《ロックにフルアコを使う男》スティーヴ・ハウ

[記事公開日]2019/12/24 [最終更新日]2020/1/5
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

スティーヴ・ハウ Motif Volume 1 / Steve Howe

Steve Howe(スティーヴ・ハウ)氏は、Yes(イエス)、Asia(エイジア)の二つのバンドでとくに名高い、プログレッシブ・ロックを代表するギタリストです。各プロジェクトの合間を縫ってソロ作も積極的にリリースしており、またアコギの腕前でも高く評価されています。そのキャリアから、ジョン・ペトルーシ氏(ドリームシアター所属)、スティーヴ・モーズ氏(ディープパープル所属)ら、現代の大物プレイヤーからの尊敬を集めています。今回は、このスティーヴ・ハウ氏に注目していきましょう。

ロックバンドでアーチトップないしホロウボディのギターを弾くギタリストなんて誰もいなかった。みんな僕を笑ったし気取ったやつだと思ってた。僕にとってギブソンのES-175はただのギターにとどまらない芸術作品だったんだ。-Steve Howe-


Steve Howe – Sharp On Attack
スティーヴ・ハウ氏ベスト「アンソロジー」収録曲。老いてなお、この身のこなし。ロック系のサウンドでGibson ES-175をトレードマークにしたギタリストは、今のところのこスティーヴ・ハウ氏だけです。ちなみにこの演奏で、ハウ氏としてはチョーキングはかなり多い方です。

スティーヴ・ハウ氏の略歴

70歳を越えて今なお現役、プログレの雄スティーヴ・ハウ氏とは、どんな人物なのでしょうか。その経歴をざっと見て行きましょう。

おいたち

スティーブン・ジェームズ・ハウ氏は1947年、ロンドン北部ホロウェイの中流階級の家に生まれます。両親のレコードから、ジャズではレス・ポール氏、ウェス・モンゴメリー氏、バーニー・ケッセル氏ら、カントリーではチェット・アトキンス氏、テネシー・アーニー・フォード氏ら、またクラシックにも感化されます。「一人のギタリストがどんなジャンルも演奏する」という概念はアトキンス氏から学び、またボブ・ディラン氏からは反逆の精神を学びます(その影響は強く、自分の息子にディランと名付けるほどでした)。

10歳でギターに興味を持ち、12歳のクリスマスプレゼントとしてFホールのあるアコースティックギターを手に入れ、独学に励みます。正式なレッスンを受けず、楽譜の読み方も習わず、本と言えば一冊のコードブックしか読んだことがないと伝えられます。

14歳で最初のエレキギターを手に入れ、17歳で念願のES-175Dを手に入れ、このあたりからプロのバンドで演奏するようになりました。

バンドでの成功

23歳で、オーディションを通過してYesに加入します。ハウ氏は作詞作曲に積極的に貢献し、Yesのサウンドをプログレッシブ・ロックへと前進させます。ハウ氏が参加してからの5枚のアルバムは2枚は米国でプラチナ認定を取得し、他の3枚はゴールド認定を取得し、Yesは「この10年間で最も成功したバンド」と称されます。

Yesはメンバーの出入りが激しく、ハウ氏も出たり入ったりを繰り返します。その過程で34歳でスーパーグループ「Asia」、38歳で「GTR」を結成、42歳ではYesを抜けたメンバーで「アンダーソン・ブルーフォード・ウェイクマン・ハウ(ABWH)」を結成、60歳で息子のディラン・ハウ氏をドラムに迎えた「スティーヴ・ハウ・トリオ」を結成します。

62歳の時にはYesとAsiaの合同アメリカツアーにフル出場、翌年にはYes、Asia、スティーヴ・ハウ・トリオのツアーに出るなど精力的な活動を続けます。65歳からはYesとソロの活動に絞りましたが、70歳のツアー中に息子のヴァージル氏が早世する悲劇がありました。しかしハウ氏はそれに折れることなく、72歳となった2019年にスティーヴ・ハウ・トリオの新譜を発表するほか国内ツアーに出るなど、今なお健在です。キャリアと名声に溺れることなく、毎日練習しているとのことです。

スティーヴ・ハウ氏のプレイスタイル

若いころからジャズの大家ケニー・バレル氏に傾倒してフルアコを愛用したことからか、スティーヴ・ハウ氏はロックギタリストとしてはギターをかなり高く構えて演奏します。またそのためか左手の親指がネック裏に回っていることが多く、リードプレイであってもチョーキングが非常に少ないのが特徴です。ビブラートについても、チョーキング/チョークダウンを繰り返すロックギタリストの手法(ハンド・ビブラート)ではなく、フレット内で弦の張ってある方向に指を動かす手法(フィンガー・ビブラート)を使用します。これらはジャズギターに見られる特徴で、ハウ氏のルーツがそこにあることがうかがわれます。


Yes – Into The Lens (Official Music Video)
テレキャスターを使っていても、チョーキングはほとんどありません。また「Yes」では特に、ステージにはエレクトリック・シタールとスチールギターをスタンバイさせ、曲中の場面に応じて持ち替えて演奏します。普通のギターではチョーキングやビブラートが少ないハウ氏ですが、スチールギターではその逆で、ベンドを豊かに使った伸びやかなプレイを見せてくれます。

またロックやジャズ以外にもカントリーやフラメンコといったワールドミュージック、果てはクラシックまで、幅広いジャンルの手法を演奏や作曲に採り入れます。「Yes」ではオーケストラアレンジを手掛けることもありました。使用する楽器も幅広く、エレキギター、鉄弦とナイロン弦のアコースティックギターーにとどまらず、ダブルネックのスチールギター、ポルトガルギター(チューニングはEBEBE Ab)、リュート、エレクトリックシタールなど、まさに多岐にわたります。QUEENの楽曲「Innuendo」にてフラメンコギターで参加するなど、客演も多く手掛けています。


Queen – Innuendo (Official Video)
ハウ氏はアコギも達人で、さまざまなジャンルを弾きこなします。3:00あたりからのフラメンコギターは、ハウ氏によるものです。

スリリングなユニゾンプレイは「Yes」の見どころです。ベースやキーボードとの高速ユニゾンだけでなく、和音でもユニゾンプレイを繰り出します。


Yes – Tempus Fugit (Official Music Video)
スティーヴ・ハウ氏ベスト「アンソロジー2」収録曲。この動画で冒頭から「?いったいどんなエフェクターを使っているんだ!」なんて思った人も多いことでしょう。これはキーボードのコード演奏とタイミング、音づかい共に完全に一致させたユニゾンプレイです。そしてやはり、ストラトを持ってもやはりチョーキングはなく、ベンドはアームで行います。

スティーヴ・ハウ氏の使用機材

スティーヴ・ハウと言えばES-175

スティーヴ・ハウ氏は曲中ですら持ち替えるほどにさまざまなギターを使用しますが、その中でもトレードマークといえば、17歳の時に手に入れたという1964年製ギブソン「ES-175D」です。美しさに惚れこみ穴が空くほどカタログを眺め、ロンドンのセルマーミュージックストアにて特別注文し、父親から借りたお金は数年がかりでしっかり返済したのだとか。ハウ氏はこの175をひじょうに大事に扱っており、新品購入から半世紀以上経過した今なお、細かい打ちキズがいくつかみられるだけの美しいコンディションを維持しています。なお、氏のキャリアを通じて非常に重要なギターなので、飛行機を利用するようなツアーでは自身のシグネイチャーES-175を使用しています。ハウ氏のES-175は、

  • ブリッジベースが上位モデル仕様で、インレイの装飾がある
  • セレクターノブが四角い

というところに特徴があります。セレクターノブについては、使っている間に破損してしまったので、ペグのツマミを加工して作ったと言われています。

ステージのお共にLine 6「Variax」

Yesのライブでは常時エレクトリック・シタールを準備していたハウ氏ですが、近年ではLine 6社のモデリングギター「Variax(バリアクス)」に置き換えています。一台でいろいろなギターの音が出せるという機能に「これは自分のために作られたに違いない」と感じたそうで、主にシタールとアコギの音色で使用しています。

LINE 6 のエレキギター「Variax」について

アンプ&エフェクト

現在のスティーヴ・ハウ氏は、精緻に作り上げたアルバムのサウンドをライブで再現するための合理的なアプローチとして、プログラマブルアンプとマルチエフェクターの組み合わせでサウンドを構築しています。

Line 6 プログラマブル真空管アンプ「DT50」

Line 6 DT50

デジタルモデリングアンプで知られるLine 6ですが、ハウ氏の使用する「DT50(生産終了)」は、プリ管に12AXを2本、パワー管にEL34を2本使用する、正真正銘のフルチューブアンプです。高級アンプメーカー「Bogner(ボグナー)」創始者ラインホルド・ボグナー氏が開発に携わり、アンプモデリングのノウハウを活かしたクリーンからハイゲインまでの4種類のアンプ(フェンダー、マーシャル、VOX、メサ/ブギー)に加え、

  • A /BとAのクラス切換
  • パワー管に3極管と5極管の2モード

というマニアックな選択肢を用意し、あらゆるサウンドをカバーします。

マルチエフェクター「POD HD500」

Line6 POD HD500

「POD HD500」は高性能なアンプシミュレーターでもあり、ハウ氏には「コレ1台を持って会場のアンプを使う」という構想もあったようです。しかしやはりサウンドメイキングにおけるアンプの重要性から、HD500の操作でDT50も制御する方式をとっています。またこの組み合わせでは「HD500のプリアンプからDT50のパワーアンプに送る」という技もあり、膨大なサウンドバリエーションが手に入ります。各サウンドのプログラミングは専門の技術者に依頼していますが、その音の良さについては「素晴らしいサウンドだと言わざるを得ない」と、ハウ氏自身が太鼓判を押しています。

LINE6 POD HD500X – Supernice!エフェクター

スティーヴ・ハウ氏の作品

半世紀を越えるハウ氏のキャリアの中で、Yesで30作、Asiaで10作、ソロだけでも20作以上というアルバムがリリースされています。ひとつひとつをチェックするのはかなり大変なのですが、ありがたいことにソロ作品とバンド/コラボレーション作品それぞれのベスト盤がリリースされています。

Anthology/Steve Howe

Anthology

ハウ氏が次男のヴァージル氏と厳選した33曲のソロ作品が収録されています。1975年から2011年までにリリースされた各曲は、おおむね発表年代順に並んでいるので、ハウ氏の音楽観やサウンドがどのように変化していったのかを知るのにちょうど良くなっています。

Anthology 2: Groups & Collabor/Steve Howe

Anthology 2

Yes加入以前のバンドの作品から、Yes、Asia、GTR、ABWHといった有名プロジェクトの代表曲までを2枚のCDに、他アーティストとのコラボレーション作品と未発表曲を3枚目に収録した、全56曲。1枚目は1980年代まで、2枚目は1990年代以降と分けられています。

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