EMGピックアップの種類と特徴[記事公開日]2017年2月16日
[最終更新日]2018年3月25日

EMG:ロゴ

EMG社は現社長でもあるロバート・ターナー氏が立ち上げた、ギターピックアップブランド。ピックアップ内にプリアンプを搭載するという画期的な製品作りによって、唯一無二の音色を実現し、一躍、リプレイスメントピックアップの定番の一つに躍り出ました。

ロバート氏は若かりし時、父親がラジオショップを経営していたという都合もあり、フェンダーやギブソンのピックアップを手に入れては分解、改造しながらその知識を深めていきます。EMGの前身となる「DIRTY WORKS STUDIO」を、出身地でもあるカリフォルニア州ロングビーチで立ち上げたときには、すでに電源供給を視野に入れたピックアップが開発されており、’79年には現行の「81」や「SA」の原型となるモデルも完成。その後「OVERLEND」と社名を変え、最終的に「EMG PICKUPS」に落ち着きました。

氏はアクティブ・ピックアップのヒントを、電源供給して作動させるコンデンサーマイクから得たと発言しており、ギターのピックアップにも同じように電源供給することでより対外ノイズに強く、高出力でクリーンなものにできるのではないか、という発想が大本として存在していたようです。ピックアップもマイクロフォンの一つであるという本質を突いたその発想力、現在のEMGピックアップの完成形にたどり着いたその技術力は素晴らしく、パッシブ・ピックアップ以外の第2の選択肢を市場に提供した役割は非常に大きいと言えるでしょう。

EMGピックアップの特徴

EMGピックアップの最大の特徴は、ピックアップの内部にプリアンプが封入されていることです。このような機構を持つピックアップを「アクティブ・ピックアップ」と呼び、通常のものを「パッシブ・ピックアップ」と呼んで区別されます。アクティブ・ピックアップでは電池を使いプリアンプを駆動させることで、ギターの信号をいち早く安定させる(インピーダンス変換)ことができます。このようにして出力された信号は、通常のパッシブ・ピックアップではあり得ないほどのローノイズとなり、音の分離感に優れ、高出力を実現できます。当初、安定した音質に魅力を感じたスタジオミュージシャンに好まれましたが、現在では、高出力ならではのハイゲインや、深く歪ませても音の芯が残るという特性を好んだ、ハードロックやメタルを演奏するギタリストに使われる傾向が強くなっています。

マグネットの種類

EMGピックアップでは主にセラミックとアルニコという二種のマグネットが使われています。プリアンプは同じでマグネットを変えただけのものがラインナップとして多数存在し、この差を理解しておくことが、EMGのラインナップを正確に把握する助けとなります。

セラミック

全帯域をきれいに出力します。アルニコと比べると相対的に高域が伸びているように聞こえ、そのせいかレンジの広さをより感じます。倍音も豊かで、クリーントーンなどは粒の揃った明るい音色になります。

アルニコ

やや中低域よりにピークのあるサウンドです。高域部分は若干落ちますが、中低域にピークが来ているので、音の密度が濃いように感じ、歪ませた際にはウォームなサウンドが得られます。

EMGピックアップのラインナップ

ハムバッカー

81 / 81-X

EMG 81-X

EMGブランドのみならず、アクティブ・ピックアップの代名詞となっている看板商品「81」。メタリカのカーク・ハメットやスティーブ・ルカサー等の愛用でも知られる、同ブランドの顔とも呼べる超定番モデルです。
パワー、ゲインが非常に高く、深く歪んだ音を必要とするジャンルで特によく使われますが、サステインの豊かさ、ギターのボリュームへの追従性、そしてピッキングレスポンスの高さは単なるハイゲインピックアップとは一線を画すものです。低音域から高音域まで全帯域を均一に出力するので、レンジの広さを感じさせ、クリーントーン時は粒が揃った鮮明な音色となります。アクティブの特性として、極めてノイズレスなのも見逃せないポイントです。

「81-X」は「81」をさらに進化させたモデル。新開発された上位版のプリアンプを搭載し、ヘッドルームに余裕が出てきたような印象を感じます。出力やゲイン、音質は 81 を継承しながら、81 にあったコンプ感が希薄になり、ピッキングレスポンスをより忠実に再現できるようになっています。それゆえに、81 に比べるとパッシブらしさをより感じるようになりました。ラインナップ上は上位モデルの位置づけですが、上下というよりは音質の差であり、好きな方を選ぶ方が良いでしょう。リフを刻む音楽などではコンプ感の強い 81、リードプレイなどを主にする向きには 81-X という風になるのではないでしょうか。

マグネット:セラミック


81 Bridge Dirty

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85 / 85-X

EMG 85-X

セラミックのマグネットを使用した「81」と比べ、「85」はアルニコVを使用。結果として強力な中低域を得ることに成功し、重低音を主とするジャンルには最適なピックアップとなりました。スティーヴ・ルカサーはこれをリアに使用、ザック・ワイルドがフロントに 85、リアに 81 を搭載しています。全帯域を出力する 81 に比べ、相対的に高域が少なく感じるため、歪ませた際にはよりウォームで甘いトーンになります。

「85-X」は「85」のXシリーズ。「81-X」と同じく、コンプ感が少なくなった分、ピッキングニュアンスが出やすく、パワフルなミドル成分が印象的。ワイルドさはあるものの、81に比べて高域が押さえられ、上品な部分も感じさせるので、フロントに搭載するのもおすすめです。

マグネット:アルニコV


85X Neck Lead


EMG 81 vs EMG 85 – Active Bridge Pickup Guitar Tone Comparison / Review
81 と 85 をリアに付けたものを比較した動画。差がよく分かると同時に、クリーンでも若干歪んでいるのがわかります。

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60 / 60A / 60-X

EMG 60

「60」はミニハムバッカーを想定して作られた、EMGの中では比較的ゲインの低いモデル。重低音の印象が強い製品の中にあって、当モデルは控えめな低音にぎらつかない高音を持ち、最も”普通の”ハムバッカーのイメージに高いサウンドを出力します。低域が細い分、レンジは狭くなったような印象を受け、落ち着いたクールなトーンが持ち味。メタリカのジェイムス・ヘットフィールドはこのピックアップを愛用しており、その控えめな低音とクラシカルな高域成分でもって、鋭いリフを刻んでいます。低域が出過ぎない分、スピード感がより感じられるのかもしれません。

「60A」はセラミックの代わりにアルニコマグネットを使用したモデル。通常の 60 よりも中低域がしっかりと感じられるようになっています。

「60-X」は 60 のXシリーズ。60 に比べて広いヘッドルームを持ち、よりピッキングニュアンスに敏感に反応できるようになっています。数あるXシリーズのなかでも、60-X は通常モデルとの差を特にはっきり感じることが出来ます。

マグネット:セラミック(60 / 60-X)、アルニコ(60A)


60 と 85 を比較した動画。

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89

EMG 89

デュアルコイルのハムバッカーと、通常のシングルコイルが一つの中に封入されたユニークなモデル。ボリュームポットをプッシュ/プルすることで、両者を切り替えて使うことが出来ます。二つが入っているので、ハムバッカーのコイルタップなどとは異なる、完全な独立運用が可能です。デュアルコイルの方は85、シングルコイルはSAのサウンドをモチーフとしており、その運用性の高さはすばらしいものがあります。フロント用に特化した89Rという製品も存在します。

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57 / 66

EMG 5757 と 66 のセット

EMGがヴィンテージPAFを参考にして作り上げたピックアップが「57」です。他のモデルに比べて、出力はほぼ変わらないものの、ハイミッドに近い成分が強調されており、ピッキングのアタックに際してもジャリッとした成分が強くなっています。ヴィンテージ風のサウンドは狙いながらも、アクティブの持ち味であるノイズの少なさと、音の鮮明さはそのままなので、パッシブのヴィンテージ風ピックアップにアクティブの長所を加えたような性格と言えます。公式にはリアに搭載することを推奨しています。

上記「57」とセットでフロントにセットするべく開発されたモデルが「66」です。フロント用としてローは若干控え目になっていますが、出力はそれなりにあります。57 とのセットが推奨されており、二つセットでの販売も行われていますが、そこにこだわることなく、単体でも完成度の高いピックアップです。

マグネット:アルニコ

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H4

EMG H4

EMGの中では異端となるパッシブのピックアップ。アレキシ・ライホが自分のギターに搭載していることでも有名。パッシブでありながら「81」のサウンドを狙って作られており、全帯域が均一に出力されるというところは近いものを持ちます。ただ、アクティブをパッシブで目指すのはそもそも無理があるのか、出力自体の弱さを補うことはできず、全体的に低出力な印象を覚えます。その低出力を逆手に取り、別のサウンドを求めるのが正しい使い方と言えるでしょう。「H4A」という、「85」のサウンドを狙ったモデルも存在します。

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シングルコイル

マグネットの違うS、SAをベースとして、「~V」「-X」という二種の亜流モデルがあります。~Vはポールピースを変更したもの、ハムバッカーと同じくXシリーズはプリアンプを変えた上位モデルという位置づけです。

S/SA

EMG-SA

EMGのシングルコイルとして代表的なモデルがこの「S」。従来のシングルコイル的なジャキジャキ感が適度に残されており、アクティブ特有の音粒の揃い方と完全なノイズレスは弾き手にストレスを感じさせません。ヴィンテージ系のサウンドがベースにあるものの、ゲインはやや高め。EMGシングルコイルの代表的なサウンドです。

「S」と「SA」は構造的に同じものですが、マグネットがアルニコになっています。マグネットの特性の通り、S の方が高域のピークがより高めにあり、SA は若干それが低いところにあります。そのせいか、ややレンジの広さを感じるSに比べ、SA はピッキングに対するバイト感が高く、密度の濃い印象を受けます。マグネットの違いだけとはいえ、それなりの差があるので、両者を十分比べてから選ぶ必要があるでしょう。

マグネット:Sは「セラミック」、SAは「アルニコ」

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SV / SAV

EMG SAV

「S」と「SA」のポールピースをアルニコ・スタッド・ポールピースへと変更したモデル。その結果として、通常のパッシブ・ピックアップと似たルックスになっています。サウンドはバー・ポールピースを採用している通常モデルに比べて、よりワイルドさが増し、高域のピークが鋭くなっています。ベースとなるトーンは通常モデルを踏襲しながらも、倍音が増えたことにより、全体的に前へ押し出してくる雰囲気が強くなりました。

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S-X / SA-X

EMG SA-X

プリアンプ部分を新開発のXシリーズへと置き換えた上位モデル。ハムバッカーの「81-X」、「85-X」などと同じく、ゲインやサステインを損なうことなく、さらなる音質、表現力のアップに成功しています。特にピッキングレスポンスに関しては、強弱、アタックがそのまま出力される印象で、上級者にこそおすすめできるピックアップとなりました。

SLV

スティーヴ・ルカサーのために開発されたシグネイチャー・モデル。「SA」をベースとしてプリアンプを改良して作られています。通常の SA に比べ、アタック感が強くなり、ハイゲインにしても音がつぶれずに、アタック音が明瞭に残ります。ギターのボリュームやピッキングダイナミクスへの追従性も高く、SA を少しダーティにしてパッシブ寄りにしたという印象のピックアップです。

テレキャスター用

T

EMG T SET

EMGの発売する数少ないフェンダー・テレキャスター専用ピックアップ。いわゆるテレキャスターのジャキジャキ感を程よく残しながら、豊富な中域を備えたモダンな音にチューンされています。テレキャスターといえば真っ先にあのジャキジャキ感を思い浮かべる人は多いのですが、ピッキングに対するバイト感や、音の密度がもう少し欲しいと考えるギタリストには良い選択となるでしょう。

マグネット:アルニコ

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TC

Tのマグネットをセラミックに変えたタイプ。Tに比べると高域側に伸びた倍音が特徴で、ハイエンドが伸びた分、押し出しや音の密度はより強く感じます。テレキャスターの個性は残りつつも、汎用的で様々な音楽に合うサウンドを使える良質なピックアップです。

マグネット:セラミック

ベース用

J

フェンダーのジャズベースサイズのピックアップ。ギター用のハイゲインなEMGの印象とはうって変わって、このモデルはナチュラルで自然な音が持ち味です。ベースにとってローインピーダンスは恩恵が大きくアクティブ・ピックアップの選択肢も豊富ですが、その中にあってはかなりパッシブに近い音質と言えるでしょう。それだけにどのようなジャンルにもうまく合う、汎用的な面を備えています。

P

プレシジョンベースタイプのもの。アクティブではありますが、Jタイプと同じく、パッシブに近いナチュラルなサウンドが持ち味です。音のレンジが広く、EQの効きにも非常に敏感で、アンプに繋いだ際の音作りのしやすさという点では特筆すべきものを持ちます。

アコギ用

ACS

サウンドホールに直接装着するマグネティックタイプのピックアップ。ローノイズ、高出力、レンジの広さなど、エレキギターのピックアップで培った長所をそのまま感じられるピックアップです。