ギター博士と往く:Sago訪問インタビュー!!

[記事公開日]2015/9/11 [最終更新日]2021/7/3
[編集者]神崎聡

ギター博士と往く:Sago訪問インタビュー

2005年に創業したギターブランド Sago New Material Guitars。創業して10年と歴史が浅いにも関わらず数多くの国内有名アーティストがSagoのギターを使用しています。今回、兵庫県尼崎市にある工場に、Supernice!スタッフとギター博士が訪問、代表である高山社長にお話を伺いました。Sagoのギターの特徴、サーモウッドの秘話、工場の様子など、Sagoギターについて徹底的にお話を聞くことができました。

Sago New Material Guitarsの歩み

──よろしくお願いします。さっそくですが高山さんがSagoブランドを立ち上げるまでの歩みについて教えて下さい。

高山賢さん(以下、敬称略) 10年前にさかのぼりますが、元々はミュージシャンになりたくてバンドをやっていたんですが駄目で、その後あるメーカーさんで少しの期間バイトすることがあって、その時初めて楽器っていうものに関わる仕事に就くことになりました。それまでは弾くばっかりでしたね。調整を終えたギターは凄い弾きやすかったり/弾けなかったフレーズが弾けるようになったり、というのを実感して「あ、こういうことするのも面白いな」って思ったのがきっかけです。

はじめはバンド時代にお世話になっていたリハーサルスタジオからギターの修理を受注していました。関西に系列店を多く持つスタジオでしたので、系列店をぐるぐるまわっていました。そうこうしているうちにある方から「ネックつくってよ」と頼まれて、続いて「ボディ作ってくれ」などオーダーがあり、そのうちに工場が借りれるようになって、ブランドを立ち上げることができました。(ブランドを立ち上げることは)最初はまわりからやめとけって言われましたね。ただ、大阪には全国に名が知られているようなリペアショップがいくつかあるので、「リペア店では大阪では勝てない」と思い、逆にブランドで勝負したほうがいいんじゃないかと思って、始めました。

──ギターを作り始めた時は1人ですか?

高山賢 はい、最初は一人で始めました。クラフトの学校を出ていなければ、どっかで修行を何年もやったわけでもなかったです。短期間働いていたバイトでも楽器を作っていたわけではなかったので、ギターを作るのにどんな機材を用意したらいいかも分かってなかった状態で「とりあえず作るか」という感じではじめました。

──独学ということですか

高山賢 そうですね、完全に独学です。見よう見まねで楽器を作ってたので、当然失敗とかいっぱいしましたね。ところがその失敗の中からSago独特のコンターができあがりました。最初の3年は休まずに働き詰めだったため夜中に制作するようなことがあったんですけど、その日も夜中にギターを削っている時、機械操作を誤っていつもよりも深く削りすぎてしまったんです。しゃーないなーと思ったんですけど「逆にナイキみたいにしてやろう」と夜中のテンションでそのまま作ってみたら、あんなコンターができました。

sago-rap 組み込み前、ラップ塗装されたギターのボディ。ラップ塗装も元祖はSago

テレビ出演も多い高山社長

──高山さんはテレビの出演も多いですね(高山さんは関西系のテレビ番組「となりの人間国宝」「ポテトなじかん」など、多数出演していらっしゃいます)

高山賢 はい。「ポテトなじかん」では、オフショットも取材してもらいました。趣味の時間を撮りたいということで、趣味はなんですかと聞かれたんですが「バンドかゴルフです」と。まあバンドのことだといつもと変わらないので、じゃあ今後ラウンド回るんで撮影来ます?と言ったところ来てくれました。ところが全然パター入れへん。しゃあないから8ホールくらいついて来てもらって、出来上がった番組を見てみたら、やっぱり入ってないシーンばかり使われていました(笑。

sago-guitarhakase とても気さくにお話をしてくれる高山さん。高山さんの面白い話に聞き入るギター博士

──何故テレビの取材が多いんでしょうか

高山賢 うちの機材を使ってくれるアーティストさんのおかげだと思います。うちは小さい工房ながら使ってくれるアーティストさんの数が多い、みんなが知ってるアーティストさんが多いこともあって、メディアに注目してもらっているのではないかと思います。

多くのアーティストがSagoのギターを手に取る、その経緯とは?

──アーティストさんに使ってもらう、という流れはどういった感じなんですか?

高山賢 話はギターを作り始めた時に遡るんですけど、ギターを作ったことがないのに高級ギターを作ろうとはじめて、最初に作ったギターを東京の楽器店に持っていきました。一人で。新幹線のって。ギターもって。当然ですが、いきなりお店に行っても難しかった。「こういうのもなんだけど、他のメーカーさんでも10年20年経験を経て、ようやく、とかで。他のメーカーさんならアーティストさんに使ってもらうとか実績があった上でようやく考えられるわけで、どっちか実績は必要なんじゃないかな。」…もっともですよね、言ってること。その2ヶ月後くらいにラリー・カールトンに持っていきました。

──ちょっと待って下さい。国内でまだ誰もSagoのギターを使っていない状態で、いきなりラリー・カールトンですか?!

高山賢 グラミー賞アーティストですからね、いくなら大きいところがいいかなと思って。

──(笑)なるほど。ラリー・カールトンはサゴのギター使ってくれましたか?

高山賢 使ってくれなかったですね。ツーショット撮って帰ってきましたよ。

──(爆笑)ラリー・カールトンを経て、国内にも使ってくれる人が増えたと?

高山賢 ラリーカールトンを紹介してくださった方にthe pillowsの真鍋吉明さんを紹介していただきました。そこから1年くらい時間をかけてミーティングを重ねて、真鍋さんが工場に来て下さって作業などを見て、じゃあ作ってくれよ、と言ってくださって。一本作らしてもらって真鍋さんにお渡ししたら「じゃあこのギター、君が有名になるまで一生使うね」と言ってくださいました。「そんなん嘘や!」と思ってたんですけどそこからは本当にうち以外のギターを使わないでステージもうちの1本で。凄い漢気ですよね。今も新しいモデルが欲しいという話をいただけています。真鍋さんにはさらにスピッツさんを紹介していただいたりしました。

壁に掛けられたアーティストの色紙

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  • 壁に掛けられたアーティストの色紙
  • 壁に掛けられたアーティストの色紙2
  • 壁に掛けられたアーティストの色紙3
  • 壁に掛けられたアーティストの色紙4

社屋の壁に掛けられたアーティストの色紙。数多くのアーティストがSagoの機材を手に取っているのがわかる

今になったらありがたい話で、アーティストさんからうちに連絡をいただけるという状況になってきました。○○の紹介で~というかたちで問い合わせいただくケースが多くなりました。口コミですね。ほんとにありがたいですが、最初の口コミまではガッツでしたね。最初は失敗も多かったですよ。真鍋さんだけが、ガッツを感じるから一緒に大きくなろうよ、と言ってくださいました。

Sago New Material Guitars – Promotion Video

Sagoは自社のプロモーション・ビデオを2014年に公開しています。
PVに使用されている曲はサゴのテーマソングであり、the pillowsの真鍋吉明さん書き下ろし作品ということです。高山さん曰く「子供がうるさいな、なんやこの音って工場に近づいていくんですけど、楽器が作られていく風景を目の当たりにして子供がどんどん惹かれていく、最後に楽器を手渡され『次はお前がこの楽器を持って音楽を作る番だぞ』っていうテーマで作りました。機械の音がEだったので真鍋さんにEから作って下さいとリクエストしました」

サーモウッドについて

──サーモウッドを取り入れた経緯について教えて下さい

高山賢 Sagoでは「新しいものを作りたい、新しい音楽を創造したい」という思いを常に掲げています。常に新しいことを探していたとき、また僕がテレビにも出だしたときに、たまたま僕が出演してるテレビを見てくださったサーモウッド処理の特許をとっている会社が連絡してくれました。そこの会社もサーモウッドの活用を探していたらしいんですが、話を聞くと「サーモウッド処理を施すと木材の寸法が安定して、超乾燥状態になる」ということだったので、ギターに適しているんじゃないかと思いました。ただサーモウッド処理は家具などで用いられるアカシア材を使っていました。楽器業界ではアカシアは使わないので「メイプルとかアルダーとかをサーモウッド処理して欲しい」とお願いして、新しいことが起こるかもしれないということで実験をしてもらいました。タイミングが凄いよかったんだと思います。こんな小さな会社なのに協力してくださいましたから。

実験をしている時期、デッドエンドのYOU(足立祐二)さんにサーモウッドの実験の話をしたらおもしろがってくださって「試してみたい」と言っていただきました。サーモウッドの利点である寸法が安定する・乾燥状態が続くという点を確かめたかったんですが、ちょうどその時YOUさんは河村隆一さんの全国ツアー前だったのでツアーに持っていってもらいました。ツアーが終わってから「今までと違う音がする、夏場には60度にもなる機材車から25度のステージへ、ステージがはじまればスポットライト熱で40度にも達するというタフな環境で、寸法も結構安定している」との結果を報告して下さり、「意外と面白いよ」というご意見をいただきました。そういった経過を経て2009年の楽器フェアに出店、それからうちのブランドの注目度がいっきに高まりました。

サーモウッド処理は今や他のメーカーでも用いられる手法になっています。海外のハイエンドメーカーもよく使われているローステッドメイプルやチョコレートメイプルなど、サーモウッド処理をエレキギターに応用したのはサゴが初めて。

Sagoのギターについて

──Sagoで作られるギターやベースの特徴はどんなところでしょうか?

高山賢 基本的にはオールマイティなものはあまり作りたくなくて、オリジナルモデルだけでいきたいです。うちのオリジナルモデルっていうのはエゴで作っているので、特徴というよりは「これ、いいでしょ?」っていう押し付けがましいところがあると思います。できるだけメッセージ性の強いものを作りたいと思っています。サーモウッド処理を手に入れるまでコピーモデルは作っていなかったんですが、「サーモウッド処理による違いを知りたいのでスタンダードなジャズベースやストラトタイプを作って欲しい」というオーダーがあり、作りました。

sago-hakase2 工場見学の際に見せてもらった、「サウンドメッセ2015in大阪」にも出品していたオリジナルギターの原型

──ギターを作る上でどんなところに気をつけていますか?

高山賢 一番難しいのは、オリジナルモデルを作りたい/オーダーメイドを作りたいという想いがある中で、お客さんがどういったものを欲しいのか、というイメージの共有が一番難しいです。サーモウッドなど新しいものをいっぱい用意する、っていうのはあくまでも選択肢の一つなので、サーモウッド使わないほうがいいっていう提案をすることもあります。

──なかなか左利きってないと思うんですけど。左利きのラインナップも多いですよね。

高山賢 オーダーメイドってなると左利きの方が多くいらっしゃるんです。ないんだったら作ろうという方が多いと思うんですけど。弦高の感じとか調整が右用のものより難しいんですが、左利きのお客さんのおかげでノウハウが貯まりましたね。今はラインナップも増えてきています。

──ギターを作るにあたって、時代の変化は気にしますか?

高山賢 もちろんビジネスの話になると時流というものは敏感に感じ取らないといけないとは思うんですけど、なぜか、あまりできない。市場調査やってる時間があったら新しいものを作る時間に費やしたいんです。流行をおっかけると真似になる。あわせようとする。あわせにいってあった試しが一回もないんです。リズムもそうじゃないですか。リズムにあわせようとすると絶対遅れるし、歩幅もあわせようと思ったら遅れる。あわせようとすると全て遅れていく・感じていなかったらあわない、っていうのは全部一緒なのかなと思って。

なのでその場にあるもので選びます。直感、いいなって思ったものを信じたい。できなくても探すんだ、あみだすんだ、ないと思った時点でなくなってしまう、スタッフにもそのスピリットを常に言っています。楽器を作ってはいるけど、最高の楽器を求めてるんじゃない。その先にある音楽を求めてるんです。音楽の原点であるものを作らないと。

──ギターを作っていてどんなときに喜びを感じますか?

高山賢 ギルドというバンドのYOSHIHIROさんにオーダーいただいた時に、普通の6弦/フレットレス/アコギ弦をはったピエゾピックアップ、という構成のトリプルギター(SIGNAX)を作りました。YOSHIHIROさんはSIGNAXを持ったことによってさらに表現の幅が広がったみたいで、それがうちにとって一番嬉しかったことです。それによってオーディエンスが感動する、それで完結するんです。音楽って。そこまでを作っていきたいなと思ってましたから。

僕はバンドもやっていましたから自分で武道館のステージに立ちたかったという想いもあったんですけど、the pillowsの武道館ライブで真鍋さんがうちのギターを使ってくれた時、「ああこんな武道館の立ち方もあるんやな」って感無量でしたね。武道館ライブの模様はDVDになったんですけど、家に帰ってそのDVDを見て、最後のエンドロールでうちのロゴがでてきた時により感動しました。

ピックアップ

──ピックアップもオリジナルのものを作っていらっしゃいますね?

高山賢 シングルコイル、ハムバッカー、ギター用ベース用と全て自社で巻いています。「3シングルのストラトに最高にあうようなサウンドですよ」と言うようなオールマイティに対応できるものではなく、自分のところが作っているギターやベースにあうように、サーモウッドのネックにあうように作っています。市販化はできてないんですが、いずれしたいと考えています。

──そのオリジナルピックアップはどのようなサウンドになっているのでしょうか?

高山賢 荒い、いい意味で雑味のあるサウンドにもっていこうとしています。新しいものを作っていきたい反面、僕が好きだった音楽がアメリカの音楽だったんです。それを聞いて感動してかっこいいなこの音って。アメリカ製のピックアップはいい意味で雑味がある、荒さがあるというか音に幅がある。ハムバッカーでもバイト感というか、噛みこんだ感じの音がするんです。そういったサウンドをどうしても再現できないのが悔しくて。自分たちでやろうと、自社で巻き始めました。言葉で中々説明できない色気みたいなところをどんどん追求したいと思っています。

──常にバージョンアップしていく、ということですか?

高山賢 うちの楽器は一回リリースしたあとスピリットを受け継ぎながらもマイナーチェンジを繰り返します。曲作りでも一緒じゃないですか。ここでレコーディングします、と。けどステージではアドリブかましたりアレンジしたり、楽器もそうあっていいと思ってるんです。

Sagoの今後の展望は?

──最後に、今後の展望をお聞かせください。

高山賢 新しい素材は見つけましたが、まだまだこれからだと思っています。ちゃんとわかってもらって、うちの楽器をYesといってくれる人を多く持ちたい、知っていただきたい、感動してもらいたい気持ちがあるので、そこは段階をふんでやらないといけないなって思います。

また、音楽が好きでロックが好きで、その流れでこの仕事をはじめてるので、何をしたいの、って言われると、音楽を作りたい、新しい感動を作りたい、それで人々が熱狂するならそれを見てみたい、できればその中にいたい。新しい音楽、ロックを作りたい、全世界に広めたい、「新しいロックをやりたいっていうミュージシャンがいたら、その楽器を必ず作れる職人集団になりたい」っていうのがサゴの夢です。

──ありがとうございました。


新しい音楽を作りたい・その楽器を必ず作れる職人集団になりたい、と語る高山さん。面白いお話の中にも音楽とギターへの深い情熱を感じました。これからも色々な仕掛けを打っていく、ということで、今後もSagoのプロダクトから目が離せません。

Sagoの工場見学をする!

高山さんへのインタビューの後に、工場でお仕事中のスタッフの皆様を撮影させていただきました!皆様、当日は本当にありがとうございました!!

sago-staff工場では10人程のスタッフが働いているとのこと

hakase-guitarkoubou ボディを研磨している様子を見学する博士

guitar-koboボディの縁取り

sago-kojo今まさに削られている瞬間!

sago-kojo2美しい曲線を描いて削り取られていきます

sago-toso続いて塗装現場にお邪魔した博士

guitar-toso2ウレタン塗装を吹きかけると…

guitar-toso3みるみるテッカテカのピッカピカに!

guitar-toso4塗装前のギターも…

guitar-toso5この通り!まさに塗装女子!!

sago-office最後に事務所のスタッフとパシャリ。博士も大満足な工場見学なのでした♫

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