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「ホイールズ・オブ・ファイア(Wheels of Fire)」は、若き日のエリック・クラプトン氏が組んだバンド「CREAM(クリーム)」の3枚目のアルバムです。1968年8月にスタジオ録音版とライブ版の2枚組でリリースされ、米国/カナダ/オーストラリアで1位、英国で3位を記録しました。特にスタジオ版の「White Room(ホワイト・ルーム)」とライブ版の「CROSSROADS(クロスロード)」は、半世紀を経た今なお「ギタリスト必聴の名演」として語り継がれています。今回は、この「Wheels of Fire」に注目していきましょう。
Cream avec Eric Clapton “Spoonful” | Archive INA
ギターもベースもSGで、二人ともアンプはマーシャル。当時のクラプトン氏は若手でありながら実力は高く評価されており、ロンドンではで「神」とまで言われていました。しかし、ジャック・ブルース氏(ベース)、ジンジャー・ベイカー氏(ドラムス)も負けず、英国の至宝と呼ぶべき実力と影響力を持っていました。約2年という短い活動期間でしたが、CREAMのサウンドは現代のミュージシャンへの影響力をいまだ失っていません。
エリック・クラプトン氏はロックバンド「ヤードバース」で名を上げ、続いて「ジョン・メイオール・ブルースブレイカーズ」では、当時不人気だったレスポールの甘美なサウンドを世に示しました。ロンドンでの支持は熱狂的で、町中に「Clapton is God(クラプトンは神)」と落書きされたと伝えられます。このとき若干21歳(!)。氏に魅了されたジンジャー・ベイカー氏は、バンドを抜けてフリーになったクラプトン氏にバンド結成を提案、クラプトン氏はこれに対し「ジャック・ブルースを加えるなら」という条件を提示します。ベイカー氏にとってはかつての同僚であり腕前を尊敬もしていましたが、ブルース氏とは犬猿の仲でした。しかしそこはぐっとこらえ、ここにスーパーグループ「CREAM」が誕生します。当時の英国の音楽シーンにおいて、3人がすでに「The cream of the crop(最良のもの)」と呼ばれていたのがバンド名の由来です。
スーパーグループ「CREAM」は、
というトリオ編成で、クラプトン氏がメインボーカルを務める演目も数曲ありました。
3人とも当時20代の若手でありながら、即興で演奏する「アドリブ」と、メンバーの演奏に応じて演奏する「インタープレイ」で随一の実力と人気を誇っていました。ライブにおいては「いつまでも飽きずに聴いていられるクオリティのアドリブが10分以上続く」ということも珍しくありませんでした。
CREAM時代のエリック・クラプトン氏は、サイケデリックなペイントを施した1964年製ギブソン・SGをメインに、VOXのワウペダルを使用、シールドを二股に分けて2台のマーシャル・スーパーリード・ギターアンプにつないでいました。当時はPA機器が現在ほど進歩しておらず、ステージ上の音を客席へ直接届けるのが普通でした。
そこから1ピックアップ仕様のギブソン・ファイアーバード、ギブソン ES-335へと持ち替えています。現在ではフェンダー・ストラトキャスターのイメージが強いクラプトン氏ですが、CREAM時代はもっぱらギブソン派だったようです。
超絶のアドリブとインタープレイが売りだったCREAMでしたが、ベイカー氏とブルース氏との確執がじわじわと影響を及ぼしていきます。クラプトン氏は二人がメンバーの音を聞いていないように思い、あるライブでギターの演奏を中断した時に二人とも演奏に夢中でそれに気付かない様子を見て、「ダメだこりゃ」と感じたようです。結局、1968年のアメリカツアー中に解散が決定、ツアーを済ませてからのロンドン公演を最後に、CREAMは正式に解散しました。
4半世紀を経た1993年、CREAMはロックの殿堂入りを果たします。そこで解散以来初めて終結した3人により3曲が演奏されたほか、再結成ライブも2回ほど開催されました。2006年には現代音楽への貢献と影響が認められて、グラミー賞を受賞します。
Eric Clapton – Badge (Official Live Video)
ブルース氏(2014年没。享年71)、ベイカー氏(2019年没。享年80)亡き後ひとり残されたクラプトン氏は、今もCREAM時代の演目をセットリストに加えています。CREAMよ永遠なれ。
それ以前の「Fresh Cream (1966)」、「Disraeli Gears (1967)」がバンドサウンド主体のアルバムだったのに対し、3枚目の「Wheels of Fire(1968)」は、ライブで盛り上がれる演目とスタジオワークを駆使した実験的な演目が混在する、カラフルな作品になっているのが特徴です。CREAMと同じく英国の至宝「ザ・ビートルズ」がライブからレコーディング重視へ方向転換したアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(1967)」のように、この時代は「録音だからこそ可能な音楽」が模索され始めていたようです。
では、本作がだいたいどんなアルバムなのかを見ていきましょう。
アルバムの1曲目を飾る「ホワイト・ルーム(White Room)」は、5拍子のイントロとVOXワウを駆使したギタープレイが聴きどころです。イントロには多重録音が行なわれ、ティンパニも動員されて荘厳な雰囲気が演出されています。
ギターソロはDマイナーペンタトニックスケールを基調としたシンプルな音づかいで、速いフレーズがたくさんあるわけでもありません。しかしフレーズの豊かさとワウの歌いっぷりは、アドリブとはとても思えない完成度を持っています。比較的練習しやすい内容でマイナーペンタを駆使した実例を覚えるという意味で、この曲のコピーはかなり勉強になります。
ライブ版は各メンバーの個人技に注目しており、ジャック・ブルース氏が7分間にわたってハーモニカを吹きまくる「Traintime」、ジンジャー・ベイカー氏の13分間に及ぶドラムソロが味わえる「Toad」といった尖った選曲です。その中でも「CROSSROADS」は、クラプトン氏の名演として非常に有名です。ご本人はこの演奏に対し「メンバーの演奏が烈しすぎて、ソロ中に1拍目がどこなのかを見失っていた」と語っています。フレーズを分析すると「ココがそれかも」みたいな箇所は、確かにあります。でももしその話が本当なら、その動揺がまったく音に反映されていない「神の領域に達した神経の太さ」を賞賛すべきでしょう。ギターを煽りたてるドラムとベースの強力なインタープレイも、見事の一言に尽きます。
ギターソロはAメジャーペンタトニックスケールとAマイナーペンタトニックスケールを行き来する、ブルースの常道にのっとった音づかいで、血気盛んな若きクラプトン氏の元気いっぱいの内容です。そのため力強いチョーキングや豪快な弦移動を要求するフレーズが多く、コピーはなかなかに大変です。なお、エドワード・ヴァン・ヘイレン氏は生前、「学生時代にクラプトンのコピーを試みたが、速くて追いつかなかった」とコメントしています。
アナログ版ならA面を締めくくる4曲目「As You Said」は、ボーカル、アコギ、チェロ、そして「ハイハット」という斬新な編成です。アコギはブルース氏が担当しており、この演目にクラプトン氏は参加していません。B面のオープニングである5曲目「Pressed Rat and Warthog」ではベイカー氏が「語り」を披露し、木管楽器で素朴な雰囲気を演出する、これまた斬新な演目です。普通のロックバンドならやらなかったであろうこのような斬新な演目が収録されているのも、このアルバムの面白さのひとつです。
前作、前々作ではブルース氏とベイカー氏の作曲した演目に、カバー曲を加えてアルバムを構成していました。本作ではそこに新しい試みとして、ブルース氏は詩人のピート・ブラウン氏と、ベイカー氏はピアニストのエイドリアン・バーバー氏との共作で作曲しています。
ピート・ブラウンは前作で名曲「Sunshine of Your Love」の作曲に関わったほか、ソロになってからのブルース氏のほとんどの作詞を担当しています。エイドリアン・バーバー氏はザ・ビートルズのアルバム「Live! at the Star-Club in Hamburg, Germany; 1962」の録音、ジ・オールマンブラザーズバンドのセルフタイトル作「The Allman Brothers Band」のプロデュースで知られます。
また、2曲目「Sitting on Top of the World」ではシカゴのブルースマン、ハウリン・ウルフ氏に編曲を依頼しており、こってりした王道のブルースを作り上げています。
本作のプロデューサーは前作に引き続き、フェリックス・パパラディ氏が務めました。氏自身もミュージシャンであり、本作をリリースした翌年にロックバンド「マウンテン」を結成、「ミシシッピ・クイーン」をヒットさせます。
本作のパパラディ氏はプロデュース業のみならず録音にも積極的に参加しており、「White Room」や「Deserted Cities of the Heart」ではヴィオラ、「Pressed Rat and Warthog」ではトランペット、「Those Were the Days」ではハンドベル、というようにいろいろなイレギュラーな楽器を担当、各演目の個性を増強しています。こうした活躍からパパラディ氏は「CREAMの4人目のメンバー」と呼ばれることがあります。
クリームの素晴らしき世界を…
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