エレキギターの総合情報サイト

ロックギター名盤アルバム Vol.4:Placebo「Without You I’m Nothing(1998)」

Placebo「Without You I'm Nothing」

「プラシーボ(Placebo)」は、1990年代終盤から活動を続けている英国のオルタナティブ・ロックバンドです。ギター/ボーカルのブライアン・モルコ氏が持つ中性的なキャラクターや闇の深いパーソナリティーを前面に打ち出す、凶暴なギターサウンドとエモーショナルかつメッセージ性の強い歌詞を特徴としています。今回はこのバンドの名盤「Without You I’m Nothing」に注目していきましょう。

「Placebo」は、どんなバンドなのか

現在のプラシーボは、ブライアン・モルコ氏(ギター、ボーカル)、ステファン・オルスダル氏(ギター、ベース)の二人で活動しています。トリオ構成だった時にはドラマーの人事異動が幾度も繰り返されましたが、この二人だけは結成当初から不動です。「Without You I’m Nothing」のリリース近辺を中心に、プラシーボの歩みをざっと見していきましょう。

運命の邂逅(かいこう)

ベルギー出身のモルコ氏、スウェーデン出身のオルスダル氏は、同時期にルクセンブルクの国際学校に通っていました。しかし二人が交流するのは、ロンドンでの偶然の出会いからでした。ある日、ギターをかついで歩いていたオルスダル氏を見かけたモルコ氏が、自分のライブを観ていくよう誘いました。モルコ氏のステージを観たオルスダル氏は、バンドを組むべきだと確信、意気投合して活動を開始します。何でもないようなきっかけで始まったバンドが、このとき以来4半世紀も続いているのです。

セルフタイトル作でデビュー

バンド名をアルバムタイトルにした「プラシーボ(1996)」が、結成から2年後にリリースされます。シングルカットされた何曲かのうち「Nancy Boy(ナンシーボーイ)」がUKシングルチャートで4位を獲得、アルバムも13週にわたってチャートインしました。


Placebo – Nancy Boy (Official Video)
セクシャルマイノリティに属するモルコ氏が、男か女か判らない風貌でギターをギャンギャンかき鳴らしながら、性や薬物といった危険なテーマを歌う。可愛らしくも聞こえる歌声とは裏腹の、反逆精神に満ちた作品。

当時のUK音楽シーンはオアシス、ブラー、スウェードら「ブリットポップ」が支配的でしたが、そうじゃない音楽を求めるリスナーの心に、プラシーボは刺さりました。ヒットした「Nancy Boy」のハードかつダーティーなサウンドと危険なテーマから、プラシーボは「英国で最も汚いバンド(the filthiest band in Britain)」と称されます。「filthy」は汚い/不潔という意味のほかに、「下品な/エロい」という意味を含みます。それと同時に、NYで開かれたデビッド・ボウイ氏の50歳を祝うパーティーに招待される、という栄誉も勝ち得ます。

2枚目「Without You I’m Nothing」リリース


Placebo – Without You I’m Nothing (Ft. David Bowie) (Official Video)
デビュー作から、ボウイ氏にたいそう気に入られたプラシーボ。次回作ではこの曲がことのほかお気に召して、この演目での共演を熱望したのだとか。ボウイ氏を加えて改めて録音された「Without You I’m Nothing」は、3rdアルバム「Black Market Music(2000)」の日本版にて、ボーナストラックとして収録されています。

デビューアルバムで成功を収めたプラシーボは大手レーベルに移籍、前作とは違うプロデューサーを迎えて2ndアルバムに着手します。3か月がかりで制作された「Without You I’m Nothing」では、モルコ氏の特徴的な声は若干丸くなり、スローなナンバーやロッカバラードなど演目のバリエーションこそ増えましたが、性や薬物など危険なテーマ、またデビュー作で見られたギラッギラなエネルギーはなおも健在です。売れ筋に行かないアンダーグラウンド精神あふれるサウンドでしたが、米英仏でヒットするなど現在までに100万枚以上売り上げています。

音楽の追及と、胸を打つ情緒性

西暦2000年以降、プラシーボはシンセサイザーを多用したり、またダンスミュージックのプロデューサーによるリミックス版を発表したりするなど、新しい試みを続けています。モルコ氏はバイセクシャル、オルスダル氏はゲイという性的指向を公にしており、同じ境遇のリスナーから厚く支持されているほか、シンプルにロックミュージックとして、また胸を打つ情緒的なメッセージ性の強い音楽として、広く支持されています。

「Without You I’m Nothing」とは、どんなアルバムなのか

サウンド面では、1にも2にもモルコ氏独特のギターサウンドが全面に出されたアルバムです。ギターはヴィンテージのフェンダー・ジャガーやギブソン・SG、アンプにフェンダー・ツインリバーブやマーシャル6100LM、エフェクトはロジャー・メイヤーのブードゥーディストーションやBOSSのデジタルディレイというように、機材面ではロックの王道を行くセレクトです。


Placebo – Pure Morning (Official Audio)
サウンドこそ爽やかさがありながら、やはり歌詞は危険。モルコ氏の両性具有な風貌は決してファッションではなく、嘘いつわりのないありのままの自分。あえて自身をオープンにする氏の姿勢は、プラシーボのメッセージ性に強力な説得力を付加するとともに、セクシャルマイノリティに属する人たちに希望を与えました。

独特な「プラシーボ・チューニング」

最も特徴的なのは「6弦からF、Bb、Eb、Ab、C、C(1弦と2弦は同音)」といういわゆる「プラシーボ・チューニング」です。アルバムタイトル曲「Without You I’m Nothing」の冒頭部分が分かりやすいですが、このチューニングはコード弾きの中に2本重なった1弦2弦が浮き出る響きを持っています。これは「自分の声に合っている」から採用されたとのことですが、コードを弾けばトップノートが浮き上がり、1弦2弦のみでメロディを弾けば、単音が広がって聞こえるコーラス効果が得られます。モルコ氏はシンプルながら印象的なリフを作る名手として評価されていますが、この超個性的なチューニングをしっかり使いこなしているのがその秘訣だと言えるでしょう。

演目のバリエーションと巧妙なダイナミクス

収録曲には一定の統一感がありながらもバリエーション豊かで、飽きさせません。リズムの面だけ見ても、BPM=80近辺のミドルテンポの「Pure Morning」で始まり、BPM=200超えのパンクナンバー「Brick Shithouse」、

BPM=170近辺のアップテンポ「You Don’t Care About Us」と続き、BPM=60近辺のスローナンバーや8分の6拍子(ロッカバラード)など、しっかりとバリエーションを見せてくれます。

また、曲が展開していく中でのダイナミクス(強弱)表現も聞きどころです。爆音で力強くプッシュする場面があるかと思えばギターが休んだり、逆にクリーンのギターのみになったり、時にボーカルだけになったり、というように高まった圧力を絶妙に抜く巧妙なアレンジが施されています。ブリットポップが盛んだった90年代初頭は一つのノリを維持するアレンジがクールだったのですが、その流行から抜け出した起伏のあるサウンドを作っているわけです。

「各パート1本ずつ」の潔いアンサンブル

アルバムを通して、ギターの重ね録りがほとんど行なわれないのも大きなポイントです。時にシンセを利用するにしても、バンドアレンジは「ギター、ベース、ドラム各1」で構成される大変シンプルな潔さです。しかしモルコ氏のギターは楽曲に対する最適解のリフ、絶妙な右手のタッチを駆使するコード演奏といった技術面、また轟音のディストーションやディレイのループを駆使、時にツルッツルのクリーンも使用するサウンドバリエーションの面が豊かで、むしろギターは二本も要らないと思わせます。

オルスダル氏のベースにおいても同様で、特に何種類ものドライブサウンドを場面に応じて使い分ける、演出の妙義が確認できます。ベースだけで伴奏することも、またギターのようなコードストロークを使うこともあります。こうして構成されたバンドアンサンブルは、スリーピースのロックバンドにおけるアレンジの一つのお手本になります。