フェンダー初のセミアコ「Starcaster(スターキャスター)」について

[記事公開日]2019/12/9 [最終更新日]2022/4/5
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Fender Starcaster Guitar

「フェンダー・スターキャスター」は、1970年代にギブソンのヒット作ES-335に対抗する形で発表された、フェンダー初となるセミアコースティックギターです。製造開始時期は1974年とも1975年とも言われていますが、セールスは振るわず数年で廃盤になりました。生産本数も少なくレアな存在でしたが、あまりにも不人気だったためヴィンテージ市場でも注目される事は永らくありませんでした。ところが2000年代に入りビザール(珍しいデザインの古いギター)の人気ががじわじわと盛り上がり、またジョニー・グリーンウッド氏(Jonny Greenwood:レディオヘッド)が使用した事により再評価され、ヴィンテージ市場でも注目されるようになりました。この状況を受け、2014年にModern Player Seriesとしてスターキャスターの再生産がコロナドと共に開始されました。

Radiohead – The Tourist – Youtube:「軽いから」という理由でメインはテレキャスターだと言いますが、スターキャスターにしたのも中空で軽いからだったのでしょうか?

オリジナル・スターキャスターの特徴

同一ブランドのものでも、当時生産されたものを「オリジナル」、後になって再生産されたものを「復刻版」または「リイシュー」と呼んで区別します。ここでは70年代に生産されたオリジナルの特徴について紹介します。

fender-original-starcaster 1975 Fender Starcaster:引用元 Garys Classic Guitars & Vintage Guitars

スターキャスターは、「セミアコ」というギブソンの土俵上でありながら、あまりフェンダー的ではなかったコロナドが不評だった反省からか、あくまでもフェンダーのスタイルを固持していました。

オフセット・ウェスト:非対称なくびれが「セクシーだ」と表現されるボディは、ジャズマスターやジャズベースにも見られるフェンダー特有のデザインです。
メイプル1ピースネック:指板とネックが一体化した構造は、フェンダーにしかないものでした。またロングスケールで22フレットというネックは、フェンダーではスターキャスターが初めてだと言われています。
ボルトオンジョイント:コロナドに続き、アーチトップでまさかのボルトオンジョイントを採用。
裏通しの固定式ブリッジ:弦をボディ裏から通すのはストラトやテレキャス、またシンラインでも当たり前の仕様ですが、アーチトップでこれをやってしまうのは後にも先にもこのスターキャスターだけです。

70年代という時代を反映した仕様も特徴です。

バレット・トラスロッドナット:ヘッド側に突出した弾丸状のトラスロッド。
3点止め:ネックの仕込み角度を調整するための「マイクロティルト」が組み込まれたネックジョイント。

また、これまでにない新しい要素も投入しています。

新デザインのヘッド形状:新しさを演出するため、独特なシェイプのヘッドデザインが採用されていますが、これにはトリニ・ロペスモデルES-335で「片側6連ヘッド」のデザインを真似された当てつけに、スターキャスターでギブソン・ファイヤーバードのヘッドを真似したのだという説があります。
独特の電気系:テレキャスター・カスタムなどで採用されている「ワイドレンジ・ハムバッカー」を2基搭載、ギブソン系のハムバッカーと事なりトレブル成分が豊かに響くように設計されています。それぞれのピックアップにトーンとボリュームがついているのはギブソンに似ていますが、マスター・ボリュームが追加されている所が大きなポイントになっています。これはグレッチに特有の回路で、先輩モデルのコロナドに続いてグレッチ的な要素が含まれています。
ボディ形状に合わせたFホールの配置:オフセットウェスト・ボディ形状にあわせて、Fホールは左右でずれた位置に刻まれています。コロナドではブリッジの位置と無関係な配置にFホールがありましたが、スターキャスターでは両側の「F」の横線がブリッジの位置を貫くように配置されています。

オリジナル・スターキャスターのサウンド

有名なギタリストでスターキャスターを弾いていたのはミーターズのレオ・ノセンテリくらいで、ほかにはなかなか資料が得られません。楽器の構造、ピックアップの設計共に立ち上がりがシャープでタイトなトーンが得られるようになっており、それでいてホロウボディに由来する柔らかさが加わっている、というバランスになっているようです。

The Meters – Cissy Strut – Youtube
この曲は「ファンク古典」の一つと言われています。

あのスターキャスターが、スクワイアで復刻!

Starcaster:ヘッド

いちどフェンダーから復刻されたスターキャスターですが、2019年のNAMMショウにて姉妹ブランド「スクワイア」でふたたび復刻されることが発表されました。スクワイア版のスターキャスターは、

  • CLASSIC VIBE(クラシック・ヴァイブ):名機の仕様を可能な限り再現
  • CONTEMPORARY (コンテンポラリー):現代的なアレンジを施す
  • AFFINITY SERIES(アフィニティー・シリーズ):シンプルでお求めやすい

という3つのシリーズから、それぞれ1モデルずつリリースされています。オフセットウェストのボディ形状、ボディ/ネック/指板まですべてメイプル、ボルトオンジョイント採用、といった仕様はいかにもフェンダー系らしい設計です。3kgをわずかに上回る程度に抑えられた本体重量も魅力の一つです。それでは、それぞれについて見ていきましょう。

Classic Vibe Starcaster

Classic Vibe Starcaster

ヴィンテージ・ギターの仕様をできるだけ再現する「クラシック・ヴァイブ」ですが、スターキャスターにおいてはかつてフェンダーで復刻された仕様(後述)を再現しています。音の太さときらびやかさを共存させる「ワイドレンジハムバッカー」を備えつつ、

  • ボディ:トップ&バック共にグラマラスなアーチ状
  • ネックジョイント:17フレット接続、4点留め
  • ブリッジ:アジャストマチック&アンカード・テールピース(TOMタイプ)
  • 操作系:2V2T、3Wayセレクター

といった現代的なアレンジを引き継いでいます。オリジナル・スターキャスターのボディは「トップが緩やかなアーチ、バックはフラット」となっていたところ、フェンダー復刻版で「表裏ともにアーチ」になり、よりセミアコらしいギターとなりました。ピックガードをボディ側から支えるパーツ(ブラケット)の固定ネジが2本、というところはマニア心をくすぐるポイントです。

Classic Vibe Starcaster:ボディ

アレンジされた仕様の中では特に、「17フレット接続」というところに注目すべきでしょう。現代のスターキャスターは17フレット地点からボディに接続されています。ES-335を筆頭とするオーソドックスなセミアコは「19~20フレット接続」が基本ですから、スターキャスターは2フレットぶん、ボディから延びるネックが短いことになります。これはつまりヘッド部分がプレイヤーに近くなる、オープンコードなど開放弦近辺を弾く際に腕がちょっとラクになる、ということを意味します。丸みを帯びた指板R(9.5″)はコードを押さえるのに有利ということもあり、ローポジションを弾くことが多かったり、ギターボーカルなどで歌いながらコードを弾くことが多かったりする人には、特に試してみてほしい仕様です。

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Contemporary Active Starcaster

Contemporary Active Starcaster

バリバリの現代版を標榜する「コンテンポラリー」シリーズからは、まさかのアクティブ・ピックアップを備え、また現代的な平たい指板R(12″)に設定された、ロック系~ヘヴィ・ミュージックまでカバーできるスターキャスターがリリースされました。
17フレット接続、4点留め、TOMタイプブリッジといった主な仕様は「クラシック・ヴァイブ」と同様ですが、ピックガードは非採用です。このほか「アイスブルー・メタリック」「サーフ・パール」「フラット・ブラック」という精悍なカラーリングは、ヘッドの段差部分とマッチングされているところがルックス上の大きなポイントです。

Contemporary Active Starcaster:ボディ

オリジナル・アクティブ・ピックアップ「SQR」ハムバッカーはセラミック磁石を使用しており、オーバードライブ/ディストーションサウンドと特に相性の良い設計です。通常ならボディトップに刻まれていたFホールを排したことでハウリングに強く、しっかり歪ませても大丈夫です。また、Fホールが無いことを利用してボリュームトトーンが弦よりやや離れた位置に設置されており、操作しようと思えば手が届き、しかし演奏の邪魔になりにくくなっています。
3モデル発表されたスターキャスターの中で唯一、このアクティブ・スターキャスターのみボディ・バックがフラットになり、電気系や電池を出し入れする孔が開けられています。

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Affinity Series Starcaster

Affinity Series Starcaster

圧倒的なコストパフォーマンスに「近親感(affinity)」を覚えさせる「アフィニティ・シリーズ」からは、シンプルにまとめたスターキャスターがリリースされています。楽器の形状や寸法は先述「クラシック・ヴァイブ」を引き継ぎつつ、ピックガードを排し、ピックアップはその名も「スタンダード・ハムバッカー」を2基備え、操作系はボリューム&トーンが各1基と3Wayセレクター、というシンプルさです。オープンタイプの普通のハムバッカーが備わっていることから、比較的オーソドックスなセミアコながら、ロック方向にもしっかり挑戦できるギターとして使用することができます。

Affinity Series Starcaster:ボディ

また密かな特徴として、ボリュームとトーンがFホールを避けて設置されることもあって、特にボリュームがブリッジのすぐ近くに設置されています。触りたいときのアクセスが容易であり、かつ演奏に邪魔にならない絶妙な位置です。

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復刻版スターキャスターの特徴生産完了

復刻版スターキャスター

Modern Player Seriesは「かつての名器を現代的なアレンジを加えてリリースする」というコンセプトのラインナップです。復刻されたスターキャスターも、オリジナルの仕様から大きなアレンジが加えられています。

継承されている基本仕様:ボディシェイプとセミホロウ構造、ネイプル1ピースネック、象徴的なヘッド形状などルックス上の大まかな仕様はそのまま継承しています。またワイドレンジハムバッカーもそのままで、トレブルが豊かに響くトーンになっています。ギブソンESシリーズに酷似しているピックガードもそのままですが、このピックガードをボディ側から支えるパーツ(ブラケット)の固定ネジが、1本(ギブソンの基本仕様)ではなく2本になっているところもオリジナルと同様です。

現代的な仕様:70年代の仕様であった「バレット・トラスロッドナット」は廃止されシンプルな穴に、またマイクロティルトの仕込まれた3点止めジョイントもスタンダードな4点止めになっています。フレットには弾きやすいミディアムジャンボが採用されています。

現代のプレイスタイルを意識した仕様変更:マスターボリュームが廃止され、2ボリューム2トーン、トグルスイッチというシンプルな操作系にまとめられています。また、ブリッジはハードテイルからチューン・O・マチックに変更されており、ギブソン的なフィーリングが色味を増しています。またソフトケースに入る全長を考慮してか、ネックがオリジナルよりも2フレットほど深く挿入されており、Fホールとブリッジとの関係など外観の印象に若干の違いが出ています。

まさかの新製品:オリジナルではベースのラインナップがありませんでしたが、スターキャスター復刻に際して新たにベース版のスターキャスターがリリースされています。セミアコ、ボルトオン、ワイドレンジハムバッカーなどスターキャスターの基本構造を継承した新しいベースになっています。

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