真空管アンプとトランジスタアンプの違い

[記事公開日]2024/2/2 [最終更新日]2025/8/29
[編集者]神崎聡

真空管アンプとトランジスタアンプ 左:マーシャルの真空管アンプ「DSL100H」のスタック、右:Rolandのトランジスタアンプ「JC-120」

ギターアンプの挙動で重要なのが「増幅の仕組み」です。ここに使われる部品は主に2種類あり、電気信号を真空管で増幅する「真空管アンプ」と、トランジスタで増幅する「トランジスタアンプ」に分けられます。

真空管アンプは、内部にガラス製の管(真空管)を使って信号を増幅する方式です。温かみがあり、弾き方によって音が変化しやすいのが特徴といわれます。一方、トランジスタアンプは金属や半導体で作られた素子を使い、安定した増幅が可能です。こちらはクリアで再現性の高い音を出すことが得意で、メンテナンスも簡単です。

アンプの心臓部に「真空管」か「トランジスタ」を使うかで、音のキャラクターや扱いやすさが大きく変わるのです。

真空管アンプの特徴

Marshall JCM2000リハーサルスタジオに常設されることも多い、真空管アンプの定番モデル「Marshall JCM2000」

真空管アンプ(チューブアンプとも呼ばれます)は強力な電圧をかけ、真空管を「飽和状態(オーバードライブ)」にすることで、”キメの細かい自然な歪み”を得ることができます。真空管アンプを使うことで、歪み系ペダルを使わずにアンプだけで歪みサウンドを作るギタリストは大勢います。

“暖かくて柔らかいサウンド”で、トランジスタアンプに少ない”音のコシ”や”粘り”を持ち合わせているのも人気の理由です。

真空管のアンプ扱いについて

サウンドに人気がある反面、真空管アンプはダメージを与えないようデリケートな扱いが必要です。

  • 主電源をONにし、真空管をしっかり温めてから(約2分)「STANBY(スタンバイ)」を解除する
  • 電源を切る時は逆の手順(スタンバイ状態にする → 主電源を切る)
  • 音を出さないときには「STANBY(スタンバイ)」状態にしておく
  • 音が出る状態で、ギター側からシールドを抜かない(スピーカーの故障を防ぐ)
  • 何年も使わずに置きっぱなしにしない

など、いくつかの注意点を守って扱うことで、真空管の劣化やアンプの故障を防ぐことに繋がります。

また、真空管アンプには「ノイズ」がつきもので、待機中も「ジーッ」というノイズを耳にしますが、決して壊れている訳ではありません。どうしても気になる方はトランジスタアンプを選択肢に入れると良いでしょう。

真空管アンプのメンテナンス

真空管アンプには「プリ管」と「パワー管」といった2種類の真空管が使われています。これらはアンプのプリアンプ、パワーアンプにそれぞれ使われています。真空管には「寿命」があり、寿命が近づいてくると「音が小さくなる」「歪まなくなる」といった問題が生じます。そのため、定期的な交換が必要になります。
交換時期は使用頻度によって異なりますが、「音に異変」を感じたら早めに変えることをオススメします。

プリ管の交換は抜き差しだけなので簡単ですが、パワー管には「バイアス調整」という工程が必要になり(プリアンプ部については自己バイアス方式となっていることが一般的であり、自動で調節されることが多いためです)、楽器屋や専門業者に任せることになります。個人でも対応可能ですが、「感電」の危険性と「回路の知識」が必要になるので、基本的にはプロに任せるようにしましょう。

バイアス調整とは

バイアス調整は、真空管にどれぐらいの電流が流れるのかを調整するものです。真空管にバイアス電圧が深くかかると流れる電流は抑えられ、音に元気がなくなります。また、電圧が浅すぎると過度の電流が流れ、音にハリが出る代わりに真空管自体の寿命も縮めてしまいます。このように、バイアス電圧を適正な値にすることはサウンドや真空管の寿命に直結するため、重要な要素です。

実際の作業
真空管にはベストの電流を流すことが必要であり、ハリのある良い音を得つつ、真空管の寿命を縮めないギリギリの量を見極めることが必要になります。そのため、電圧計を繋ぎ、真空管にどれほどの電圧が掛かっているかを測定しながらの作業となります。バイアスの調整には、調整用のポットを回すだけで良いものや、抵抗ごとを変えなければならないものなど、様々です。

バイアス電圧の値は通常は出荷時点で最適な値にセットされているため、むやみに変える必要はないのですが、真空管を種類ごとまるごと交換する場合などは、新しい真空管にあったバイアス電圧に調節してやる必要があります。また、部品の劣化が考えられるヴィンテージアンプなどは、バイアス回路ごと使い物にならなくなっている場合もあり、回路ごとの交換が必要になるケースもあります。

トランジスタアンプの特徴

トランジスタアンプは別名「ソリッド・ステート」とも呼ばれ、信号の増幅にトランジスタという電子部品を使っているアンプです。真空管アンプのようなメンテナンスは必要無く、故障しない限り半永久的に使い続けることができます。調整できる周波数も幅広く、音作りの幅も真空管アンプより広いです。

真空管アンプは増幅に真空管を使用するため自然な歪みを得ることができますが、トランジスタアンプは一定のポイントを超えると「急激に歪む」のが特徴です。極端に歪ませると耳に痛いサウンドになってしまうので注意しましょう。

モデリングアンプとの違いは?

2000年代以降は音作りの部分をデジタル制御で完了させるモデルが増えてきました。音色をオペアンプや抵抗などで作り上げていた従来のアンプに対して、これらを特に「デジタルアンプ」と呼び、特に既存のアンプを模倣しているものを「モデリングアンプ」と呼びます。これらも増幅にトランジスタを使用することは共通しており、トランジスタアンプのいちカテゴリに含まれると言えるでしょう。

詳しく見る:
《一台で複数のアンプ&エフェクト・サウンドを》モデリング・アンプの魅力

定番・人気のトランジスタアンプ

トランジスタ・アンプヘッド「Randall RG」

Randall RG3003H

Randall(ランドール)はアメリカ発のアンプメーカーですが、メタリカのカーク・ハメットやパンテラに在籍した故ダイムバッグ・ダレルが使用していたことでも有名です。ギターアンプは真空管という神話がついて回る中、ソリッドステートの良質なアンプを多数製造し、特にメタルファンから人気を博しています。

Randallのラインナップのうち、トランジスタアンプの代表的モデルはRGシリーズ。RG1503HとRG3000Hの二種が展開され、それぞれ150W、300Wの大出力。いずれも3チャンネル仕様であり、RG3000Hのほうはノイズゲートを装備します。ダイムバッグ・ダレルの生前の言葉通り、トランジスタならではの速い立ち上がりを持ち、強烈でメタリックな歪みはハードロック・ヘヴィメタル系のプレイヤーにはこの上なく魅力的なサウンドでしょう。

アナログの大出力アンプヘッドには珍しくスピーカーエミュレイテッドアウトを搭載し、簡単にラインレコーディングが可能。家で弾くにはオーバースペック気味ではありますが、チューブアンプのような繊細なメンテナンスが不要というのもあり、ライブでがんがん使うギタリストにこそおすすめできます。

プロファイリングアンプ「Kemper Profiling Amp」

Kemper:POWER HEADKemper:POWER HEAD

Kemper Profiling Ampはアンプという枠で語るのが若干場違いではありますが、パワーアンプ付属のモデルについては、実質アンプヘッドとも呼べる立ち位置にあります。既存のアンプを特殊な技術で完全コピーして自分の中に蓄える「プロファイリング」という機能を持ち、実際に自分の手持ちのアンプや、スタジオでよく使うアンプをKemperの中に取り込んで、同じ音を出すコピーを作り出すことも可能です。世界中のミュージシャンが様々なアンプを取り込んだものがデータとして出回っており、その可能性はほぼ無限とも言えます。

モデリングに限りなく近いものの、厳密にはハードウェアの動きで再現を試みているという点で少し違い、上記に列挙したモデリングアンプの類とはまた違う原理の動作をしています。今はもう手に入らないヴィンテージのアンプなどを簡単に自分のものとできるのもKemperならではの魅力でしょう。

Kemperはたくさんのアンプを持ち運ばねばならないツアーミュージシャンや、簡便に様々なアンプを利用したいレコーディングの現場などから最初に支持されました。600Wの専用パワーアンプを内蔵したモデルはそのままキャビネットに繋ぎ、あらゆるアンプヘッドの代わりを果たします。

未来のギターアンプを手に入れよう!プロファイリングアンプKEMPERについて – Supernice!ギターアンプ

真空管アンプとトランジスタアンプ、どちらを選ぶべき?

自宅練習を中心に考えるなら、扱いやすさや音量調整のしやすさからトランジスタアンプ/モデリングアンプがおすすめです。小音量でもクリアな音を保てるため、マンションや夜間の練習でも安心です。さらにメンテナンス不要で価格も比較的手頃なので、気軽に使える点も魅力といえます。

一方で、ライブや録音で存在感あるサウンドを求めるなら真空管アンプが優位です。倍音を多く含んだ温かみのある音色は、バンド演奏やレコーディングで真価を発揮します。多少のメンテナンスや重量があっても、それを補う表現力を持っています。

初心者や中級者が選ぶ際は、まず「自分がどんな場面で使うのか」を基準にするのが大切です。練習用に手軽なトランジスタを選び、将来的にライブ活動を視野に入れるなら真空管にステップアップする、といった流れが自然な選び方となるでしょう。

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