シューゲイザー・ギターサウンドをどう再現するか

[記事公開日]2023/4/27 [最終更新日]2023/5/8
[ライター]森多健司 [イラスト]森多健司 [編集者]神崎聡

80年代の終わり頃から短期間ながらも大きなムーブメントを作り出したシューゲイザー。ギターのサウンドを語る上で大きな役割を果たしたジャンルでもあり、根強い支持を得る個性的な音楽には魅力が溢れています。そんなシューゲイザーをギターのサウンドという観点から今一度掘り下げてみましょう。

シューゲイザーとは?

シューゲイザーとは80年代終わりから90年代初頭にイギリスで生まれたロックのジャンル。歪んだエレキギターを幾層にも重ねることで濃密な音空間を構築し、その上にポップなメロディのボーカルが乗ることで、全体的にアンビエント感が漂いつつ耽美的、メランコリックなサウンドになっているのが特徴です。Shoegazer「足下を凝視する」という名称は、今ではエフェクターを見ながらうつむいて演奏するギタリストの姿を映し出したものとして広く受け入れられています。

シューゲイザー誕生前夜とJesus & Mary Chain

シューゲイザーというジャンルが確立される以前にその要素を孕んだバンドはいくつかありましたが、最も直接的にそれを感じさせるのは1984年スコットランドに生まれたジーザス&メリーチェイン(Jesus & Mary Chain)でしょう。85年に発売されたファーストアルバム”Psychocandy”では、パンクロックの持つ疾走感や、耳をつんざくようなフィードバックノイズ、気だるいボーカルやポップなメロディが共存し、その独特のサウンドは大きな話題となりました。2ndアルバム以降、彼らは徐々にファズが掛かったギターサウンドを生かしたポップロック系音楽へと進化を遂げていきましたが、1stアルバムを中心とした初期の頃に見せたサウンドは、後進に大きな影響を与え、後のシューゲイザーへと昇華されていきます。

シューゲイザーとMy Bloody Valentineの登場

シューゲイザーというジャンルは80年代後期に登場しますが、その実質的なパイオニアと呼べるのが、イギリスの音楽シーンにその名を表したMy Bloody Valentineです。1988年「You Made Me Realise」でブレイクし、特に1991年に発売された2ndアルバム「Loveless」はシューゲイザーの金字塔とされており、イギリスの音楽史にその名を刻んでいます。ジーザス&メリーチェインが時折聴かせたフィードバックノイズはその攻撃性以上の意味を持たないものでしたが、My Bloody Valentineの場合はギタリストかつリーダーでもあるケヴィン・シールズ氏(後述)による緻密な構築によって、ギターの発するノイズそのものが完全な音楽となっており、この点がバンドを稀有な存在へと至らしめた一番の要因でした。

その他シューゲイザーと呼ばれたバンド

ライド (Ride)

My Bloody Valentineと同時期に活動し、シューゲイザー系バンドの地位を二分する存在であるRide。彼らのファーストアルバムである「Nowhere」はLovelessと並ぶシューゲイザーの金字塔とされており、シューゲイザーを完成に導いたバンドとして評価されています。My Bloody Valentineに比べるとビート感に溢れる曲が多いところから、よりパンク的な成分を大きく感じさせ、また最大の影響元であるビートルズを彷彿させるポップなメロディやコーラスが多いのも特徴です。ギターのサウンドではフィードバックを利用したノイジーな音の洪水の中に、クリーントーンも多用され、メランコリックなサウンドを作るのに一役買っています。1996年にメンバー間の不和から解散しますが、2014年に再結成し世界ツアーを行いました。

スローダイブ (Slowdive)

1989年結成、1991年にシューゲイザーの名盤として名高いファーストアルバム「Just For A Day」をリリースします。ノイジーなサウンドをシンセパッドのように曲の深層に落とし込み、その上を男女の気だるいツインボーカルが流れていくサウンドからはアンビエント音楽の要素を感じさせ、ノイズの中に紛れる心地の良いボーカルがロック・ポップスの世界観を保っています。My Bloody ValentineやRideとはまた違う耽美的な雰囲気はそのままバンドの個性と直結し、シューゲイザーの新たな側面を持つバンドとして広く認知されるに至り、この2バンドと並んでシューゲイザーの御三家としてしばしば語られます。1993年の2ndアルバム「Souvlaki」も傑作と評価が高いものの、時代はすでにシューゲイザーから離れ、ブリットポップに移行していく中、1995年3rdアルバム「Pigmarion」のリリース後解散。2014年に再結成し、2017年に発売された4枚目のアルバム「Slowdive」は自身最大のヒットとなりました。

My Bloody Valentine司令塔ケヴィン・シールズの音作り

ここからはケヴィン・シールズ氏の音作りに焦点を当てていきましょう。
ケヴィン氏の使用ギターはほとんどがフェンダーのジャズマスタージャガーで、トレモロユニットを動かしながらコードを弾く、通称「グライド・ギター」という独特の奏法を使うことで、ピッチを曖昧とし、モジュレーションを掛けたような浮遊感を演出しています。チューニングも独特なものが多く、EBEEBEやEEEEAEなど、ノーマルとかけ離れたチューニングで演奏されているものもあります。楽曲全体から滲み出る曖昧な調性感などは、このようなチューニングから生み出される特異なボイシングのコードに依るところも大きいと言えるでしょう。

彼のサウンドについてはエフェクターの部分に焦点が当てられやすいですが、実はLovelessのアルバムにおいてはエフェクターはさほど使われていないことが明らかになっています。その中でも多く使われていたものがファズリバースリバーブです。

もちろんライブではこの限りではなく、アルバムに収録された音像を再現するため、多数のエフェクトが使用されます。特に有名なところではBOSSのグラフィックイコライザー「GE-7」、トレモロの「PN-2」(現在廃版)、ワーミーペダル「DIGITECH WH-1」などが挙げられます。

アルバム「Loveless」での音作り

アルバムにおいて使われていたファズはVOX Tone Benderという製品で、独特なサウンドにはファンも多く、オリジナルが廃版になっても尚Tone Bender系ファズというフォロワー製品が多数発売されています。リバースリバーブは残響が逆再生されるリバーブで、ドライ音をカットし残響のみをグライド奏法と組み合わせるのが、ケヴィン特有のサウンドを得るための使い方です。これこそが彼のサウンドを語る上で欠かせない存在となっており、愛器としてYAMAHA SPX-90、SPX-900、Alesis MIDIVerbの3種類が挙げられる中、アルバムで使用されたものはSPX-90だと言われています。曲単位や部分的には他にもいくつかのエフェクターが使われていますが、制作の際にもっとも活躍したものは実はエフェクトではなくサンプラーであったようです。
ではこの時期ケヴィン氏の足元に並んでいたエフェクターをチェックしてみましょう。

BOSS GE-7

初期のツアーから再結成後の現在に至るまで、ライブで必ずと言って良いほど使用されるグラフィックイコライザー。曲によってギターのトーンを大胆に変えるために使用され、複数使用されることもあります。

BOSS GE-7 Equalizer – Supernice!エフェクター


Devi Ever Shoe Gazer

昨今のツアーで歪み用として使われている、その名もShoegazorというそのままのモデル。ブーミーなファズといった印象のサウンドで、飽和感が強烈です。(後述)

Devi Ever Shoe Gazer – Supernice!エフェクター


DigiTech Whammy (4th Gen)

You Made Me Reariseの中間部における、ノイズの洪水のようなセクションで主に使われるワーミーペダル。
2013年のツアーでは2オクターブ下の音が出るようにセッティングされていました。

Digitech Whammy 5 – Supernice!エフェクター


BOSS PN-2、TW-1、VOX Tone Bender MkIII(現在廃版)

いずれもケヴィンのサウンドを語る上で良く話題に上る機種。BOSS製品は特にバッファのクオリティに信頼を置いているようで、他のファズとの組み合わせで単にバッファとして機能させることも多いようです。Tone BenderはLovelessのレコーディングでも使用され、ケヴィンの愛器と言って良い存在でしょう。

シューゲイザー・サウンドを再現するペダル

ここではケヴィン・シールズのサウンドをモデルとして、それを再現するために適したペダルをいくつか紹介します。紹介するモデルはMarshall 1959、1987、JTM45、VOX AC30など、彼が使用するアンプを模したオーバードライブ、加えて味付けとして使われるファズ、そして非常に重要なリバースリバーブの3種類です。他のシューゲイザーバンドではコーラスなどが使われることも多いですが、今回は省いています。

オーバードライブ

まずは通常のオーバードライブを用意しておくと良いでしょう。いずれも歪みの粒が細かいリードギター向きのディストーションなどは避けた方が良く、粗くジャキジャキとした質感が得られるものがおすすめ。

JHS Pedals Charlie Brown V4

マーシャル初期の銘機、JTM 45のサウンドをモチーフとしたオーバードライブ。マーシャル特有のジャキジャキとした粗い質感をよく捉えており、特にかき鳴らした時のサウンドには気持ちよさを感じます。高すぎない適度なゲイン幅を持ち、ファズなどの他のエフェクターとのコンビネーションにも期待できるでしょう。

JHS Pedals Charlie Brown V4 – Supernice!エフェクター


Wampler Pedals PlexiDrive Mini

プレキシマーシャルのモデリングエフェクターとして定評のあったPlexiDrive。こちらはそのPlexiDriveをミニ版として再設計したもので、プレキシマーシャルを大音量で鳴らしたときのサウンドを再現しています。シンプルながらもスタックアンプの飽和感をしっかりと感じられるサウンドは素晴らしく、評価の高かった元祖PlexiDriveの良さをうまく受け継いでいます。

Wampler Plexi-Drive Mini – Supernice!エフェクター


VOX Mistic Edge

本家であるVOXが送るAC30をモデルとしたオーバードライブ。同ブランドを傘下に置くKORGが開発したNutubeを内蔵し、オリジナルAC30の持つ明るさやキラキラとした感じを十分に備えつつ、現代風にハイゲインサウンドまでをカバーできるように開発されています。

VOX VALVENERGY MYSTIC EDGE – Supernice!エフェクター


ファズ


ファズというカテゴリはモデルによって音色が全然違うので、サウンドをしっかりイメージして選びましょう。

Electro Harmonix Big Muff PI

言わずと知れた定番中の定番ファズ。Big Muffは飽和感の強い図太い音が特徴で、コードを弾くと、圧倒されるような気持ち良さが感じられます。ケヴィンが使用するのはヴィンテージとして稀少なTriangle Big Muffと呼ばれるもので、あくまで同じ物を狙うのであればTriangleを模したフォロワー系モデルを狙うのも良いでしょう。

Electro Harmonix BIG MUFF Pi – Supernice!エフェクター


Z-Vex Fuzz Factory

1990年代半ばに市場に登場し、2020年を過ぎた現在でも未だに定番機として名を馳せる怪物ファズペダル。gate、comp、stabなどという一見するとよく分からないコントロールを備え、王道のファズから発振を起こす凶悪な音まで、一台で実に多彩な音作りが可能です。Fuzz Faceの影響元にあるといわれる本機ですが、実は内部回路はTone Bender Mk1.5がベースとなっており、Tone Bender系ファズとしてもよく知られています。

Z.VEX FUZZ FACTORY – Supernice!エフェクター


JHS Pedals Bender

ハイエンドの歪みエフェクターを多く送り出すJHS PedalsのTone Bender系ファズ。1973年製のMkIIIをモデルとして復刻されており、ケヴィン・シールズの使用品がTone Bender MkIIIであることを考えると、ここに挙げた他モデルに比べてもより近いサウンドが得られることは間違いないでしょう。側面についたスイッチにより中域を張り出させるJHS Modeが使用でき、シンプルな操作性に留まらない幅広いサウンドが得られます。

リバースリバーブ


Empress Effects Reverb

12のリバーブモードとその中に複数のバリエーションを備え、計24種類のリバーブが使える、マルチリバーブの決定版。通常のホールやプレートなどに加え、リバース、スウェル、スパークル、ゴーストなど、聞いただけでわくわくするような個性的リバーブを内包し、それぞれのモードはthing1、2というつまみで細かい所まで音を作り込めます。ステレオ出力や35のプリセット保存など、実用性も非常に優秀です。

Empress Effects Reverb – Supernice!エフェクター


Empress Effects Echosystem

12のモードとその内部に多様なバリエーションを持ち、計36種以上の様々なタイプを選べるディレイマシン。デジタル、アナログ、テープエコーなどの通常のディレイはもちろん、アンビエント、リバース、ローファイ、独創的なバリエーションを含むWhiskyなど、個性に溢れたディレイモードを多く内包します。2種類のディレイを同時に掛けられ、そのルーティングも自在に変えられます。こちらもステレオ出力、35のプリセット保存に対応。


Empress Effects Echosystem – Supernice!エフェクター


Electro-Harmonix Oceans 11

11種類のモードを持つマルチリバーブ。11種の中にリバースリバーブを含み、その他ホールなどの普通のリバーブはもちろん、トレモロ、シマー、オートインフィニットなど、独創的なものが網羅されています。ケヴィンのサウンド同様にリバースリバーブでの音作りを楽しむもよし、他の個性的なモードを使って新しいサウンドの創出を楽しむもよし、幅広くポテンシャルを感じられる製品です。

Electro Harmonix OCEANS 11 Reverb – Supernice!エフェクター


Mooer R7 X2 Reverb

14タイプのモードを切り替えて使える、マルチリバーブ。モードごとにプリセットをセーブして使えるため、リバース以外のサウンドが必要な時にも活躍します。リバーブのエフェクト音を無限大に伸ばすインフィニットモードなども搭載され、より現代的なサウンドを模索することも可能でしょう。

Mooer R7 X2 REVERB – Supernice!エフェクター



音楽シーンの中では一瞬の存在であったシューゲイザーですが、その音楽性やサウンドは後のバンドに多大な影響を与えています。ギターの使われ方はますます多様化し、機材の高品質化によって出せる音の限界もますます広がる現在、このサウンドにもう一度焦点を当ててみるのも面白いのではないでしょうか。

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