《オーダーで作るタフなギター》Altero Custom Guitars訪問インタビュー

[記事公開日]2020/8/28 [最終更新日]2021/7/5
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Altero Custom Guitars

滋賀県大津市を拠点とする「アルテロ・カスタムギターズ」は、製作、リペア、カスタマイズ、中古楽器買取販売、ギター教室まで、ギターに関するすべての要望に応じることができるというギター工房です。過酷な環境での酷使にも耐えうる頑丈なギターをフルオーダーできるとあって、プロミュージシャンからも依頼を受けています。今回はこのアルテロ・カスタムギターズを訪問し、代表の安田圭祐さんにお話を伺いました。

安田圭佑 安田圭佑(やすだ・けいすけ)アルテロ・カスタムギターズ代表/ビルダー
2010年、同じくビルダーの倉田聡一氏と二人で「アルテロ・カスタムギターズ」として開業。開業当初は地元のライブハウスに隣接するレンタルスタジオを受付窓口とし、ライブハウスの出演者やスタジオ利用者のリペアやオーダーの依頼を受けていた。仕事が増えてきて手狭になってきたことから現在の居所に移転。両名ともギタークラフト専門学校講師のキャリアもある。

Altero Custom Guitars:工房 明るい雰囲気の店頭。倉田さんがギターの調整作業をしている。

──宜しくお願い致します。ナビ頼りでは近くまでしか来れず、苦労しました(笑)。

安田:宜しくお願いします。そうなんですよね(笑)。初めてのお客様は、みなさんそうおっしゃいます。

店頭にも道具は置いてあり、比較的軽いリペアやセットアップを行います。隣が工房、その隣がスタジオで、建物内で全てが完結しています。

さっそくAlteroのギターをチェック!

安田:店頭にあるのは、ショーモデルや基本モデルのサンプルです。これらはプロモーション目的で作るものですから、スタンダードなスタイルが多くなります。しかしそれこそオーソドックスなものから変形、奇抜なものまで、今まで作ってきたギターはいろいろです。

アルテロはオーダーが基本なので、販売用の在庫はありません。8割くらいがエンドユーザー様からの直接のオーダーで、残り2割は販売店様からのショップオーダーです。

──試奏のため、スタジオに移動しました。

安田:レンタルスタジオを運営していた時にギター教室も開講していたんですが、こちらに移る際に教室も継続したくて、この部屋を作りました。スタジオ時代の名残で、アンプは何種類もあり機材は充実しています。Koch(コッホ)、Bad Catなどハイエンドアンプもありますが、ギターの性能をチェックして頂くためにはまずフェンダーのアンプが良いでしょう。

ストラトタイプ「Astra(アストラ)」

Altero Custom Guitars:Astra アッシュボディ&メイプル指板の50年代風。高級感のある金色のボディは、導管が立体的に浮き出ている。スパーンと前に飛んでくるパンチの効いた音には、太さと奥行きも感じさせる。かつフロントもセンターも、低域がしつこくないちょうどよい丸みを含んでいる。パーツも構造もヴィンテージ・スタイルなのに、モダンなサウンドがする、何とも新しい感触。

Astra:バーズアイメイプル指板 鳥目がボッコボコのバーズアイメイプル指板には、黒蝶貝のインレイ。色調は黒いが、光や角度の加減によりシルバーに輝く。

Astra:ヘッド 軸にスリットの入った、伝統的なクルーソンタイプのペグ。縁取りのあるロゴデザインは、若干のレトロみを感じさせる。

Astra:ペグ 真っすぐな、美しい木目。

Astra:ボディ裏 自然が作り出す美しいストライプ模様。アッシュの木目って、こんなにまっすぐだったっけ?厳選された木材に違いない。ヒール部はやや斜めにカットされている。

Astra:ジョイントプレート レーザー加工でブランドロゴが刻印されている。

Astra SSH アルダーボディ&ローズ指板という60年代風のスタイルに、SSH配列を採用。カラーリングも手伝い、よりモダンなテイストになっている。

Astra SSH:指板インレイ こちらの指板には、白喋貝のドットインレイが。

Astra SSH:ヘッド マッチングヘッドに、こちらは横穴タイプのクルーソンタイプ・ペグ。縁取りのないロゴデザインには、モダン感がある。

Astra SSH:トラスロッド ネックを外さなくてもトラスロッド調整ができる、ホイールロッド装備。

安田:「アルテロが作っているストラトは、こんな感じですよ」というのがわかっていただける、基準になるようなギターです。弊社が作るとこういうテイストになるんですが、それを判っていただいてからオーダーを検討いただけるとスムーズです。もちろん、オリジナルに忠実なストラトもできます。

基本構造はオーソドックスで、ヴィンテージライクな部品こそ使っていますが、ヴィンテージのサウンドを目指す必然性はないと考えています。このアストラは、ストラトらしいバイト感はしっかりありつつ、クッキリとしたモダンな音を持っています。

Astra SSH:ピックアップ 上質なピックアップを採用するのは当然だが、配置する位置にもサウンドの秘密が。

安田:一般的なストラトと大きく違うところは、第一にピックアップの位置です。フロントが24Fの位置にあり、指板の末端に接しています。リアピックアップは数ミリフロント寄り、センターはその中間です。フェンダーとの違いは数ミリですが、サウンドにちょっとした深みが加わります。リアシングル単体でシバいても、耳に痛くはありません。

ボディシェイプはフルサイズのストラトとほぼ同じですが、ウェストやカッタウェイの切り方を深くしています。「ボディのエッジが立つ」と表現するんですが、ボディ外周のRは小さめになっています。Rの取り方で見た目の印象はかなり変わりますね。ピックガードがエッジに迫っていることもあり、モダンで「シュッ」としたルックスだと思っています。

※シュッとしている:
関西特有の言い回しで、「均整がとれていて美しい」という意味の褒め言葉。対義語は「イモい」「辛気臭い」「パンチがない」など。

2ハムバッカー機「Vuoto(ヴォート)」

Altero Custom Guitars Vuoto 「アルテロのギブソンスタイル」というコンセプトで、トータルバランスを考慮したオリジナルデザイン。ハイポジ余裕の演奏性があり、最終フレットまでフルに使用できる。太さの中にトレブリーでカリっとしたニュアンスが含まれた、守備範囲の広いサウンド。

Vuoto:ボディ 何とも美しいトップ材。丸くてクリアなサウンドにはまとまり感があり、ポジションごとの音量バランスがきれいに整えられている。ピックアップには、近年名高い「ベアナックル」を使用。ベアナックルを試してみたいお客さんが多いのだとか。うっとりするほど甘いクリーンが得られるが、歪ませても実に気持ちが良い。

Vuoto:指板 フィギュアドメイプルによるウッドバインディング、白いバインディングを巻かれた状態で本紫檀指板に打ち込まれる、アバロン貝のドットインレイ。たいへんな手間がかかっているようだ。

安田:「メイプルトップ&マホガニーバックのボディにハムバッカー2基」というギターに対しては、普通ならマホガニーネックを使用するところです。しかしVuotoでは、メイプルネックをセットインしています。メイプルはマホガニーほど大きく動揺しませんから、レスポンスが良くタイトな感じが得られます。マホガニーネックは事故で折れてしまうこともありますが、メイプルネックは頑丈なのでマホガニーネックよりは安心です。ネック裏はボディと同じ色に塗ってありますから、「このタイプのギターにはマホガニーネックだ」と思っている人でも受け入れやすいと思います。

タフなギターを「ちゃんと作る」ブランド

安田

安田:オリジナルモデルを見ていただきましたが、アルテロはオーダーメイドを受けるブランドです。オーダー次第で全く違った設計、全く違ったサウンドを持つギターも作っています。私たちが考えている「アルテロの個性」は、設計やサウンドではなく「ちゃんと作る」姿勢と技術にあります。

弊社のお客様は、バンドマンが比較的多く、ライブで使うギターは、野外で弾いたり車で長時間移動したり、とにかく過酷な環境に置かれるんです。バンドマンが求めるのは、そんな状況下でも「ツールとして信用できる、トラブルが少ない、タフなギター」です。だから「ちゃんと、真面目に作る」ことが何より重要になります。それを第一に、ユーザーさんに合ったサウンドをどう提案できるかを考えていきます。

「狂い出し」こそが、タフなネックを作る秘訣

安田:タフなギターを作る考え方の一例として、ネックでは「木材が安定する」ことを第一に据えています。新品の出荷時からネックが安定している、季節の変わり目である程度は動いても一般的な手入れで十分、そんな安定性を目指しています。

安定感のあるネックというと、何層も貼り合せる多層ネック、またカーボンやチタンのサポートロッドを思い出す人もいるでしょう。しかし、いろいろやってデータを集めた結果、時間をかけてちょっとずつ木材の狂いを出していく「狂い出し」をちゃんと実施するのが、一番効果的でした。狂いを出し切ったワンピースネックのほうが、そんじょそこらの多層ネックより強いんです。

構造にはいろいろあるんですが、それはそれで良いんです。製造の過程でどれだけ手間をかけるかが、いちばん大切です。「狂い出し」は、ちょっと削る、寝かせている間に木がちょっと動く、またちょっと削って修正、寝かせている間にまたちょっと動く、の繰り返しです。ネック一本を作るのに、4か月かかることもあります。

オーダーを受けるなら、ブランドの「色」は無くて良い。

メタルギター 公式サイトのギャラリーより。何と、ゴリゴリのメタルギターも作る。あまりいろいろ作ると、ブランドのカラーが分からなくなってしまうのではないだろうか。

安田:結果的にでもありますが、なるべくアルテロの「色」は無いほうが、お客様としてはオーダーしやすいと考えています。どんなギターも「ちゃんと作る」のが、アルテロなんです。「アルテロって言ったらコレでしょ」という定番機種ができてしまったら、それはそれでオーダーの意味が薄れてしまいます。

Astra:セミオーダー 公式サイトのギャラリーより、オリジナルモデル「アストラ」のセミオーダー。コントロール位置変更、ピックガードなしなど、セミオーダーでもここまでできる好例。GOTOHペグ、ESPフリッカートレモロ、フリーダムCGRステンレスフレット、VooDooピックアップなど、ハイグレードなパーツで武装している。

安田:設計は自由であろうと心がけていて、ピックアップでもブリッジでも、市販のものを自由に組み合わせて作っています。いろんなものから選びましょう、という姿勢の方が楽しいですね。ですから逆にアルテロでは、オリジナルパーツを作らないようにしています。「アルテロならばそれを使わなければ」といった縛りが生まれ、設計の自由度が損なわれてしまいますからね。

とはいえ作り手の個性は音に出てくるのだと、自分では思っています。私も倉田もヴィンテージに固執していませんし、新しいパーツに興味があるし、新しい音楽も好きですから、自然とモダン寄りなサウンドになります。

オーダーの方法は2種類ある。

安田:弊社オリジナルモデルを仕様変更する「セミオーダー」と、自由に設計する「フルオーダー」の両方を受けています。弊社は二人でやっておりますから人件費も二人分で済み、価格はかなり抑えられていると思っています。フルオーダーの最高額でも100万円には遠く及んでいません。とはいえセミオーダーの方が、ずっとお安くできます。

Vuoto:セミオーダー

公式サイトのギャラリーより、オリジナルモデル「Vuoto」のセミオーダー。顧客の想いをかなえるために調色したブルーのカラーリング、7層構造のネックをボルトオンジョイント。そもそもフルオーダーを受け付けるメーカーなのだから、選択できる仕様の幅がかなり広いのには納得。

安田:ご自分のイメージをお持ちになるお客様でも、AstraやVuotoに触れてみて、セミオーダーの方向で再検討してくれる方は多くいらっしゃいます。実際に触っていただきながらだと、イメージを明確にできて話を進めやすいんです。しかしお客様は作る専門ではありませんから、細部の仕様まで指定しきれるものではありません。「ココ、気にする人がいるんですけど、どうですか?」「気にしたことはなかったけど、言われてみると確かに」、みたいなやり取りを重ねていきます。その結果、セミオーダーであっても個性的なギターができます

フルオーダーどんと来い。

Altero Custom Guitars:フルオーダー・ギター
公式サイトのギャラリーより、フルオーダーの一台。上から下までオーナーがデザインしたという完全オリジナルシェイプ。

安田:フルオーダーでは、基本的に何でもお受けします。見たこともないような、完全オリジナルデザインのオーダーをいただくこともあります。かつてはギタークラフト学校の講師もやっており、学生の突拍子もないアイデアを、一緒に考えて形にしたという経験も多々ありますので、「できるのか、できないのか」と問われますと、「できますけど」と答えるしかありません(笑)。

とはいえ、お求めになる仕様が衝突していたり矛盾していたり、という場合には念のため確認します。フレット数を増やすのは問題ありませんが、たとえば「既存のボディシェイプで24フレットほしい」というオーダーがたまにあるんです。カッタウェイを深くしなければ、指は届きませんよね。でもタッピングやハーモニクスに使いたい、ベースなら指置きにしたりスラップに利用したりするなど、お客様の考えがあるかもしれません。ですから、常識外だからと無下にお断りせず、「おかしくなるけど良いですか?」とワンクッション置いて、オーダーの意図をくみ取る必要があります。ほかの人が見たら利用価値がなくても、持ち主からすれば使い道がちゃんとある、そういうギターはオーダーでしか作ることができません。

弊社は「できるのであれば断る必要はない」と思っておりまして、今後もフルオーダーは受けていくつもりでおります。結局アルテロでは何でもやっています。

ファンフレット 「ネックだけ多目に作っておいた」というファンフレット。コレを全て手作業でやると言うのか。

安田:しかし、ことスケール(弦長)に対しては「何でもできる」とまではいかず、ある程度の近似値で納得できるものを選んでいただいております。例えば「666mmはできても667mmは無理」みたいに、フレット位置を算出しやすい寸法、しにくい寸法、というのがあるんです。ファンフレットなんかもお受けしますが、「手挽き(てびき)」といって、手作業でノコギリを挽きます。

──弦長までオーダーできるんですね!

第二のブランド「Kanade SOUND DESIGN」

Kanade SOUND DESIGN 「KTT-AM」のヘッドには、レーザーで刻まれたブランドロゴが。特別な塗装を施したモデルには、このように「奏」の字が添えられる。このブランド名、六弦かなでを擁する当サイトとしては、がぜん気になる存在だ。

Kanade SOUND DESIGN:KTL-AS 凛としたたたずまいのアッシュボディ&ローズ指板、「KTL-AS」。オープンコードのジャキーン感、カッティングのチュクチュク感は、このタイプのギターならではの感触。良い感じに整いきっていない「荒々しさ」を感じることができる。

アッシュの導管が浮き出る立体的なボディとパール柄のピックガードによる、渋くギラっとした雰囲気。パーツ類のグレードは高く、ペグ&ブリッジは日本が誇る世界のGOTOH製。よって、3連サドルだがピッチは正確。

安田:「Kanade SOUND DESIGN(カナデ・サウンドデザイン)」は大学生くらいの若い方や、2本目3本目の楽器をお探しの方に向けて、メイドイン・ジャパンの「こまし」な楽器をご提供するブランドです。ある程度お求めやすい金額で、期待以上のクオリティがある、こういうところに挑戦しています。

※「こまし」
関西弁で、「ちょっとええ感じ」という意味。

安田:テレキャスター・タイプとPベースにラインナップを絞っているのは、価格を抑えるためです。この二つはパーツ点数が少ないので、コストをコントロールしやすいんです。また、KTLとKTMはライトアッシュ、KTTはマホガニーというように、ボディ材も絞っています。

結果、基本モデルの価格帯は15万円あたりから、上は20万円に届かないくらいまでの範囲に収まっています。楽器の寸法や形状はオーソドックスなものに寄せていますが、木材はアルテロと同等の高いグレードです。

カナデにはある程度の自由度があっても、制約がちゃんとあるのでちょうどいい感じにまとまります。ですから、なんでも作るアルテロと違ってブランドとしての個性を出しやすと考えています。

Kanade SOUND DESIGN KTM-AS

さいきん認知度が高まっているテレマスター・タイプ「KTM-AS」。さきほどのKTL-ASと同じ木材、同じ部品を使っており、相違点はボディ形状のみ。しかし明らかに音も感触も違う、キャラの立ったギターに仕上がっている。イタリア人がパスタの形状に対し、スパゲティー、フェットチーネ、カッペリーニなどいちいち名前を付ける気持ちがわかる。

安田:カナデはいわゆる「コンポーネント・ギター」の作り方です。ボディとネックは信頼できる業者さんに外注しています。塗装や組み込みなど、そこから先の工程をこちらで行なっています。金属部品や電装パーツは、一流メーカーのものを使用しています。また全モデルで、ピックアップは知る人ぞ知る長野の名門「Kariya-Pickups」を採用しています。

KTM-AS:ボディ ボディ厚はちょっと薄いが、表面積はでかい。本体はなかなかの軽量。音にかなりのまとまり感があるので、コードをかき鳴らすだけで幸せになれる。バンドメンバーが喜ぶ音。

安田:テレマスター「KTM」のパーツ類は、テレキャスター・タイプ「KTL」を踏襲しています。しかしボディ形状にくわえサイズも異なりボディバランスも違うため、音と弾き心地の違いが楽しめます。エルボーカットもバックカットもあるので、抱え心地はかなり良好です。

Kanade SOUND DESIGN KTT-AM アフリカンマホガニーボディにP-90タイプを2基載せた「KTT-AM」。組み合わせの妙技とでもいおうか、このようなギターはなかなか他にはない。レトロなルックスだが、指板は平滑、パーツは最新系、という現代的なギターに仕上がっている。太く甘く、そしてキラキラ感もあるサウンド。

安田:意外や他のメーカーで採用例が少ない、70Sシンラインスタイルのソリッドボディです。P-90タイプとの相性を考え、ボディ材はアフリカンマホガニーにしています。P-90は、ちょっと前から再認識されてきていますよね。ハムバッカーほど暑苦しくなく、シングルコイルほど細くないちょうどよいバランスが、現代のバンドマンにとっては使いやすいようです。

オプションで「京都の漆塗り」もある

KTT-AM:漆塗りボディ そしてこの個体は、何と京都の職人による漆塗り。こういう日本独特のものは、海外へもPRしやすいのではないだろうか。

安田:この「KTT-AM」はオプションで、京都の職人さんによる「拭き漆塗装」が施されています。漆は大気中の水分を吸って硬化し、多湿な時ほど強固になる性質があります。日本の気候とは相性が良いですね。木目が際立ちますから、アッシュやマホガニーと相性が良いと考えています。

このカラーリングは、マホガニーの木の色に漆の飴色が加わってできています。顔料なので染料ほどの鮮やかさはありませんが、独特の雰囲気がありますね。漆自体に色が付いているから希望通りの色にするのは難しいんですが、青系を指定すると紺色に、赤系を指定すると朱色にというような、濃い色調になります。

漆を取り入れたギターメーカーは他にもわずかながらありますが、京都の職人が塗ってくれるのは、私が知る限り、仲介してくださったリペアショップを含め、殆どありません。しかし、長い付き合いでもあるリペアショプのマスターが「ギターに漆塗装は合う!」と職人さんを口説き、我々に紹介してくれました。京都の職人は職人気質で、なかな引き受けてくれなかったそうです。漆塗装は、カナデだけでなくアルテロでも選択できます。

KTT-AM:ボディ裏 KTT-AMのセクシーな背面。本個体のペグにはサムホイール・タイプのロック式が採用されている。

置く店の個性が出るブランド

Kanade SOUND DESIGN KPJ-AS アッシュボディ&メイプル指板の「KPJ-AS」。立ち上がりの速いハジける音は、ロックバンドとの相性が特に良好。基本構造はヴィンテージ・スタイルだが、出力が高く実用的なモダン志向のサウンド。アルダー機との違いは木材のみだが、弾けばわかる個性の違いが楽しい。

KPJ-AS:指板 指板やフレットのエッジは、ていねいに処理されている。しっかりとした作りは、「こまし」どころではない。

Kanade SOUND DESIGN KPJ-AL アルダーボディ&ローズ指板の「KPJ-AL」。粘りや甘さのあるサウンドは汎用性が高く、歌ものにも有用。ブレンド具合で絶妙な音作りができるのがPJ配列の強みだが、リアが特に優秀で、単体でもしっかりとした太いサウンドが得られる。フロントに振り切ってPベースとしても、リアに振り切ってジャコパスを気取っても、じゅうぶん以上に使える。

KPJ-AL:ヘッド 両方ともサンプルなので、シリアルナンバーは「00000」。

安田:ベースは昨年のサウンドメッセでデビューしました。

  • KPJ-AS:アッシュボディ&メイプル指板(50Sスタイル)
  • KPJ-AL:アルダーボディ&ローズ指板(60Sスタイル)

PベースができるんだからPJもできるやろ、ということでPとPJの両面でリリースしています。アルダーボディの方がジャンルを選びにくく、幅広く使用できます。アッシュボディは、ロック系でゴリっとした不器用な感じが欲しい人が選びます。

中上級者は「プレベはプレベで持ちたい」と考えるものです。しかし若い人やギターがメインの人にとって、一軍級のベースを何本も持つのは難しいですよね。その点カナデのPJは「単体で幅広く使える、ちょうどよい高さのグレード」というのが強みです。大学が多いエリアの楽器店ではPJが求められますし、都市圏ではPベースのご注文が多いなど、お店ごとのカラーが出ます。

ショップオーダーではオーソドックスでシンプルなオーダーのお店もあれば、気合の入ったオーダーをくださるお店もあって、やはりお店のカラーが反映されますね。

シンプルかつ必要十分な工房内

工房内 各種木工機械あり、工具各種あり、という工房。工作機械にCNCルーターはなく、すべて人間が作業する。何でもあるわけではないが、けっして不自由はしない。

安田:ここで木工のすべてを行い、2階で塗装を行います。弊社は二人しかいない小規模なメーカーなんですが、そのぶん同じものをたくさん作るより「ワンオフ(一点もの)」を作るのが得意です。ワンオフの製造では手作業の割合がひじょうに多いため、道具類もこれだけで必要十分です。大量生産には全く向いてない、リペアとオーダーメイドに特化した作業場です。

なんでもかんでもある、という感じではなく、絶対必要なものしかない、という感じの工具が整然と並んでいる。

安田:創業2010年で今年は10周年です。リペアとオーダーメイドが主な業務で、最初からオーダーメイドは受けています。リペアでキャリアを積んでからギターを作るのが普通だと考えると、珍しいかもしれませんね。しかし作る体制を最初からとっておけば、大掛かりなリペアを受けることもできます。逆にリペアをやりながら、後から次々に環境を整えていくというのも大変だと思いますよ。

フルオーダーを受け付けるメーカーは、以前ほど多くないと思います。関東でも関西でもそれぞれ2~3社程度ですよね。できても高額で、敷居が高い印象です。大きなメーカーさんですと、オーダーをまとめる人がいて、各工程を担当する人がいて、というようにいろんな人や業者が一つのオーダーに関わっています。関わる人が多いとそれだけ価格に響きますが、弊社はわずか二人ですから(笑)。

フルオーダーができて、価格が抑えられる、この二つが弊社の強みです。

木材保管庫 工房に併設されている保管庫。工房は湿度80%を超える高温多湿になることも、凍えるような極寒になることもあるが、保管庫内は湿度40%に保たれている。作る途中のものはここで保管し、狂い出しもここで行い、作業する時だけ取り出す。大量に作るわけではないので、厳選された木材を各種必要なだけ保有している感じ。

ローステッド・カーリーメイプル USAの業者から仕入れるという、ローステッド・カーリーメイプル。

安田:海外の業者さんとのやり取りは、当然英語です。英語はよくわかんないんですが(笑)、わかんないなりに頑張って取り寄せています。弊社ではたくさん仕入れることはなく、良いものを選んで少しずつ仕入れています。

最後に出てきた「飛び道具」

最後に安田さんが「コレは飛び道具なんですけど」と言って出して来てくれたのは、黒いフレットレスベースでした。

Avvolge JBスタイルのアルテロ・オリジナルベース「Avvolge(アッヴォルジェ)」カスタム。指板にエポキシコーティングを施したフレットレス仕様、EMGピックアップ装備。指板の強さは尋常ではなく、ラウンドワウンド弦が使えるし、スラップも余裕。「え?フレットレスでEMGなわけ?」という意外性が「飛び道具」の所以だが、まとまりのある音が得られてたいへん弾きやすい。フレットレスながら、いつものエレキベースと同じ感覚で弾くことができる。ウッドベースの代わりとして使える音だが、このルックスだとポップスやメタルでも使えそう。

安田:「モダンスタイル・フレットレス」というコンセプトでまとめたJBスタイルです。

指板のエポキシコーティングは、かのジャコ・パストリアス仕様です(ジャコ・パストリアス:「ベースのジミヘン」と言われた伝説的ベーシスト)。スライドがしたくなるし、ハーモニクスが出したくなります。

しかしエポキシコーティングは個性が強くて、普通のフレットレスより倍音がたくさん出る硬い音になりますから、右手のコントロールはかなり大変です。また楽器本体の個性による影響がでかくて、個体によって向き不向きがものすごく出る、ギャンブルのようなものです。

いろいろ検証した結果、EMGのピックアップを載せると、音を作りやすい「計算できる音」になることがわかりました。パッシブのままではコントロールが難しくて、アンプや弦との相性など、不確定要素がかなりありました。これに対してアルダーボディ、EMGピックアップという組み合わせだと、使いやすい楽器に仕上がります。右手のタッチが多少荒れてもEMGのコンプ感が音をうまくまとめてくれるので、積極的な演奏がしやすくなります。

でも残念ながら、コーティングに使っていたエポキシが廃盤になってしまいました。目下その代わりになるものを探しているところで、当面はこの処理ができません。この仕様に対する需要はなかなかあるんですが、お待ちいただいている状態です。

Avvolge:ボディ ツヤッツヤのボディ&指板にマットなピックガード&EMGピックアップという、組み合わせの妙技。ピックガードのネジは黒、コントロールプレートのネジはシルバーというルックスのこだわりも注目に値する。サンプルなので売れないが、売るとしたら32万円ほどとのことで、現実的な良いお値段。

安田:このように、アルテロは柔軟に何でもやり、直販もお受けします。カナデはお店で買ってください。

──ありがとうございました!

安田:ありがとうございました。


以上、滋賀県大津市「アルテロ・カスタムギターズ」の安田さんからいろいろ伺いました。機械に頼りすぎず、少人数でやるからこそフルオーダーを柔軟に受けることができる、というところに納得しました。アルテロでは公式サイトから、フルオーダーの見積りを問い合わせることができます。夢のギターを現実的な価格で実現させたい人は、ぜひ検討してみてください。

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