ギブソン・レスポール・ジュニア徹底分析!
「Gibson Les Paul Jr. (ギブソン・レスポール・ジュニア)」はレス・ポールの廉価版として誕生したモデルですが、本家とは全く異なる鋭いトーンからロック専用機として定着しており、全く違うギターとして認識されています。廉価版とはいえ、50年代当時のものは
- ホンジュラス・マホガニー1ピースボディ/ネック
- ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)指板
という現在ではほぼ考えられないマテリアルであり、キャラの立ったトーンも相まってヴィンテージ市場で高値で取引される他、ギブソン・カスタムショップで復刻されるなど人気の高いモデルです。
現在のレスポール・スタンダード廉価版としては、よりレスポール・スタンダードの仕様に近い「レスポール・スタジオ」や「LPM」がラインナップされています。
レスポール・ジュニアの歴史
レス・ポールモデルが発表された2年後となる1954年、「タキシードの似合うギター」というコンセプトの高級機レスポール・カスタムと同時期に、学生にも手が届く「学生モデル(=入門機)」として「レスポール・ジュニア」は誕生しました。人気プレイヤーレス・ポール氏の名を冠する求めやすいギターだということで、レスポール・スタンダードの2〜3倍のペースで売れたといいます。因みにレス・ポール氏本人は、ジュニアの開発には関わっていません。
デビュー当時のカラーはサンバーストでしたが、学生モデルというメーカーの思惑が外れ、プロミュージシャンに愛用されるようになりました。そこで翌1955年より白黒テレビでも映える色調「TVイエロー」のモデルが登場します。
1958年当時のモデルを忠実に再現した 1958 Les Paul Jr. Double Cut VOS
ハイポジションの演奏性を向上させるべく、1958年には22フレットまでボディから出ているダブルカッタウェイに仕様変更されます。ベースとなったレスポール・スタンダードのセールスが振るわないことから、1960年にレスポールのシリーズは全面生産終了となりましたが、左右対称に近いダブルカッタウェイのボディシェイプは、後に続くSGの原型になりました。
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キース・リチャーズ氏が弾いているのは’58年製のレスポール・ジュニアとのことですが、オクターブ調整のためブリッジはバダスに換装しています。
レスポール・ジュニアの特徴
左:ドッグイヤータイプのP-90、右:ソープバータイプのP-90
レスポール・ジュニアはドッグイヤータイプ(ネジ止めするための”耳”が付いている)のP-90ピックアップがリアに1基、フラットなマホガニーボディに直接マウントされています。パワフルかつトレブリーなサウンドキャラクターが特徴で、特にロック系のコード弾きに良好です。ピックアップ1基、ヴォリューム/トーンも1つづつという操作系は極めてシンプルであり、また軽量で疲れないためギターボーカルに特に好まれます。
コストダウンの結果行き着いた、完成された設計
「安いギターを作る」というテーマに対して、現代の感覚では
- 安い材木&安いパーツを使う
- 人件費の安い国で生産する
という戦略が選ばれます。しかし50年代のギブソンには材木やパーツのグレードという概念がまだなく、また海外に工場を持っている訳でもありませんでした。当時のギブソンは新たに安い材料を手配したり、新たに安いパーツを開発したりすることなく、現在あるものをフル活用することで「安いギターの設計」に取り組みます。
第一に選択されたのは、レス・ポールモデルのバック材をそのままボディにすることでした。トップのメイプルを貼らない事で材費を、そしてフラットトップにした事でアーチ加工の人件費を削減できた訳です。
レスポール・スタンダードとの比較:ジュニアではバインディングを省略、インレイもシンプルにしてコストダウン化を図る
また、ボディとネックの外周を覆うバインディングを廃し、指板のインレイも大きな台形ではなくドットインレイを採用、ヘッドのロゴはインレイではなくデカールに変更するなど、装飾に関しては徹底的な合理化が進められました。
レスポール・カスタムで初めて採用され、後にレスポール・スタンダードにも採用されたチューン・O・マチックブリッジではなく、昔ながらのバー・ブリッジが採用されています。これもパーツ点数を減らし、また取り付け作業を軽減する工夫です。
ボディに直接マウントされるドッグイヤーのP-90は、レスポール系では初めての搭載となりますが、これも新開発のものではなく、元来ES-175などアーチトップギターに使用されていたものです。ハムバッカーのようにエスカッションを使用しないことで、パーツ代を削減しています。またマウント用のネジがピックアップを貫通させるソープバーP-90よりも、キャビティの加工が楽で取付けの手間も軽くなります。
こうしてギブソンは新たなパーツを開発することなく(ピックガードは板を切るだけですから)、価格を抑えたギターを開発することに成功しました。これらコストダウンのための工夫が、本来のレスポール・スタンダードとは異なった個性を発揮するギターを誕生させる結果となっています。「姿形が多少変わっても基本ができていて、目的が達成できていればOK」というアメリカ人らしい合理的な考え方が反映されていますね。
レスポール・ジュニアよりもさらに低価格化が施された、ギブソン・メロディーメーカー
このあと台頭したフェンダーの廉価版ギター「ミュージックマスター(’56年)」、「デュオソニック(’56年)」に対抗すべく、レスポール・ジュニア以上の低価格化を目指して’59年に発表された「メロディーメーカー」は、さらにボディが薄くなり、ヘッド形状もギブソンの通常のものより小型化させることで木材を節約、ピックアップやペグなどのパーツを廉価モデル専用に新たに開発しています。
「ピックアップ直付け」による全身マイク効果
ギターのピックアップは弦の振動のみを拾うマイクですが、内部のコイルが本体の振動を受けるとトーンに反映されます(マイクロフォニック効果)。これがハウリングの原因にもなるため、多くのピックアップは「ポッティング(ロウ漬け)」という工程でコイルを強固に固定します。しかしポッティングを施すと高音成分が削られてしまうため、ギブソンのピックアップは伝統的にポッティングが施されません。その代わりレスポールやSGでは、エスカッションやピックガードにピックアップを吊るすことでボディから切り離し、ボディの振動にコイルが影響されないようにしています。
いっぽうレスポール・ジュニアはP-90をボディに直接マウントしており、ボディの振動の影響がトーンに反映されます。他のラインナップにはないこの設計により、楽器全体の振動までアウトプットするダイレクト感が付加されます。なおかつピックアップにポッティングを施さないことでトレブルの抜けがよいので、クランチ/オーバードライヴが心地よく響きます。ただしハウリングと隣り合わせなので、ドライヴと音量のセッティングには気を使う必要があります。
ロックバンドと相性のいいサウンド
シングルコイルのスッキリ感、コイルサイズによるハイパワーな太さ、両方を備えたトーンを持つP-90ピックアップは、中域の固まった独特の音色が印象的で、特にロックバンドで必要とされるコード弾きやリフ弾きとの相性がよく、サイドギターやギターボーカルに広く受け入れられています。その意味ではフェンダー・テレキャスターに近いポジションにある楽器だとも言えるでしょう。もちろんリードをバリバリ演奏する楽器としても優秀で、マウンテンのギターボーカルであるレスリー・ウェスト氏を始めとする多くのプレイヤーがそれを証明しています。
mountain – don’t look around – Youtube
マウンテンのレスリー・ウェスト氏は、「レスポール・ジュニアの名手」として第一に名を挙げるべき、巨漢のギターボーカルです。ハーモニクスの混ざった鋭くハードなリードトーンと重厚なリズム弾きのサウンドをレスポール・ジュニアで出しています。
テレビ写りを意識したカラーリング
レスポール・ジュニア/スペシャルの特徴的なボディカラーに「TVイエロー(ライムド・マホガニー)」があります。発表当時のテレビは白黒放送ででしたから、いくら「高級に見える」という理由でレス・ポール氏が指定したゴールドトップであろうと、今ひとつな写り方でした。これに対して最もテレビで映えるカラーリングはイエローであるという考えから、ジュニアの「TVイエロー」が誕生しました。
このボディカラーが他のレスポールに使われる事は無く、そのためスタンダードならチェリーサンバースト、カスタムならブラック、ジュニア/スペシャルならイエローと言える、このモデルの定番カラーになりました。
その他、レスポール・ジュニアの主な使用ギタリスト
- ビリー・ジョー・アームストロング (Billie Joe Armstrong) – グリーン・デイ
- 真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)
- 藤原基央(BUMP OF CHICKEN)
- 後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
レスポール・ジュニアのラインナップ
カスタムショップモデル
1957 Les Paul Jr. Single Cut VOS
ギブソンカスタムショップでは、「ヒストリック・コレクション(旧モデル)」のラインナップとして
- 1957 Les Paul Jr. Single Cut VOS
- 1957 Les Paul Jr. Single Cut Gross
がリリースされました。
マホガニー単板ボディの贅沢なレスポール・ジュニアは、いまや誰も入門機だと思わない高級機の風格です。50年代の特徴的な太くて丸いネックグリップ、アルミ製バーブリッジなど当時のスペックを完全に再現しています。
モデル名の末尾に記載される「VOS」は「ヴィンテージ・オリジナル・スペック(Vintage Original Spec)」の略です。「スペック」が「仕様」を現す言葉なので、楽器のグレードの事だと思っている方もいるようです。しかし正しくは、長い時間が経過したかのように塗装面や金属パーツにくすみを付ける「エイジド仕上げ」のことです。汚しの入っていない新品の状態で出荷されるものは「グロス(Gross)」仕上げと言われます。
ギブソンUSA
Les Paul Junior 2015
2015年モデルでは
- Les Paul Junior Single Cut(シングルカッタウェイ、1ピックアップ)
がラインナップされており、自動チューニングシステム「G Force」、ゼロフレット・ナット、太い内部配線、PLEKによる高精度なフレットなど、2015年モデルの特徴が反映されています。いちおうレスポール・スタンダードに対する「廉価版」という扱いで誕生したギターですが、指板のドットインレイにはパールが使用されており、ちょっとした高級感があります。
ボディに使用されるマホガニー材は、ギブソン基準で最も密度の高い(=重い)ものが使用されます。しかしメイプルトップを貼らないためボディ重量は約2.17kgにとどまり、薄型で軽量なレスポールless+(同約2.25kg)よりもさらに軽量です。またネックグリップは薄型でスムーズな演奏ができる「スリム・テーパー」で、レスポール・スタジオやSGスタンダードなど多くのギターと共通しています。
バーブリッジにはブリッジ本体と一体化したサドルが設けられており、オクターブピッチが改善されています。それでもパーツ点数は増やしていないので、単体のブリッジによる振動伝達のよさが守られています。さらに2015年モデルの特徴として材質を振動伝達に優れるザマック(亜鉛合金)に変更し、よりストレートなサウンドをアウトプットします。
Les Paul Junior 2018
2018年版のレスポール・ジュニアは、この年の特徴であるクライオ処理(低温処理)を施して強化したフレットを採用しています。またドットインレイにはアクリル製が、ネックには50年代の雰囲気を再現したラウンド(丸い)グリップが採用されています。カラーリングは、渋いヴィンテージサンバースト一色です。
かつてオクターブチューニングを合わせるためにジグザグの盛り上がりが付けられていたラップアラウンドブリッジは、つるんとしたストレートなものへと原点回帰しています。このタイプのブリッジは、シビアなチューニングに不利であることは否定できません。しかしながらレスポール・ジュニア本来の姿はまさにこれであり、ピッチ(音程)が若干甘いところも含めてこのギターのチャームポイントになっているわけです。
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メロディメーカーの後継機種:レスポールCM
レスポール・ジュニアからさらに低価格化を押し進めた「メロディメーカー」は、現在では「レスポールCM」として生まれ変わっています。10万円を大きく下回る価格帯ながら自動チューニングシステム「G Force」を装備し、レスポール・ジュニアと同じザマック製のバーブリッジを備えています。「A RAW ROCK MONSTER(若きロックの怪物)」というキャッチコピーを体現するかのように、ピックアップはリアにゼブラカラーのハムバッカー1基のみという潔い仕様です。
ボディは通常のレスポールと同様にメイプルトップ/マホガニーバックが採用されています。バック材にウェイトレリーフ(重量調節用の穴)はあけられていませんが、ボディ自体が薄くバックコンター加工まで施してあるため、薄型でなおかつウェイトレリーフが施してあるレスポールLess+を僅かにしのぐ軽さになっています。鳴りのバランスをとるため、ネックグリップは丸みのあるラウンド型になっています。
極限までシンプルな設計を追求したコストダウンを実現しているレスポールCMですが、それでも指板にはローズウッドが使用されています。前年までのギブソンは指板材の確保に苦しんでおり、ローズウッドの代わりに熱処理で色をつけた「ベイクド・メイプル」を使用するモデルが目立ちました。こういうところからも、レス・ポール氏生誕100年の節目に立つ2015年のギブソンの本気度が伺えますね。これからギターを始める上で最初からギブソンが欲しいという人にも、サブとして気軽に弾くギターが欲しいという人にもお勧めできるギターです。
Les Paul CM 2016 HP / Les Paul CM 2016 T
上:Les Paul CM 2016 HP、下:Les Paul CM 2016 T
- ハイパフォーマンスモデル(HP:自動チューニングシステムとゼロフレット・ナットを最大の特徴とする最新鋭仕様)
- トラディショナルモデル(T:現代の楽器としてのアレンジは受けながらも、伝統的でシンプルな仕様。HP に比べ350ドル安い価格設定)
という2モデルをリリースするのが2016年版における最大の特徴です。HPとTはグレードの上下に近い関係にありますが、
- Cグレードメイプルトップ、控えめなカーヴィング(削り出し)
- 薄くて軽量なバック材
- やや厚みのあるメイプルネック(スタジオやトリビュートと同じ厚み)
- 色調が明るめなローズウッド指板
- 61ゼブラピックアップを1基搭載
- ニッケル合金製のバーブリッジ
と、2015年モデルから受け継いだこのような仕様は共通しており、楽器本体のグレードに違いはありません。
アメリカから全世界にギターを供給する大企業でありながら、価格の安い入門機でも代替材に頼らずに、マホガニーやローズウッドを使用することに頑固にこだわる姿勢は、ギブソンというメーカーのギター作りに対する根性を感じさせますね。
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- カテゴリ: レスポール ,
[記事公開]2015年9月24日 , [最終更新日]2018/01/25