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ジェイコブ・ザイテッキ(Jakub Zytecki)氏は、卓越した演奏技術と類稀な作曲の両面で支持される達人ギタリストです。10代からバンドでメジャーデビュー、他アーティストの作品に客演するなどジェント(Djent)シーンで大いに活躍したのちソロに転向、現在では音楽性に縛られないプログレッシブなサウンドを発信しています。今回はこの知る人ぞ知る若き達人、ジェイコブ・ザイテッキ氏に注目していきましょう。
Jakub Zytecki : Sunflower
SNSでは34,000人以上のフォロアーを得ているザイデッキ氏。高速アルペジオフレーズにたびたび挿しこまれるハーモニクス。氏の放つ澄んだ音には、メタルファンすら満足させる強烈さがあります。
ジェイコブ・ザイテッキ氏は1993年、ポーランドに生まれます。クラシックギターのレッスンを受けたこともありましたが、12歳でエレキギターを手に入れ、他の存在を全て忘れてしまうレベルでのめり込んでいきます。ジョン・ペトルーシ氏(Dream Theater在籍)に心酔してメキメキと腕を上げ、15歳で本格的なバンドを率います。
Jakub Żytecki Guitar Improvisation 2
17歳のアドリブとはとても思えない演奏内容は、往年のスーパーギタリストへのリスペクトが感じられる、こっち系の王道そのものと言って良い。
氏をリーダーとして2007年(当時15歳)結成されたバンド「DispersE(ディスパーズ)」はDjent(ジェント)を取り入れたプログレッシブメタルを持ち味とし、2008年にデモ音源をレコーディング、その翌年にはツアーに出立、さらにその翌年にはアルバム「Journey Through the Hidden Gardens(2010)」でメジャーデビューを果たします。
Disperse – Enigma of Abode
2ndアルバム「Living Mirrors (2013)」より。まさにDjentど真ん中のサウンドで、ハイゲインなディストーションサウンドとスペイシーなアンビエント系サウンドを巧妙に使い分けている。
ザイデッキ氏はDispersEを率いながら、自己の音楽的アイデンティティを可能な限り探し続け、多くのアーティストの作品に客演、1日27時間練習しようともしました。氏のプレイは特にメタル界隈で評判となり、大物アーティストを含む数々のプロジェクトで演奏しました。
Polyphia – The Jungle (feat. Jakub Zytecki of Disperse)
デビューアルバム「Muse(2014)」より。ツインギターのバンドにギターで客演しており、今まさに誰が弾いているのかは余程のファンでなければ判別できないっぽい。
ザイデッキ氏の音楽への探求心はバンドの枠に収まらず、DispersEと並行してソロでの活動も始めています。1stソロアルバム「Wishful Lotus Proof(2015)」はDispersE所属ギタリストとしてのリリースであり、ミーシャ・マンスール氏(Periphery所属)やプリニ氏らジェントルマンとのコラボもあって、Djentの要素が色濃く反映されていました。
Jakub Zytecki : Satya’s Diary
1stソロ「Wishful Lotus Proof(2015)」より。デスボイスのシンガーを起用した、DispersEとはまた路線の違うDjentのサウンドを構築している。
ところがDispersEの3rd「foreword」もリリースした2017年、相次いで発表した2枚のEP「Feather Bed」と「Ladder Head」で、ザイデッキ氏はプログレッシブ・ロックへと路線変更します。メタルのセオリーから解放されたザイデッキ氏は、その卓越した演奏技術をより自由な音楽表現に活用しています。
Jakub Zytecki : Lovetape
ソロEP「Ladder Head(2017)」より。ギターのゲインはぐっと下がり、コード分解系のフレーズが和音の響きやピッキングのニュアンスによって生命を得たかのように飛んでくる。
若き日のザイデッキ氏は、ジョン・ペトルーシ氏を第一のヒーローに掲げ、スティーブ・ルカサー氏、エリック・ジョンソン氏、アラン・ホールズワース氏ら達人プレイヤーを追いかけました。しかしやがて技巧を前面に打ち出す音楽に魅力を感じなくなり、現在ではギター中心の音楽をあまり聴かなくなっています。その代わり音楽に技巧よりもメッセージ性を求めるようになり、ポップスやエレクトロニカのアーティストやプロデューサーとのコラボレーションを模索しています。氏のライブ映像から、プレイスタイルの片鱗を探ってみましょう。
「Opened」from「Jakub Zytecki Full Live Performance (2020)」
この演目ではテーブルに配置したPCやサンプラーを使い、スペイシーなアンビエントを作っています。テーマのメロディは、目の醒めるような高速アルペジオです。トリッキーな特殊奏法に頼るわけではありませんが、とにかく速く、そして高低差の大きな演奏です。
「Good I Bad Me 」 from「Jakub Zytecki Full Live Performance (2020)」
こちらは高速アルペジオのリフにナチュラルハーモニクスを放り込む荒業。音だけ聞いていたら、本当に一人で弾いているとは信じられません。またこの演目はどんどんと展開していきますが、一貫してファンク系のグルーヴを基調としています。
「Yesterdead 」from「Jakub Zytecki Full Live Performance (2020)」
広がりを感じさせるアンビエントに溶け込むかのように、ディレイとリバーブを駆使した演目。キレイに減衰するクリーン/クランチ系のサウンドなればこその、効果的な演出です。ちょっとゲインを増したサウンドではしっかりリバーブを抑えるという、キメの細かい音色切替もしています。
演奏は極めてテクニカルではありますが、すべての音符は慎重に配置されており、繰り出される技巧の必然性を感じさせます。
「Light a Fire (fight a liar)」from「Jakub Zytecki Full Live Performance (2020)」
演目によってはこのように甘いヴォーカルを披露します。歌唱を聴かせるというより、言語でメッセージを伝えることによる音楽表現を行なっているようです。この演目は静かな雰囲気で始まりますが、そこからじわじわと盛り上げ、強力なグルーヴへと発展します。
ポーランド出身のザイデッキ氏は現在、同じくポーランドのギターメーカー「Mayones(メイワンズ)」のギターをご愛用です。過去にはIbanezやErnie Ball Music Manなどを愛用し、7弦ギターを使用することもありました。
ザイデッキ氏の名を冠するシグネイチャーモデル「Legend JZi 6(Legend Jakub Żytecki Inspiration)」は、メイワンズの定番機種「Legend」をベースに、錆びた金属を模した特殊カラーを施した、シンプルながら個性的なギターです。メイプル&マホガニーのボディにヘッド角付きの多層ネックをセットインした本体に、TLタイプのフロント&PAFタイプのリアという変則的なSH配列のピックアップを備えます。ミニスイッチに関して公式な情報はありませんが、コイルタップ起動スイッチであろうと推測されます。
フロントのセイモア・ダンカン「STK-T1N (Tele Vintage Stack)」は、クラシックなテレキャスターサウンドがノイズレスで手に入る、二重コイル構造のシングルコイルです。リアにダイレクトマウントされるベアナックル「The Mule」は59年製PAFを基調に、現代の機材との相性を意識して調整したハムバッカーです。いずれもヴィンテージ・トーンを意識しながら、現代的なアレンジで利便性を高めています。
「Caught in a Cloud」 from 「Jakub Zytecki Full Live Performance (2020)」
こちらのJMタイプはシンクロナイズド・トレモロユニットを搭載する以外「Legend JZi 6」とほぼ同じ仕様のようです。このボディ形状は、現在のメイワンズのラインナップにはない特別仕様です。
2020年の配信ライブでは特定のギターアンプに頼らず、ギターサウンドの全てをLINE 6「HELIX FLOOR(ヒーリックス・フロア)」で管理していたようです。ザイデッキ氏の公式ウェブストアでは、ライブアルバム「「2020(Live)」で使用したプリセットが「LINE 6 HELIX PRESETS」として10ユーロでダウンロード販売されています。
Line 6 HELIX – Supernice!エフェクター
ザイデッキ氏はこれまで、自ら率いたバンド「DispersE」として「Journey Through the Hidden Gardens (2010)」、「Living Mirrors(2013)」、「foreword(2017)」の3枚をリリースしています。
またソロ名義ではDispersEの路線で「Wishful Lotus Proof(2015)」をリリースしたのち、2017年に路線変更した2枚のEP「Feather Bed」と「Ladder Head」を、そして現在音スタイルを完成させた「Nothing Lasts, Nothing’s Lost(2019)」を発表、2017年以降のソロの演目を中心とした配信ライブの内容をそのまま収録した「Live 2020(2020)」をリリースしています。
「序文(Foreword)」というタイトルながら、恐らくDispersEのラストアルバム。キレイ系Djentとして支持を集めた同バンドの集大成とも言うべき仕上がりで、メタルを基調としながら子どもたちの合唱団や電気的なボイスエフェクトなど、柔軟で幅の広い音楽表現がみどころです。とはいえザイデッキ氏が路線変更を遂げた年の作品であることもあって、聴く人によってはメタルではなくプログレッシブ・ロックのサウンドに聞こえるかもしれません。
2枚目のソロアルバムではありますが、脱メタルにより自らのアイデンティティを屹立させた、実質的なソロデビューアルバム。ゲインを抑えたエレガントなギターの音色が、雨あられと降り注ぎます。ギタープレイ自体は恐ろしくプログレッシブでありながら、全編を通して明るくさわやかなエッセンスに満ちており、決して「技巧の見せびらかし」という印象を受けません。技術の高さと音色の美しさはウェットなリバーブ感も手伝い、「飲み込んだことに気付かないほど滑らかな水」と表現されました。
Creature Comfort
脱メタルしたものの「魂までは脱メタルしていない」ということがわかる、静かなる演目。この曲でギターソロを弾いているのは何と、元祖Djent「MESHUGGAH(メシュガー)」の中心人物、フレドリック・トーデンタル氏その人です。
ソロとしてツアーに出るはずだった2020年、その代わりとしてアルバムを制作しようとしてもなかなか曲ができない苦しみを、ザイデッキ氏は味わいます。社会混乱の中で、ネットと自分との関係やネットが社会に及ぼす影響に不安を感じ、数か月の間デジタル機器から遠ざかった暮らしを送ったこともあります。その後、かつては当たり前だった「普通」という感覚を取り戻すべく、仕込みに1ヶ月以上を要したライブ配信の内容を収めたアルバムが「LIVE 2020」です。特に支持の厚い演目「Sunflower」と「Letters」など、新曲を含む脱メタル以降の演目で構成されています。
以上、現代の最先端を行く達人、ジェイコブ・ザイテッキ氏に注目していきました。かつてのDjent路線も現在のプログレ路線も、超ハイレベルな演奏技術に比肩する豊かな音楽性がザイデッキ氏の持ち味です。現代のウマいヒトのサウンド、ぜひチェックしてみてください。
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