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《アイコンとしてのギターを追求する》Mary Guitars訪問インタビュー

Mary Guitars

Mary Guitars(メアリー・ギターズ)は、岐阜県大垣市の工房でオリジナルのギターを作っているブランドです。柔軟なセンスで設計されたギターはデザイン性、基本性能ともに高く、普通のギターでは満足できないギタリストの気になる存在になっています。今回は大垣市の工房を訪れ、ブランドを統括する丸井優希さんにお話を伺いました。

丸井優希

丸井優希(まるい・ゆうき):デザイナー/ギタールシアー
ESPギタークラフト・アカデミー修了ののち、ディバイザーに職人として入社、現場での経験を積み上げ、25歳で独立。34歳(2021年)という年齢は、GEN(Gakki Engine of Nippon)加盟ブランドのオーナーとしては若い。日本画家の祖父、デザイナーの父親を持つ芸術家の家系に育ち、自身もギターによる新しい表現を目指す。

Mary Guitars:工房1Mary Guitars:工房2Mary Guitars:工房3 センスの良さがビシビシ伝わってくる空間。作業場や応接室というより、アトリエと呼ぶべきだろう。

【個性溢れる2つのラインナップ】さっそくMary Guitarsのギターをチェック!

──宜しくお願い致します。早速ですがMary Guitarsではどの様なギターを作っているのでしょうか?

丸井:宜しくお願いします。現在Mary Guitarsでは「Disco」「Vispa」という2つのラインナップを展開しています。

「Disco」Roots Design

Mary Guitars「Disco」 3本並んだ「Disco」。メイドイン・ジャパンのブランドとはにわかに信じがたい、日本人離れしたセンスを感じさせる。表裏ともにコンター加工を施さないフラットなボディだが、不思議とそれを意識させない収まりの良さがある。

丸井:「Disco」は、ハイファイ(原音に忠実で、雑味が無い)な鳴り方と、レスポンスの良さを重視して設計した、モダン志向のギターです。トラスロッドの仕込み方、ネックのジョイント法、そのほかいろいろな設計によって、立ち上がりの速い引き締まった鳴り方をするギター本体を作っています。

そこに木材構成、ピックアップ配列やアッセンブリの変化で、サウンドやルックスにバリエーションを設けています。僕は「音とデザインは同じくらい重要」と考えていて、どちらが優勢でもいけません。前例のないオリジナルシェイプなので、重量バランスについても試作を重ねて追求しました。

Disco:ヘッド Discoのヘッド。ここまでの面積があるのに、ブランドロゴは小さいものにとどめて空間を大きく取っている。ロッドカバーの形状も凝っていて、デザインへのこだわりを感じさせる。

角度つきヘッド アングルヘッド(角度つきヘッド)に、存在感のあるネックボリュート(膨らみ)という設計。弦張力を確保し、ヘッド折れを防ぐ強度を稼いでいる。

Disco:ジョイント部分 Discoのジョイント部。ボディ側の曲線とネック側の曲線はキレイに平行。

丸井:Discoでは先にボディを作り、これに合わせてネックを作ります。アングルヘッドだし、個体に合わせてネックを作るので、ボルトオンジョイントですが実は結構な手間がかかり、作れてもせいぜい年5本程度です。しかしここまでやるからこそ音の伝達を最大限に高めることができ、また木材や電気部品、金属部品のキャラクターがしっかり反映されます。

Disco Roots-S3

Mary Guitars Disco Roots-S3 アルダーボディ、メイプルネックのボルトオンジョイント、インド産ローズ指板、SSS配列、アーム付きという仕様でありながら、ここまでストラトと似ても似つかないギターが出来上がるとは。サウンドは立ち上がりのものすごく早い、タイトでストレート、かつモダンな印象。つま弾くような繊細なタッチにも、バッキンバッキンにかき鳴らすようなハードなタッチにもしっかり追随してくれる。

ビグスビー ビグスビーとコントロールノブのこの組み合わせにレトロみを感じる人も、可愛さを感じる人もいる。

丸井:「いかにストラトから離して、SSS配列を乗りこなすか」、ここに挑戦したギターです。ストラトキャスターは実は強烈なデザインで、SSSのギターは油断すると全部ストラトになってしまうんです。

ピックガードがありながらピックアップは平行にボディマウント、トレモロスプリング非採用など、さまざまな工夫でシングルコイルのレスポンスを前面に出し、ストラトとは呼ばせないルックスと音を達成できたと思います。

Disco Roots-P2

Mary Guitars Disco Roots-P2 こちらはP-90タイプを2基マウントしたDisco。ボディ/ネックともにマホガニーを採用。甘く太い、柔らかい、ずっと弾いていられる甘さのあるサウンド。フロントの音が特にスッキリとした印象で、しかし芯となる硬い部分をちゃんと含んでいる、優秀な音。さっきの「S3」と同じ設計のギターとは思えない、音も感触も違った印象。
ボリュームポットにハイパスフィルターが付いており、音量を絞るとコリコリっとした普通のシングルコイルみたいになる。

ハードテイル・ブリッジ ブリッジはHipShot製のハードテイル仕様。このブリッジにすることで、定番機種のよくある仕様と一味違う感じになっている。

丸井:どこに持って行ってもよい、ちゃんと遊べるギターにしたくて作りました。Discoは「素直なレスポンスありき」という設計で、木材構成やピックアップの個性がクッキリと出てきます。

また僕はいつも、本体の味をピックアップがどう拾って、電気系統がどうアンプへ送っていくのか、これを考えます。ギター本体の設計は同じですが、この「P2」では、配線材やハンダ、ポットの種類など電材を選ぶことで、よりキャラクターが映えるように調整しています。

Disco Roots-P2 ピックアップ配列、ピックガードのデザイン、ブリッジ、操作系の配置に違いがある、というよりボディシェイプ以外どこもかしこも違う、全く異なったキャラクターを持つギターだという印象。

Disco Roots-T2

Mary Guitars Disco Roots-T2 いわゆるテレキャスター仕様だが、やはりピックガードのためか全く違うギターのように見える。しかし弦をはじいた時の、弦振動のストレート感はほかのDiscoと同じ印象。こちらはアルダーボディで、まとまった使いやすい優秀なテレの音がする。

丸井:この赤は「フェスタレッド」と呼んでいますが、「レゴブロック感」を目指して調色しました。レゴの赤って、可愛くて大好きなんです。このギターでは高級感じゃなく、このオモチャ感、レゴのわくわく感を表現したかったんです。また、ピックガードは「抜け感(程よく着崩して、軽さを出す感じ)」を意識したデザインです。サウンドとしては、耳に痛くない、扱いやすいミドルを狙っています。

Disco Roots-T2:ボディ 写真で伝わるかどうか、さだかではない。しかし、この赤はもうレゴにしか見えない。設計もこだわっていて、フロントピックアップはボディにマウント。ピックガードに空いた孔からドライバーを挿入し、高さを調節できる。

Disco Roots-T2:アッシュ こちらはアッシュボディ仕様。やはり反応の良いギターだが、鋭く凶暴なニュアンスを含んでいる。

丸井:アッシュボディは低音を削り、トレブルとプレゼンスを際立たせるように作っています。コリっとした部分を中心に出して、またわざと耳に痛い感じを残すことで、このタイプのギターらしさを強調しています。ボリュームを絞るとハイパスフルターが効いて、ピエゾピックアップ仕様のエレアコみたいな音にもなります。

Mary Guitars のスタンダードモデル
「Vispa」Donut Design

MAry Guitars Vispa ボディ外周のベベル(彫り込み)が印象的な「Vispa」。こちらは木材やピックアップでバリエーションを設けつつ、操作系やピックガード形状は共通している。

丸井:楽器フェアに出展したのを契機に、販売店さんとやり取りするようになりました。しかしDiscoでは手間がかかりすぎて、生産がどうしても追い付かないんです。生産性を上げて、より多くの方に手に取ってもらえるよう開発したのが「Vispa」です。

ストレートヘッドで、ピックアップ配列で遊びやすくしています。ボディとネックは作り置きできるように設計していますが、ジョイントするときはDisco同様にこだわってキッチリ接合します。

Vispa:ヘッド Vispaのヘッド。Discoでもそうだったが、他にはなかなか無い感じのオリジナルなデザインになっている。また、やはり控え目なブランドロゴも特徴。

丸井:Vispaの黒いヘッドは共通仕様です。ネックの塗装には、メイプルの木目が感じられるくらいに極薄のラッカーを採用しています。

ストレートヘッド Discoのアングルヘッドと異なり、ヘッドとネックが平行なストレートヘッド。

丸井:「生産性を重視」と言いながらベベルなんて入れちゃってるんですが、「僕がやる意味」も考えて、結果的にこうなりました。作っていると、このかっこよさに盛り上がれるんです。「ビザール」って言われることもあるんですが、自分ではコレがスタンダードのつもりです。

本体は木材、電気部品、金属部品といった「素材」の良さを素直に出すことを前提に設計しています。木材やピックアップの違いで音のキャラクターは変化しますが、配線など伝送系もそれに合わせて選んでいます。

Vispa:ペグ ヘッド裏面の延長がそのままネックボリュートにつながっている。ネックを握った感じは、いわゆるラッカーのしっとり感というより、木目を感じられるサラサラ感がある。

丸井:本体がとても軽量で、3kgあるかないかくらいです。奇抜に見られやすいギターだからこそ、ボディバランスにはこだわっています。

Vispa Donut-PH

MAry Guitars Vispa Donut-PH 「PH」は、アルダーボディ、メイプルネック、インド産ローズ指板という木材構成に、P-90タイプのフロント+ハムバッカーのリアという組み合わせ。やはり反応が良く、しかし柔らかさを感じさせる音。またこの絶妙な色みが美しい。華美すぎないが、バックのソファにも溶けず、しっかり存在感を主張してくれる。

フレットエッジ フレットエッジ、指板エッジ、ジョイント部分、ともに美しく整っている。

Vispa:ブリッジ ブリッジはレトロ感漂う3連式。見た感じ古い設計だが、サドル部分が精密に加工されており、オクターブ・チューニングもビシっと決められる。

Vispa:ネックジョイント 滑らかなヒールカットにより、ハイポジションでの演奏も余裕。

ボディバック バックコンター非採用の、フラットな背面。

丸井:「バーガンディー」という名前にしていますが、普通のバーガンディーより淡く明るく調色して、ピンク過ぎず、かつ渋すぎないところに落ち着かせています。Vispaのイメージにぴったりの色にできて、自分でも気に入っています。

Vispa Donut-M2

Mary Guitars Vispa Donut-M2 アフリカ産マホガニーボディ、メイプルネック、インド産ローズ指板という木材構成に、ミニハムバッカー2基という組み合わせ。渋いサンバーストと単層ピックガードの組み合わせが、得も言われぬ60年代感を覚えさせる。明るさと熱さ、そして程よいシャープさを持つミニハムバッカー独特の音を、素直に味わうことができる。

Vispa Donut-M2:コントロール 上面に金属板を埋め込んだ「メタルトップハットノブ」は、70年代に使用されていた。このレトロ感が、このギターの可愛らしさを演出している。

丸井:今のところこの「M2」の注目度が高いと感じています。Vispaの金属部品は、共通仕様です。このブリッジは、設計上の都合もあって選んでいるんですが、とても可愛いしロマンがあると感じています。

Vispa Donut-J2

Mary Guitars Vispa Donut-J2 アルダーボディ、メイプルネック、インド産ローズ指板という木材構成に、ジャズマスター用のピックアップ2基という組み合わせ。このピックアップを採用しながら、独特の世界観をしっかり表現しているギターは、実はなかなか他にはない。このピックアップと固定式ブリッジの組み合わせも、かなり珍しい。
恐ろしく軽量なボディから放たれる、太さと力強さ、そして特有のチリチリ感を内包した音。弦振動の感触が素直で気持ちが良く、テレキャスターとはまた違う方向性の、コードをかき鳴らしたくなるキャラクターがある。

Vispa Donut-J2 ボディ 「フローズンミント」と名付けられたカラーリングは、サーフグリーンとソニックブルーとの中間を狙ったという絶妙な色合い。愛嬌があるというか、とても可愛らしい。

丸井:この「J2」が、Vispaの初号機です。Vispaを開発する時に最初に考えたのが、生産性に加えて「ジャズマスターのピックアップをいかに乗りこなすか」でした。コレを乗りこなせたら、どんなピックアップでも乗りこなせるに違いない、と思ったんです。

クセの強いピックアップですから、普通のギターに載せると必ず違和感が出ます。それをいかにして自然に溶け込ませるか、そこに注力したデザインです。

ずっと愛してもらえるギターを作りたい

Mary Guitars:ラインナップ ずらりと並んだDiscoとVispa。なんとも可愛らしい。

丸井:たとえばギブソンやグレッチのデザインには、「ギターアイコン」としてのキャラクターの強さ、ギター自体の面白さがあるんです。トラッドなギターのデザインにはどこか隙があって、「弾きやすさはともかく、かっこよくて気に入っている」みたいなところがあるじゃないですか。そういう垢ぬけていない、切羽詰まってもいない、愛嬌や可愛さのある、ずっと愛してもらえるデザイン、Mary Guitarsはそういうところを目指しています。

自分なりに表現して、解釈や評価は観る人にゆだねる

Mary Guitars:丸井

丸井:Mary Guitarsのギターは、誰に向けてというより、僕なりの表現なんです。自分なりに表現して、解釈や評価は観る人にゆだねる、という姿勢です。最初からオリジナルデザインだけでやっていくつもりでした。

そんな感じですから、Mary Guitarsのギターがどんな人にフィットするのかは読みきれません。音が気に入って買ってくれる人もいれば、見た目でオーダーしてくれる人もいます。刺さる人には刺さる、そういう手ごたえを感じています。ここ2~3年で、お店での取り扱いも増えてきました。

僕自身はモダンアートや抽象画が大好きで、作品の向こうにいる作者の感性を読み込みに行きます。そこには結果としての作品しかなくて、観る側としてはここに至った文脈が分かりませんが、その人の思いを形にするパワーを見るのが好きです。その人にとってはそれなんです。それに価値観の違いも楽しいし、作品が自分のルーツと重なるところがあったりすると、ちょっと共感できて嬉しくも感じます。

工房見学《全ての工程を一人でできる、完結した空間》

さて次は、工房内を拝見します。一人で全ての工程ができる、完結した空間になっていました。

Mary Guitars:工房 自宅の隣に建てた社屋。木工、塗装、組み込みの三工程すべてが一人でできる。

──この建物ですべて完結しているんですね。

丸井:1階が木工や塗装などの作業用で、2階は試奏やミーティングに使います。

木材の保管所

木材保管所 2Pのボディ材が並んでいる。何枚かは粗加工を済ませ、次の工程を待っている。

ホンジュラスマホガニー ホンジュラスマホガニーは、ショーモデルなどのために保管している。希少だと言われながらも、あるところにはある。「VHM」は、ヴィンテージ・ホンジュラスマホガニーの意。

指板材 こちらは指板材。インド産ローズウッドのほか、エボニーもある。

丸井:狂い出ししたり寝かせたり、木材は1か所にまとめています。仕入れた木材はひとまず2週間くらい寝かせて、天候なども見て動き方を観察します。ヴィンテージ・ホンジュラスマホガニーは、40年くらい前のものです。

木工室 こちらは木工室。工作機械や工具がずらり。自動加工機はなく、全て自分の手で加工する。

塗装室 こちらは塗装室。Vispaのネックが乾燥を待っている。

バフがけ用の空間 木工室と塗装室の間は、バフがけ用の空間になっている。

マスク 塗装や研磨に使用するマスク。

ネジ穴 木工段階で、ネジ穴もあけている。

丸井:木工段階から完成した時の精度を想定して作っているので、僕にとってはこの段階でネジ穴を空けた方が作りやすいんです。

組み込み用の部屋 組み込み用の部屋は、リペアや接客にも使用する。

丸井:音のキャラクターに合わせて使い分けますから、配線材やハンダはいろいろ準備しています。お客さんに音を聞き比べてもらうために、ハンダだけ違うシールドを各種揃えています。

──ありがとうございました!


以上、岐阜県大垣市、Mary Guitarsの丸井さんにいろいろお話を伺いました。自分なりの表現なんだ、というアイデンティティが印象的でした。Mary Guitarsのギターに触れると、ギターの向こうにある丸井さんの感性が感じられるでしょう。ショップや展示会で見かけたら、ぜひチェックしてみてください。