フェンダー・サイクロン(Fender Cyclone)
フェンダー・サイクロンはムスタングのボディシェイプをアレンジしたような奇抜な外観に、フェンダー・ジャガーのピックアップ/ピックアップ・スイッチを搭載、フェンダー・ストラトキャスターのシンクロナイズド・トレモロ・ユニットなど、フェンダーの各ギターの仕様の良い所を合わせた高性能かつ個性的なエレキギターで、1997年に発売されました。
日本人ギタリスト「char」の使用でも有名なエレキギターで人気だったのですが、2007年をもってすべてのサイクロン・シリーズは製造を終了してしまいました。
初級/中級者の使用を想定して設計されていますが、キュートなルックスや小振りな取り回しの良さが魅力で、プロミュージシャンに使われる事も多くあります。また女性ギタリストが使用するケースも多いのが特徴、日本での人気は今なお高いモデルです。
サイクロンの歴史
サイクロンは、フェンダーUSAの日本人エンジニア後藤誠輝氏が1990年に考案した「ムスタング・カスタム」のコンセプトをベースとし、1997年に発表されメキシコで生産されました。
ピックアップ配列から「故カート・コバーンのムスタングを模している」と言われることもありますが、ニルヴァーナのデビューした1991年より前にアイディアができていたので、偶然の一致に過ぎなかったようです。
2002年には兄弟機種として「サイクロンⅡ」が発表されるなど人気を博しますが、2007年には両モデルとも生産中止になります。
2009年にはスクワイアから各色200本、日本限定で復刻販売されました。
サイクロンの種類
サイクロンは制作期間が短かったにも関わらず主に 3種類のラインナップが存在します。見た目や材・パーツなどほとんど同じなのですが、それぞれピックアップが異なった作りになっています。
サイクロン
初代サイクロンは「テックスメックス・シングルコイル」ピックアップ2基のモデル。2002年に再販された US・サイクロン・アップデート にはピックアップに「HOT NOISELESS」が搭載しています。
サイクロンHH
Cyclone HH
フェンダーのメキシコにある工場で作られている、ピックアップを二つともハムバッカーにしたタイプ。
「アトミック・ハムバッカー」「サンタアナハムバッカー」搭載でハードなサウンドが出せます。
サイクロンII
Cyclone II
ジャガーのピックアップを3基搭載したタイプ。ボディに白色の3本ラインが入っているのが特徴で、フェンダー社がサイクロンの成功を受けて2002年~2007年に制作・販売していたエレキギター。日本に100本も入ってきていないため、非常に希少度が高く珍しいモデルです。
Squier by Fender FSR Cyclone
スクワイヤのサイクロン
日本国内向けで限定的に生産するFSR(=Factory Special Run)シリーズとして各色200本ずつ生産されました。ミディアムスケールのメイプルネック、22フレットローズウッド指板、6点止めシンクロナイズド・トレモロという仕様はそのまま継承し、ボディ材はバスウッドがセレクトされ、ピックガードはボディカラーに応じてベッコウ柄やパール、SH(フロントはシングルコイル、リアにハムバッカー)構成のピックアップはホワイトになっています。
サイクロンのサウンド
サイクロンII:ジャガーのピックアップ
サイクロンではフェンダーの特徴である澄み渡るきらびやかな高音域と、ハムバッカーならではのパワフルなサウンドの両方を得る事ができ、ロック・ポップスを中心にあらゆるジャンルで使用できます。またミディアムスケールネックとシンクロナイズド・トレモロの恩恵により、ジャガーやムスタングでは乏しかったサステインの問題も解消しています。
サイクロンⅡ最大のポイントは、なんといってもジャガーのピックアップを搭載している点でしょう。「ジャキ」っとギラギラしたサウンドはストラトキャスターに近く、ジャガーのピックアップならではのエッジが立った歯切れ良く鋭いシングルコイルトーンですが、トーンの操作でマイルドなキャラクターやストラト的なハーフトーンも得られるなど、ジャガーより一つ多いピックアップとの組み合わせにより多彩な音色を出すことが可能です。
サイクロンの特徴
- 「ムスタングとは少し違う」と言われながらも、見分けの付けられないほど似通ったボディシェイプ。フェンダー「デュオソニック」を思わせるピックガードとトグルスイッチにより、ボディ形状も違っているような印象を受けます。
- ヴォリューム、トーン、ジャックはムスタング同様メタルプレートにマウントされています。
- やや大きめのヘッドには「台風(=サイクロン)」を模したキャラクターがプリントされています。
- 「ダイナミックトレモロ(=ムスタングのトレモロ)」から「シンクロナイズド・トレモロ(=ストラトキャスターのトレモロ)」に替えられているため、ブリッジ回りがスッキリとした印象です。
- ストラトキャスターよりもややコンパクトなサイズ感から、日本人が構えるとかっこ良く見える、という隠れた長所があります。
フェンダーらしからぬネック
サイクロンのネックスケールは24.75インチ(約628mm)で、フェンダーのギターでは極めて珍しいギブソンと同一のミディアムスケールになります。指板はフェンダーらしく丸みを帯びたものが採用されていますが、グリップも若干太く丸く、ギブソン的な印象があります。
ムスタングを継承したボディ
ボディ形状にはムスタングとの違いがほぼありませんが、シンクロナイズド・トレモロを搭載する関係上、ムスタングの約37mmからストラトと同様の1.75インチ(約44mm)に厚みを増しています。
発表当時はアルダーが使われていましたが、スクワイアから復刻されたサイクロンではバスウッドが使われています。
シンクロナイズド・トレモロ搭載
プロトタイプではケーラーがマウントされていましたが、初級/中級者向きということでシンクロナイズド・トレモロがセレクトされています。これによりムスタングにマウントされていたダイナミック・トレモロの弱点だったサスティン不足、狂いやすいチューニングが解消されています。伝統的な6点止めが基本ですが、USAモデルでは2点止めのユニットが搭載されています。
電気系
フロントにシングルコイル、リアにゼブラカラー(白黒)のハムバッカーというSH配列がサイクロンの基本です。ピックガードマウントのゼブラカラーは、ピックガードの色調と合わせると片方が視認しにくくなり、シングルコイルかのように見える効果があります。バリエーションとしてフロントもハムバッカーにした「サイクロンHH」、シングルコイルピックアップを3基マウントした「サイクロンⅡ」があり、USAやカスタムショップではムスタング同様シングルコイル2基のモデルも生産されました。
ピックアップセレクタ・スイッチが1弦ホーンに設置してあるのはデュオソニックと同様の仕様。2ピックアップモデルはトグルスイッチが、3シングルのサイクロンⅡではON/OFFのスライドスイッチが3連でマウントされており、5WAYセレクタが使用されているものもあります。
コントロールノブに大きめのものがセレクトされているのは、ムスタングと同様の仕様です。
サイクロンの主な使用ギタリスト
- YOKO(Noodles)
山中さわお(1968-、the pillows)
the pillowsは、2014年に結成25周年を迎えたオルタナティブ・ロックバンド。バンドの方向性をオルタナに向けてから支持を集め、アニメ作品にも楽曲が多く使用された事から海外にも進出、アメリカでのツアーを成功させています。
このバンドを牽引する山中わさお氏は、2001年頃よりフェンダー・サイクロンをメインに使用、2011年よりスクワイア・サイクロンを使用しています。
草野マサムネ(1967-、SPITZ)
スピッツは多くのシングルやアルバムをヒットさせているロック/ポップスバンド。草野氏の澄み渡るさわやかな歌声が大変印象的ですが、歌詞にはひねくれた要素がたっぷり込められていて、独特の世界観を展開しています。
ギターボーカルの草野氏は、2000年代のライブやPVで特別仕様のサイクロンを使用しています。草野氏のサイクロンにはアームはなく(=ハードテイル)、ホワイトのボディとピックガードに黒いピックアップというルックスでした。

- [カテゴリ]フェンダー , [最終更新日]2018/03/20 09:01