《エレキとアコギを縦横無尽》Fender Acoustasonic Stratocaster
フェンダー「アコースタソニック・ストラトキャスター(以下、A-ST)」は、ストラトの演奏性はそのままに、エレキの音もアコギの音も使える、全く新しいハイブリッドなギターです。アコースタソニック・テレキャスターに次いで開発されたモデルですが、ボディ形状を変えただけにとどまらない、ストラトとしての存在意義を追求したギターとして仕上がっています。今回は、このA-STに注目していきましょう。
The American Acoustasonic Series: Stratocaster vs Telecaster | Fender
ナチュラルなアコースティックサウンドにしろ迫力のドライブサウンドにしろ、ホントにこのギターからこの音が出ているのか?やはり斬新な光景です。
アコースタソニック・ストラトキャスターの特徴
ルックス的に丸い穴のインパクトが非常に大きいA-STですが、基本的にはストラトキャスターの姿かたちに収まっています。どんなギターなのか、特徴をチェックしていきましょう。
「アコースティック」を意識した、しかしストラト然とした本体
A-STのギター本体は、くり抜いたマホガニーをスプルースで塞いだボディに、エボニー指板のマホガニーネックがボルトオンされます。レーザーで描く「Fender」ロゴのみのシンプルなヘッドと木製ハットノブが、このギターの持つウッディな雰囲気をさらに押し上げています。木材構成はアコギですが、厚みのあるボディ材をくり抜く、またネックをネジ留めするという工法は、エレキらしい特徴です。
ボディの表裏に立体的な加工が施されるのも大きな特徴です。アコギではたいへん重視される「ボディの容積」を多少犠牲にしてでも、右手や脇腹への優しさを忘れない。そこが実にストラトキャスター的です。22フレットの音域もあり、エレキギター同様に演奏できます。
「アコースティック」を意識した演奏性
A-STの弦長はフェンダー標準の25.5インチではありますが、指板Rは標準的なアコギに合わせた「12インチ(305mm)R」。アコギの必須アイテム「カポタスト」が使いやすい指板です。また、細くて背の高い「ナロートール」フレットが採用されており、押弦がラクで、指技もスムーズです。
出荷時にはアコギの弦が張られますが、エレキギターの弦を使用することもできます。アコギの弦は3弦が巻弦なので、チョーキングがどうしても不利になります。代わりにエレキギターの弦を使用すれば、リードプレイも遠慮なく演奏できます。
新発想の共鳴システム「SIRS」
ぽっかり空いた円形の孔は「サウンドポート」と名付けられ、A-STの大きな特徴になっています。内壁を持つ独自構造は、「ドーナツの高さ」と呼ばれる内壁の高さを適切に設定することで、ボディの容量に応じた理想的な響きを作っています。
サウンドポートでアコースティックな響きを作るこの技術は、「SIRS(Stringed Instrument Resonance System。弦楽器共鳴機構)」として、特許を取得しています。
3系統のピックアップシステム
A-STのピックアップは3系統あり、
- ピエゾピックアップ:弦振動を直接受け止める
- コンタクトマイク:ボディに伝わる振動をキャッチ
- ノイズレスピックアップ:エレキのシングルコイル
これらでキャッチした信号が内部のデジタル回路を通過して、アンプへと送られます。
デジタル処理するとはいえ、本体が生む弦振動やピックアップを設置する位置など、アナログな部分はたいへん重要なポイントです。A-STでは、上記SIRSで理想的な生鳴りを作るほか、ノイズレスピックアップを標準的なストラトキャスターの位置に置くことで、ストラトだからこそのサウンドを作っています。プリアンプも組み込まれていますから、ギターアンプにもエレアコアンプにも、PAやレコーダーにも直接挿して使うことができます。
夢が広がる無限のサウンドバリエーション
A-STの操作系は、5Wayセレクタースイッチ、マスターボリューム、Modノブ(バランサー)、という構成です。5Wayセレクター1~5それぞれのポジションにサウンドのコンセプトを設定、ABの2タイプを割り当て、そのブレンドをModノブで操作します。セレクタースイッチの選択とModノブの回し具合で、無限とも言えるサウンドバリエーションが手に入ります。ポジションは1がストラトで言うリア単体、5がフロント単体です。それぞれのサウンドをざっくり見ていきましょう。
ポジション1
セミクリーン(A)、ダーティ(B)の、2つのエレクトリックサウンドです。セミクリーンはほんのちょっとだけ歪んだ粒立ちの良いサウンドです。このモデルで初めて採用された「ダーティー」は、アンプのゲインを10まで上げた、しっかり歪んだドライブサウンドです。歪みが多すぎたら、セミクリーンの分量を足して調節します。
ポジション2
定番系のアコギ(A)とクリーン設定のエレキ(B)の組み合わせです。特に70年代にはアコギとエレキが同じコードを弾くアレンジが流行しましたが、これを一人でできてしまうわけです。Modノブをちょいちょい回しながら演奏すると、アコギで始めた演奏がいつの間にかエレキの音に・・・
ポジション3
定番系のアコギ(A)に対し、ボディを叩く音(B)を加えることができます。ボディをバコバコ叩く「ボディスラム奏法」に対応できるほか、ボディに触れる音が絶妙なニュアンスとなり、アコギの演奏に生々しさを加えることができます。
ポジション4
小さなアコギ(A)と大きなアコギ(B)の組み合わせで、 (B)には「アメリカーナ・ドレッドノート」という名前が付いています。「アメリカーナ」とはフォーク、カントリー、ブルースといったアメリカ発祥音楽の総称です。ABともに、古き良きアメリカをイメージした、エッジの立った明瞭なサウンドが得られます。
ポジション5
定番系の大型のアコギ(A)と定番系の小型のアコギ(B)という組み合わせです。Aのどっしり響きわたる感じとBの澄んだ感じのブレンドで、自分だけのアコースティックサウンドを作ることができます。
もっと詳しく見ると?
5つのポジションに割り振られたサウンドを並べると、このようになります。アコギついては、ボディのトップ材、サイド/バック、ボディサイズ、時には弦長まで設定し、さまざまなサウンドを作っています。エレキギターの音色は、クリーン、セミクリーン、ダーティの3種類です。
テレキャスター版とは、どう違うのか?
アコースタソニック・テレキャスターと比べると、総てのサウンドが新しく設定されています。またこちらストラト版では、ショートスケールのギターが存在感を発揮しています。小型のギターは軽やかに響き、また中高域に存在感のある澄んだ音がリードプレイに有利です。
その意味で二つのアコースタソニックにおいて、ストラトキャスター版はリードプレイや細かい技に有利な、テレキャスター版はコードプレイに特にマッチするサウンドになってると言えるでしょう。
アコースタソニック・テレキャスター
以上、A-STことアコースタソニック・ストラトキャスターをチェックしていきました。A-STは「レオ・フェンダーが存命なら、どんなギターを発明していたか」を目指して開発されたと言われています。現代では当たり前となったテレキャスターやストラトキャスターは、かつては人々を驚かせた斬新な発明でした。A-STはそれに劣らない斬新な構造で、エレキギターとアコースティックギターの境界線を破壊する新発明なのです。お店で見かけたら、ぜひチェックしてみてください。

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- カテゴリ: ストラトキャスター ,
[記事公開]2020年3月12日 , [最終更新日]2020/12/11