ギブソン・フライングV(Gibson FlyingV)

[記事公開日]2016/1/1 [最終更新日]2022/4/5
[編集者]神崎聡

ギブソン フライングV

ギブソン・フライングVは、「ギターのボディは、ひょうたん型や丸型をベースとしなくてもいい」という前例を作ることとなった、歴史上極めて意義深いギターです。「どんな形でも作れる」というソリッドボディの特性をいかんなく発揮した、エクスプローラーに並ぶ「変形ギター」の先駆けとなっています。
「V」とも「矢印」とも云われるボディ形状は、音のためでもプレイアビリティのためでも重量バランスのためでもなく、「ステージでのかっこ良さ」のみを追求して考案されました。アルバート・キングなどブルースギタリストの使用例もありますが、現代ではその「攻めたデザイン」の攻撃的なかっこよさに惚れたロックギタリストが選ぶことが多く、SGに並ぶ「ロックの象徴」的存在だと目されています。

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ギブソン フライングVの歴史

フライングVを持つジミ・ヘンドリックス フライングVを持つジミ・ヘンドリックス

フライングVは1957年に開発が始まり、1958年エクスプローラーと共に発表されました。レスポールがあるとはいえ、当時のギブソンのラインナップはジャズギターがメインで、保守的なイメージが定着していました。ここに思い切ったデザインのギターを投入することで、先鋭的なイメージを取り戻そうとしたのがきっかけです。ところがデザインが余りに先鋭的すぎたのかセールスは全く振るわず、わずかに98本を生産するのみで廃盤になってしまいます。

1967年にルックスやマテリアルを変更して再びリリースされたフライングVは、ジミ・ヘンドリックス氏、レズリー・ウエスト氏、キース・リチャーズ氏などが手にし、知名度を上げていきます。現在のフライングVは、この年式がベースとなっています。

ギブソン フライングVの特徴

攻撃的なボディ形状

フライングVのボディ形状

フライングVはステージ上での演奏を前提としている「ショーモデル」として開発されました。逆に言うと「座って弾くことを考慮していない」設計ですので、座って弾くのが大変難しく、脚に挟んだりストラップの長さを調節したりするなどの工夫が必要となります。
それゆえ座って演奏することの多いレコーディング現場で使用されることがほぼなく、レコーディングを業務とするスタジオミュージシャンが使用する例は皆無と言っていいほどありません。そのためポップスや歌謡曲、演歌などスタジオで作られる音楽でフライングVのサウンドを聞くことはできず、聴けるのはロックバンドの音源に限定されます。

またヘッド側が重たくなるバランス上、立って演奏する場合に「ヘッド落ち」が起きます。そのため左手でネックを支え続けるのでなければ、マイケル・シェンカーのように脚に挟んで演奏するか、ストラップやボディに重りを付けるか、右手でそれとなく支えるか、といった特殊な対処が必要になります。滑りにくいストラップを使用するのは、位置がずれたときに戻しにくいのでお勧めできません。

以上のように、フライングVのボディ形状は、他のなにものでもない「純粋なかっこよさ」のためだけに意義があります。

サウンド

クラシックギターなどに見られる伝統的な「ひょうたん型」のボディは、ネックの接合部(ネックブロック)とブリッジそれぞれを中心とした「円」をつないだものです。これはネックやブリッジからの振動を受け止めて効率的にボディに伝達する、優れた設計です。
しかしフライングVのボディは、それを否定するかの様にネック接合部が大きく削り取られています。このことから、フライングVで得られる弦振動には、レスポールやテレキャスターなどシングルカッタウェイのギターで得られる「ハリ」や「コシ」がどうしても不足します。

アンチ派の主張する「フライングVは音が悪い」というのはここを根拠としているのですが、視点を変えると「SGやストラトキャスターの更に向こう側」に位置するボディ形状だと考えることができます。コリーナやマホガニーの暖かいサウンド特性もあいまって、そのボディ形状だからこそ得られる軽く、甘く、柔らかいサウンドが、フライングVの個性であると言えます。

ギブソン フライングVの愛用者

1990年代にはレニークラヴィッツが使用。日本ではフリッパーズギター、コーネリアスの小山田圭吾、布袋寅泰、ART-SCHOOLの木下理樹、ブンブンサテライツの川島道行、くるりの元メンバー・大村達身などが使用しています。

アルバート・キング(Albert King,、1923-1992)

B.B.キング、フレディー・キングと並び、ブルース・ギタリストの「3大キング」と称されるサウスポーのギタリスト。右利き用ギターの弦を逆に張って、左で弾いていました。希少な58年製のサウンドは全くの別物で、クリアで立ち上がりがよく、バンドに埋もれない非常に抜けの良いものでした。

マイケル・シェンカー(Michael Schenker、1955-)

「ミスター・フライングV」とも「神」とも言われるドイツ出身のロックギタリストで、白黒に塗り分けられたフライングVがトレードマークです。アーミングの代わりにネックベンドを多用することから、愛用のフライングVは何回もネックを折られています。しかし本人は「折れば折るほど音が良くなる」と言っています。

橘高文彦

筋肉少女帯のギタリスト。デビューから一貫してギブソン・フライングV をメインギターとして使用、サブギターもフライングV(とジャクソン・ギターズ社の白黒ランディV)という、筋金入りのフライングV・ギタリストです。

ギブソン フライングVのラインナップ

ギブソン・フライングVは、22フレット、セットネック、2基のハムバッカーピックアップ、2ボリューム1トーンが全モデル共通で、そのほか色々なバリエーションが存在しています。レスポールの様なヘッドのクラウンインレイ、ダイアモンドインレイ、また指板の台形ポジションマークなど定番の装飾はなく、ヘッドにはブランドロゴのみ、指板にはドットインレイが基本です。

1958年モデル

1958 Korina Flying V Epiphone「1958 Korina Flying V」

ネック、ボディ共にコリーナ(=リンバウッド)が採用されているのが最大の特徴。木材の色調を活かしたイエローが基本カラーです。コリーナはアフリカ原産で、マホガニーに似ていますがやや軽量で、明るく抜けの良い、たくましいサウンド特性を持っています。
ギブソンでは珍しく、テイルピースを用いる代わりに弦をボディ裏から通して固定します(=裏通し)。弦からボディに直接振動を伝えることのできる、フェンダーのギターに多く見られる仕様です。弦の出口にあたる部位には「V」をかたどった金属製のプレートが貼り付けてありますが、この仕様はジャクソンのランディーVなどに継承されています。

電気系はエスカッション(=ピックアップ専用の枠)マウントされたカバードピックアップ、トグルスイッチ、一列に並んだボリューム&トーンポット、ボディ先端に配置されたアウトプットジャックという構成です。
座って演奏することを考慮してボディサイドにゴムの板がはめ込まれていますが、あまり意味がなかったようで、以後のモデルでは廃止されています。

コリーナ材は現在大変希少なマテリアルで、ギブソン・カスタムショップですら製品に使用できないようです。かわりに1958年スタイルでマホガニーを使ったモデルが生産される事がありました。

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1967年モデル

1958 Korina Flying V 左から:Flying V 120 Ebony、Flying V 120 Heritage Cherry、Flying V HISTORY、Government Series II Flying V

この年に再生産されたフライングVは、ボディ/ネック材をマホガニーに変更、ピックガードが大型化し6弦側までカバー、ピックアップはピックガードマウント、板バネ式トレモロアーム又はチューン・O・マチックブリッジ搭載、三角形を描くように配置されたボリューム&トーンポット、という仕様でした。ピックアップをピックガードの上からエスカッションマウントするモデルもありました。ネックグリップが細いため握りやすく、速弾きにも適しています。

「アローヘッド」と名付けられた特徴的なヘッド形状には先端の尖った「ロングヘッド」、これの先端を丸く削った「ショートヘッド」の二種類がありましたが、ヘッド落ち対策のため、以降のモデルではショートヘッドが主体となっています。
1972年に開催されたミュンヘンオリンピックを記念し、ボディにメダルをはめ込んだ「メダリオン」と呼ばれるショートヘッドのフライングVが限定生産されており、ヴィンテージ市場では高いプライスが付けられています。
67年以降のフライングVは代々この1967年モデルを継承しており、オープンタイプピックアップ、フロイドローズ搭載など様々なバリエーションが作られました。ハードロック/ヘヴィーメタルのアーティストからの支持が厚く、カスタムショップよりアーティストモデルがいくつも輩出されています。

現在では、

  • Gibson Flying V HISTORY:ピックアップは’57クラシックをエスカッションマウント、先端の丸いショートヘッド
  • Gibson Flying V 120:バーストバッカー・プロをピックガードマウント、先端の尖ったロングヘッド
  • Gibson Government Series II Flying V:ダーティーフィンガーズをピックガードマウント、先端の尖ったロングヘッド

以上の3機種がラインナップされています。

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Flying V 2016

Flying V 2016 HP Flying V 2016 HP

「ギブソンのフライングV」と言えば、1958年モデルか1967年モデルを連想しますね。両モデルとも、矢印のようなボディ形状と共に、大きなピックガードもルックス上の特徴です。しかし2016年モデルとしてギブソンが市場に投入した新しいフライングVは、その「ふつうのフライングV」から脱却したギターとして、まったく新しいルックスに仕上がっています。

「革新と伝統の共存したメタルの象徴」をコンセプトに据えて変身したフライングVは、まさかのピックガード無し。加えてボディにバインディングを施すのは、ヘヴィメタルが隆盛を極めた1983年に作られた「The V」の特徴です。これにネックバインディングを追加し、ゼブラカラーのハムバッカーピックアップを搭載、電気系の配置換えを施すなどのアレンジが加えられ、さらにヘヴィミュージックにフィットしやすいイメージを帯びたギターになっています。

フィニッシュにはキリっとした塗りつぶし黒の「エボニー」、マホガニーの温かなイメージが味わえるシースルーの「ワインレッド」の2タイプがあります。
搭載されるピックアップは公式サイトにてフロントに「57 ZB」、リアに「BB 3 ZB」と紹介されていますが、

  • 57 ZB:クリーン/クランチで良好な57クラシックのゼブラ仕様
  • BB 3 ZB:高出力のハイゲインモデル、バーストバッカーtype3のゼブラ仕様

のことだと考えられます。

ギブソンのピックアップ

HPとTの違い

HPモデルは、Tモデルより350ドル高い上位機種という扱いです。楽器本体のグレードには違いがありませんが、搭載されるパーツや機能、付属するケースなどにグレードの差が設けられています。では、その相違点を見比べてみましょう。

モデル名 Flying V 2016 HP Flying V 2016 T
指板インレイ 真珠貝 アクリル
ネックジョイント部 ヒールカットを施し、ハイポジションの演奏性が向上 伝統的なネックジョイント
ナット チタン製「ゼロフレット・ナット」
ナット幅1.745インチ(44.3㎜)
テクトイド(摩擦係数を軽減したグラファイト)製ナット
ナット幅1.695インチ(43.0mm)
ペグ つまみがザマックになった、次世代型自動チューニングシステム「G Force™」 グローヴァー製クルーソンタイプ。伝統的な「グリーンキー(緑色のつまみ)」
電気回路 金メッキにより伝道効率を向上させた、高性能特殊ジャック 接点を増やして伝導率を向上させた高性能ジャック
コントロールノブ Supreme grip speed knobs Gold top Hat
ブリッジ ザマックTOM&チタンサドル ザマックTOM
ケース ハードシェルケース 通常のギグバッグ

表:HPとTの相違点
自動チューニングシステム「G Force」、ゼロフレットナットといった機能面だけでなく、インレイの素材やコントロールノブの種類にまで、グレードの違いが反映されています。
HPに採用されているコントロールノブは、従来のスピードノブにギザギザを刻むことで、操作性を向上させています。

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