《現代スライドギターの父》ライ・クーダー(Ry Cooder)

[記事公開日]2013/8/27 [最終更新日]2018/6/29
[編集者]神崎聡

ライ・クーダー(Ry Cooder) Acoustic Performance Radio Ran

ライ・クーダー氏は、緊張を解きほぐす落ち着いた演奏を得意とするギタリストです。普通に弾いてもフィンガー・ピッキングでも達人ですが、特に「オープンチューニングを活用したスライド奏法の名手」として知られており、多くのスライド奏者が氏からの影響を語っています。氏こそは「ギターを愛する者ならいつかは必ず触れるに違いない名手」の一人であり、持ち味のリラックスしたサウンドは、ボルテージの高いプレイだけがスーパープレイではないことを教えてくれます。

ライ・クーダー氏は、忘れられようとしていたアメリカのルーツ・ミュージックを発掘し、自身の作品に活用したことで高く評価されています。またアメリカ国内を飛び出してハワイアンやキューバ音楽、果ては沖縄まで、ワールド・ミュージックを広く探求したことでも知られています。また映画音楽に多く携わり、特にヴィム・ヴェンダース監督、ウォルター・ヒル監督とのコラボレーションで多くの成功を収めました。


喜納昌吉&チャンプルーズ – 花
「花〜すべての人の心に花を〜」は、沖縄県出身の音楽家であり平和運動家、政治家でもある喜納昌吉氏の代表的な楽曲で、日本国内はもちろん、台湾、タイ、ベトナム、アルゼンチンをはじめ世界60か国以上でカバーされ、世界各地でヒットしました。ライ・クーダー氏はこの曲のレコーディングにゲストとして参加し、ギター、スライド・ギター、マンドリンを担当しています。

Biography

出生~青年期

ライ・クーダー氏は1947年3月15日、 アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれ、父親の影響で3歳から4本弦のギターを始めます。ボトルネック奏法は15歳ごろから始めたとのことですが、すでに10代の若さでロスの有名店の常連になり、有名なブルース・ギタリストと一緒に演奏活動を、また短期間ながらレッスンを受けることもできたようです。

スタジオミュージシャン期

16歳のころにはすでにプロミュージシャンとしての活動を開始、さまざまなバンドプロジェクトに参加したり、スタジオワークに取り組んだりしています。この時代のレコーディングはバンドメンバーで一斉に演奏するいわゆる「一発録り」も多く行われ、ライ氏はこうしたレコーディングを通じて多くの主のプレイヤーとセッションする機会に恵まれて、腕と感性を磨いていきます。ギターだけでなくマンドリンやバンジョーも堪能で、「The Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)」、「Captain Beefheart(キャプテン・ビーフハート)」、「Paul Revere & The Raiders(ポール・リヴィアーとレイダース)」等と共演ました。

ソロ活動~映画音楽での成功

「Ry Cooder(ライ・クーダー登場)」で1970年にソロ・デビューを果たした際、ローリング・ストーン誌は「今日最高の、そして最も正確なボトルネック・ギタリストであり、ブルース・マンドリンの最高の芸術家」と評しました。続く「Into The Purple Valley(「紫の峡谷」1971年)」、「Boomer’s Story (「流れ者の物語」1972年)」の三作品で、1920年代あたりに見られる古き良きアメリカ音楽の発掘を果たしたと評されています。サポートミュージシャンを起用してもいますが、基本的には自信のオーバーダビングで構築した弦楽器のアンサンブルが主体となっており、氏のプレイを深く味わうにはもってこいの作品です。

「Paradise and Lunch(1974年)」、「Chicken Skin Music(1976年)」ではジャズやブルース、ロックのカバーからメキシカン、ハワイアンにまで目を向けたサウンドを創っていきます。作風が陽気になったこともあって、多くのリスナーがこの二作をクーダー氏のピークと考えているようです。以後ジャズやソウル、リズム&ブルースなど、次々にさまざまな音楽に注目していくことから「旅人」とも言われ、また多くのミュージシャンから信望を集めて「ミュージシャンズ・ミュージシャン」とまで言われた氏ですが、それでもアルバムのセールスが振るうことはなく、生活は楽ではなかったようです。

そんな氏を救ったのがウォルター・ヒル監督でした。監督はクーダー氏に映像を演出する音を出す才能があることを見抜き、「The Long Riders(1980年)」で氏をはじめて起用します。これが成功し、80年代以降のクーダー氏は銀幕を演出するギタリストとして名を馳せていきます。


The Long Riders (2/11) Movie CLIP – Good Ol’ Rebel (1980) HD
ライ・クーダー氏が映画界で成功するきっかけとなった作品「ロング・ライダーズ」。BGMだけでなく、作中での演奏も手掛けています。この世界観は、まさにライ・クーダー氏の独壇場でしょう。

再び音を求める旅へ

90年代に入ると、クーダー氏は映画の仕事を続けながらも、さらに遠くへと音楽の旅を再開させることになります。

インドのスライド奏者V・M・バット氏との共作「A Meeting By The River(1993年)」、西アフリカはマリ共和国のブルースマン、アリ・ファルカ・トゥーレ氏との共作「Talking Timbukt(トーキング・ティンブクトゥ。1994年)」は、いずれもグラミー賞「最優秀ワールドミュージック・アルバム賞」を受賞します。

キューバを訪れた際に出会った老ミュージシャンらと組んだバンド「BUENA VISTA SOCIAL CLUB(ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ)」は1997年にアルバムを発表、1999年にはヴィム・ヴェンダース監督で同盟のドキュメンタリー映画が制作され、2000年のアカデミー賞にノミネートされます。2008年にはカーネギーホールでのライブを収録したライブアルバム「Buena Vista Social Club at Carnegie Hall」がリリースされます。

https://www.youtube.com/watch?v=JNYOVEXJBBM
Buena Vista Social Club – Full album

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2017年に70歳を迎えるライ・クーダー氏は、今なお新しい音楽との出会いを求めて旅を続けています。

ギタープレイの特徴

ライ・クーダー氏は、ギターはもとよりマンドリンやバンジョーなどにも達人ぶりを発揮しますが、特にスライド奏法での演奏が高く評価されています。済んだ音色のフィンガーピッキングと組み合わさったスライドは的確な音程、無駄のない的確な音数も相まって、「名手」の名をほしいままにしています。

スライドではオープン・チューニングを使用しますが、オープンGやオープンDをメインに、場合によってはオープンF#m9、オープンGM7など、一体どうやって使うのか想像もつかないチューニングを使用することもあると言われています。しかし12フレットよりも高いポジションは使用しないことに深いこだわりを持っており、ここを越えたポジションでは決してプレイしないそうです。

使用するスライド・バーはお酒の瓶から切り出して自作したものを愛用しており、いろいろなものを適宜使い分けています。スライド・バーは「小指にはめる派」で、他の指で通常のフィンガリングを行うこともあります。

使用エレキギター

多くのギターを使用してきたライ・クーダー氏ですが、その中でも改造を重ねて育て上げたフェンダー・ストラトキャスターを長らく一軍起用しています。

Fender Stratocaster(改)

60年代後期と見られるラージヘッド、3トーンサンバーストのストラトキャスターで、共演したデヴィッド・リンドレー氏よりプレゼントされて以来、数多の改造を重ねながらずっと愛用しています。

ヘッドとピックガードが同じセルロイド板で作られているのがルックス上の大きなポイントですが、フロントにはテスコのハムバッカータイプ、リアには「安物についていたもの」と言われるラップスチール用のピックアップが取り付けられています。金属プレートにリアピックアップとブリッジを載せる独特のルックスからも、これはもはやストラトキャスターと呼ぶことができないギターになっています。

Fender Prototype Strarocaster

67年製と見られるプロトタイプストラトキャスターは、フェンダー社より直接入手したというソニックブルーのマッチングヘッド+指板バインディングというファクトリー・オーダー仕様です。もともと普通のストラトキャスターだったのに、フロントピックアップにはグヤトーン製、リアにラップスチール用のピックアップを取りつけ、ブリッジはビグスビーに交換されています。ジャックプレートがさかさまになっているのも面白いところですね。

Works

ライ・クーダー氏は、その長いキャリアの中で数々の作品を送り出しています。ベスト版が4枚も作られていることからも、そのキャリアがいかに豊かであったかがわかりますね。映画音楽で売れっ子となった80年代には、日本国内でもパイオニアのCMで楽曲が使用されたりサントリーのCMに出演したりで、知名度をぐんぐん上げました。ここではその豊かな作品群からいくつかをピックアップして紹介します。

オリジナル・アルバム

古き良きアメリカ音楽を発掘した作品「Ry Cooder(1970年)」

Ry Cooder

ソロ第一作となる本作は、続く「Into the Purple Valley (紫の峡谷)」、「Boomer’s Story (流れ者の物語)」と並んで「古き良きアメリカ音楽を発掘した3作品」と評されます。アメリカ本国の深いところから徐々に遠くに及んでいくクーダー氏の旅は、ここから始まります。このとき23歳。スタジオミュージシャンとしてすでに名を馳せていたクーダー氏のテクニックやアレンジのセンスはこの時点ですでに完成の域に達しており、素朴でありながら満足度の高いサウンドを構築しています。

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朗らかな作風で聞きやすい「Chicken Skin Music(1976年)」

Ry Cooder

前作「Paradise And Lunch」と並び、氏の作品の中でも人気の高いアルバム。本作ではアコーディオン奏者フラーコヒメネス氏、現代ハワイアンのルーツと評されるギャビー・パヒヌイ氏を交え、ほのぼのとしたハワイの情景が目に浮かんでくるようなサウンドを構築しています。「音数が増えた」と言われながらも必要最小限の音数に整理されたアンサンブルは、ほっとくつろぎたい時にスッと心に染み込んできます。

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映画&サウンドトラック

CROSSROADS

かのスティーヴ・ヴァイ氏がラスボスとして登場することでも名高い1986年の映画「CROSSROADS」。最後のギターバトル以外のギタープレイは、この映画で音楽担当となったライ・クーダー氏が全て吹き替えています。クーダー氏のプレイにヴァイ氏は本物のソウル(魂)を感じたとコメントしています。

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