《プログレッシブ英国紳士》ロバート・フリップ(Robert Fripp)

[記事公開日]2022/2/7 [最終更新日]2022/3/17
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ロバート・フリップ(Robert Fripp)

エレキギターを持った大学教授といった風貌ながら、へヴィ・メタルやプログレッシブ・ロックなど実験音楽の元祖でもあったKing Crimson(キング・クリムゾン)のギタリストでリーダー、その人がロバート・フリップ(Robert Fripp)です。キング・クリムゾンは、当時チャート一位の常連だったビートルズを唯一引きずり下ろしたバンドとまで言われ、へヴィなロック、テンションコード、ポリリズムなどを取り入れた実験的な音楽はサイケデリック音楽全盛だったヒッピー世代のコアな音楽ファンに新しい音楽を提示しました。

キング・クリムゾンのリーダーである彼は時に強権的なまでのリーダーシップを執ることがあり、キング・クリムゾンのアルバムはすべて異なるメンバーによって録音されています。ですので実質ロバート・フリップの精神世界の進化の歴史と言われたりします。


King Crimson Live at the Warfield Theatre 1995
ドラマーと同じ後段で座って弾いているのがロバート・フリップ氏

Biography

1946年5月16日 生 英ドーセット ウィンボーン・ミンスター
音感もリズム感もなかったと伝えられますが、10歳のクリスマスでギターを手に入れた瞬間、ギターが自分の人生になると悟ります。レッスンに通って11歳でカントリー/ロックンロールを、13歳で伝統的なジャズを、15歳でモダン・ジャズを学びます。ご自身は左利きでしたが、右利きでの演奏を選択しました。カントリー/ブルーグラスの「クロスピッキング」に特に興味を持ち、技術開発の末に得意技とします。
15歳でジャズのバンドを始めましたが勉学もおろそかにせず、大学では経済学、経済史、政治史の成績が「A」でした。
21歳の時に参加したバンドでアルバムをリリースしますが、音楽性の違いからすぐ解散します。そのバンドの気が合うメンバーで立ちあげたのが、キング・クリムゾンです。

キングクリムゾンの歩み

1969年(当時23歳)に発表されたデビューアルバム「The Court of the Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)」は大成功をおさめ、後に続くプログレッシブロック・ムーブメントに強い影響を及ぼしました。しかしその後の活動は波乱の連続で、アルバムのツアーが終わればいったん解散、次のアルバムでは必ず人事異動あり、の繰り返しでした。キング・クリムゾンは現在に至る半世紀のキャリアでロバート・フリップ氏の主導のもと、さまざまな編成、またさまざまなスタイルの音楽を発表しています。

  • デビュー~1970年代前半:プログレッシブ・ロック形成期。管弦楽やキーボードなども使用する、ジャズ的なサウンドを持つ。メンバーには詩人もいた。バンド史上最も攻めた、実験性に富む音楽性。
  • 1980年代前半:通称ディシプリン期。ギター/ベース/ドラムのみの編成となり、ニュー・ウェイヴの時代に沿ったギター・ロックを展開。
  • 1990年代中半 – 2000年代中半:独自のプログレッシブ・メタル「ヌーヴォメタル」を展開して「メタル・クリムゾン」と呼ばれる。
  • 2010年代中半以降:ライブに特化する。「ダブルトリオ」や「トリプルドラム」など個性的な編成が特徴。


King Crimson, ’21st Century Schizoid Man’ live in Hyde Park, 1969
非常に資料価値の高い1969年当時のハイドパークでのライブの模様

ギター・プレイの特徴

英国紳士のたたずまいで、緻密で正確な演奏


King Crimson – FraKctured (Live in Bonn, Germany 2000)
2000年代は、吹奏楽やキーボードを排した「ヌーヴォメタル (Nuovo Metal)」を自称するヘヴィなサウンドが特徴です。この演目では、フリップ氏の正確無比な高速アルペジオと鬼のようなマシンガンピッキングの両方が、しっかり確認できます。

ロバート・フリップ氏のプレイスタイルは、他に類を見ないほど独特です。胸を張ったとても良い姿勢で腰かけて演奏する上、顔で弾いたり身をよじったりといったステージアクションはほぼ皆無。キチっとしたファッションも含め、その姿は上品で教養があり礼儀正しい、英国紳士そのものです。
今なお1日2時間は練習すると伝えられ、その甲斐もあってプレイは緻密かつ正確です。多くのロックギタリストがブルースを背景とした情熱的な演奏を得意とするのに対し、フリップ氏はジャズやクラシックを背景とした理知的な演奏が主体です。

自由闊達なアドリブとスリリングな高速ユニゾン


King Crimson – 21st Century Schizoid Man
キング・クリムゾンを象徴する名曲中の名曲。「21世紀の精神異常者」という邦題は、レコード制作基準倫理委員会(レコ倫)基準の改定により「21世紀のスキッツォイド・マン」へと改められています。
2010年代中頃は、ご覧の通りの「トリプルドラム期」と呼ばれています。フリップ氏のアドリブは2:30あたりから。泣く子も黙る高速ユニゾンは8:00あたりから。

フリップ氏のアドリブはジャズの方法論に寄っている印象ですが、メロディアスなプレイには時としてスケールを思いきりアウトした音が放り込まれ、恐ろしい速弾きや景気の良い大技も盛り込んでくる、自由闊達(かったつ)な内容です。ジェントルマンの装いからは想像できない攻めたアドリブに、ファンはただ酔いしれます。
一人で演奏するだけでも困難な、危険な高速ユニゾンを多用するのも特徴と言えるでしょう。これをライブで平然とやってのけるバンドメンバーの頑張りには、敬服するばかりです。

機材を使い倒す、独自の音像


The Robert Fripp String Quintet
エフェクターを駆使した、ギター1本の演奏だけでできているとは到底思えない壮大なサウンド。これが「サウンドスケープ」です。コレを10分間たっぷり聞かせた後、涼しい顔でエグい高速アルペジオが始まります。そもそも、レスポールでどうやったらそんな音が出せるのか。

機材を駆使して新しい音をつむぎだす研究についても、フリップ氏は余念がありません。旧「フリッパートロニクス」、現在では「サウンドスケープ」と呼ばれる演奏は、ギター1本で次々とループを繰り出し、壮大な風景を描きます。フリップ氏はサウンドスケープ専用に複数のマルチエフェクターを配置、それぞれのアウトプットレベルを足元で操作します。ループを作っている時のアウトプットを切ることもあり、演奏者の動きと出ている音が一致していないかのような、不思議な演奏になります。

ニュー・スタンダード・チューニング


Toyah And Robert’s – Sunday Lunch Basket Case
チューニングが特殊なため、指の運びがかなり独特なのが確認できますね。
2020年、世界的な流行病で暗く沈んだ世の中に笑顔を取り戻すべく、奥様のトーヤ・ウィルコックス女史は嫌がるフリップ氏を強引に引きずり出し、おふざけの動画を公開します。全てのファンから気難しい朴念仁(ぼくねんじん)と硬く信じられてきたフリップ氏が、バレエの衣装で「白鳥の湖」を踊るだなんて、いったい誰が想像し得たでしょうか。動画は衝撃を以てバズり、それ以後ご夫婦は次々と動画をアップします。初めは仕方なく付き合っていた感じのフリップ氏も次第にまんざらでもない感じに、そして現在では完全にふっ切れて、ノリノリで出演しています。

フリップ氏の使う「ニュー・スタンダード・チューニング(NST)」は、1983年9月にご自身が発明した変則チューニングです。以後すべてをコレで弾くことを決心したフリップ氏は、それ以前にリリースしたキング・クリムゾンの演目をNSTで演奏するため鬼のように練習したと伝えられます。
6弦から順にC、G、D、A、E、Gで、4弦の「D」はノーマルチューニングと同じ、2弦の「E」はノーマルチューニングの1弦と同じで、ノーマルチューニングに比べて上にも下にも音域が拡大されています。開放弦でCメジャーペンタトニックスケールの構成音を網羅しているのが面白いところです。また6弦から2弦までは完全5度チューニングになっているため、どのポジションでも指一本でパワーコードが奏でられるほか、ヴァイオリンやチェロ、マンドリンの運指が使えます。
なお、フリップ氏ご使用のゲージは、1弦から0.010、0.012、0.016、0.024、0.038、0.052です。

ロバート・フリップの使用機材

使用エレキギター

ギブソンフェルナンデスTOKAIなどのメーカーのレスポール・タイプのエレキギターを好んで使用していました。他にもローランドのギター・シンセサイザーを使用しています。


King Crimson – Heroes (Live in Berlin 2016)
キング・クリムゾンにしては珍しく短い、そして伝わりやすい曲調。この曲でフリップ氏の奏でる超ロングトーンは、サスティナーあってのものです。

キング・クリムゾン立ち上げ当初は、1959年製ギブソン「レスポール・カスタム」を、メインとサブで2本使っていました。TOKAIは1980年代から、フェルナンデスは1990年代から使用していますが、このほかいろいろなメーカーのレスポール・タイプをご使用です。
現在使用するギターはどれもケーラー社製トレモロシステム、GKシンセドライバー、そしてサスティナーを搭載しています。

MR.ZOGS「SEX WAX」6X-BLU:TROPICAL(夏用)

SEX WAX

MR.ZOGS「SEX WAX」は、1970年代の発表以来、世界中のサーファーに愛され続けているボードワックスです。白濁色のやや粘り気のある半練りタイプで、粘着力とグリップ力、持続性に優れます。フロップ氏はこのワックスを、ピックの滑り止めに使用しています。

使用ギター・アンプ/エフェクター

ロバート・フリップ氏と言えば、巨大なラックシステムの前に座って、足元にはずらりとペダル、という演奏スタイルです。そのラックの中身は時代と共にアップデートを繰り返しており、現在はデジタル機器で占められています。
ラックの中にはまずFractal Audio Systems社製ギタープロセッサー「Axe-Fx II XL」が2台(1台は代打)、そこからEVENTIDE社製マルチエフェクター「ECLIPSE」、EVENTIDE社製ウルトラハーモナイザー「MODEL H3500」、ループ演奏用に2台のEVENTIDE社製「H8000」と、好きな人ならよだれが止まらないハイエンドな機材がひしめき合います。
足元はエフェクター切替用のフットスイッチ、Rolandギターシンセサイザー「GR-1」とワーミーのほか、ワウ、リバーブ/ディレイそれぞれのボリュームペダル、メインのボリュームペダルに加えてサウンドスケープ用のボリュームペダルなどが弧を描いて整列します。

ロバート・フリップのDiscography

「In the Court of the Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)」/King Crimson

In the Court of the Crimson King

全ての音楽ファンに衝撃を与えた「21世紀の精神異常者」で幕開けます。ロック・へヴィメタル・ジャズ・プログレ・フォーク等様々な音楽が渾然となったKing Crimsonの一枚目にしてプログレの最高傑作と呼んでも過言ではない一枚です。
ブルースを背景とした当時の流行とは対照的に、このアルバムでは古代と現代をブレンドした、よりヨーロッパ的なアプローチが取られています。そのあまりの完成度と評価の高さから、ビートルズの「Aby Road」をチャート一位から引き摺り下ろしたという都市伝説までできました。
1969年リリース作品

「ラディカル・アクション〜ライヴ・イン・ジャパン+モア(Radical Action to Unseat the Hold of Monkey Mind)」/King Crimson

Radical Action to Unseat the Hold of Monkey Mind

2015年のワールドツアーにおける日本、カナダ、フランスでの演奏を収録した、トリプルドラム編成でのライブ版。演目のほとんどが1969年から1974年の、最も攻めた実験性に富む時代のものです。
CD3枚とブルーレイ1枚というボリュームで円熟した達人の演奏を楽しむことができる、お腹一杯になれる作品。
2016年リリース作品

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