロントピックアップ、二連リップスティックのリアハムバッカーというこのブランドらしい斬新な組み合わせは、個性派のギタリストにぴったりです。
The 64を…
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より快適にビグスビーを使用するため、いろいろなグッズがリリースされています。こうしたアイテムを使用することで、ビグスビーをさらにお好みの状態に進化させることができます。
トーンプロス社の「TP6R」と「TPFR」は、ローラーサドルを採用したTOMブリッジです。マウント用のスタッドの太さに合わせて2モデルがリリースされています。「ビグスビーを使用するとチューニングが崩れる」という症状を解決させるための定番アイテムになっているのが、弦高との接点が回転する「ローラーサドル」です。ビグスビーは弦を押し出したり引っ張ったりするものなので、弦と接しているサドルの摩擦はチューニングの保持に重要な要素です。
TONEPROS TP6Rを…
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アーム位置を保持するスプリングには標準(7/8”)と長め(1″)の2タイプがあります。長めのものに交換すると通常時のアーム位置が上がり、アームダウンの下げ幅が大幅にアップします。そのかわりアームアップの上げ幅が犠牲になります。
Tension Springを…
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ビグスビーの愛用者だったチェット・アトキンス氏、デュアン・エディ両氏が使用していたものを再現した交換用ハンドル&ブラケットのセットです。チェット・アトキンス氏仕様はワイヤー製ハンドル、デュアン・エディ氏仕様は標準タイプに近い雰囲気ですが厚みがあり、つるんとした印象です。
Duane Eddy Performs “Rebel Rouser” on his G6120DE
日本国内では存在感が控え目な印象ですが、このデュアン・エディ氏こそはギター・インストの元祖であり、後に続くサーフミュージックやロックミュージックに大きな影響を及ぼしたと伝えられています。
カラハム社の「フロント・ローラー」は、B5とB7に対応するローラータイプのテンションバーです。弦との接点が回転するため、この部分の摩擦がチューニングを崩す原因となっていた場合、症状の改善が期待できます。
カラハム社の「360アームブラケット」はB3、B5、B6、B7、B11、B12、B16対応する交換パーツで、アームの360回転を可能にします。アームの回転が途中で止められるのが嫌な人、アームをぐるんぐるん回したい人にお勧めです。
以上、長い歴史を誇り、今なおかたくなに当時の姿を残すビグスビーをチェックしていきました。本体の姿が変わらない代わりにさまざまな交換パーツや便利グッズが開発されているのが面白いところですね。使わなくても付いているだけでかっこいいものなので、アームを使う人も使わない人も、ぜひビグスビーのついたギターに触れてみてください。
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