知っておきたい「セッション定番曲」~オールディーズ編~

[記事公開日]2022/1/27 [最終更新日]2022/1/27
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

セッション曲:オールディーズ

「オールディーズ(Oldies)」は、一般には1950年代から1960年代までの、ロックンロールとポップスを現す呼び方です。この時代独特のファッションや音楽には深い魅力があってファンも多く、しばしばセッションイベントが開催されます。こうした企画に参加するのは良い経験になる上とっても楽しいので、ぜひいろいろな曲を知ってセッションに繰り出しましょう。


Frankie Lymon “Little Bitty Pretty One”
1960年という時代にあって、2拍目4拍目で打っていた観客の手拍子が、1分も経たないうちに1拍目3拍目になってしまうという、資料的な価値の高い動画。「2と4で手拍子を入れるのが当たり前になったのはロックンロールの誕生以降」だと考えられますが、それが浸透するにはまあまあ時間がかかったわけです。

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《音楽史の大革命》Rock’n Roll

1950年代半ばに興った「ロックンロール(R&R)」は、4拍子の偶数拍目に強いアクセントを置く、それ以前にはなかったシンプルかつ強力なノリが持ち味です。また人類初となる、エレキギターの存在を前提とした音楽でもあります。その影響力は甚大で、R&Rの登場によって以後の音楽が永久に変わってしまったと言われます。

楽曲はブルース進行3コードが基本で覚えやすく、アドリブを取る時にはペンタトニック・スケールが基調で弾きやすく、楽しくセッションできます。

《R&Rはここから始まった》Rock Around The Clock/Bill Haley & His Comets(1954)


Ringo Starr – Rock Around The Clock (Official Music Video)
このロックンロール黎明期の名曲を、ロックンロールの生き神様リンゴ・スター氏が、歌詞を読みながら歌っているのがお茶目です。リンゴ氏がやってるんだから、我々が本番で歌詞カードを持っててもまあまあ大丈夫です。

「Rock Around The Clock」は、ブレイクしてボーカルだけになる冒頭部分が第一のポイントで、ジャズっぽくスウィングするのが第二のポイントです。ロックンロールには同じコード進行の演目が多いですから、各曲の違いを出すためにはこうした「お約束」を大事に守りましょう。

《殴るようにピアノを弾く》Long Tall Sally/Little Richard(1956)


Mariko Endo (sax) Group “Long Tall Sally” @ Jazz On Top Act III -Oldies Night-
派手なピアノも、ロックンロールの華。

「Long Tall Sally(のっぽのサリー)」は、ブルース進行をそのまま使ったシンプルなロックンロールです。歌う時に、必ずブレイクが4回続けて入るのがお約束となっています。なお「フー!」のシャウトはリトル・リチャード氏の得意技です。歌い手がコレを決められるかどうかが、セッション成功のカギです。

《全員で叫ぶ!》C’mon Everybody/Eddie Cochran(1958)


Bryan Adams – C’mon Everybody
かの布袋寅泰氏はじめ名だたるアーティストがカバーした、エディ・コクラン氏の名曲。

「C’mon Everybody」はブレイクからのタイトルコールがお約束です。ブレイクからの復帰はボーカルにかかっていますが、観客を巻き込んで全員で叫ぶ場合、保険としてハイハットなどでテンポを維持すると安全です。

《宇宙に行ったR&R》Johnny B. Goode/Chuck Berry(1958)


Johnny B Goode – Lance Lipinsky & the Lovers – Chuck Berry cover grammy 2018
ボーカリストが所々でメンバーに指示を下しているのが確認できます。弾くだけでなくこうしたやり取りができると、セッションはもっと面白くなります。

「Johnny B. Goode」はストレートなロックンロールですが、本来のキーがギタリストにとってちょっと弾きにくい「Bb」であるところが注意点です。また、イントロのギタープレイがテンポを決定します。キンチョーに負けて突っ走らないよう、しっかり練習してからセッションに臨みましょう。

チャック・ベリー

《カリスマアーティスト》エルヴィス・プレスリー(1935-1977)

かのジョン・レノン氏(ビートルズ所属)が「エルヴィス以前には何もなかった」と証言したほど、50年代の音楽シーンにおけるエルヴィス・プレスリー氏の存在は偉大でした。活動期間こそ短いですがカントリーやロックンロールを基調にポップスの演目もあり、オールディーズを語る上でなくてはならない存在です。

《いきなり歌から》Hound Dog(1956)


Elvis Presley “Hound Dog” (October 28, 1956) on The Ed Sullivan Show
歌う前にギターがコードを鳴らしました。ココがポイントです。

「Hound Dog」は、イントロなくいきなり歌唱から始まるロックンロール・ナンバーです。こういう曲の場合、演奏に入る寸前に最初のコードを鳴らすとボーカリストに喜ばれます。

《実はカバー曲》Love Me Tender(1956)


Love Me Tender – Elvis Presley (Cover) by The Macarons Project
アコギでのカバーが多いようですが、ご本人はバンドをバックに歌っています。

バラード曲「Love Me Tender」は、南北戦争の時代に書かれた「オーラ・リー」の歌詞を改めた演目です。1コーラス16小節というコンパクトで素朴な曲ですから、ソロ回しにも良好です。

《変形ブルース進行》Jailhouse Rock(1957)


Jailhouse Rock (metal cover by Leo Moracchioli)
その場のセッションでココまでアレンジするのは困難ですが、バンドでがっつりアレンジするのも面白いです。

「監獄ロック」の邦題でも知られる「Jailhouse Rock」は、シンプルな12小節の繰り返しから一歩進んだ構成です。1コーラスが16小節となり、ポップス的な様式美に収まります。セッションではソロ回しのコード進行についてサラっと打ち合わせするか、その場の流れで反射神経を駆使して合わせるかのどちらかになります。

《実はとても古い曲》Can’t Help Falling In Love With You(1961)


Elvis Presley – Can’t Help Falling In Love With You (Saxophone Cover by Alexandra)
元ネタは1784年に作られた「Plaisird’amour(仏)」。メロディが美しく、歌詞に頼らなくても楽器演奏だけで十分に楽しめます。

「好きにならずにいられない」の邦題も知られる「Can’t Help Falling In Love With You」は、プレスリー氏主演のミュージカル映画「ブルーハワイ(1961)」で使用されました。こうしたスローな演目でセッションする場合、ソロ回しを展開すると曲が長すぎてしまうことがあります。その打開策として、ボーカルが1コーラス担当したら2コーラス目の前半だけソロが入り、後半からボーカルが復帰、そのままエンディング、というようなコンパクトなまとめ方が採用されることが良くあります。

「アメリカンポップス」を代表する3人のアーティスト

「アメリカンポップス」という用語に明確な定義はありませんが、50~60年代アメリカの、ロックンロール系ではないポップスをこのように呼ぶのが通例です。リズム的にはR&Rの影響を強く受けつつも、こちらはペンタではなくダイアトニックスケール(ドレミファソラシド)を基調とし、「C-Am-Dm-G7」といった循環コードを活用する、R&Rとは異なる発想の音楽です。

この分野では先述のエルヴィス・プレスリー氏を別格とし、ヒット曲を増産するビッグアーティストが数多く活躍しました。その中で特に名高い3人の演目をチェックしてみましょう。

《シンガーソングライターの先駆け》Diana/Paul Anka(1957)


Paul Anka – Diana (Live performance video)
ポール・アンカ氏は、若干16歳でこの曲を書いてデビューし、いきなり大ヒットさせました。80歳の今なお、お元気でステージに立っています。

「Diana」は、2種類のコード進行で構成されるシンプルな演目です。セッションにおいてはイントロのブラスをいかにかっこよく演奏するかが第一、第二に循環コードから抜けるタイミングをしっかり見極めること、この二つが肝要です。

《使用コードちょっと多め》Lipstick On Your Collar/Connie Francis(1959)


Connie Francis “Lipstick On Your Collar” on The Ed Sullivan Show
日本の女性シンガーも多くカバーした名曲。この動画は、コーラスとエレキギターが掛け合いになるイントロがカットされているのが、実に惜しい。

「Lipstick On Your Collar(カラーに口紅)」は、オールディーズは循環とブルースだけじゃないよ、ということがわかる、現代にも通じうる豊かなコード進行の演目です。リズム的にはR&Rの影響を強く受けつつも、やはり全く異なる発想の音楽になっています。

《循環コード1発の名曲》Oh! Carol/Neil Sedaka(1961)


Neil Sedaka “Oh Carol”
ニール・セダカ氏も、この時代を代表するシンガーソングライターです。楽曲提供も多く、今なおお元気です。

かつてのガールフレンド、キャロル・キング女史への愛を歌ったという名曲「Oh! Carol」は、徹底して循環コードを堅持しつつ、ブレイクで区切りを設けています。ブレイク中に歌わない点でも、R&Rとの発想の違いが感じられます。なお、キャロル・キング女史からのアンサーソングは旦那さんが作詞した、という良い話が伝えられています。

60年代の名曲たち

50年代におこったR&R勃興とアメリカンポップス発展を受け、60年代にはバリエーションに富んだ音楽が生まれました。循環コードはいまだ熱く支持されますが、そこから脱却した名曲も多く作られました。

《気持ちの良い転調》Runaway /Del Shannon(1961)


Runaway (Del Shannon Cover) – Under the Streetlamp – ft. Brandon Wardell
「Runaway」に「悲しき街角」という邦題を付けるセンス、見習いたい。

「Runaway(悲しき街角)」は、Am(イ短調)からA(イ長調)へという「同主調転調」が使われている演目です。歌詞はずっと悲しんでいるのですが、それはそれとして後半を明るくすることで、音楽的に豊かなサウンドが作られます。

《コーラスが決め手》Be My Baby/The Ronettes(1963)


The Substitutes – Be My Baby (Cover)
お、これはコード進行が違うな、と思わせて、サビではやはり循環コードなんです。

「Be My Baby」は、循環コードのサビへ持っていくコード進行のある、場面の展開が楽しめる演目です。サビではメンバーによるコーラスがメインとなりますから、頑張って歌いましょう。

《最強クラスの認知度》Oh, Pretty Woman/Roy Orbison(1964)


Bruce Springsteen & John Fogerty (CCR) Play Roy Orbison’s “Pretty Woman” at Madison Square Garden
映画「プリティ・ウーマン(1990)」の効果もあり、オールディーズファンでなくても知っている人の多い演目。

イントロのギターリフが印象的な「Oh, Pretty Woman」は、A(イ長調)からC(ハ長調)へという「同主調平行調への転調」が行なわれる、ちょっと凝った演目です。

《英国シーンも負けてはいない》The House of the Rising Sun/The Animals(1964)


The Animals “House Of The Rising Sun” on The Ed Sullivan Show
「アメリカのギター少年が最初に覚えるアルペジオ」の地位に君臨した名演。

アメリカで興ったR&Rのムーブメントはヨーロッパに伝わり、やがて全世界に広がってさまざまなアーティストを誕生させました。英国のアニマルズもその一つです。代表曲「The House of the Rising Sun(朝日のあたる家)」は、弦を撫でながら上下する特徴的なアルペジオがお約束です。多くのカバーがありますが、オリジナルに従うなら、アルペジオのリズムは「タンタタタンタンタンタンタン」です。

《テンポ設定がカギ》You Don’t Have to Say You Love Me/Dusty Springfield(1966)


You dont have to say you love me – Dusty Springfield – Instrumental cover by Dave Monk
邦題こそ「この胸のときめきを」だが、歌詞の内容は去った男を想う女の思慕と決意であり、決してときめいてはいない。

「You Don’t Have to Say You Love Me(この胸のときめきを)」は、3連ミドルテンポの原曲に対し、ちょっとテンポを上げたスウィングのカバーが多く見られます。ボーカルの声量や表現力をいかんなく発揮させるためには、テンポは落とした方が良いでしょう。原曲通りの3連でギターを弾く場合、2拍目4拍目にスタッカートでコードを鳴らすか、3連でひたすらアルペジオするのが常道です。

《英国の至宝》The Beatles(前期)

ビートルズの活動は、R&Rバンドとして世界中をめぐった前期、スタジオにこもって制作に励んだ後期に分けられます。このうち前期の演目がオールディースとみなされています。ビートルズを知らない人はひとまず、「赤盤」の通称でも知られるベスト盤「1962-1966」をチェックしましょう。

《3連ストロークの練習に良好》All My Loving(1963)


The Witness – All My Loving Band Cover
コーラスも含め、ほぼ完全コピー。むしろこの姿以外になりようが無いほど完成された曲でもあります。

「All My Loving」は、冒頭からしばらく続くギターの3連ストロークが決め手です。セッションの演目としてだけでなく、コード弾きの技術向上にも良好です。こうした演目の場合ソロ回しをすることはなかなか難しく、原曲通りに演奏するのが普通です。

《工夫すればソロ回しも可》I Wanna Hold Your Hand(1964)


The Beatles – I Wanna Hold Your Hand (G-Pluck Cover)
こちらは楽器からファッション、ベースの利き手まで忠実にカバーしています。

「I Wanna Hold Your Hand(抱きしめたい)」はR&R調の演目でありながらギターソロが挿入されない、歌ものであることを強く意識した演目です。しかしセッションにおいては、歌い出しから12小節まででソロ回しに入ることも可能です。

《ブルースとポップスの融合》Can’t Buy Me Love(1964)


Can’t Buy Me Love – MonaLisa Twins (The Beatles Cover)
こちらは自分なりのファッションで演奏していますが、やはりバイオリンベースは欠かせないようです。

「Can’t Buy Me Love」は、「Em-Am-Dm-G6」というポップス的なコード進行と7thコードを中心としたブルース系のコード進行とを交互に使用した、野心的な演目です。間奏部分はオーソドックスなブルース進行なので、ソロ回しに移行するのも容易です。

《この曲のために、12弦ギターを買おう》A Hard Day’s Night(1964)


GDA – Sheryl Crow A Hard Day’s Night LiveA Hard Day’s Night
ツアーに引っぱりまわされる忙しさをボヤいた内容のこの曲をリリースしてなお世界中で売れまくり、あまつさえ来日と重なり「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」なーんて邦題を付けられてしまった、という良い話が伝えられています。

「A Hard Day’s Night」は、冒頭の「Gsus4」と間奏で12弦リッケンバッカーの威力を思い知ることのできる演目です。セッションでは12弦ギターを使う代わりに、二人のギターでオクターブユニゾンすることもあります。

オールディーズの演奏で使われるエレキギター

限定生産された、Epiphone ES-295。

オールディーズでは、特にフルアコの使用例が目立ちます。プレスリー氏のリードギターを務めたスコッティ・ムーア氏は金色に輝く1952年製ギブソンES-295をトレードマークにしていましたし、当時のギタリストが模範としたチェット・アトキンス氏はグレッチのエンドーサーでした。R&Rの完成に寄与したバディ・ホリー氏などフェンダー系のギターが使われる例はありましたが、当時すでにあったはずのレスポールが使われた例は、なかなか見つかりません。

「まず形から」という人は、ぜひフルアコを手にしてみてください。リズム弾きでは硬い音も必要になりますから、リアピックアップを備えるモデルが良いでしょう。なお、チョーキングが多く使われるので、ラウンドワウンド弦の使用がお勧めです。

甘く、くつろぎのあるトーン「フルアコースティックギター特集」

以上、セッションにお勧めのオールディーズをチェックしていきました。ロックンロールやアメリカンポップスは爆発的に流行し、音楽に革命的な変化をもたらしました。これらの名曲がルーツとなり、現代のロックやポップスが生まれました。

また、オールディーズは大衆音楽でしたが、その時ウケただけの音楽ではない、という事実も重要です。発表から半世紀以上の長きにわたって愛され続けてきた、時代の流れの中でしっかり残ってきた実績のある音楽でもあります。知ってる曲や興味のわいた曲があったら、ぜひチェックして弾きこなしてみてください。

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