チャック・ベリー(1926-2017)

[記事公開日]2017/5/31 [最終更新日]2017/8/15
[編集者]神崎聡

チャック・ベリー(Chuck Berry)

チャック・ベリー氏は、「ロール・オーバー・ベートーヴェン」、「スウィート・リトル・シックスティーン」、「ジョニー・B.グッド」など数々のヒット曲で知られるアーティストです。特徴的なフレージングや若者の心を掴む歌詞、ダイナミックなステージングなどでも知られ、「ロックンロールを創造した者を一人に限定することはできないが、最も近い存在はチャック・ベリー」だと言われています。

宇宙探査機ボイジャー1号及び2号(1977年)に搭載された「ゴールデンレコード」には、バッハやベートーヴェン、モーツァルトらの作品に並んで「ジョニー・B・グッド」が収録されました。何万年後になるか分かりませんが、宇宙人が地球のロックンロールを聴くかもしれません。

氏のサウンドはブルースやカントリー、ジャズなど多くの音楽を背景に持つ豊かさがありながらシンプルかつストレートで、数えきれないアーティストに影響を及ぼしました。チャック・ベリー氏とは、どんなギタリストだったのでしょうか。


Johnny B. Goode – Back to the Future (9/10) Movie CLIP (1985) HD
この映画でチャック・ベリー氏を知ったという人も、きっと多いはず。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)」で、「ジョニー・B.グッド」を演奏するマーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス)氏。この演奏をチャック・ベリー氏が聞くことで、ロックンロールが誕生したという設定です。ザ・ビートルズ、ジミ・ヘンドリックス、ザ・ビーチボーイズ、ジューダス・プリーストなど、数えきれないほどのアーティストがこの曲をカバーしています。

チャック・ベリー氏のバイオグラフィー

チャック・ベリー氏は1926年10月18日、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスに生まれます。6歳から教会の合唱団で歌っていましたが、15歳の時に「ただ歌うより、ギターを弾きながら歌った方がウケる」と確信し、ギターを始めます。成人してからは工場で働きながら弾き語りの仕事を始めますが、さらにウケるために、ライブパフォーマンスに磨きをかけていきます。

28歳でデビューして以来、氏の作品は10代の若者層を中心に熱狂的な支持を受けます。破竹の勢いでヒットを飛ばし続け、作品は多くのアーティストにカバーされました。1981年には初めての来日公演を果たし、「ロックの殿堂」が設立された1986年に殿堂入りします。新曲の制作はしばらくお休みでしたが、ライブ活動は精力的に続けており、数々のライブアルバムをリリースしています。

80歳を過ぎてもステージに立っていたチャック・ベリー氏でしたが、2017年3月18日、とうとう90年の生涯を閉じます。老衰による大往生だったそうですが、自身プロデュースの新作をリリースする寸前の訃報に、世界中が涙しました。

ギタープレイの特徴
ロックンロールを作り上げた、チャック・ベリー・スタイル

それではチャック・ベリー氏のスタイルを、いろいろなトピックで見ていきましょう。

世にも有名な、「チャック・ベリーのアレ」

チャック・ベリー氏といえば、「特徴的なイントロ」で知られています。ちょっと実例を見てみましょう。以下に紹介する動画のイントロを聞き比べてみてください。


Chuck Berry – Carol (1959)


Chuck Berry – Johnny B Goode (1959)


Chuck Berry – Little Queenie

多くの曲で「イントロがほとんど同じ」という、なかなか真似のできないスタイルです。よく聞くとそれぞれに違いがありますが、イントロクイズの問題としては「超難問」クラスですね。曲の判別は付かないかもしれませんが、ここまでやることによって「コレが鳴ったらチャック・ベリー」といった印象が強力に植え付けられるというわけです。

パワーコードを主体としたバッキング

チャック・ベリー氏発祥の「パワーコードの高い方の音を動かすバッキングスタイル」は、今やロックンロールの定番となっています。ピアノによるバッキングをギターに転用したものだと言われていますが、別なものをヒントに新しいものを生み出す「頭の柔らかさ」があったんですね。


Chuck Berry And His Combo – Roll Over Beethoven (1956)
この曲も、あのイントロですね。音量が小さくて聞きとりにくいですが、このバッキングスタイルは、この曲が最初だと言われています。ちなみに「パワーコード」という呼び方はこの時代にはなく、「5度コード」や「オミット3rd」などと呼ばれていました。パワーコードとい呼称はYAMAHAの発祥です。

印象的なステージング

チャック・ベリー氏はステージでのパフォーマンスも個性的です。片足で進んでいく「ダック・ウォーク」や「大開脚でじりじり前進」、また「背面弾き」などを駆使し、個性的なライブパフォーマンスで観客を沸かせることに心血を注ぎました。こうした大きなアクションを行う時には、チョーキングを多用した繰り返しフレーズを使用することが多かったようです。得意なフレーズだからでもあるでしょうが、何よりネックを握り込んだまま演奏できるので、パフォーマンスがしやすかったのだと考えられます。


Legendary musician Chuck Berry dies at 90
7秒前後から、有名な「ダック・ウォーク」が見れます。子供のころにこの動作をしたことが家族にウケて以来、氏の持ちネタになったのだとか。

ギターを抱えて、一人で行動

バンドを組んでいたこともあったチャック・ベリー氏ですが、ある時期から一人での活動を始めました。ギャラを山分けするのがイヤだったようで、メンバーはおろかローディーすら連れて行くことがありませんでした。ギターと手荷物だけを持って移動し、行く先々でバックバンドを現地調達していたと伝えられていますが、来日公演ですら一人だったそうで、これに対するこだわりは徹底していました。

チャック・ベリー氏が演奏活動を始めたころにはロック系を専門とするプレイヤーなんていませんから、バックバンドにはジャズミュージシャンが起用されるのが普通でした。ノリノリの8ビートで演奏して歌うチャック・ベリー氏のバックを、ジャズミュージシャンによるゴキゲンなスウィングが務めるというバンドアンサンブルは、現代の常識ではほぼ考えられないサウンドです。しかし、だからこそ逆にこれを再現しようと思ったら、かなり大変です。


Chuck Berry – Rock and Roll Music (1958)
ギターとヴォーカルは8ビートなのに、ベースとピアノが思いっきりスウィングしているのが分かるでしょうか。それでいてしっかり成立している絶妙なアンサンブルですが、晩年の演奏ではこうしたグルーヴを聞くことができないことから、この「ちぐはぐ」とも言えるノリにこだわりがあったわけではなく「バックのミュージシャンに任せたら、こうなっちゃった」というものだったようです。

「ダブル・ストップ」、「反復フレーズ」と弾きにくいキー

チャック・ベリー氏のギタープレイでは、「ダブル・ストップ(「ドとミ」のように、二つの音を同時に慣らす)」が多用されます。ギターソロにおいては、曲によっては単音弾きの方が少ないのではないかと思えるほどです。また、同一もしくは同じようなフレーズを執拗に繰り返す「反復フレーズ」も多用します。反復フレーズはメロディよりもノリを重視したフレーズであり、演奏者のグルーヴ感が試されます。氏の反復フレーズはいつも強力なノリを発していて、尋常でないグルーヴを感じることができます。


Chuck Berry – Maybellene (1955)
「シカゴ・ブルースのボス」との呼び声高いマディ・ウォーターズ氏が、自身の契約しているレーベル「チェス・レコード」を紹介したことで、チャック・ベリー氏はデビューします。デビューシングル「メイベリーン」はカントリー調のブルースナンバーですが、1分5秒以降のギターソロ冒頭から、チョーキングを絡めた反復フレーズが出てきます。1分18秒以降はダブル・ストップ中心のプレイですね。

また、自身がギタリストであるにもかかわらず、敢えて「Bb」や「Eb」といった「ギタリスト泣かせ」のキーを選択して作曲していました。この「メイベルリーン」もBbで演奏されています。こうしたキーはロック系のミュージシャンが苦手とするものですが、同時にジャズのミュージシャンが得意とするキーでもあります。チャック・ベリー氏はバックバンドにジャズのミュージシャンを起用することが多かったので、バックバンドが力量を発揮できるキーを選んだのかもしれませんね。

使用ギターは、「箱モノ」が基本

若かりし頃にES-350(フルアコ)を使用しており、ベスト版のジャケットにもなっています。70年代以降はもっぱらES-335やES-345、ES-355(セミアコ)を愛用しています。セミアコに移行したのは、ボディが薄くてステージ上で動きやすかったからではないかと言われています。もっぱらギブソン派のイメージが濃厚なチャック・ベリー氏ですが、グレッチやフェンダー・テレキャスターなどを使用することも多少はありました。

ギター本体こそ持ち歩いていましたが、さすがにアンプまでは持ち運んでいませんでした。そのためギターアンプは現地調達していたようで、いろいろなものを使用しています。アンプについてはこだわりがなかった、というより、持っていけないからこだわりようがなかった、というのが正解のようです。

チャック・ベリー関連作品

【CD】ベスト・オブ・チャック・ベリー

チャック・ベリー氏といえば、これ!と断言できる定番中の定番。ダック・ウォークの構えが印象的なジャケットが目印です。デビューから1960年代までのヒット曲を28曲、一枚のCDに収めています。この時代では、1曲あたり3分以内というのが普通でした。

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【CD】CHUCK(チャック~ロックンロールよ、永遠に。)

38年ぶりの新作にして遺作。永年バックバンドを続けてきたメンバーに支えられた暖かい作品になっていますが、ご子息のチャールズ・ベリーJr.氏(ギター)と孫のチャールズ3世(ギター)も交えた、三世代による共演が楽しめます。

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【書籍】チャックベリー 自伝

服役中に大部分を執筆したと伝えられる、チャック・ベリー氏の半生。生い立ちや作曲法など、自身に関する様々なトピックが語られますが、大真面目に大ウソをついている記述があるなど、真実を赤裸々につづったものではないようです。しかしだからこそ、ロックンロールの巨星「チャック・ベリー」の作品として、ロックンロールを語る上で欠かすことのできない文献となっています。

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【ドキュメンタリー】ヘイル!ヘイル!ロックンロール

1986年に開催された「60歳バースデイ・コンサート」を中心に、インタヴューやリハーサル風景などを盛り込んだドキュメンタリー映画。還暦を祝うために駆け付けたトップアーティストたちとの共演が楽しめる内容ですが、「若かりし頃に騙されて大損した経験から、カネにがめつい性格になった」と言われるチャック・ベリー氏の別な一面も見ることができます。

ヘイル!ヘイル!ロックンロールを…
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