知っておきたい「セッション定番曲」~Blues編~

[記事公開日]2022/2/3 [最終更新日]2022/2/3
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ブルース・セッション

ブルース(Blues)は、ちょっとしたコードやスケールを覚えれるだけで、すぐに何曲でもバンドアンサンブルができてしまう、たいへんセッションしやすい音楽です。それもあって各地でセッションイベントが開催されるほか、セッションバンドの演目に入れられる例も多く見られます。バンドの練習にも良好です。そんなわけで今回はブルースに注目し、こ難しい話はさておいてセッションの方法と定番曲をチェックしていきましょう。


Clarence “Gatemouth” Brown – I’ve Got My Mojo Working (From “Blues at Montreux 2004”)
カルロス・サンタナ氏を脇に従えて圧巻のパフォーマンスを見せるクラレンス・”ゲイトマウス”・ブラウン氏。サンタナ氏はサックス奏者を煽っているのかと思いきや、舞台そでにいたバディ・ガイ氏にセッションに加わるよう呼びかけていました。ガイ氏がエンディングに微妙に合わせられていないあたり、本当に台本にないものだったと推察できます。
ブルースが拒むものはなにもない。サンタナ氏のねっとりした太い音も、ブラウン氏のペケペケな音も、ブラスだって途中参加のバディ・ガイ氏だって、どんどん入ってくればいい。だからあなたも、どんどんセッションに入っていきましょう。

そもそも、ブルースとはどんな音楽なのか?

ここでは歴史や派生ジャンルなどはさておき、ブルース未経験の人がセッションに参加するために必要なコード進行とスケールを見ていきましょう。コード進行とスケールを一個ずつ覚えたら、さっそくブルースのセッションに参加できます。

コード進行は、どの曲もだいたい一緒!

ブルースは主に、12小節の「ブルース進行」を繰り返して展開します。この中で使われるコードは3つだけなので、すぐ覚えられるでしょう。また耳が慣れてきたら、知らない曲でもブルース進行を使っているのかどうかがすぐ聞き分けられるようになります。このブルース進行を、どのキーで、どんなリズムで演奏するかによって、各曲の基本はできています。これから覚える人はひとまず、「イチヨンイチイチ、ヨンヨンイチイチ、ゴーヨンイチゴー」という呪文を暗誦するところから始めましょう。

ブルース進行

ブルース進行のバリエーション

とってもありがたいブルース進行ですが、ちょっとだけバリエーションがあります。2小節目に2パターン、そして12小節目に2パターンです。セッションでは一度それと決めたらそのまま繰り返しになるのが普通で、演奏中の変更はあまり行なわれません。

ブルースらしい伴奏の弾き方、というものもありますが、そういうことは経験を積みながらひとつずつ覚えていきましょう。パワーコードでも、オープンコードでも、バレーコードでも、使えるもので自分なりに弾ききってみてください。


Buddy Guy “Damn Right, I’ve Got the Blues” on Guitar Center Sessions
ブルースの偉人、バディ・ガイ氏。この演奏ではキーはA、リズムはスロー3連で、2小節目も12小節目もA7です。

アドリブは「マイナー・ペンタトニックスケール」1発でひとまず大丈夫!

セッションでは、ボーカリストがひとしきり歌ったらソロ回しに入り、順番がまわってきたらそこでアドリブを披露するのが習わしです。そんなわけで、ブルースで最も頼りになる「マイナー・ペンタトニックスケール」を使って、自分なりのアドリブができるようになりましょう。ブルースの場合、まずは始まりから終わりまでずーっとマイナー・ペンタトニックスケール1発の弾きっぱなしで大丈夫です。これ以外のスケールや独特の音づかいなどいろいろありますが、それらについては経験を積みながらひとつずつ覚えていきましょう。

まずは使用頻度の高いE、A、Cのうちどれかから始め、その次に3つとも、最終的にエニーキー(どんなキーでもオッケー!)で弾けるようになると幸せになれます。

マイナーペンタトニックスケール

メジャー系のコードにマイナー系のスケールを使ってもいいの?

良いんです。ブルースは特別です。コードに準拠した音階を使用するのは西洋音楽の常道ですが、ブルースは黒人すなわちアフリカ系の音楽をルーツとしており、文化的背景が全く異なります。マイナー・ペンタトニックスケールだけでなく、ブルースを探求するギタリストが必ず出会う「ブルーノート」や「クォーターチョーキング」も、コードトーンと衝突する音づかいです。しかし、これがブルースでは気持ち良くてしょうがない。なお、なぜそんなに気持ちが良いのか、いまだ解明されていません。
もちろん、ここでメジャーペンタトニックスケールを使用することもできます。

とにかくアドリブできるようになろう。

ブルース特有のフレージングは、達人の演奏をコピーすることでいろいろ学ぶことができます。しかしコントや漫才の巧いお笑い芸人が必ずしも大喜利やフリートークの達人ではないように、譜面どおりの演奏ができてもアドリブ演奏ができるとは限りません。じゃあ、何をすればアドリブができるようになるのか。以下の解説がヒントになりますよ。

アドリブ/アレンジに挑戦してみよう!

《ギター博士流》アドリブ入門 with マイナーペンタトニックスケール

ブルースセッション5つの定番曲

ではここから、セッションでもライブでも演奏されるブルースの定番曲を見ていきましょう。キーはボーカルやハープに合わせることがあり、またリズムやテンポはアレンジされることがありますが、おおむねオリジナルのイメージを踏まえて演奏するのが通例です。イントロとエンディングまでチェックできればパーフェクトです。

動画に準拠したコード進行も紹介していますが、セッションでもだいたいこんな感じに進行します。

Sweet Home Chicago/Robert Johnson(1936)


The Blues Brothers – Sweet Home Chicago (Official Audio)
オリジナルはアコギ1本での弾き語りですが、セッションではこのブルースブラザーズ版が定番です。ギターから始まるイントロと、ブレイクする時の2小節目がE7になるのがお約束です。

「Sweet Home Chicago」はブルースブラザーズ版にならい、キーはE、リズムはシャッフルで演奏するのが最も一般的です。12小節目のB7は、2拍目からです。

Hoochie Coochie Man/Muddy Waters(1954)


John Mayer, Buddy Guy, Phil Lesh and Questlove – “Hoochie Coochie Man” Live | The Jammys | 2005
バディ・ガイ氏のアドリブ冒頭では、A7からしばらくコードを変えず、KKD(ここだ)!という空気を読んだドラムの合図とともにD7に移行します。さすがにセッションでこういう芸当は高難度かも。なお、ベースが途中でD7に行こうとしました(2:32)が、何事も無かったかのようにA7に戻しています。

「Hoochie Coochie Man」は、冒頭部分を延長した変形ブルース進行です。キーはA、リズムはどっしりと落ち着いたスローテンポのシャッフルです。お約束フレーズもしっかりチェックしておきましょう。なお、重いシャッフルで押し通すのを「スローブルース」、3連の要素が多く入るのを「スロー3連」と呼びますが、これを明確に区別して演奏することも、ミックスすることもあります。

Messin’ With The Kid/Junior Wells(1960)


John Mayall & the Bluesbreakers – Messin’ With The Kid – 6/18/1982 (Official)
ギターソロの終わりをフレーズだけでなく身ぶりでも伝えていたり、エンディングをボーカルが指示したりしているのがポイントです。ノリとアドリブを前提とする演奏では、こうした演奏以外でのコミュニケーションが重要です。これを楽しむことができれば、セッションは最高に楽しくなります。

「Messin’ With The Kid」は、非常にシンプルなコード進行とリズム&ブルースに通じるようなグルーヴがポイントです。キーはC、リズムは8ビートです。11小節目からのお約束フレーズは、全員で合わせても一人で弾いても、どっちでも大丈夫です。

Crossroads/Robert Johnson(1936)


Eric Clapton performs “Crossroads” Live!
オリジナルの「Cross Road Blues」はアコギ1本の弾き語りだが、セッションでは若きエリック・クラプトン氏がバリバリ演奏した「Crossroads」がスタンダード。この動画はご本人の演奏とはいえずいぶんテンポを抑えている印象だが、それはそれ。現在(いま)の自分がつむぎだす音、それこそがブルース。

「Crossroads」はCREAM版にならい、キーはA、リズムは8ビートで演奏するのが通例です。12小節目のE7は2拍目から鳴らすイメージです。CREAMは3ピース編成だったため、ギターのアドリブ中に音階のある伴奏はベースしかいませんでした。そのためベーシストのその場の判断で2小節目がA7になったりD7になったり、12小節目がA7のままだったりということがあります。しかし、メンバーの多いアンサンブルではそうはいかないので、決めた進行を守るのが最善です。


Crossroads/品川区民芸術祭2010 TRADROCK by Char
こちらはバウンス(16ビートシャッフル)で演奏しています。Char氏の合図で一気に音量を落とし、しばらくそのままでじっくりとエネルギーを溜めていき、ここだと言うところからじわじわと盛り上げる、こういうのをその場でやりきるのもセッションのだいご味です。

Thrill Is Gone/Roy Hawkins(1951)


B.B. King – Thrill Is Gone (Live)
「3大キング」の一角、B.B.キング氏が1970年にカバーして大ヒットさせた演目。12小節目後半のせり上がる音は全員が単音のユニゾンでありコードはないが、敢えて付けるならBbとG on B、もしくはBbとB dim。

マイナーブルースの代表曲「Thrill is Gone」は、キーはCm、リズムはソウルに通じる16ビートです。このコード進行では、Cマイナー・ペンタトニックスケール以外にもCナチュラルマイナーなどダイアトニック系のスケールが使いやすいのが特徴です。他のブルースと違ってCメジャー・ペンタトニックスケールは使えないので注意してください。

ナチュラルマイナースケール

「何かの曲」でなくても、ブルースはできる!?

キーとリズムさえ決まれば、ブルースは成立します。セッションではこれまで見たような特定の演目を演奏するのが基本ではありますが、その場でアドリブを回すだけ、あるいは適当なタイトルを付けて思いついた言葉をブルース調に歌うといったセッションが展開されることもあります。台本の無い、フリートークを楽しむような感覚です。

何か特徴のあるメロディやモチーフがなくたって、ブルースは成立します。ただストレートに弾けば良い、それがブルース。経験と胆力が備わってきたら、自分発信のブルースにもチャレンジしてみてください。

ブルースで使われるギターは?

セミアコやレスポールといったギブソン系、ストラトやテレキャスターといったフェンダー系を中心に、ブルースではさまざまなギターが使われます。しかしリードプレイにはチョーキングが欠かせないので、フルアコに見られるような弦の張力でブリッジ位置を定めるギターより、ブリッジを固定しているギターを使うのが良いでしょう。

セミアコは正義


Freddie King – Hide Away (Live)
「3大キング」の一角、フレディ・キング氏。いろいろなギターに浮気することもあるようだが、やはり本命はセミアコ。特に黒人のブルースマンは、このES-345のようなブロックインレイとバインディングのある、ゴージャスなルックスのギターを好む傾向にあるようです。

「3大キング」の二人がセミアコを愛用したという事実は、注目に値します。暖かみがあり、鋭くも行ける豊かな表現力は、ピッキングのタッチを重視するスタイルにはうってつけです。

豊かで、力強いトーン「セミアコースティックギター特集」

ストラトも正義


Robert Cray – Right Next Door (Because Of Me)
現代のブルースでは、時代のサウンドを吸収した、より自由な音楽になっています。反面、ブルース進行から脱却した演目は、セッションのハードルがちょっと上がります。

いろいろなギターが使われるとはいえ、セミアコとストラトキャスターがブルース界の人気を二分しているような情勢ではあります。エリック・クラプトン氏をはじめスティーヴィー・レイ・ヴォーン氏、バディ・ガイ氏、ロバート・クレイ氏ら、名だたる名手がストラトキャスターの使い手です。

ストラトキャスター・タイプのギター特集

変形ギターもOK!


Albert King – Blues Power – 9/23/1970 – Fillmore East (Official)
「3大キング」の一角、アルバート・キング氏。右用のフライングVを左に構えて指で弾く、という特徴しかないスタイル。ジミヘンのストラトと違い、Vは逆で構えてもハイポジションの演奏性が変わらないというでっかいメリットが。それにしても、3大キングは総じて体躯もでっかい。

変形ギターをメインに起用するブルースマンとしては、フライングVの使い手アルバート・キング氏、ファイアーバードの使い手ジョニー・ウィンター氏が有名です。

《むしろ定番》ほとばしる個性を放つ「変形ギター」の世界

メタル系のギターでも大丈夫!


KORITNI “Sweet Home Chicago” LIVE at Hellfest 2012 – New Album “Night Goes On For Days” OUT NOW!
オーストラリア出身のロックバンドKOTIRINIによる「Sweet Home Chicago」。ブルースは何者をも排除しない。メタルサウンドでブルースやってもええじゃないか。ハイゲインでピロピロやってもええじゃないか。

メタル仕様のギターをメインに起用するブルースマンは今のところ確認できませんが、だからといって「メタル用ギターしか持ってないから、ブルースセッションには参加できない」なんてことはありません。刺さりそうなほど尖った黒光りするギターで、堂々と参加しましょう。

メタル・ミュージック志向のギター特集


以上、ブルースセッションに参加するためのいろいろなものをチェックしていきました。ブルースはシンプルな音楽なので演奏しやすく、またシンプルであるがゆえに奥が深い音楽です。たしなむ程度でも、どっぷり浸かるのでも、ぜひセッションの現場でブルースに触れてみてください。

またブルースは古いスタイルの音楽ではありますが、ジャズやロックのルーツであり現代音楽のルーツでもあります。現代のギタリストにとって、ブルースのフィーリングは持っていて損にはなりません。

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