《プロ仕様》American Professional Stratocaster徹底分析
1986年以来ストラトキャスターの標準機として愛されてきたフェンダー「アメリカン・スタンダード(=アメスタ)」ストラトキャスターは、その30年に及ぶ歴史の幕を閉じました。アメスタに代わって新たに登場したのが「アメリカン・プロフェッショナル(=アメプロ)」シリーズです。「アメプロ」は新たなシリーズではありますが、ギター本体をチェックすると「アメスタ」を継承したものであることが分かります。そこでここでは、「アメスタ」から「アメプロ」へ、ストラトキャスターはどのような変身を遂げたのか、さまざまなポイントをチェックしてみましょう。
Cutting Through | Dhani Harrison & The American Professional Stratocaster | Fender
新開発V-MODピックアップは音量も充分あり、エフェクタの乗りが良くなっています。それにしても、気になる斬新なサウンドを出していますね。
「アメリカン・プロフェッショナル」とは何か
「アメスタ」のあった時代から、「アメリカン」の付かない「スタンダード・ストラトキャスター」が作られています。
American Standard Stratocaster | Standard Stratocaster | |
生産地 | 米国コロナ工場 | メキシコのエンセナダ工場 |
価格帯 | ¥220,000~¥245,000 | ¥83,000~¥112,750 |
表:二つの「スタンダード」(価格帯はメーカー希望小売価格/2017年8月時点)
定価で20万円を超える価格帯のものと、その半額以下のもの。フェンダー社が提唱する「スタンダード」が二つあったわけですから、紛らわしいと言わざるをえません。しかも2012年以降「アメスタ」にはフェンダー・カスタムショップ製、いわば特別なピックアップが載せられていますし、他にもいろいろな仕様がいわゆる「ふつう」よりもグレードの高いものになっています。「アメスタ」は、もはや「スタンダード(=標準)」の名を返上しなければならないところまで進化してしまったのです。
そこで名前だけとなった「アメスタ」を廃止し、新たに「プロフェッショナル(=プロ仕様)」としてシリーズをスタートすることで、「フェンダー社が提唱する標準仕様」はスタンダード・ストラトキャスターに譲り、「アメプロ」は堂々とグレードの高い仕様を採用できるようになった、というわけです。「アメリカン・デラックス(上位機種「アメリカン・エリート」の前身)」の仕様がさっそく受け継がれている箇所もあり、今後も上位モデルやカスタムショップで培ったノウハウやテクノロジーがこちらに伝搬されるなど、「アメプロ」はその名の通りプロミュージシャンが仕事で使うことのできる「業務用ストラトキャスター」として展開されていくいことが予想されます。
《生産完了》Fender American Elite Stratocaster徹底分析
また、「アメスタ」のモデル展開はストラトキャスターとテレキャスターのみだったところ、「アメプロ」では新たにジャガーとジャズマスターが加わったことも話題となりました。フェンダーを代表する、特にピックアップに違いのあるこれら4機種で、これからの「業務用エレキギター」が展開されていきます。
【標準(Standard)→ 業務用(Professional)】
2つのストラトキャスターは何が変わった?
では、「アメスタ」から「アメプロ」へ、ストラトキャスターが仕様変更したポイントを、そのまま継承されたポイントも含めて追ってみましょう。
1)ネック
American Professional Stratocaster(Olympic White)のボディ裏
ネックについては、大きく変更されたところがいくつもあります。まずは新たな仕様がとりれられたところとピックアップしてみましょう。
American Standard | American Professional | |
ナット | 人工骨 | 牛骨 |
グリップ | モダン”C”シェイプ | モダン”Deep C”シェイプ |
フレット | ミディアム・ジャンボ | ナロー・トール |
表:ネックの仕様変更
ナットが牛骨に変更
ナットが牛骨に変更されたのは、グレードが上がったことを意味します。人工素材は安定性が高いうえに価格を下げられますが、ナットはサウンドに直結する重要パーツであり、依然として天然素材の評価は高く、ファンからの要望も強いのが現状です。トラッドなスタイルのギターではなおさら、「上位モデルならば、天然素材のナットが当たり前」と考えられています。
ナットの材質の種類と特徴
新しいネックグリップ「モダン・ディープ・C」の採用
「ジャパン・エクスクルーシブ」シリーズなどで見られる「スリムC」シェイプと比べ、やや太めといわれる「モダンC」シェイプですが、「アメプロ」では厚みをもう少し増した新しいグリップ「モダン・ディープ・C」が採用されています。細ければ細いほど、薄ければ薄いほど弾きやすい、という流行はそろそろ過去のものとなりつつあるようです。厚くなったからといって、手の小さい人が弾けなくなってしまうかというとそこまで厚くない感じで、むしろコードもメロディもこれまでに増して自然な弾き心地が体験できるよう、ブラッシュアップされています。また厚みが増すぶんだけネックの強度が上がり、楽器の音も良くなります。
メイドインジャパンのフェンダー・ストラトキャスター徹底分析!
細めで背の高い「ナロー・トール」フレットに変更
背も幅もなかなかある「ミディアム・ジャンボ」フレットは、細めで背の高い「ナロー・トール」フレットに変更されました。高さを確保することで楽に押弦できるのが現代的なフレットの特徴ですが、「ナロー・トール」フレットは幅を詰めることで、細めで背が低い「ヴィンテージ・スタイル」に感触を寄せています。また、背の高いフレットは「フレットすり合わせ」の具合で、フレット頂点のRを徐々に変化させて「コンパウンド・ラジアス指板」と同じ効果を生み出すことができます。
フレットの種類と特徴
このほか、
- ナット幅1.685インチ(42.8mm)、指板R9.5インチ(241㎜)
- トラスロッドはヘッド側から調整
- 軸の高さを変化させ、弦張力を整える「スタガード・ペグ」
- ネックの仕込み角度を調節する「マイクロティルト」内蔵
- 指板はメイプルとローズウッドから選べる
などの現代的な仕様は、そのまま受け継がれています。
2)ボディ
カラーリング6種類
左から:Olympic White、Sonic Gray、Antique Olive、Sienna Sunburst、3-Color Sunburst、Black
ボディ形状や材質につては、これといって大きな変更は見られません。アルダーをメインに据えつつ、シエナ・サンバーストにはアッシュが使用されるのも従来通りです。カラーリングとしては、「アンティーク・オリーブ」と「ソニック・グレイ」が新たにレギュラー入りしています。特にソニック・グレイは全てのギターで選択でき、「アメプロ」を象徴する色調となっています。
3)電気系
「アメスタ」では標準的な操作系にカスタムショップ製のピックアップを備えていましたが、この操作系/ピックアップ両面に大きな変更が加わりました。ヴィンテージ・サウンドへのリスペクトを堅持しつつ、フェンダー・サウンドの特徴である「透明感」に注目したアレンジとなっています。
新開発V-MODピックアップとShawbucker
アメプロ3機種のピックアップ配列
左から:SSSの通常モデル、HSS Shawbucker、HH Shawbucker
「アメプロ」に搭載されるピックアップは、フェンダーのピックアップ部門におけるチーフ・エンジニア、ティム・ショウ氏が設計しています。氏の持つノウハウは「設計図の段階からサウンドを思い描くことができる」ほどだと評され、フェンダー社に20年勤務する前にはギブソン社でもピックアップの開発を手掛けており、「ピックアップの巨匠」と呼ばれています。今回の開発では特にマグネットに注目し、新たに開発されたシングルコイル・ピックアップ「V-MOD」では、一つのピックアップの中で異なるマグネットを取り入れ、ポジションごとのサウンドを最適化しています。
低音弦側 | 高音弦側 | |
V-MOD フロント | アルニコII | アルニコIII |
V-MOD センター | アルニコII | アルニコV |
V-MOD リア | アルニコV | アルニコV |
Shawbucker 1/2 | アルニコII | アルニコII |
表:「アメプロ」ピックアップのマグネット
- アルニコIIは、はっきりとした中域を特徴とした、なめらかかつ繊細な音
- アルニコIIIは、音楽的な温かみを持つヴィンテージ調の音
- アルニコVは、大胆さのあるパンチ力とタイトさのある音
になるというとらえ方で、各マグネットをそれぞれのポジションに割り振り、より理想的なサウンドを目指した方向づけをしています。
ハムバッカー・ピックアップ「ショウバッカー(Shawbucker)」は、「2」がフロント用、「1」がリア用にバランスを取っています。こちらは完全にヴィンテージサウンドを狙った設計となっており、ヴィンテージPAFのスタイルを踏まえてアルニコIIを採用していますが、そこからさらにフェンダーらしい音になるようアレンジが施されています。
「トレブル・ブリード」回路
「ブリード(bleed)」には、「出血する、にじみ出る」といった意味があります。ボリューム・ポットに仕込まれた「トレブル・ブリード」回路は、その名の通りボリュームを絞ったときにトレブル(高音域)を適量にじみ出す働きをします。通常ボリュームを絞って音量を落とすとバンドの音に埋もれがちになるのですが、高音域が残されることで埋もれず、はっきり聞き取れるようになります。
この効果はオーバードライブなど歪み(ひずみ)エフェクターを使用している時に特に顕著で、フルボリュームで充分なオーバードライブ、ボリュームを絞るにつれてゲインが下がっていき、クランチ寄りのサウンドになっていきます。バンドサウンドによっては、いちいちエフェクターを踏み変えることなく、ボリュームの操作だけでソロ/バッキングを切り替えることができるようになります。
2017 Fender American Pro Stratocaster HSS Shawbucker
1:40あたりから、トレブル・ブリード回路の効果が確認できます。ボリュームを絞っていくと、リアのハムバッカーもシングルコイル的なトーンになっていきますね。フェンダー公式サイトではHSS機はコイルタップしていないとのことでしたが、リア+センターのハーフトーンはシングル同士のような煌びやかのある、使える響きになっています。
ハムバッカー搭載機の電気系
American Professional Stratocaster HSS Shawbucker(Black)
「アメスタ」のハムバッカー搭載機では、
- American Standard Stratocaster HSS (Diamondbackハムバッカー搭載)
- American Standard Stratocaster HSS Shawbucker(ショウバッカー搭載)
- American Standard Stratocaster HH (Twin Head ハムバッカー搭載)
このようにさまざまなハムバッカー・ピックアップが使われていました。
「アメプロ」ストラトキャスターでは、ハムバッカーは「Shawbucker」に一本化されました。「HSS」の電気系は「アメスタ」ショウバッカーを引き継いでおり、
- 5Wayセレクタスイッチ
- マスターボリューム(トレブル・ブリード回路あり)
- フロント&センタートーン、リアトーン
となっています。コイルタップはありませんが、HSS機のボリュームポットはシングルコイルに最適な250Kオーム、ハムバッカーに最適な500Kオームの二つの抵抗を持ち、各ピックアップで理想的なサウンドが得られるようになっています。
HH機種ではコイルタップが可能に
いっぽう「HH」は大きな変身を遂げています。
American Professional Stratocaster HH Shawbucker(Sonic Gray)
アメスタ | アメプロ | |
ピックアップ | Twin Head(カバード) | Shawbucker(オープン) |
セレクタSW | 3Way | 5Way |
ボリューム | フロント、リア | マスターボリューム |
トーン | マスタートーン | フロント、リア |
表:HH機の変身
「アメスタ」ではギブソン的な雰囲気を帯びていたHH機ですが、「アメプロ」はよりフェンダー的なスタイルになっています。5Wayスイッチにより、ハムバッカーの各ポジションに加え、フロント/リアをコイルタップした外側同士、内側同士のハーフトーンを出すことができます。「ピックアップ・カバー」が使われないのもポイントです。
ハムバッカー・ピックアップのカバーを外したら、どういう効果が得られる?
3)ブリッジ
Sienna Sunburstカラーのボディ
ブリッジについては、
- アーミングに有利な「2点留め」
- トラッドなスタイルの「ベントサドル」
という構成に変更はありませんが、アームが「ポップ・イン」式となり、穴に押し込むだけで装着できます。
この「ポップイン・アーム」は上位機種「アメリカン・デラックス(アメリカン・エリートの前身)」を引き継いでおり、まず一回「カチリ」と音がするまで押しこむと、力のかかっていないプラプラな設定に、もう一回「カチリ」と言うまで押しこむと、トルクがかかって空中で停止できる設定にできます。トルクのかかり具合は、好みに合わせて設定できるようになっています。
従来の「ネジ」式には、そもそも「アームを着脱する」という考えはなく、付けっぱなしが前提でした。そのためアームを着脱しようと思ったら、シールドを抜いた状態で行わなければなりませんでした。しかし、「ポップイン・アーム」ではそれを考慮する必要が無くなります。
また「ネジ」式の場合、アームを内側から押すスプリングを内蔵していますが、アームを付けていない状態だと、このスプリングが抜け落ちてしまうことがあります。新品のストラトキャスターのブリッジにシールが貼ってあるのは、このスプリングの脱落を防ぐためです(USAとMEXのみ。Japan Exclusiveにはこのスプリングはありません)。シンクロナイズド・トレモロはストラトキャスターの大きな特徴ですが、現代ではアーミングを使用しないプレイヤーも多くいます。「ポップイン・アーム」は、アームを使わない状態でも楽器としての価値を失いにくい設計だと言えるでしょう。
アームを使ってみよう!アーミング奏法について
この仕様は上位機種「アメリカン・エリート」と共通ですが、「エリート」のアームは太めの現代仕様、「アメプロ」のアームはトラッドな雰囲気を残している細めのもので、両者に互換性はありません。
以上、「アメスタ」から「アメプロ」へ、ストラトキャスターがどのような変身を遂げたかを見ていきました。新開発のピックアップやトレブル・ブリード回路などの新しい要素がふんだんに織り込まれていながら、トラッドな雰囲気も感じることができるギターに仕上がっているのが分かりますね。この「トラッドな雰囲気」が、最新スペックで固めた上位機種「アメリカン・エリート」との大きな違いとなっています。
- カテゴリ: ストラトキャスター ,
[記事公開]2017年8月15日 , [最終更新日]2019/11/27