《ザ・リフマスター》James Hetfield(ジェームス・ヘットフィールド)

[記事公開日]2020/4/25 [最終更新日]2022/5/22
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ジェームス・ヘットフィールド氏(1963~)は、世界的に最も成功したヘヴィメタルバンド「メタリカ(METALLICA)」の中心人物です。メタリカの演目ではほとんどのリフを自身で作っており、また凄まじいダウンピッキングを放つ稀代の名手であることから「リフマスター」と称されます。今回は、このジェームス・ヘットフィールド氏に注目していきましょう。


Metallica: Enter Sandman (Official Music Video)
90年代初旬のメタルは、スピードより「ヘヴィネス(重さ)」がクールでした。91年に発表された「Enter Sandman」はこれまでのスピード勝負を転換、ヘヴィなグルーヴを打ち出して大ヒットし、メタリカを世界的なヒーローに押し上げます。なおサンドマンは「睡魔」を意味し、子供の眼に砂をかけて眠らせるという西洋の妖怪として語られます。それゆえこの曲は「世界初のメタル子守唄」とも呼ばれました。

ジェームス・ヘットフィールドの半生

ジェームス・アラン・ヘットフィールド氏は1963年8月、カリフォルニア州ダウニーに生まれます。母親がオペラ歌手だったこともあり音楽に囲まれて育ち、9歳でピアノを始め、14歳でギターを始め、学生時代からバンドを始めます。エアロスミスが大好きな少年だったそうですが、マイケル・シェンカー氏に憧れてデビュー後しばらくまでフライングVを愛用していました。癌を患った母親が、宗教上の信念に従って治療を拒んだまま天に召された経験は、ヘットフィールド氏の作詞に大きく影響を及ぼしたと言われています。

メタリカでの成功

18歳(1981年)で結成したメタリカはコンピレーションアルバムへの参加、デモテープ制作など積極的に活動を展開し、成人する寸前の1983年7月、ファーストアルバム「Kill ‘em All」でデビューします。ザクザクと刻む低音リフを特徴とするサウンドは「スラッシュ・メタル」と呼ばれ、メタリカはこの分野の萌芽に大きく貢献しました。

反戦をテーマにした楽曲「ONE」、大ヒット曲「エンター・サンドマン」を収めるアルバム「METALLICA」、いろいろ試した結果ノーマルチューニングのスラッシュメタルに回帰して成功したアルバム「Death Magnetic」らがグラミー受賞など、メタリカの作品は世界的に高く評価されています。メタリカの音楽制作においては、ヘットフィールド氏と同じくバンド創立メンバーのラーズ・ウルリッヒ氏(ドラムス)と意見を衝突させる場面が多かったと伝えられます。

プライベートでは3児の父

ヘットフィールド氏は34歳で結婚、奥様の故郷コロラド州で暮らし、3人の子宝に恵まれました。落ち着いた環境で狩猟や農業や養蜂にいそしみ、車やバイクの改造を趣味にしています。ヴィンテージカーを売りに出して、売り上げを教育機関に寄付したこともあります。

https://youtu.be/ZFfUVb-3lqk
SKATE-KÖNIG JAMES HETFIELD | Random Hijuga #001
ヘットフィールド氏はスケートボードで腕を骨折してギターが弾けなくなったことが何度もあり、マネジメント会社との契約に「ツアー中は、スケートボードには乗らないこと」が加えられました。それがあってか、スケートボードを疑似体験するゲーム「Tony Hawk’s Pro Skater HD(2012)」では、プレイヤーにヘットフィールド氏、およびベーシストのロバート・トゥルージロ氏が選択できます。

「リフマスター」のプレイスタイル

ヘットフィールド氏は、8ビートでBPM=200近辺なら余裕というキレッキレの「高速ダウンピッキング」で知られています。氏の持ち味である「低音リフのザクザク感」は、常に同じ音が出せるダウンピッキングでのみ完成します。

ヘットフィールド氏と同じく「リフマスター」と称された故ダイムバッグ・ダレル氏は生前、ヘットフィールド氏を「強靭な右手を持ちメタリカのリフを支えるギタリスト」と称賛しています。ご自身は「リフを高速かつ鋭く決めるには、ダウンカッティングが重要なポイントだ」と語っています。

この高速ダウンピッキングを身につけるためには練習と研究あるのみですが、ヘットフィールド氏が30年以上にわたってこのスタイルを貫いていられている、というのは大きなヒントになります。これは身体能力だけではできない、姿勢や腕の角度、伸ばし方などで筋肉を疲労させないテクニックがあるはずです。

リフ作りにおいてはほとんどの場合6弦開放の「E」音を基準としており、D#、D、C#など他のキーへはチューニングの変更で対処しています。「6弦開放のミュートをキレイにザクザク鳴らす」ことが、リフマスターへの王道です。またリフ作りのアイディアとしては2音や3音のシンプルなモチーフを繰り返し、または移動させて使う、という手法を得意とします。これは幾何学的とも機械的で冷たいとも評されますが、リードギターのカーク・ハメット氏が得意とする「情緒的なリードプレイ」と好対照を成しています。


Metallica: Master of Puppets (Amsterdam, Netherlands – June 11, 2019)
1986年リリース「Master of Puppets」のタイトル曲にして、メタリカ最大の代表曲。この曲をマスターするには、1分を越えるイントロをダウンピッキングで弾ききる必要があります。このイントロは、3音のモチーフ移動にとことんこだわって構成されています。ヘットフィールド氏は23歳の時にリリースしたこの曲を、56歳になっても衰えないどころか勢いを増したダウンピッキングで弾き倒しています。こりゃぁすごい。

ジェームス・ヘットフィールドの使用機材

メタリカのデビュー当時、ヘットフィールド氏は白いギブソン・エクスプローラーをトレードマークにしていましたが、1987年以降はESPを使い続けています。ヘットフィールド氏の機材は、リードギターのカーク・ハメット氏とのマッチングが重視されているようで、初期のレコーディングではアンプを供用したり同じメーカーのアンプを起用したりしています。またハメット氏が使っているのを見て、同じEMGピックアップを使いだしたと言われています。

シグネイチャーモデル

現在のシグネイチャーモデルは、ESPおよびLTDより3タイプ、全9モデルがリリースされています。それぞれがネックやボディにマホガニーを使用、弦長624mmのギブソンスケール、ピックアップはご自身のシグネイチャーモデル「EMG JH」、TOMブリッジとロック式ペグ搭載、というおおまかな共通点があり、その上に個性が載せられています。

変形ギター「VULTURE」&「SNAKEBYTE」

  • ESP VULTURE / LTD VULTURE
  • ESP SNAKEBYTE / LTD SNAKEBYTE

ESP VULTURE ESP VULTURE

ESP SNAKEBYTE ESP SNAKEBYTE

Vシェイプの「ヴァルチャー(VULTURE)」、エクスプローラータイプの「スネークバイト(SNAKEBITE)」は、ヘッドの形状を同じくし、12フレット地点には各モデルを暗示する大きなインレイが埋め込まれます。マホガニーボディ&ネック、エボニー指板という本体、2基のボリュームノブ、トーン回路廃止という構成で、操作系の配置は両方ともほぼ同一です。レギュラーモデルにはないオリジナルのボディシェイプは、両モデルとも右肘部分が大きく斜めにカットされています。

他モデルではシュパーゼル社製のロック式ペグを採用しているヘットフィールド氏ですが、ESP版のヴァルチャーのみ、GOTOH社製が搭載されています。この「GOTOH SG360-07 MG-T」はシュパーゼルと同じギア比ながら、本体はちょっと小さめで比較的軽量です。このペグを採用することでヘッド重量を抑え、Vシェイプ特有の困りごと「ヘッド落ち」を解消する狙いがあるわけです。

LTD SNAKEBYTE SE Baritone

LTD SNAKEBYTE SE Baritone

世界限定で500本が生産されたバリトン仕様のスネークバイトは、基本仕様をLTD版のスネークバイトにならいつつ、弦長が686mmへと拡張されています。これに0.13からの極太ゲージ弦を張り、6弦「B」からのバリトン・チューニングを施すことで、7弦ギターと同等のヘヴィなサウンドが得られます。特別なギターなのでキルテッドメイプルトップで美しく彩られ、ハードケースと認定証が付属します。

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LPタイプ「IRON CROSS」&「BLACK TRUCKSTER」

  • ESP IRON CROSS / LTD IRON CROSS
  • ESP BLACK TRUCKSTER / LTD BLACK TRUCKSTER

ESP IRON CROSS ESP IRON CROSS

ESP BLACK TRUCKSTER

「アイアン・クロス(IRON CROSS)」と「ブラック・トラックスター(BLACK TRUCKSTER)」は、ESPのLPタイプ「EC」を出発点に、ヘットフィールド氏のリクエストを反映させたギターです。ハードメイプルトップ&マホガニーバックのボディにマホガニーネックをセットインする伝統的な設計で、どちらもメタリカの世界観にマッチした、個性的な意匠が施されます。アイアン・クロスはエボニー指板、トラックスターはローズ指板です。

2基のボリュームノブ、マスタートーン、トグルスイッチの配置が伝統的なレスポールにならっているのもポイントで、6弦側に設置されたトグルスイッチはダミーです。

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Metallica: The Outlaw Torn (Live) [S&M]
ライブアルバム「S&M」より。メタリカの演目にサンフランシスコ交響楽団が華を添えます。編曲と指揮を担当したマイケル・ケイメン氏は映画音楽を多く手掛け、ミュージシャンとのコラボも多く成功させてきた実力者。ホラー映画をイメージしたアレンジは、メタリカの世界観と見事にマッチしました。

シグネイチャーピックアップ「EMG JH」

EMG JH

ながらくフロントに「EMG 60」、リアに「EMG 81」という、カーク・ハメット氏と同じ組み合わせを採用してきたヘットフィールド氏ですが、2008年に「アイアンクロス」および「トラックスター」を発表してからは、ご自身のシグネイチャーモデル「EMG JH」のセットを使用しています。

EMG JHは「60」及び「81」を出発点に、

  • フロント:セラミックポールピースとセラミックマグネットを採用、出力が高く、アタックがあり、かつ深みのある低域がしっかり得られる。
  • リア:セラミックマグネットと鉄製ポールピースを採用、タイトなアタックを持ちつつ、明瞭な低域が得られる。

という組み合わせになっており、「ステルスルッキングで、パッシヴピックアップの明快さとパンチのある音を捉えたアクティブトーンピックアップ」というご自身のリクエストにしっかり応えています。

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弦とピック

ERNIE BALL POWER SLINKY Hetfield Black Fang

弦はアーニーボール「パワースリンキー(0.11〜0.48)」を使用、ピックはジム・ダンロップ社からシグネイチャーモデルが出ています。「ブラックファング」と名付けられたトーテックス素材のティアドロップ型で、厚みは0.73mm、0.94mm、1.14mmの3タイプあります。このうちご本人は、1.14mmを使うことが多いようです。

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Hetfield Black Fang
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アンプ/エフェクター

使用アンプについては、セカンドアルバムまではマーシャル(Marshall)を使用、3枚目「Master of Puppets(1986)」以降、90年代の終わりまでメサ・ブギー(Mesa/Boogie)をメインに据えていました。2000年代からはアルバム1~2枚ごとに、ウィザード(WIZARD)、ディーゼル(Diezel)、クランク(KRANK)へと切り替えています。

ヘットフィールド氏のサウンドメイキングはアンプの歪みとイコライジングを基本としており、適宜マルチエフェクターを使用することもありますが、ステージでの切り替えはスタッフに一任されています。

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