ヌーノ・ベッテンコート(Nuno Bettencourt)の使用機材やギタープレイの特徴

[記事公開日]2022/12/16 [最終更新日]2023/1/16
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ヌーノ・ベッテンコート氏は、ロックバンド「EXTREME(エクストリーム)」の成功で特に知られるギタリストです。そのほか多くのバンドやソロ、またプロデュースなど幅広く活動するミュージシャンである一方、メディア制作会社「Atlantis Entertainment」のCEOを務めるビジネスマンでもあります。
テクニカルかつグルーヴ感溢れるギタープレイと底知れぬ音楽性の広さが特徴的で、その卓越したテクニックからスタジオミュージシャンとして、またツアーミュージシャンとしても活動しています。今回は、このヌーノ・ベッテンコート氏に注目していきましょう。


EXTREME – DECADENCE DANCE – TAKE US ALIVE
大ヒットした2ndアルバム「Extreme II: Pornograffitti(1990)」の華々しい1曲目。ヌーノ氏のウマさのみならず、ハードロック要素とファンク要素、またこだわりのアレンジといったEXTREMEの持ち味も、ぎゅーっと凝縮させている。ヌーノと言えば、このやたら低く構えるギターの位置、サラッサラのストレートヘア、甘いマスクと甘いボイス、たくましい筋肉、そして黒く塗った左手の爪。

ヌーノ・ベッテンコート:Biography

ヌーノ・ベッテンコート氏(Nuno Duarte Gil Mendes Bettencourt)は1966年9月20日、ポルトガルに10人兄弟の末っ子として生まれ、4歳の時にマサチューセッツ州ボストンに引っ越しました。いくつもの楽器を演奏する父親のもと兄や姉もそれぞれに楽器をたしなみ、家は楽器に溢れていたといいます。14歳の時にギターに目覚めてからは1日の7時間以上を練習に費やし、そのためとうとう高校を中退することになりました。地元で組んだバンドの不振に悩んだこともありましたが、1985年には同じく地元ボストンのバンド「EXTREME」に加入、デビューを果たすやいなや世界的に注目を集めました。


Extreme – Play With Me (Pornograffitti Live 25)
デビューアルバム「EXTREME(1989)」を締めくくるシングル。コメディ映画「Bill & Ted’s Excellent Adventure(1989)」サウンドトラック、リズムゲーム「Guitar Hero Encore: Rocks the 80s(2007)」、SFホラーTVドラマ「Stranger Things (2022)」に採用されている。EXTREMEのサウンドは、30年を経てなお色あせていない。

EXTREMEでの成功


Extreme – Kid Ego
デビューアルバム「Extreme (1989)」より。ファッションやドラムのサウンドはいかにも80年代風だが、16ビートを主体としたグルーヴとソリッドなギターサウンドは、来るべき90年代を予感させる。

ヌーノ氏がボーカリストのゲイリー・シェローン氏と初めて会ったのは1983年で、お互いにQueenが好きだということで意気投合します。そして2年後、ゲイリー氏はヌーノ氏にEXTREMEへの加入を求めます。ヌーノ氏はバンドのレコーディングもあっていったん断りますが、思い直して加入を決意します。

ヌーノ氏を得たEXTREMEは数年でメジャー契約を獲得、1989年に「Extreme」でデビュー、翌1990年に「Extreme II: Pornograffitti」が世界的大ヒット、1992年に「III Sides to Every Story」で音楽的に完成します。バンドは順風満帆でしたがヌーノ氏はソロのキャリアに野心を燃やしており、1996年にいったん解散します。

さまざまなプロジェクトで幅広く活動


STEVEN TYLER and NUNO BETTENCOURT – KINGS OF CHAOS – BACK IN THE SADDLE
ハードロック・スーパーグループ「King of Chaos」。残念なことに、アルバムのリリースはない。

バンドではなくいちミュージシャンとしての成功を目指したヌーノ氏でしたが、ソロアルバムを1枚リリースしてからは新たなバンド活動を模索、Mourning Widows(1997–2001)、Population1(2002-2005)、DramaGods(2005-2007)、Satellite Party(2004-2007)といったバンドでそれぞれ1~2枚のアルバムをリリースしました。また2014年にはハードロック・スーパーグループ「King of Chaos」のツアーに参加、2016年からは達人ギタリスト5人を擁するスーパーグループ「Generation Axe」に参加、日本を含む世界各地でツアーを行っています。

ソロとしてはデビュー早々にジャネット・ジャクソン女史のシングル「Black cat(1990)」に参加したほか、ドゥイージル・ザッパ氏(1991)、T.M.スティーヴィンス氏(2007)、Nickelback(2017) 、スティーヴン・タイラー氏(2018)ら名だたるアーティストのレコーディングに参加、Rihanna(リアーナ)女史とのコラボではアルバムのほかツアーにも参加しています。
日本との関係も深く、JAM Project「GONG c/w Brother in faith(2005)」、嵐「ランナウェイ・トレイン(2006)」、松坂大輔投手のテーマ曲「Gyro Ball(2007)」などで腕前を披露しています。

ヌーノ・ベッテンコート:ギタープレイの特徴


Pat Travers – Push Yourself (Official Music Video)
日本では知る人ぞ知る、パット・トラヴァース氏。ヌーノ氏に影響したと言われる名手では恐らく唯一ボーカルも担当するほか、長い髪や低く構えるギターの位置、若いころの痩身で筋肉を見せつける感じなど、音楽だけでなくルックス面にも強く影響したと考えられる。

ヌーノ氏はエドワード・ヴァン・ヘイレン氏、ブライアン・メイ氏、パット・トラヴァース氏らギターヒーローの影響を受けていますが、パコ・デ・ルシア氏、アル・ディ・メオラ氏らラテン系のアーティストも愛聴しました。90年代はロックギタリストの多くがヴァン・ヘイレンのチルドレンだと言われましたが、ヌーノ氏はその中でもスピリットやフィーリングを最も強く受け継いでいるプレイヤーだと目されています。しかし持ち味とされるファンク系のニュアンスについては、誰に影響されたか明らかになっていません。

躍動感のあるリズムプレイ


Janet Jackson – Black Cat (Official Music Video)
Billboard Hot 100でナンバー 1 ヒットとなった、ジャネット・ジャクソン女史の代表曲。アルバム収録用に完成させた楽曲に対して、シングル版ではヌーノ氏がリズムギターを追加で録音している。ヌーノ氏はギターソロこそ弾いていないが、リフ弾きは生き生きとしていて、伴奏の所々に放り込まれるオブリガードはテクニカルで、実にイイ仕事をしている。

ヌーノ氏のギタープレイで特に評価されているのが、卓越したグルーヴ感です。まるで打楽器のように弾く」と表現される力強いリズムプレイは躍動感にあふれ、タイム感、ダイナミクスともに絶妙です。リズムが余りに良すぎるためちょっとしたフレーズが物凄くかっこよく聞こえ、「やたらセンスがある」と評価されることもあります。16ビートのリフを粒立ち良く聞かせることができることから、EXTREMEはファンクのノリでメタルを表現する「ファンクメタル」と呼ばれました。


Janet Jackson – Black Cat (Full Album Version)
こちらはヌーノ氏が参加していない、アルバム収録版。リズムギターはプロフェッショナルとしての仕事を完璧にこなした文句の言いようのない出来栄えだが、前出のシングル盤と比べるとやや平坦に聴こえてしまう。

アコギを弾いても一流


Steven Tyler & Nuno Bettencourt “More than words” – The 2014 Nobel Peace Prize Concert
USA週間チャート1位をマークした、EXTREMEの大ヒットシングル。同年リリースされたMr.BIG「To Be With You」もメガヒットとなり、「ハードロックバンドがアコギ持ってコーラスやりながらバラード演ると売れる」という空気ができる。翌年エリック・クラプトン氏の「Tears in Heaven」が大ヒットとなり、これらの名演が90年代初頭のアコギブームにつながったと言われる。

アコースティックギターにおいてはなおさら、ヌーノ氏のリズムの良さが発揮されます。タッチの違いによる強弱や音色のバリエーションを駆使した上で、立体感と安定感のある伴奏を成立させることができます。

技巧と表現の両立したソロプレイ

テクニカルであり、スリリングな展開


Extreme – Get The Funk Out
まさにファンクとメタルを融合させた、これぞファンクメタルという演目。間奏は2:30あたりから。ギターソロは王道のブルース系フレーズでスタートし、鬼のライトハンド、そして恍惚へいざなうクロマチック系へと移行する、ドラマチックな展開。硬質なサウンドながらフレーズが柔らかく聞こえるのは指の運びとピッキングの妙技であり、技巧的には現在でも極端に高度な水準。

メロディを歌い、音楽を表現する


Steven Tyler “Livin’ On The Edge” – 2014 Nobel Peace Prize Concert
スティーブン・タイラー氏と共演する、エアロスミスのカバー。ギターソロは2:10あたりから。原曲のギターソロをリスペクトしながら、自分の演奏として歌いあげている。

超絶技巧あっての音楽表現


Nuno Bettencourt
演奏は1:40あたりから。ヌーノ氏の演奏としてはなかなか珍しいアラビアンテイストのインストで、元ネタはEXTREMEの4枚目「Waiting for the Punchline (1995)」収録のアコースティックナンバー「Midnight express」。
ある時期からテクニカル路線を修正し、ギターで歌うようになったと言われたらしい。しかし今なおヌーノ氏は超絶技巧の持ち主であり、ヘタクソになったわけでも技巧派を中退したわけでもなく、むしろウマくなっていると言ってよい。ヌーノ氏にとって高水準の技巧は音楽表現のための単なる道具であり、出したい音のために技巧を使っているにすぎない。

ヌーノ・ベッテンコートの使用機材

エレキギター:Washburn 「N4」

Washburn N4 ご本人愛用のN4を経年変化まで完全再現したWashburn「N4-NUNO AUTHENTIC USA」。歴戦を経たダメージやスペシャルな改造までがしっかり再現されている。なおワッシュバーンと契約する前は、ストラトタイプのボディを自分でカットして、スリムなギターにしていた。

Washburn(ワッシュバーン)「N4」が、ヌーノ氏のトレードマークです。シンプルな本体ながら、ややスリムなストラトタイプのボディとご自身がデザインしたというヘッド形状により、他にはない独特の雰囲気を帯びています。

ステファンズ・エクステンデッド・カッタウェイ

このギター最大の特徴となっているジョイント部は、発案者名から「ステファンズ・エクステンデッド・カッタウェイ(Stephen’s Extended Cutaway)」と名づけられています。ジョイントヒールをごっそりと除いてしまうことで、ハイポジションの演奏性を極限まで高めています。

L-500XL

リアピックアップは、ビル・ローレンス社製「L-500XL」。引き締まった低域ときらめきのある高域が特徴で、特にヘヴィ志向の音作りにフィットします。エスカッションマウントに見えて、ボディ裏側からネジを通してボディに直接マウントしています。フロントピックアップはセイモア・ダンカン「SH-1(’59)」です。

トーンなし、マスターボリュームと3WAYセレクタースイッチのみというシンプルな操作系です。ヌーノ氏はボリュームノブで歪みの量をコントロールし、オーバードライブのセッティングから音量を絞ってクランチ、さらに絞ってクリーンを作ります。

D-Tuna

一瞬にしてドロップDチューニングに移行できる「D-Tuna」を装備。これを使用するため、ご本人はアームアップを封じたセッティングを採用しています。

使用アンプ:Randoll「NB KING100」/Marshall「JCM 2000」

nb-king100

2012年、Randoll から自身初のシグネチャーモデル・アンプ「NB KING100」を発表しています。
レトロなルックスとモーニング・ウィドズのマークが印象的なヘッドアンプは、オールチュブでマーシャルのようなハイゲインでありながら、音の重厚感もありクリーンも煌びやかなトーンを奏でます。ピッキングに応じて針が振れるVUメーターと、その隣に配置された過剰に大きなマスターボリュームツマミが、何とも言い難いノスタルジックな雰囲気を演出しています。
ただし常に同じアンプを使うと言うわけでもなく、現場によってこのNB KING100とMarshall「JCM 2000 DSL 100」とを使い分けています。

使用エフェクター

BOSS GT-8

ヌーノ氏はエフェクターについてはあまりこだわりが無いと公言しており、故障しなければ買い替えることもなく、使用するペダルは必要最小限にとどめているようです。また、エドワード・ヴァン・ヘイレン氏の機材で弾かせてもらう機会に恵まれつつも自分の音しか出なくてがっかりしたという経験から、本当に重要なのは自分の指だ、ともコメントしています。

エフェクトの中核に据えているのは、BOSSのマルチエフェクター「GT-8」です。各フットスイッチの設定が1)エフェクトなし、2)オープンコード用の軽いコーラス、3)音量を上げたソロ用、4)スパイス的に使用するフランジャーのジェットサウンドという、GT-8の機能を想えば限定的な使い方をしています。デバイスの操作や研究には本当に興味が無いらしく、GT-8に備わっているはずのオクターブやノイズサプレッサーなどほとんどの機能を使わず、他のエフェクトを使う時にはペダルを追加しています。

ドライブサウンドはアンプに頼りますが、マーシャルを使用する時にはProco「RAT2(ディストーション)」を使用、ステージの演目によってBoss「DD-3(デジタルディレイ)」やBoss「OC-2(オクターブ)」を追加します。


Comfortably Dumb
OC-2を使用した高速オクターブ・ユニゾンは3:08あたりから。ベーシストはバスドラムと一体化することで、重厚なアクセントを加えている。

ヌーノ・ベッテンコートのDiscography

EXTREME「EXTREME(1989)」

ポップさと髪を強調したファッションを特徴とする「ヘアメタル」というカテゴリーにおいて、飛びぬけてウマいバンドとしてEXTREMEの存在を知らしめた記念すべきデビューアルバム。このアルバムでのヌーノ氏は、ヴァン・ヘイレンの強い影響が伺えるはつらつとしたプレイが中心で、近年ではほぼ見られないワウペダルを効かせた演目もあります。のちに持ち味とされたファンク要素を匂わせつつも8ビートの演目が主体で、この時代では模範的と思える正統派ハードロック/ヘヴィ・メタルです。ココから1年でどうして名盤「Pornograffitti」を完成させることができたのか。

EXTREME「Pornograffitti(1990)」」

16ビートやバウンスのグルーヴを持ち味とするヘヴィサウンド「ファンクメタル」を完成させて世界中で大ヒットした、EXTREMEの名盤中の名盤。ズックズクのヘヴィリフを利かせたグルーヴィーな演目が中心で、強力なファンクナンバー「Get the Funk Out」ではヌーノ氏の神、パット・トラヴァース氏がバッキングボーカルで客演しています。大ヒットナンバー「モア・ザン・ワーズ」は、普段メタルを聞かないリスナーも虜にしました。

EXTREME「III Sides to Every Story(1992)」

ファンクメタルのサウンドに焦点を当てた前作から一転、8ビートの演目も復活し、純然たるファンク、ソフトなサウンドやギターの鳴っていない澄み渡ったバラードなど、EXTREMEの名の通り極端なまでの音楽的な幅広さを見せつけた3枚目。ヌーノ氏はブラスセクションやオーケストラのアレンジまで担当。ファンクメタルを完成させた前作に対して、このアルバムを以ってEXTREMEというバンドのサウンドが完成したと言われています。

DramaGods「LOVE(2005)」

ヌーノ氏がリーダーを務めるバンド「Population1」が2005年に「DramaGods」へと改名してリリースした、実質的にはセカンドアルバム。2000年代中盤という時代を反映したオルタナ/グランジ寄りのテイストでメロディーを重視したとてもキャッチーでロックなナンバーから、アコースティックなとても繊細なバラードまで、幅広いサウンドが構成されます。なお、テクニックよりミュージックを重視したアルバムと思わせて、時として恐ろしくテクニカルなフレーズが放り込まれます。ヌーノ氏はボーカルも担当しており、EXTREMEとは違った一面が伺えます。

GENERATION AXE「The Guitars That Destroyed the World: Live in China(2019)」

スティーヴ・ヴァイ氏、トシン・アバシ氏、イングヴェイ・マルムスティーン氏、ザック・ワイルド氏、そしてヌーノ・ベッテンコート氏という、世界的な凄腕ギタリスト5人を擁するスーパーバンド「Generation Axe」のチャイナ公演。全員出演の夢のような演目からそれぞれのソロ、またイングヴェイVSヴァイ、ヌーノVSアバシといった組み合わせの演奏など、お祭りのような内容です。

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