スティーヴ・ルカサー(Steve Lukather)

[記事公開日]2020/11/5 [最終更新日]2021/10/23
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

スティーヴ・ルカサー

スティーヴ・ルカサー氏はロックバンド「TOTO」を筆頭に、ご自身のソロや各種のプロジェクトに多く携わるギタリストです。特にスタジオミュージシャンとしてのキャリアは膨大で、1,500枚のアルバム製作に関わったといわれます。今回はこのスティーヴ・ルカサー氏に注目していきましょう。


Toto – Rosanna (Live)
ジャズとロックを中心にいろいろな要素を高い次元で融合させる、TOTOのカッコよさを象徴する演目「ロザーナ」。ギターパートは演奏内容にも音色にも切り替えが多く、かつボーカルもコーラスもあり、なかなか大変です。ルカサー氏の背後にそびえる「ボグナーの壁」がまた壮観です。

ビートルズ大好き少年がトッププレイヤーに成長

スティーブ・ルカサー氏は1957年10月21日、カリフォルニア州サンフェルナンドバレーに生まれました。幼少より音楽に触れ、キーボードとドラムをやっていましたが、7歳のころアコギとともにビートルズのアルバム「Meet the Beatles!(1964)」を手に入れてから人生が一変します。

高校時代のバンドメンバーにはすでに、スティーブ・ポーカロ氏(キーボード)、ジェフ・ポーカロ氏(ドラムス)といった、後にTOTOを形成する顔ぶれがありました。ジェフ・ポーカロ氏の手引きで音楽業界に入ったルカサー氏は、ボズ・スキャッグス氏、スティーリー・ダンなど大物のプロジェクトの常連になります。

その後一流のセッションマンを集めてロックバンド「TOTO」を結成、次々とヒットを飛ばし、活動を世界へと広げていきました。

引きだしの多い、王道派の演奏スタイル

ルカサー氏の演奏は、ジャズやロックを中心に、カントリー、ブルースなどあらゆるジャンルを横断的にこなします。プレイ内容には引き出しが多く、メロディは美しく、総じて派手なフレーズを活用し、かつ正確無比です。危険な音づかいも冒険ではなく、しっかり着地させてキッチリ回収します。アメリカ随一のセッションマンだったキャリアに偽りはなく、リードにおいてもバッキングにおいても模範的な答えを出します。

ソロのフレーズは2小節で区切る

ルカサー氏は、ギターソロのフレージングをだいたい2小節単位で切り替えています。前後関係を意識したフレーズの切り替えにより、演奏内容がリスナーに届きやすく、またロングソロでも冗長に聞かせません。これはアドリブやギターソロ構築のために、たいへん参考になるアプローチです。


Boz Scaggs – Breakdown Dead Ahead (Official Video)
ボズ・スキャッグス氏は、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック。大人向けロックの意)における親玉のような存在です。ルカサー氏はボズ・スキャッグス氏のバックバンドとしてキャリアを積み上げ、このバックバンドがTOTOの原型となります。この曲のギターソロ(2:48~)では2小節ごとにキッチリとフレーズを切り替え、徐々に盛り上がっていって最高潮になったところでボーカルにパスしています。

今でも朝練を欠かさない

トッププレイヤーとなった今でも、ルカサー氏は朝起きてからのギター練習を欠かさない生活を続けています。練習内容はツアーや録音の準備にとどまらず、ご自身の演奏の改善やアドリブの勉強など多岐にわたるようです

スティーヴ・ルカサーの使用機材

エレキギターのおおまかな変遷

ミュージックマン以前

若かりし頃のルカサー氏のメイン機は1971年製ギブソン・レスポール・デラックスで、初期のキャリアで使用例があります。ストラトの名手マイケル・ランドウ氏とは11歳からの友人で、ランドウ氏はストラトに、ルカサー氏はレスポールに夢中になったといいます。ルカサー氏自身もストラトの音は大好きだったのですが、良いストラトキャスターとの出会いがなかなか得られませんでした。プロになってから1959年製のギブソン・レスポール・スタンダード(通称「バースト」)を手に入れ、基本的に1980年から83年までの演奏のほとんどで使用しました。


Michael Jackson – Beat It (Official Video)
亡きエドワード・ヴァン・ヘイレン氏の名演で知られる「Beat It」。エディ氏はギターソロでのみ参加し、バッキングは全てルカサー氏の担当でした。ここでもバーストが使用されています。この曲が収録されているアルバム「スリラー(1982年)」に、ルカサー氏は3曲で参加しています。

そこから90年代初頭までは、バレーアーツ社のスーパーストラトがトレードマークです。現代のシグネイチャーモデルは、このバレーアーツの仕様をミュージックマン社の代表機種「シルエット」に落としこんだのが出発点でした。

シグネイチャーモデル「LUKE」爆誕

ミュージックマンはフェンダー社を辞した創始者レオ・フェンダー氏が立ち上げたブランドで、代表機種のシルエットは、ストラトキャスターを大きく進歩させたギターです。特徴的な小型のヘッドには、重量バランスを改善させる狙いがあります。ここにルカサー氏ご愛用バレーアーツのネックの形状と感触、またEMGピックアップ、アームアップできるフロイドローズといった仕様を盛り込んで完成されたのが、初代の「LUKE(ルーク)」でした。次世代の「LUKE II」ではトーンポットが追加され、FRTはミュージックマン独自設計のヴィンテージ・タイプに置き換えられ、ロック式ペグが備わります。ブリッジはフローティングしており、1弦を半音、2弦以降を1音ベンドアップすることができます。最新型の「LUKE III」は、2012年に発表されて2020年に何度目かのアップデーを受けています。

最新式「LUKE III」

MUSICMAN LUKE III

ルカサー氏のシグネイチャーモデル「LUKE III」には、アルダーボディの標準機「LUKE III」と、メイプルトップ&マホガニーバックの「LUKE III Maple Top」の2モデル、それぞれにHSSとHH二つのピックアップ配列が展開されています。HSS機のシングルコイルには、ノイズを除去する「サイレント・サーキット」が備わります。

このLUKE IIIは、ディマジオ社製のパッシブ・ピックアップとミュージックマン社製ブースターを備えているところが最大の特徴です。バレーアーツから先代のLUKE IIまでの約30年間ご愛用だったEMGアクティブピックアップからの切り替えは、ファンの間で大いに話題となりました。ブースターの操作は、ボリュームポットを押してON、再び押すとOFFです。出荷時のブースト量は12デシベルですが、バックパネルを開けてトリムポットを回すことで、最大20デシベルまでブーストできます。なお、ご本人のブースト量は10デシベルほどのようです。

フィギュアドメイプルのロースト材をネックに使用しているのも、注目すべき特徴です。熱処理によって木材内の含水率が下げられることで、ヴィンテージ・ギターを弾いているような触り心地と鳴りが作られます。また、背が低く幅の広いフレットを採用しています。素早く滑らかな運指をサポートし、特にスライドやグリッサンドに有利です。現在では一般に高めのフレットが好まれる傾向にありますが、かつてレスポール・カスタムが発表された時に低くて広いフレットが採用され、あまりの弾きやすさから「フレットレス・ワンダー」という言葉が生まれました。

LUKE IIIを…
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ギターアンプとエフェクター

電気設備について、ルカサー氏は長きにわたって大規模なラックシステムを組み、操作系を足元のスイッチにまとめていました。ヴィンテージ系のサウンドもこよなく愛する氏ではありますが、仕事の道具としての安心感を優先してか、ステージ上にヴィンテージ系の機材を持っていくことはないようです。2020年のツアーでは機材の進歩に加え空輸のしやすさも考慮して小型化され、こだわりのブティックアンプ2台とコンパクトエフェクター、という組み合わせが使われています。


Toto – Africa (Live)
「いったい何拍子なんだ!?」と思わせて、実は4拍子だったというお茶目なイントロでお馴染みのTOTO代表曲「アフリカ」。ルカサー氏の足元には大きなスイッチパネルが配置されており、この時のエフェクト類はラックシステムを組んでいたと考えられます。音色切替の多いTOTOの演目にあって、世界的な大物プレイヤーでありながら、今なおスタッフに任せず自分で切り替えるルカサー氏。氏のミュージシャンシップを感じさせられます。

Bogner「Ecstasy(2台)」

Bogner Ecstasy Head

ブティックアンプの雄、ボグナー社の「エクスタシー」ギターアンプは、多チャンネル&多機能で最新のサウンドを持ちながらヴィンテージアンプのサウンドも出せる、同社のフラッグシップです。受注生産品でたいへん高価なものですが、ルカサー氏はこれを2台並べて使用しています。ツアーでは有事の用心にもう一台のエクスタシーが控えます。アンプとエフェクターを合わせると日本の新卒社会人の平均年収に達するという、おそろしくリッチな機材群です。

Bogner Ecstasy Head – Supernice!ギターアンプ

2分割して使うエフェクターボード

2台のアンプに対し、エフェクターボードも2分割して使用しています。まず、ディストーション、EQ、ワウ、モジュレーション系などのエフェクト群から1台目のエクスタシーに接続します。そのエフェクトループからいくつものディレイ、そして常時ONのリバーブをまとめたエフェクト群に接続、2台目のエクスタシーのリターン端子へ送ります。1台目のエクスタシーからのドライなサウンドと、2台目から出るディレイやリバーブのかかったウェットなサウンドを同時に出す、というシステムになっています。

「2台目のエクスタシーはパワーアンプ部しか使用しない」という大変ぜいたくかつもったいない使い方ですが、「高級ブティックアンプが並んで壁を作っている」という光景は誰にでもできるものではない、まさに絶景です。

スティーヴ・ルカサー関連作品

ルカサー氏はTOTOやソロ活動のほか、さまざまな作品に携わっています。そのうちのいくつかをピックアップしてみましょう。

Ringo Starr And His All-Starr Band「Ringo at the Ryman(2013)」

Ringo Starr And His All-Starr Band

ルカサー氏は第11回リンゴスター&ヒズ・オールスターバンド(2010~)より参加。憧れのミュージシャンとの競演が実現したルカサー氏は、出るところは出て引っ込むところは引っ込む、プロの仕事ぶりをしっかり見せてくれます。「ロザーナ」「アフリカ」などTOTOの名曲も披露。


Ringo Starr – Give More Love (Official Video)
バンド加入を機に良好な関係を築いているルカサー氏とリンゴ氏。このようなほのぼのとした音楽に起用するのは、ルカサーの無駄遣いのようにも思えてしまいます。しかし当のご本人の演奏からは、このバンドで演奏できる喜びが伝わってくるようです。

TOTO「TOTO IV(1982)」

TOTO IV

「ロザーナ」「アフリカ」など名曲ぞろいでグラミー賞を6部門獲得した、TOTOの名盤中の名盤。特に1曲目「ロザーナ」のグルーヴ感は、ハねた16ビートのお手本として今なお語り継がれています。通常の録音では24トラックのレコーダーが使われていた当時、本作は同じのを3台同期させ、大幅にトラック数を拡大させたことも注目に値します。

Steve Lukather「CANDYMAN(1994)」

Steve Lukather CANDYMAN

ほとんどのトラックを一発録りで行ったという、2枚目のソロアルバム。このちょっと前からTOTOに参加しているサイモン・フィリップス氏(ドラム)の切れの良さ、大物プロデューサーでもあるデビッド・ガーフィールド氏(キーボード)の絶妙なアレンジが光ります。達人の一発録りがどれほどのクオリティに達するのか、しっかり味わうことができます。

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