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アコギ?エレキ?ハイブリッドギター Fender American Acoustasonic Telecaster

Fender American Acoustasonic Telecaster

フェンダーが発表した新発想のギター「アコースタソニック・テレキャスター(以下、AT)」はボディ中央に、

  • 円形のサウンドホール(アコギの特徴)
  • シングルコイル・ピックアップ(エレキの特徴)

の両方を持っています。果たしてコレは、アコギなのでしょうか、エレキなのでしょうか。今回は、デビューしたばかりで謎の多いこのギターに注目してみましょう。


Introducing The American Acoustasonic Telecaster | Fender
本当にそのギターから出ている音だとは全く信じることができない、まごうことなきアコースティックサウンド。しかもエレキのギターアンプを使い、エレキのエフェクターをそのまま使っているようです。いったいなんなんだこれは。

まずは、外側をチェック!

ATの全体像は、まさにテレキャスターそのものです。しかし、どことなくアコギ的でもあります。まずは浅く、だいたいの姿をチェックしていきましょう。

シンプルデザインのヘッド部

 Acoustasonic Telecaster:ヘッド

ATのヘッドは、テレキャスター伝統のヘッド形状に「Fender」のスパゲティ・ロゴのみが刻まれた、たいへんシンプルなデザインにまとまっています。「スタガード(軸の長さに変化を付ける)ペグ」によりストリングガイドを使用しないことも、このシンプルさに一役買っています。トラスロッドはヘッド側に開口しており、順ぞり/逆ぞり両方向に利きます。

仕様をミックスした、しかしフェンダーらしいネック&指板

 Acoustasonic Telecaster:ネック&指板

ATのネックは、エレキとアコギの特徴をミックスした設計です。ネック&指板は、

  • 弦長5インチ、
  • モダン”ディープC”ネックシェイプ、
  • フレット数22、
  • 細くて高い「ナロートール・フレット」、

といったところが「Fender American Professional Telecaster(アメリカンプロフェッショナル・テレキャスター)」と共通しています。しかしナット幅は42mmと若干狭く、指板Rが12インチ(約304mm)とフェンダーのエレキギターでは珍しく平たいところに違いを確認できます。

「12インチ指板R」はギブソンの標準値として知られていますが、同社のアコギでも同様に採用されています。マーチンの標準が14インチであることを考えると、「やや丸みのある指板を採用している」という点で、フェンダーらしいセレクトだといえるでしょう。また「マホガニーネック、エボニー指板」という木材構成は、まさに高級アコースティックギターの標準仕様です。ただし指板のエボニーについては木材の黒さにこだわっていないようで、色の薄い部分も木材の表情として好意的に受け入れています。

弦は「0.011~ 0.052」のアコースティックギター弦を使用します。エレキとしては太め、アコギとしては細めのゲージですが、アコギ弦は3弦が巻き弦(ラウンド弦)なので、チョーキングはかなり困難です。1/2弦はエレキ同様プレーン弦なので、チョーキングも無理ではありません。

右肘にやさしいボディ形状

 Acoustasonic Telecaster:ボディ

シルエットこそテレキャスターと同じですが、ボディエッジ(外周部分)が丸く整えられていること、そして何よりも右肘部分がコンター加工されており、抱え心地がよくなっているのが大きなポイントです。ど真ん中に空いている円形の穴部分が、特許出願中の「弦楽器共鳴システム(Stringed Instrument Resonance System、SIRS)」です。ブリッジ付近に斜めに設置してあるピックアップは、フィッシュマン社と共同開発した、専用のノイズレスピックアップです。

最新だがシンプルな操作系

最先端のテクノロジーを傾注したというATですが、操作系は「5Wayセレクタースイッチと二つの木製ノブ」のみで、いたってシンプルです。これらは一直線上に配置されていますが、セレクタースイッチがボディエンド側にあり、テレキャスターの操作系を前後逆にしているような印象です。無限ともいえるサウンドバリエーションを誇るATですが、サウンドを切り替えるなどの操作は本当にここだけで行います。

いかにもアコギ的なブリッジ

 Acoustasonic Telecaster:ブリッジ

ATのブリッジはエボニーの本体に棒状のサドルをはめ込んだ、アコギの設計そのまんまのデザインです。サドルの幅の中で頂点の位置が調整されており、オクターブピッチも大丈夫です。弦はアコギ同様にブリッジピンで固定します。

アコースティック要素ほぼゼロの背面

 Acoustasonic Telecaster:ボディバック

背面からのルックスは、ボルトオンジョイントのエレキギターそのものです。ハイポジションの演奏性を高めるべく、ジョイント部には「ヒールカット」が施してあります。ジョイントプレートには新しい試みが取り入れられており、ネックヒールに埋め込まれる「落し込み」で固定されます。またフェンダーの特徴的な機構「マイクロティルト」が付いているので、ネックの仕込み角度を調整できます。


MIYAVI | The NAMM Show Private Event at House of Blues Anaheim
これでもかっていうくらいにATをバキバキ弾き倒すMIYAVI氏。エレキとアコギ、果てはベースの領域まで侵す氏のような横断的なプレイヤーには、ATのような横断的なギターはさぞや強力な武器となることでしょう。

続いて、中身をチェック!

ATはエレキギター風のルックスでありながら、アコースティックギターの特徴を兼ね備えているということがわかりました。でも問題は中身です。どんな構造で、どんな音が出るのでしょうか。もう一歩深く見ていきましょう。

Acoustasnic Telecaster:ラインナップ カラーラインナップは現在のところ5種類

ボディ構造

ATのボディは、

  • マホガニーボディの内側全部をトップ側からくり抜き、
  • 単板のシトカスプルースで蓋をする、

というフルアコに近いホロウ構造になっています。セミアコにみられるブロック状の内部構造はありません。内部にはブレーシング(力木)が渡され、ボディの補強と振動伝達が増強されます。普通ならテレキャスターサイズのボディをアコギにしたところで十分な生音が得られるわけではありませんが、ココに新開発の「弦楽器共鳴システム(SIRS)」が組み込まれることで、アコギに必要な「迫力のある自然な鳴り」と「生き生きとした倍音」を出すのが可能になりました。しかもこのボディサイズですから、アコギ的とはいえあまりのハイゲインでなければハウリングしにくく、ライブで悩まされることがありません。

このボディ構造は、電気部分を共同開発したラリー・フィッシュマン氏(フィッシュマン社長)にして「ギター本体はフィードバックに強く、生楽器としての敏感さもあり、完璧だった」と言わしめるほどです。

アコースティックな生音を得る「SIRS」

「SIRS」は本来なら平面的だったサウンドホールの構造を、ボディ内部へいざなうトンネルのように立体的に構築したものです。トンネルはバック材までは届いておらず、隙間ができています。これは、ボディ内で作られた音を集めて一気に放出する、スピーカーか拡声器のような働きをします。これにより、アンプを通さない生音の段階ですでに魅力的なサウンドが作られ、アコギと変わらない振動が手に伝わります。

三種のピックアップ

ATには、フィッシュマン社との共同開発による3種類のピックアップが備わっています。これらはバッテリー駆動式で、アウトプットジャックのすぐ近くについているUSBポートから充電して使います。バッテリーはフル充電から約20時間使用できます。

設置個所 働き
アコースタソニック・ノイズレス・マグネットピックアップ ボディトップ エレキギターのシングルコイル・ピックアップと同様。
アンダーサドル・トランスデューサー サドルの真下 エレアコのピエゾピックアップ同様、サドルに伝わる現振動を直接電気信号に変換。
アコースタソニック・エンハンサー ボディトップ裏面 ボディトップの振動を感知するコンタクトマイク。ボディを叩くような演奏に有効。

表:ATのアコースティックエンジン

今までのエレキギターでも、アコースティックサウンドを得るためにピエゾピックアップを内蔵するものはいくつもありました。しかしボディの振動をキャッチするコンタクトマイクまで内蔵するものとなると、なかなかありません。いっぽう現代のアコギ事情では、2種類以上のピックアップを内蔵させるのも珍しくありません。一般的なアンダーサドルのピエゾピックアップは弦の音をクリアに拾いますが、カホンのようにボディをバコバコ叩くような音は十分に感知できないため、ボディの振動を拾うためのピックアップが追加されるわけです。

無限ともいえるサウンドバリエーション

ATは3つのピックアップを軸に、ピックアップそのままのサウンドとデジタル処理されたサウンドとを組み合わせた、たくさんのサウンドバリエーションを持っています。5Wayセレクターなんだから、サウンドバリエーションは5種類じゃないのか?謎は深まるばかりですが、ここで重要になるのが「サウンドペア」という新しいコンセプトです。

  • 異なるサウンドAとBを「A+B」のペアとして扱い、ペアを5つ作る。
  • 5つのペアは5Wayセレクタースイッチのポジション1~5に割り振られる。
  • 「modノブ(バランサー)」でAとBをブレンドして音を作る。

こうなっているわけです。

二つのツマミのうち、ひとつはマスターボリューム、もう一つが「modノブ」です。modノブはバランサー的に働き、片方に回し切るとAが100%でBが0%、もう片方に回し切るとBが100%でAが0%、その配分を自由に決められる、という仕掛けになっています。ですからAとBをブレンドした音を加えると、サウンドバリエーションは10どころの騒ぎではなくなります。

無限の可能性を生む5つのサウンドペア

では、どんなサウンドが用意されているかを見ていきましょう。楽器本体にその記述はありませんが、ポジション1~5のサウンドペアにはそれぞれ名前が付けられており、1が最も硬質、以下順番に太くなっていき、5が最も太いサウンドです。ちなみにストラトキャスターのピックアップでいうところのリア単体がポジション1、フロント単体がポジション5ですから、エレキギターに慣れている人なら直感的に使い分けることができそうです。

ポジション 名前 それぞれのサウンド 実際のギターで近いもの
1 Electrics A:クリーン
B:ファット/セミクリーン
A&B:テレキャスター
2 Acoustic and Electric Blend A:シトカスプルーストップ、マホガニーサイド&バックのドレッドノート
B:マグネットピックアップ追加
A:Martin D-18など
3 Percussion and Enhanced Harmonics A:シトカスプルーストップ、ハカランダサイド&バックのドレッドノート
B:コンタクトマイク追加
A:Martin D-45など
4 Alternative Acoustics A:イングルマンスプルーストップ、メイプルサイド&バックのスモールボディ
B:シトカスプルーストップ、マホガニーサイド&バックのドレッドノート
A:有名機種に該当なし
B:Martin D-18など
5 Core Acoustic A:シトカスプルーストップ、ローズサイド&バックのドレッドノート
B:アルパインスプルーストップ、ローズサイド&バックのオーディトリアム
A:Martin D-28
B:B:Martin CTM 000-28など

表:ATが持つ5つのサウンドペア

サウンドペアを概観すると、アコギでは「ピエゾピックアップそのまま」という音色はなく、デジタル処理によって代表的なアコギの音をモデリングしているらしい、ということがわかります。しかしそれぞれのギター単体を使用するだけでなく「二つをブレンドして新しいサウンドを作る」という使い方は自由度と新しさを感じさせます。エレキのピックアップにも2音色用意されているというところが面白いですね。

なお、「シンプルで使いやすいこと」を重要なコンセプトに据えているため、デジタル処理とはいえサウンドペアを入れ替えたりエディットしたりといった面倒くさい機能はついていません。

よし、だいたいわかった。では、どうやって使うのか?

問題はそこです。ATはエレキギターとしてギターアンプに挿して使うのか、アコースティックギターとしてPAに送って使うのか、どっちがいいんでしょうか。答えは、「どっちでもいい!」です。普通のテレキャスターとしてギターアンプでギャンギャン言わせてもいいし、しかもそのアンプからアコギの音を出すことができます。エレアコとしてDI(ダイレクトボックス)に挿し、PAに任せてもいいんです。しかもハウリングに強い構造だしアクティブ回路だからノイズにも強いので、エフェクターをしっかり使うことができます。

現代のプレイヤーは特定のスタイルに収まらず、さまざまな要素を融合させて新しいスタイルと新しい音楽を生み出しています。フェンダーはそこに注目し、特に電気系に強いギターメーカーだからこそ設計できる、エレキとアコギの境界線をぼやけさせる横断的なギターを完成させたわけです。


UNBOX the FUTURE Vol.2 | Hisako Tabuchi
まさにこのギターに対して聞きたいことを代わりに質問してくれている動画。ボディを叩く演奏にも挑戦したくなるし、普通のアコギがでかすぎると感じる人には天の助け。ライブでできることが増えます。ちなみにアコースティックサウンドを使用する場合、ギターアンプのセッティングはクリーンが推奨です。