Gibson Custom Shop (ギブソン・カスタムショップ)のギターってどんなの?

[記事公開日]2018/1/13 [最終更新日]2022/4/5
[編集者]神崎聡

ギブソン・カスタムショップ

「ギブソン・カスタムショップ」は、楽器ショウに出展する一点もの、アーティストモデル、ヴィンテージモデルなどが発表のたびに大きな話題となるブランドです。その地位はギブソンの最上位グレードに位置し、卓越した腕前を持つクラフトマンと最新鋭の先端技術、そしてギブソンの長い歴史をしっかりと継承した楽器作りを続けています。それゆえクオリティも価格も高く、現代のギタリストにとって憧れのブランドとなっています。今回はこのギブソン・カスタムショップに対して、ラインナップもかいつまみながらチェックしていきましょう。

注:慣例として使用される「カスタムショップ」の呼び方が一般化しており記事内でもこれを使用していますが、ブランド名としては「Gibson Custom(ギブソン・カスタム)」が正式名称です。

ギブソン・カスタムショップの沿革

ギブソン・カスタムショップのこれまでの歩みを、おおまかに見ていきましょう。設立は1992年ですが、その前身は1980年代にさかのぼります。

1980年代:まだ「カスタムショップ」の名はありませんでしたが、このころからオーダー品やショウモデルを作る別ラインがありました。別ラインという形式ながら、当時はレギュラー品と同じ工場で生産されており、独立まではしていません。ワンオフ(一点もの)の注文も受けていましたが、しばらくして供給が追い付かずに中止となっています。

1986年:ギブソン社がノーリン社から投資家のチームの手に移り、合理性を重視した経営方針が見直されます。この流れに乗じ、特別なものを作る部署が通常ラインから切り離されます。

1992年:ナッシュビル工場に隣接した工房に、「ギブソン・カスタムショップ」が設立されます。レスポールは翌1993年から生産を開始し、1957年式ゴールドトップ、1959年式スタンダードが作られましたが、さらにその翌年1994年冬のNAMMショウにて、広く認知されることとなりました。2004年には、メンフィス工場内にもカスタムショップのセクションが作られます(20213年まで)。

2006年:業務拡大のため、手狭になったナッシュビル工場から、近隣に新たに建設した新工房へと移転します。ここで初めて、ギブソン・カスタムショップはレギュラー・ラインから独立した別セクションとなり、コストをさほど気にせずより良いものを作る環境が出来上がります。1959年式フライングVとエクスプローラーをセットで販売する、といった豪気なモデルもありましたが、この年にいよいよ「ヒストリック・コレクション」シリーズがスタートします。

2010年:前の年に導入した「3Dスキャニングマシン」を駆使してヴィンテージギターそのものを再現する「コレクターズ・チョイス・シリーズ」がスタートします。

ギブソン・カスタムショップの特徴

ギブソン・カスタムショップは、ギブソンの最高グレードとして妥協のない楽器作りを続けています。その特徴を全てとまではいきませんが、いくつかかいつまんで見ていきましょう。

木材の選定

木材の調達については、木材の取扱い業者と長きにわたって良好な関係を築いており、良い木材を確保することができています。買い付けはマネージャークラスのスタッフが業者に直接足を運び、プロの目で選定します。メイプルはグレードが高く、またカスタムショップのギターにふさわしいものが選ばれます。
特にヴィンテージギターそのものを再現するモデルのためには、杢の出方あるいは出ていない感じが、手本とするギターにできるだけ近いイメージのメイプルを選定するところまで、徹底したこだわりを見せます。マホガニーは軽量であることが第一で、充分に軽いものは重量調整を施さないモデルに、そこに至らないものは重量調整を施すモデルに使用されます。

新旧織り交ぜた工法

ギブソン・カスタムショップでは、所属クラフトマンの卓越した技術やセンスが組み込みや仕上げなどの各工程、またショウモデルやゴージャスなモデルの精緻なインレイなど各種の意匠で発揮されます。それだけでなく、3Dレーザースキャンによる計測、CNC(コンピュータ自動制御)による正確無比な木工、PLEKによる個体差を考慮した調整といった最新のテクノロジーも積極的に取り入れています。
それでもヴィンテージギターの再現にこだわるモデルでは、木材の貼りつけに対し今なおニカワにこだわり、また全モデルで今なおニトロセルロースラッカーの使用にこだわる、またネックのジョイント部がフロントピックアップの真下にまで達する「ディープジョイント(ロングテノン)」を維持するなど、昔ながらの作り方への追及も欠かしていません。
開発に際しては著名なミュージシャンや有名なコレクターらに協力を仰ぐことも多く、ご本人が使用している愛機そのまま、下手をするとそれ以上のものを作り上げてしまうこともあります。

Les Paul Ultima

Les Paul Ultima

「究極(Ultimate)」を名乗る本機は、ヴィンテージギターのレプリカを除けばカスタムショップで最高額、100万円オーバーの超高級機です。レスポール・カスタムをベースに、美しいキルテッドメイプルをトップに採用、ヘッドのインレイにはアバロン貝が使用され、ボディ外周も貝で彩られています。パールとアバロンの超ゴージャスなインレイがエボニー指板を埋め尽くしており、プレイに支障をきたしそうなほどです。

発祥ブランドだから出せる「本物の音」

ハムバッカーの多くが1957年に開発された「P.A.F」をお手本としていますが、代表機「’57クラシック」はギブソン社が保管していた当時の仕様書そのまま、3タイプある「バーストバッカー」はコイルの巻き数のばらつきから生じる個体差を表現しています。今のところカスタムショップでのみ搭載され、単体販売もしていない「カスタムバッカー」は、そこからさらにマグネットをアルニコIIIに変更するなどのアレンジを加えています。P-90については、ギブソンのレギュラー品が使用されることも、「カスタムP-90」が使用されることもあります。

ピックアップについては、P-90やハムバッカーを発明したメーカーがギブソンなので、まさに「本物の音が得られるピックアップ」だということができます。「’57クラシック」や「P-90」は、カスタムショップ設立以前から生産されてきた歴史あるピックアップで、今なおカスタムショップの製品に対して積極的に採用されています。ギブソン・カスタムショップにおける「必要なものは開発するが、レギュラー品でも良いものはそのまま使用する」というこの方針は、開発をカスタムショップがどんどんリードしていくフェンダーとはやや違っているようです。


Led Zeppelin – Whole Lotta Love (Live Video)
低く構えるレスポールのカッコよさを世に知らしめた功労者と言えば、このジミー・ペイジ氏が第一に挙げられるでしょう。カスタムショップのカスタムバッカーは、ペイジ氏のレスポール「ナンバー1」を再現する際に開発されたと伝えられています。

トップブランドが提唱する新しい価値

古きを懐かしむばかりが、カスタムショップではありません。ギブソン・カスタムショップでは、ブランドの格式を守りながらも柔軟なアイディアが積極的に採用されます。

  • レスポール・スペシャル:パステルカラーが可愛らしい
  • レスポール・ロングスケール:弦長25.5インチでダウンチューニングに対応
  • Axcessシリーズ:ヒールカットやバックコンターでレスポールの演奏性に挑戦

などの存在はカスタムショップのヴィンテージ路線を覆すようなインパクトがありますが、かつてはアメリカの地図をボディ形状に採用した「マップギター」に代表される、冗談のようなモデルも本気で作られています。

Modern Double Cutaway Standard / Custom

Modern Double Cut Standard The Modern Double Cut Standard

ほぼレスポールの仕様をしっかり継承しつつ、新たにダブルカッタウェイのボディ形状を採用、ハイポジションの演奏性を大幅に高めた24フレットモデルが開発されています。「スタンダード」と「カスタム」という2タイプはそれぞれレスポール・スタンダードとレスポール・カスタムの仕様を引き継ぎ、

  • スタンダード:マホガニーバック、2Pメイプルトップ、ローズ指板
  • カスタム:1Pマホガニーボディもしくはメイプル&マホガニーボディ、リッチライト指板

という楽器本体に操作系は1V1Tとシンプルにまとめ、

  • スタンダード:台形インレイ、ヘッドインレイ無し、単層バインディング
  • カスタム:ブロックインレイ、スプリット・ダイアモンドインレイ、多層バインディング

というようにそれぞれを象徴する意匠が施されています。ピックアップは共通して「’57クラシック」が採用されていますから、ハイポジションがやたら弾きやすく、新しいルックスでありながら、音は正真正銘のレスポール、というギターです。

SG Custom / Explorer Custom / Firebird Custom / Flying V Custom

SG Custom、Explorer Custom、Firebird Custom、Flying V Custom

レスポール・カスタムをヒントに、ギブソンの代表機種を一律黒でビシっと極(き)めた4モデルが一気にリリースされています。それぞれが一様にマホガニーボディ&ネック、リッチライト指板、490R/498Tピックアップという楽器本体で、ゴールドパーツや多層ピックガード、ブロックインレイ、多層バインディングでフォーマルに彩られます。

「トゥルー・ヒストリック」に見る、ギブソンの底力

True Historic 1959 Les Paul Reissue True Historic 1959 Les Paul Reissue

ではここから、ギブソン・カスタムショップが誇る究極のヴィンテージモデル「True Historic 1959 Les Paul Reissue」をじろじろ見ながら、看板商品「トゥルー・ヒストリック」シリーズとは何かをチェックしていきましょう。生産は少数精鋭のスタッフが担当し、手作業の工程も多く、工程ごとに出来栄えのチェックを重ねるなど、当時の製法を限りなく踏襲することで、実際のヴィンテージギター同様の音/ルックス/弾き心地ばかりでなく、手から伝わってくる何となくのフィーリングまで再現していると言われています。
2015年からスタートしたこのシリーズを立ち上げるにあたっては、企画や設計だけでなく、生産体制や生産効率を見直し、出荷前の微調整にも手間と時間を惜しまず、年間の生産数を絞るなど徹底した社内改革が敢行されたと伝えられています。その甲斐あって、前身の「ヒストリック・コレクション」が達成したリアリティを飛躍的に向上させることに成功しています。


Gibson Custom 2015 True Historic 1959 Les Paul Reissue Aged Electric Guitar
多くの名手がこぞって愛用したという歴史的な事実、そして握りやすいネックとクールに退色した外観により、1959年製のレスポール・スタンダード「バースト」はヴィンテージ市場で最も支持を集め、また最も高額で取引されています。トゥルー・ヒストリック・シリーズの1959年モデルは、オリジナルのバーストに憧れる人のための、限りなく本物に近い新品です。

1) 木工部分

木材の選定は厳しく、このモデルに対してはトップ材にフレイム(真っすぐなストライプ)とキルト(玉目)の中間的なフィギュアドメイプルが選ばれます。当時の製法をかたくなに踏襲するためにボディ材の重量調整は行わず、そのため軽量なマホガニー材だけが、バック材/ネック材共に1Pで使用されます。またこのネック材については、マホガニーボディとのマッチングを考慮して選定されます。

「当時の工法に準ずる」というコンセプトから、トップ&バック、ネック&指板、ボディ&ネックの貼りつけには全てニカワが使用されます。ネックのジョイントは「ディープジョイント(ロングテノン)」で、ネックの端がフロントピックアップの下にまで達しています。ニカワ接着は強固で、ヘッドの先からボディの端までが一体化した鳴りを実現する、またディープジョイントによって音の伸びが豊かになると伝えられています。こうした伝統的な工法に対し、現代の工法を上回る音響特性上のアドバンテージが本当にあるかないかについては賛否の分かれるところですが、限りなく本物を追求する「トゥルー・ヒストリック」としては、当時のレスポールを再現するための絶対的な条件となっています。

外形寸法については、ボディラインからトップの曲面、ネックグリップに至るまで、3Dレーザースキャンを使用し、実際のヴィンテージギターのデータを数値化しています。ギタリストがもっともこだわるネックグリップとボディのトップ面については、荒削りと精密な削り出しの二回にわたってCNCルータを使用することで、手作業ではどうしても出てしまう誤差まで失くした完全再現を実現しています。

そのため写真でしか見たことがない憧れのヴィンテージギターと寸分の狂いもない、全く違和感なく受け入れることのできる本体に仕上がっています。ネックグリップは1959年製の実機をそのまま再現したもので、歴史上の名手が体験したのと同じフィーリングを味わうことができます。また、ネックのバインディングは手作業で滑らかに研磨され(ロールド・バインディング加工)、長年弾きこまれたような雰囲気が演出されていると共に、スムースな演奏性を感じることができます。


Aerosmith – Eat The Rich
エアロスミス所属のブラッド・ウィットフォード氏は1959年レスポール・スタンダードのオーナーとして知られており、自身の活動でも積極的に登板させています。ご本人所有の実機をそっくりそのまま再現したレスポールが、コレクターズ・チョイス・シリーズからリリースされています。「金持ちなんか喰ってしまえ!」と歌っているバンドのギタリストが、とんでもなく高額なギターを使っていることについては触れないでおきましょう。

2) 塗装

塗装については、かねてから深くこだわっているニトロセルロースラッカーに対し、さらに高級なラッカーを新たに採用、フィラー(目止め)にアニリン染料を採用し、雰囲気をさらに演出しています。カラーリングは3タイプのサンバーストに加え、それをエイジド処理した3タイプもあり、ヴィンテージのレプリカでも新品が良い人と古い雰囲気が良い人の双方に訴求します。
塗装面は職人の手作業で仕上げられ、スムースなフィーリングを演出するとともに、ヴィンテージギター同様の薄さに迫っています。

3) パーツ群

トゥルー・ヒストリック・シリーズでは、パーツに対して考古学的とも病的とも言えるこだわりが見られます。プラスチックパーツ/ピックアップカバー共に、パーツメーカーに発注するものなので仕様書などの資料が手元にないことから、当時のものを精緻にスキャンしてデータ化するだけでなく、切断した断面から成分構成を分析するという分子レベルの分析を行い、当時の製造工程まで見抜いたうえで、50年代のパーツを完全に再現しています。ピックガードについては年式により寸法が微妙に違うこともあって、1959年製のパーツをスキャンしたものが使われています。

造形については当然表面だけでなく、わざわざ外さないと見ることができない裏側にまで、再現は及んでいます。これらマニアックを極めたパーツの中には、単体で販売されるものもあります。

ピックアップには「PAF」の個体差まで考慮した「バーストバッカー」をさらにアレンジした「カスタムバッカー」が採用されています。人類史上もっとも偉大なピックアップの一つ「PAF」を誕生せしめたギブソンが世に送り出した、本物のハムバッカーサウンドをギターアンプから放つことができます。

4) 他シリーズとの比較

ギブソン・カスタムショップからは、このトゥルー・ヒストリックだけでなく、たいへん多くの1959年式レスポール・スタンダードがリリースされています(原稿執筆時点で25モデル)。これらからいくつかをピックアップし、トゥルー・ヒストリックとの比較を試みてみましょう。

モデル名 価格 円換算
Collector’s Choice #9 Les Paul “Believer Burst” $13,500 \1,525,298
The Tak Matsumoto 1959 Les Paul Standard Replica $11,499 \ 1,299,215
True Historic 1959 Les Paul Reissue $9,499 \ 1,073,245
Collector’s Choice #29 Tamio Okuda 1959 Les Paul $7,499 \ 847,275
Standard Historic 1959 Les Paul Standard $7,099 \ 802,081
CS9 ’50s Style Les Paul Standard VOS $6,799 \ 768,185
Les Paul Traditional 2018(Gibson USA) $2,699 \ 304,947

表:’59レスポール価格の比較($1=\112.985端数繰り上げ):2018年1月時点

Believer Burst Collector’s Choice #9 Les Paul “Believer Burst”

金銭感覚がどうにかなってしまいそうな価格設定ですが、これでも本物の1959年製レスポールを買うことを考えたら、かなり安いと言わざるをえません。最高額の「ビリーバー・バースト」は、世界で最も美しいバーストと呼ばれる世界的に有名な一本です。「ヒストリック」シリーズが平均的なヴィンテージギターを再現しているのに対し、「コレクターズ・チョイス」シリーズは実機を3Dスキャンするなどの工程で「まさにその一本を完全再現」することを目指しています。超絶に整ったフレイムメイプルはもちろん、パーツのくすみや木部のダメージまで精緻に再現されています。このギターに対してギブソン社は、公式サイトにて「家を売らなくても手に入れられる」とコメントしています。

The Tak Matsumoto 1959 Les Paul Standard Replica The Tak Matsumoto 1959 Les Paul Standard Replica:松本孝弘氏(B’z)所有の59年製レスポールを再現

開発責任者を務めたエドウィン・ウィルソン氏が親日家だったこともあってか、日本人アーティストの所蔵するレスポールも作られています。松本隆弘氏(B’z)のレスポールは、トゥルー・ヒストリックをベースとしてメイプルの杢や塗装をご本人所蔵のお手本に合わせ、フロントにバーストバッカー、リアにカスタムバッカーが選択されています。このギターが安心して使用できる水準で完成したお陰で、松本氏は貴重な1959年製を安全に保管することができたと伝えられています。いっぽう奥田民夫氏のレスポールは、コレクターズ・チョイス・シリーズからのリリースで、プレーンのメイプルトップにご本人所蔵機からスキャンしたネックグリップ、’57クラシック2基採用、という仕様です。

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「スタンダード・ヒストリック」シリーズは、トゥルー・ヒストリック・シリーズの前身である「ヒストリック・コレクション(ヒスコレ)」の末裔です。トゥルー・ヒストリック誕生まで「ヴィンテージギターの完全再現」を目指して邁進してきたヒスコレでしたが、木材の接着に現代的なタイトボンドを使用するなど、「工程の合理性」の壁を突き破ることができませんでした。現在では「皮一枚届かないけど、それでも再現度は大変高い」という扱いの別シリーズとして存続しています。

この製品群の中では安いとすら思ってしまう「CS」シリーズですが、レスポール・トラディショナル2018と圧倒的な価格差があることもよく見て、金銭感覚をしっかり維持しておく必要があります。このギターも各仕様で「バースト」の雰囲気をしっかり再現しており、まさに本物のサウンドを持っています。そのため「バーストの伝説的なサウンドこそが欲しい」と願うギタリストには、もっとも現実的な選択肢です。

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色々な1959年スタイルのレスポールを比較してみて…

この比較ではシリーズ名と価格しか見ていませんが、これらは全て1959年製レスポール・スタンダードの精巧なレプリカであり、どこまで再現度を追い込むか、どのギターを再現するかといった「再現」がグレードの差になっています。実際に「ビリーバー・バースト」と「CS9」とでサウンドのクオリティにどこまで差があるのか、という話にはなかなかなりません。どちらも真剣にバーストを追求した、天下のギブソンが保証するバーストの音が再現されています。

仕様書だけを眺めていると価格差の根拠がなかなか読み取れず、どうしてこのような価格設定になっているのか、あるいは同じピックアップを搭載しているギブソンUSAのレスポールとどこが違うのか、疑わしく思ってしまう人も少なくないでしょう。しかし、こうしたギターは、仕様だけでは測ることができない価値があるのです。ギター好きならば憧れずにはおれないヴィンテージギターをどこまで追求するか、そのためにメーカーがどれだけの取り組みをしてきたか、お手本となったギターがどんな場面で使われ、どんな人が演奏したか、そういったいろいろなドラマが封じ込められているギターなのです。

ギターは楽器であり所詮は道具ですが、プレイヤーの心に強く訴える存在でもあります。特に「ギターからインスパイアされる」というタイプのギタリストは、そのギターが持つストーリーで心を奮わせ、演奏に変化が生じるるかもしれません。また、ギターをスタンドに立て、そのギターを弾くアーティストの曲を鑑賞しながら酒を飲むのが何よりの楽しみだという人もいますが、たくさんのドラマを背負っているギターならばこそ、お酒も美味しくなるというものです(お酒は20歳になってから)。

ギブソン・カスタムショップの代表シリーズ

ギブソン・カスタムショップのラインナップは、ヴィンテージモデルやアーティストモデル、また現代的な新しいものなどさまざまに展開されています。特にシリーズ化されているように見えないものも多くありますが、人気が集まりやすいヴィンテージモデルは共通のコンセプトでそれぞれの製品群を構成しています。ここでは、先述した「トゥルー・ヒストリック」のほかに名高い2シリーズを見ていきましょう。

スタンダード・ヒストリック(ヒストリック・コレクション)

STANDARD HISTRIC 1959 Les Paul Standard STANDARD HISTRIC 1959 Les Paul Standardの一部ラインナップ

2016年からスタートした「スタンダード・ヒストリック」シリーズは、トゥルー・ヒストリック・シリーズの誕生によっていったん終了した「ヒストリック・コレクション(ヒスコレ)」を、ほぼそのまま引き継いだシリーズです。長らくカスタムショップの看板機種だったヒスコレは、終了となった今なお中古市場をにぎわしています。

ヒスコレ誕生の背景には、ヴィンテージギターに対する高い評価と極めて高い価格にありました。ギブソン社側も、今なお愛されるギターをたくさん生みだすことができた1950年代が、ギター生産のひとつのピークであったと認めているほどです。ヴィンテージギターを求める声に対し、ギブソン社はヴィンテージギターの価格を下げることはできないにせよ、次善の策として精巧なレプリカを製作しようと考えたわけです。

その際、サウンド、ボディトップの曲面、ネックグリップなど、ヴィンテージギターを構成するさまざまな要素が分析されました。現在作られているギブソンのギターは長年の研究開発の結果として導き出された答えであり、現代版の形状や設計、サウンドは改善を積み重ねてきた結果であることに違いありません。しかしそこにはいったん目をつぶり、「ヴィンテージギターとは何だったのか」が検証されたわけです。そのため、ネックの仕込み角度やジョイント法(ディープ・ジョイント)など、現在では廃止となっている仕様や工法についてもあえて採用し、はじめギブソンUSAと共用だったペグはカスタムショップ専用のものに変更され、2014年には木部の接着にニカワが復活するなど、「リアリティ」を深く追求しています。

その取り組みに途切れることはなく、毎年のマイナーチェンジでじわじわと再現度を向上させてきました。50年代当時はばらつきのない均一な生産がなかなかできなかったため、ヴィンテージギターにも激しく個体差があるのですが、ヒスコレではヴィンテージギターの平均的な姿を再現しようとしています。とはいえギブソンのレプリカをギブソンがリリースしているわけですから、事実上は本物だということもできます。

もちろん現代のメーカーが世に送り出す楽器としてのクオリティに余念はなく、使用される木材の質にも、楽器としての加工精度の高さやサウンドにも定評があります。カスタムショップで使用されるマホガニーは軽量で硬い上質なもののみで、そのため一般的なマホガニーのイメージである「甘さ」の抑えられた、張りのあるヴィンテージトーンが得られます。

Standard Historic SG Standard

Standard Historic SG Standard

「スタンダード・ヒストリック・SGスタンダード」は、1961年にフルモデルチェンジを施して新たな「レスポール」としてリリースされた、いわゆる「SGレスポール」を再現したギターで、トラスロッドカバーには「Les Paul」の文字が刻まれます。かの名手レス・ポール氏には嫌われてしまったSGでしたが、カルロス・サンタナ氏、アンガス・ヤング氏、トニー・アイオミ氏ら数々の名手に愛用され、今なお途切れることなく生産されています。

再現されたSGレスポールは、ぜいたくな1ピースマホガニーをボディ&ネックに、ニカワ接着されたディープジョイント工法を採用、アニリン染料を使い、下地まで全てニトロセルロースラッカーを用いた塗装によって、ヴィンテージギターの趣をしっかりと再現しています。

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コレクターズ・チョイス

「トゥルー・ヒストリック」と「スタンダード・ヒストリック」両シリーズが平均的なヴィンテージギターの姿を再現しようとしているのに対し、「コレクターズ・チョイス」シリーズではコレクターやミュージシャンが所蔵しているヴィンテージギターそのものを精巧に再現することを目指しています。その前身は2005年からスタートした「インスパイアド・バイ」シリーズでしたが、2009年ころ導入された3Dスキャニングシステムを駆使した新たなシリーズとして、2010年から生産が始まりました。

各モデルの開発に際しては楽器本体をスキャンし、ネックやトップなどの曲面をデータ化します。その精度は1000分の1インチ以下と伝えられていますから、よほど神経質なギタリストでも区別することは不可能だと言えるでしょう。また外観や回路、ピックアップの内部に至るまで、合計200~300枚の写真を撮り、ヴィンテージギターの帯びている雰囲気を余すところなく再現します。楽器の搬入や打ち合わせ、試作品のチェックなどのためにそのギターのオーナー本人が工房を訪れることも少なくありません。状態の良いヴィンテージギターは今や相当な資産ですから、オーナーの意向も大事にしなければなりません。塗装の剥げやパーツのくすみで貫禄の付いた「レリック」のみならず、新品同様に美しく品のあるギターが欲しい人に向け、保存状態の良いヴィンテージをモデルにすることもあります。

ラインナップのほとんどがレスポールですが、メイプルトップの表情を同じにするため、当然のようにお手本と酷似した模様を持ったメイプルが選ばれます。各モデルに冠される番号はリリースされた順番ではなく、企画が出た順です。企画は通ったものの、マッチした木材の調達が滞っているなどで充分な生産ができないモデルは一旦保留となります。サウンドの個性をつかむため、クラフトマンもお手本のギターをかなり弾きこみます。また電気系の計測などあらゆる情報をキャッチするなど、多角的に個性を見極めます。

Collector’s Choice #47 1964 Firebird

#47 1964 Firebird

「#47 1964 ファイアーバード」は、レスポールがひしめくコレクターズ・チョイスの中にあって唯一のファイアーバードです。実際のヴィンテージギター「シリアルN0.235304」を、レーザースキャンを駆使して完全再現しています。多少のダメージはあれど年代を考えれば非常に状態の良いボディは気品の漂うチェリーに彩られ、ニッケルメッキの施された金属パーツはいぶし銀のようなくすみで鈍く光ります。

ピックアップはセラミックマグネットを使用した「ファイアーバードIII」を採用、板バネを利用した「マエストロ・ビブラート」は何とも時代を感じさせます。

コレクターズ・チョイスを…
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以上、ギブソン・カスタムショップについてチェックしていきました。ギブソン社の中でも特別なものを作るセクションなので、限定生産のものが大変多くあり、またヴィンテージモデルのラインナップが非常に豊富です。なかなか近寄りがたいディープさを感じさせますが、作られているギターは現在のギブソンが全力でリリースしている最高グレードのものです。ショップで見かけることがあったら、ぜひ勇気を出して試奏してみてください。

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