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PRSから登場したジョン・メイヤー・シグネチャー「Silver Sky」

PRS Silver Sky

2018年8月に発売されたPRS(ポール・リード・スミス)の「シルバースカイ(Silver Sky)」は、ジョン・メイヤー(John Mayer)氏が2年がかりで完成させたシグネイチャーモデルです。PRS社長ポール・リード・スミス氏との企画会議では、お互いのヴィンテージギター(おそらくフェンダー・ストラトキャスター)を持ち寄り、感触やサウンドを確かめながら、細部までこだわったということです。ヴィンテージへの敬意を現代のギターに吹き込むのはPRSが常に実践していることですが、このたび完成したものはこれまでのPRSと一線を画した、全く新しいギターに仕上がっています。今回は、このシルバースカイに注目していきましょう。


John Mayer – New Light (Premium Content!)
やっとギターの音が聞こえてくる1分40秒まで「いったいこの人はどうなってしまったのか?」とヤキモキさせてくれる、ある意味秀逸なPV。満を持して登場する銀色のエレキギター、これがジョン・メイヤー氏のシグネイチャーモデル、シルバースカイです。

コラボレーション「PRS+John Mayer」

ジョン・メイヤー氏はこのごろステージで「プライベートストック(PRSの超高級機)」を使用したり、シグネイチャーアンプをリリースしたりと、PRS社との関係を密にしています。しかしこうしたPRS製品はもっぱら「デッド&カンパニー」の活動に限られ、自身のソロ活動では登場しませんでした。これまで自身のプロジェクトではストラトキャスターをメインにしており、フェンダーからシグネイチャーモデルもリリースしています。今回完成したシルバースカイは、PRSのラインナップではほぼ無かったと言ってよい「3シングル仕様」です。メイヤー氏が自分の音楽で存分に使用するためのギターだと言えるでしょう。

John Mayer談(PRS公式サイトより)
「俺の好きなビンテージ・スペックがありつつも、現代のアイディアが織り込まれているギターを作るのが、長年の夢だったんだ。2年間の研究とリファインを経て、ルックスもフィールもかくあるべしっていうエレクトリック・ギターを改めて創り上げたかった俺のビジョンがSilver Skyになったのさ。」
引用元:https://www.prsguitars.jp/siver-sky


Dead & Company: Live from Lakewood Amphitheatre (6/13/2017 Set 2)
「デッド&カンパニー」は、伝説的なバンド「グレイトフル・デッド」の元メンバーとジョン・メイヤー氏が組んだバンドです。メイヤー氏が使用している「やたらスイッチの多い、そして変則的な3ピックアップ配列を採用したPRS」は、今は亡きジェリー・ガルシア氏へのオマージュでしょうか。

PRSシルバースカイの特徴

それではさっそく、シルバースカイの特徴を追ってみましょう。おおまかにはヘッド形状、ペグ、ネック形状と指板、ブリッジ、ピックアップを含む電気系がポイントです。


ラインナップは4種類。左から:Tungsten、Onyx、Horizon、Frost

ヘッド形状

シルバースカイのヘッドは「リバースヘッド仕様」にも見えます。しかし普通のPRSヘッドを反転させただけではなく、細かなアレンジが加えられており、

1) ナットからペグまでの弦長を十分に確保
2) 高音弦側と低音弦側のペグが、互い違い(オフセット)に配置
3) 1弦側の深いカット

こうしたところが変更点だとされています。ちょっと従来のヘッドと見比べてみましょう。

Silver Sky vs CE24
画像:シルバースカイとCE24とのヘッド形状比較

1) ナットからペグまでの弦長を十分に確保

シルバースカイは従来のPRSにフェンダー的なエッセンスを注いでおり、フェンダーの「片側6連ペグ」の特徴がPRSヘッドに織り込まれたと考えられます。「片側6連ペグ」の場合、高音弦はナットから順番に遠くなっていき、ナットまでの弦も長くなっていきます。

いっぽうシルバースカイのペグは、従来のPRSヘッドに比べ、高音弦側がナットからちょっと遠くに移動しています。これによって高音弦側ペグからナットまでの弦長が伸びました。この部分が振動することでサウンドに影響が出るかどうかはPRS公式サイトでも深く語られてはいませんが、ペグからナットにかかる弦の角度が緩くなり、感触に違いが出ることは確かです。PRS公式サイトで「ナットからペグまでの弦長」に言及するのは、「これによって、特に1~3弦の鳴り方や感触が、これまでと違うものになった」、ということだと推察できます。

2) 高音弦側と低音弦側のペグが、互い違い(オフセット)に配置

PRSのギターはギブソンのレスポール・スペシャルが出発点であり、「左右のペグはだいたい向き合うように並ぶ」という従来のペグ配置はその名残です。シルバースカイは高音側ペグが若干ナットから離れたことで、高音側と低音側が互い違いの配列になりました。この配置を採用することでペグを支える部分の木材量が増し、チューニングの安定度がもう一歩前進したとされています。

3) 1弦側の深いカット

ナット近辺、1弦側のカットが深いことも、メイヤー氏の意向です。ここを大きくカットすることで、オープンコードを演奏する際に手がぶつかることが回避できます。弾きながら歌うギタリストが好む設計だと言えるでしょう。反対に6弦側は存在感のあるカットになっており、親指で開放弦の位置を感じやすくなっています。

4) その他のポイント

トラスロッドカバーも新デザインで、穴にぴったりと収まる最小限のものです。

ヘッド角は、PRSの標準よりちょっと抑えられているようです。

また牛骨製ナットは、「Uの字」に掘った溝に収められる「スロットイン方式」が採用されました。PRSの標準的なナットは「Lの字」部分に貼りつけるもので、アコギやバイオリンなど、多くの弦楽器が採用している伝統的なものでした。

以上のような変更点は「手本としたヴィンテージギターに近づくため、近い仕様を採用した」ということのようです。

ペグ

PRS Silver Sky:ペグ

大きめのペグボタン(つまみ)を持つ新設計のペグは、トラッドな雰囲気を持つクルーソンタイプで、ギアが覆われている「クローズドバック」です。またロック機構が付いているので、チューニングの安定度も抜群です。

近年のPRS標準ペグは堅牢なロトマチックタイプで、ギアが露出している「オープンバック」ですから、この変更もヴィンテージギターをお手本にする考えが反映されたポイントだと言えるでしょう。ペグのタイプは重量の違いに現れ、ヘッド重量ひいては弦振動とサウンドに影響する、マニアなればこそ知る、密かに重要なポイントです。

ネック形状と指板

シルバースカイのネック&指板は、

  • メイプル1ピースネック、インディアン・ローズウッド指板
  • やや太めの「635JM」ネックシェイプ
  • PRS標準より細身のフレットワイヤー
  • 弦長5インチ(フェンダースケール)
  • 指板25インチ(約184mm)
  • やや小さめのバードインレイ
  • ヘッド側から操作するダブルアクション・トラスロッド

という作りになっています。

ネック本体はヘッドの先まで一本の木材で作られ、柾目材ではなく板目材が採用されています。昨今のハイエンドギターでは柾目材が好まれる傾向にありますが、シルバースカイが目指すサウンドのためには、ヴィンテージギターと同様の板目材が必要でした。同じメイプル材とはいえ、どのようにカットした木材を使っているかは非常に重要な項目です。「板目材のネックはネック全体が鳴る」と言われ、「ボディへ効率的に振動を伝える」という柾目材のネックとは方向性が異なります。

また、国際条約の関係で流通が困難と言われるローズウッドをしっかり使用しています。太めの握り心地と細身のフレットワイヤー、弦長と指板Rの値も、ヴィンテージのフィーリングを目指した結果です。

PRS Silver Sky:バードインレイ

興味深いのは「バードインレイ」までも新規開発し、サイズダウンしているところです。これは参考にしたヴィンテージギターが「ドットインレイ」だったからでしょう。

「ダブルアクション(両効き)トラスロッド」は、順ぞり/逆ぞり両方の調整ができます。

ブリッジ

PRS Silver Sky:ブリッジ

ブリッジについても、

  • フラットなベースプレート
  • 鉄製のプレスサドル

という、これまでPRSにはなかったヴィンテージスペックが採用されています。

ベースプレートは厚手で、サドルの横ズレを防ぐ溝が刻まれています。ブリッジを留める6本のネジは「Gen IIIナイフエッジ・スクリュー」で、スムーズなアーミングとチューニングの安定を確保しています。回転させることなく「差し込むだけで使用でき、イモネジでトルクを調節できる」というアームの使い勝手は、従来のPRS標準仕様を継承しています。

また、PRSではフローティング設定が標準のところ、シルバースカイでは「ベタ付け」でセッティングされます。ベースプレートがボディトップ面に密着することで、ボディへの振動伝達をより効率化させるねらいです。


Silver Sky Setup: Flush Mount to Floating Trem | PRS Guitars
フローティング設定がお好きな人向けに、シルバースカイをフローティング化する手順を公式に紹介しています。単にブリッジの位置を持ちあげるだけではなく、ブリッジの標準的な角度が変わることからネックジョイント部にシムを挿しこみ、ネック角を付ける、というところまで徹底してセットアップしています。

電気系

ピックアップを中心とした電気系も、シルバースカイのために新たに開発されました。シングルコイル・ピックアップ「635JM」の名前は、

  • 63年製ピックアップがお手本
  • ピックアップセレクターの操作で5つの音色
  • ジョン・メイヤーモデル

という意味です。

PRS独自の設計でノイズを軽減させ、耳に痛い周波数帯をうまくカットしながら音楽的なトレブル感を持っています。音には十分な太さもあり、まろやかさも感じさせます。ヴィンテージスペックを標榜するシルバースカイですが、リアピックアップにもトーンを効かせることができるという現代的な配線になっています。

ピックアップカバーとコントロールノブは新しいデザインで、なおかつジャックプレートも新開発しています。新しいジャックプレートはボディから盛り上がるように作られており、シールドのプラグをしっかりと掴むことができますから、シールドの抜き差しがスムーズにできます。

ボディの特徴

PRS Silver Sky:ボディ

アルダー製のボディはストラト的な形状ですが、1弦側のホーン部が斜めに削られているというところにPRSらしさを感じさせます。カッタウェイは大きく、ハイポジションの演奏をしっかり支えます。

PRS Silver Sky:ネックジョイント

ネックジョイントは伝統に根ざした「4点留め」です。ジョイント部はエッジを丸く整えてはいますが、ネックブロック部を薄く削ってまでプレイアビリティーを追ってはいません。ここのところはヴィンテージ/モダン両方向のフィーリングを、ヴィンテージ寄りにミックスした感じです。

PRS Silver Sky:ボディバック

バックプレートが非採用なのは、メイヤー氏のこだわりのようです。ロッドカバーやバックプレートについては、「外した方が音が良くなるギターがある」と言う考え方があります。

Silver Skyのサウンドは?


PRS Silver Sky vs. Fender vs. Suhr | What’s the best Strat? | Thomann
シルバースカイ、フェンダー・カスタムショップ製ストラト、サー(Suhr)のクラシック・プロの3本を入れ替わり立ち替わり弾き比べるという、なかなかぜいたくな動画。実際の弾き比べは2分15秒辺りからです。音の良さでは甲乙つけがたい印象ですが、どう感じますか?それぞれに違った方向を向いているように聞こえますね。

シルバースカイのサウンドは、透明感がありながら決して細くなく、むしろ太い音だと言えるでしょう。明瞭な存在感を持ったモダンなサウンドでありながら、昔ながらのエレキギターの印象も残っています。楽器本体の感触としては、「とても良い状態のヴィンテージギターに近い」と感じる人が多いようです。ヴィンテージギターをモデルにしたとはいえ、フェンダーの特徴である「トゥワンギー」とか「クリスピー」といったニュアンスにはそれほど頼っていない、といった雰囲気です。コードの分離感やストレート感という「鳴りのクオリティ」は、PRSなら当たり前にクリアしてくるところです。


John Mayer PRS Silver Sky – A Playthrough Review
「なにもそこまで力いっぱい弾かんでも」と突っ込みたくなるほどラフなストロークから、甘くやさしい繊細なタッチまで、またブリッジ近辺からフロントピックアップ近辺まで、いろいろな強さ、いろいろな場所でシルバースカイを鳴らしています。総じてストレート感があり、弾いた通りの音が素直に出ている印象です。


以上、PRSの新製品「シルバースカイ」に注目していきました。PRS社長ポール・リード・スミス氏は言うに及ばず、ジョン・メイヤー氏も自作エフェクターを作るほどにコアなギターマニアです。二人の世界的ギターマニアが、自分のとっておきのヴィンテージギターを持ち寄って、やいのやいのと楽しく相談した結果がシルバースカイというわけです。

「新規開発の部品が多い新製品」といっても、アルダーボディ、塗りつぶし塗装、ボルトオンジョイントという仕様の本体、またPRSお得意の「ボディトップの滑らかなカーヴィング(彫り)」を採用していないシンプルなスタイルによって、シルバースカイは従来のPRS製品より遥かにお求めやすい価格帯に収まっています。「現実的に手に入れられる、3シングルの上質なギター」として、たいへん魅力的な選択肢となるでしょう。