《KarDiaN訪問取材》かつてない新しいアイディアを提案する、ハンドメイド・エフェクターブランド

[記事公開日]2023/9/4 [最終更新日]2024/6/23
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

「KarDiaN(カージアン)」は、滋賀県守山市に拠点を構える国産ハンドメイドのエフェクターブランドです。サウンドと機能性に優れるラインナップはデザインも秀逸で、かつてない新しいアイディアも提案しています。他ブランドとのコラボレーションにも積極的に取り組んでおり、現代のエフェクターを語る上で見逃すことのできない存在感を発揮しています。このたび当サイト取材班は滋賀県を訪れ、KarDiaN代表を務める北田駿一さんに、KarDiaNラインナップのサウンドや、音作りのこだわりなどさまざまなことを伺いました。

北田駿一(きただ・としかず)KarDiaN代表
滋賀県出身。小中高とサッカーに励んだが、高校で合唱部に誘われたのが音楽に傾倒するきっかけとなった。高校卒業後はレコーディングスタジオに勤務するも、退社して大学で情報工学を学ぶ。在学中に楽器に触れ、演奏だけでなくレコーディングやアルバム企画なども経験し、プロのエンジニアとして仕事もしていた。卒業後に就職のため上京するが、退社して滋賀で独立、エフェクターブランド「KarDiaN」を立ち上げて現在6年目。様々なラインナップを展開するほか、他ブランドとのコラボレーションも積極的に展開している。

--「KarDiaN」というブランド名には、どういう意味が込められているんでしょうか。

北田:ブランド名「KarDiaN」にはラテン語の「心臓」という意味が込められていて、「ギタリストの心臓になるものを作りたい」という思いを託しています。それにちなんで、製品名もニトログリセリン(強心剤に使用)、ビタミンC、クロロフォルム(鎮静剤)のような、医学に縁のある、有機化学と相性の良いワードを選んでいます。

Kardianの製品を見せていただいた

代表機種4モデルは全て、アナログの歪みペダル

左から、C6H8O6 “VITAMIN C”、C10H12N2O “SEROTONIN”、CHCL3 “CHLOROFORM”、C3H5N3O9 “NITROGLYCERIN”。独特の外観から、通称「サビモデル」。生々しい音を出すというコンセプトのもと、モデル名に金属元素は使わず、炭素を含む有機物からチョイスしている。

北田:弊社の代表機4モデルは、全てアナログのドライブペダルです。歪みって楽しいですよね(笑。

この4モデルに限らず弊社製品はすべて、ノブがどの位置でもKarDiaNの求めている音が鳴るように作っています。トレブルを上げたら発振したとか、ベースを上げたら音像が壊れたとか、そういった破たんが起こらない幅で作っていて、ピーキーには作っていません。

C3H5N3O9 “NITROGLYCERIN(ニトログリセリン)”

KarDiaNの記念すべき第一号機。

7つのダイオードを組み合わせで、小型真空管アンプをフルアップにしたような粒立ちの荒さや食い付くような強いコンプレッションを実現。

CHCL3 “CHLOROFORM(クロロホルム)”

ガラスのような倍音を奏でるトランスペアレント系の透明感に、古き良きオーバードライブの絶妙なコンプ感と枯れた中音域を加味。

C6H8O6 “VITAMIN C(ビタミンC)”

トランジスタとFETからなる5つの素子を備えることで、ゲインを絞っても煌びやかな高音が残る。また前段のペダルの影響を受けにくく、現代のボードシステムに合わせた自由なレイアウトが可能。

C10H12N2O “SEROTONIN(セロトニン)”

名機の持つ豊かな中域と滑らかなピッキングレスポンスを残しながら、より音抜けの良い現場的な2バンドEQを装備。

北田:KarDiaNを始める前、脱サラしてからの修業期間に参加したエフェクターコンテストで、今西勇仁(いまにし・ゆうじ。Limetone Audio代表)さんと同率一位で優勝しました。今西さんとはそこからの付き合いで、一緒にエフェクターを作ったり動画に出演したりしています。その時のモデルが、弊社のエフェクトペダル第一号「ニトログリセリン」です。

C3H5N3O9 “NITROGLYCERIN”

北田:筺体の「錆び」は、塗装で表現しています。模型やジオラマなどを作る時の「汚し」のテクニックです。

骨格構造式を想起させる6角形の模様が全モデルで異なるあたり、デザインに対するこだわりが伝わってくる。

モジュール搭載でサウンドの幅が広がる「ADD CBF」

「CBF(Clean Blend & Clean LPF )」を装備してアップグレードする「ADD CBF」。クリーンを巧くミックスすることで、驚くほど奥行きというか立体感というか、そういうものを覚える未体験の効果が得られた。

北田:CBFは「エフェクターにブレンダーの機能を組み込んでしまおう」という発想で開発しました。エフェクト音にクリーンをミックスできるモジュールで、006P乾電池のスペースがあれば収まります。その代わり取り付けたら電池が入りませんから、ACアダプターでのみの駆動になります。これを使った他ブランドとのコラボや新しいモジュールの構想も温めていますので、楽しみにしていてください。

強力なディストーション「titania V2」

KarDiaN「titania V2」
SSS配列のストラトキャスターをつないだヴィンテージのフェンダーアンプやローランドJCから、血も涙もない地獄の底から響くかのようなディストーションが得られる。歪みは人によってはGAINゼロでも充分だと思えるほど強力。4バンドEQの効きも大変良好で、特にヘヴィ志向のプレイヤーならばディストーション探しの旅が終わってしまうかもしれない。

北田:「titania(チタニア)」は、酸化チタン(TiO2)の英語名が由来です。はじめにアーティストのシグネイチャーモデルとして開発したんですが、V2はそこから更にアップデートしています。強烈なリードや壁のようなバッキングが持ち味で、ギターの音量を絞ったクランチも魅力的です。

ミニスイッチは、ゲインの前段から低域を3段階で操作します。これを使う事で、ギターの個性や出したい音に合わせて、キャラクターをファットにするかタイトにするかを選択できます。

ギターへの加工が最小限で取り付けられる「CHARACTER MODULE SERIES(CMS)」

KarDiaN「Iodoform (Silver)」
各種の調節には、プラスドライバーを使用する。

北田:ギター本来のサウンドやトーンを変化させ、違ったキャラクターのギターとして使えるようにしようという発想から、キャラクター・モジュール第一号「Iodoform(ヨードホルム)」を開発しました。

トーンポットのスイッチでON/OFFを切り替えながら、あるいはプリアンプとしてかけっぱなしで使います。ONではローインピーダンス化するため、ノイズに強くなりますよ。トゥルーバイパスなので、電池が切れても音が出なくなることはありません。ギターメーカーとのコラボで、ヨードホルムを初期搭載したギターをリリースしたこともあります。

バッテリーボックスを増設する程度の加工で取り付けられ、ギター本体のスイッチでON/OFFできる。アクティブベースに見られるアクティブ/パッシブ切替を思わせるが、その遥か先を行く発想。同様のことをエフェクターで行ない、他ブランドとのコラボがあり、かつモジュールを簡単に交換できる。また、エフェクトボードに1台分のスペースを確保できる。

北田:キャラクター・モジュールのコンセプトを発展させ、オーバードライブやクリーンブースターなどを常時ONで使用する場合、これらのエフェクターもギターのキャラクターだと思って良いのではないかと考えました。そこで、いろいろなブランドとのコラボでキャラクター・モジュールのバリエーションを展開しています。

“Iodoform / ヨードホルム”

音量/ベース/トレブル/ゲインを設定することで、ギター本来のサウンドやトーンをキャラクターレベルで変化させる。ゴールド、シルバー、ブラックのカラーバリエーションがある。

SMOGGY ONBOARD

Y.O.S.ギター工房のオーバードライブ銘機「Smoggy Overdrive」。高域よりも少し奥の、心地よいプレゼンス領域に持ち味がある。

IRODORI ONBOARD

Limetone Audio製品第一号「irodori」。エフェクターコンテストでKarDiaN「ニトログリセリン」と同率一位で優勝した、「mellow」と「vivid」の2モードを持つクリーンブースター。

PRIME GEAR ONBOARD

Ovaltoneの銘機「PRIME GEAR」。演奏ニュアンスを最大限アップグレードするトリートメント効果が得られ、バッファー機器として求められる優秀なローインピーダンス変換をギターから最短距離で施すことができる。

ソケット式になっていて、カセットのように交換できる。

KarDiaN「CHARACTER MODULE BOX」
キャラクター・モジュールをエフェクター化できるアタッチメント。コンパクトで、何とも可愛いらしい。

KarDiaNの「シグネイチャー・トーン」は、どのようにして生まれるのか?

作業場のすぐ隣に、このような空間が。雑誌やネットでしか見たことのない歴史的資料がずらりと並んでいる。2本のストラトもかなりの逸品。北田さん曰く「エフェクターで稼いで、エフェクターを買っています。エフェクター好きの冥利に尽きるとはこのことです。」

北田:仕事で得たお金は、研究資料の調達にも使っています。ここは仕事と趣味を兼ねた空間で、洒落にならないものしかありません。ここでレコーディングや動画撮影も可能ですが、工場でも自宅でもあるので、お客さんを招くことはあまりありません。

貴重な研究資料から、名機の名機たる理由を突きとめる

トランジスタの違いで個性が分かれる3台のファズは、音量を絞った時の挙動にも違いが出る。北田さん曰く「みなさんファズの深い沼には魅入られますよね。デジタルやプラグインで満足できない人がたくさんいるとも思っています。」

北田:コレクションのほとんどは、ここ3~4年で手に入れました。オリジナルだけでなく、バズアラウンド系やラムズヘッド系などのクローンもチェックします。そうすることによって、オリジナルとクローンの差異が分かります。

すると、メーカーの皆さんがどういう要素や方向性でオリジナルに向かったのか、どういう解釈でオリジナルに接近したのかを探ったり、プレイヤーの皆さんが名機のどこを良いと思って使っているのかを知ったりできるんです。私はそれほど演奏できるわけではないんですが、そのかわり耳は良かったみたいで、今の仕事につながっています。

どれも音が違うという「ケンタの壁」。左下にあるのは、開発者田村進氏の直筆サイン入りTube Screamer。

ストラトのフロントシングルが、ペダル開発の「基準」

Marshallの幕開けとなったアンプヘッド「JTM45」は、バリエーション違いで3台ある。Proco「RAT」のコレクションは、遂にコンプリートしたとのこと。

北田:エフェクターのサウンドチェック、開発での音作り、リファレンスも含めて、全部ストラトのフロントを基準にしています。理由は二つあります。第一に、これが自分にとって最も好きな音だからです。11~の太いゲージ弦を張ったストラトキャスターのフロントシングルで、巻弦のゴリっと鳴る感じが好きです。

第二に、ここで良い音が出せるペダルが良いペダルだと思うからです。フロント側はリア側より遥かに振幅の大きな振動を拾いますから、割れやすいし破たんしやすいんですよ。また、シングルコイルはノイズも多いので、そこに対応できる静穏性が必要ですよね。

相当研究したという「ビッグ・マフの壁」。何とも壮観だ。

北田:受け側が破たんしない、音が割れてしまったり低域が膨らみすぎてしまったりしない、高域のアタックがしっかり鳴ってくれる、こうしたバランスの良さを感じさせるペダルが良いペダルだと思っています。ストラトのフロントシングルでこうした音の出るペダルを作るのが最初の到達点で、そこからリアやハムバッカーなど、他の使い方をチェックして完成させます。

僕が尊敬できるレベルのメーカーさんは、必ずこうした基準を持っています。ひとつの基準に基づいて開発することで、エフェクターブランドの「シグネイチャー・トーン」が確立されるのだと思います。

エフェクターは、無くても良いけどあったほうがもっと楽しい

Fenderの名機「Twin Reverb」は、リビングを雰囲気良く演出している。

北田:大学を卒業して就職したんですが、「同じことばかりでつまらない」と感じて3年ほどで退職しました。ギターよりベースやキーボードを弾くことの方が多かったんですけど、やがてエフェクターを集めるのが好きになって、仕事をするならこっちだと思ったんです。そこから1年間、頭を丸めて自宅でひたすら電気工学を勉強して、27歳でKarDiaNを立ち上げて、3年目までは一人でやってました。

弊社はまだ6年目ですが、10年20年と続けられる仕事があるとしたら、稼げる仕事ではなく好きな仕事だと思います。エフェクターがやはり私は好きです。これに携わる仕事が自分には良くて、好きな仕事を続けて心身ともに健康でいられる状態が、最も効率的にビジネスを展開できると思います。だからエフェクターについてのことならどんな仕事でも、少しでも面白くなるように考えて、もっと楽しくしていく努力を惜しみません。

エフェクターの楽しさを提案していきたい

北田:「ギタリストの心臓になるものを」とは言ったものの、優先度で言えば音楽にエフェクターは必須ではありません。しかしだからこそ面白さに深くこだわるところが、エフェクターの好きなところです。音楽自体と同じで、無くても良いけどあったほうが楽しいんです。

エフェクターメーカーとしては、アナログには「良い音へのアクセスが早い」というメリットがあって、まだまだ可能性があると思っています。ゼロからイチを生み出すような、アイディア勝負もやっていきたいです。

良いエフェクターを作るのは当たり前として、鳴らしたら曲のインスピレーションが湧いてくる、もっと集めたいと感じる、そういうところにも楽しさを提案していきたいです。良い音だけで終わらせるのではない、手に入れることで喜びが得られる製品を開発していきたいと思っています。

モデルに合わせるようにLEDの色も変えている。こういうちょっとしたところも楽しい。


以上、ここまでを前編として、国産ハンドメイドのエフェクターブランド「KarDiaN(カージアン)」について、北田さんに語っていただきました。続く後編では、工場の様子や仕事のやり方、ビジネス論などについて、引き続き北田さんに語っていただきます。

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