《ジャンルを超越したギター》Ibanez 「AZ」シリーズ特集

[記事公開日]2021/3/23 [最終更新日]2021/9/7
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Ibanez AZシリーズ

アイバニーズの「AZ」は、音や演奏性のための数々の工夫をシンプルな本体に凝縮した意欲作です。ジャンルを問わないルックス、現場で頼りになる性能と弾きやすさ、そしてサウンドが話題となり、さっそく多くのミュージシャンが一軍起用しています。いつでもその時代の「モダン」を追求してきたアイバニーズが、これまで培ってきたノウハウの全て(A~Z)を注ぎこんで「モダン・プレイヤーがギターに求める理想を実現した」という、このAZをチェックしていきましょう。ラストにはAZ開発者のメールインタビューもあります!


Ibanez AZ Electric Guitar – Story of the AZ
プロミュージシャンに「このギターがあれば、自分が見つかる」とまで言わしめるAZは、プロミュージシャンから現場の声もしっかり反映させて作られました。高い演奏性と豊富なサウンドバリエーションは、プレイヤーにさまざまな可能性を見せてくれます。なお、動画のギターはプロトタイプのため、製品版にはないカラーリングが施されています

Ibanez「AZ」の特徴

代表機種「AZ2402」をチェック

Ibanez AZ2402 AZ2402PWF(Pearl White Flat)

代表機種「AZ2402」をじろじろと観察し、AZがだいたいどういうギターなのかを見ていきましょう。

尖らず、ゴツくないスマートなデザイン。ヘヴィ/テクニカル志向だけではない、ジャズやポップスなどさまざまなジャンルに浸透できる、受け入れやすいルックスにまとまっている。「アイバニーズ上位機種でトレモロと言えばFRT」というイメージが濃厚だったところに、シンクロタイプを採用したところも新しい。

AZ2402:ボディバック 同社の上位機種では軒並み多層ネックが採用されるので、ネック裏はストライプ模様になるのが普通。AZのネックはワンピースのローステッドメイプルで、背面からのルックスもなかなかのシンプルさ。

AZ2402:ヘッド ナチュラルフィニッシュでブランドロゴのみ、という意匠も手伝ってちょっとしたレトロ感もある新デザインのヘッドは、「モダンとクラシカルの共存」を象徴しているかのよう。ゴトーの「H.A.P.-M」に加え、共振防止のためストリングガイドが採用されている。1、2弦の張力をもう一息稼ぐ、また激しいアーミングなどに起因する弦落ち防止などの機能を追求した仕様となっている。

AZ2402:ペグ グレードを現す「Prestige」の表記は、ヘッド裏に配置。ペグはロック式だが、サムホイールを使わないMGタイプ。

ステンレスフレット キラキラと輝くステンレス製フレット。エッジ部分はていねいに球面に仕上げられている。

AZ2402:フレット ツバ出し気味に成形された最終フレット。サイドポジションは畜光素材で、視認性が良い。

AZ2402:ストラップピン コレひとつ取ってもきちんとセレクトされたことがわかる、頑丈で大きめのストラップピン。固定ネジは太めなので、ロックピンに換装するならネジ穴のサイズに注意が必要。

AZ2402:アウトプットジャック ストラップに掛けやすいよう、上向きに開けられているアウトプットジャック。ワイヤレスシステムを利用する場合、送信機が適合するかどうかは確認する必要がある。

ハードケース Prestige版は、ハードケース付属。フカフカの内張りは、きちんとボディラインに合わせた作りになっている。小物入れの中には、同梱されているマルチツール「MTZ11」が。

今度は、もっと突っ込んだ見方をしていきましょう。
AZは、

  • ローステッドメイプル製の強固なネック&指板
  • 新開発のスーパー・オールアクセス・ネックジョイント
  • GOTOH(ゴトー)とアイバニーズの共同開発による、専用トレモロユニット
  • AZのために開発されたセイモア・ダンカン社製ピックアップと、特殊配線によるサウンドバリエーション

という特徴的な仕様が採用されています。

1) 強固かつ握りやすいネック

素直な木目が美しい、S-TECH WOODネック。モダンハイエンド系で重宝される柾目ではなく、トラッドな板目を採用しているが、これで必要な強度が十分達成されている。やや肉厚なネックグリップは、いろいろなジャンルやスタイルを横断的に演奏するプレイヤーにとって、実にちょうど良い。

AZではネック材/指板材ともに、全機種共通して「ローステッドメイプル(Prestige版では特別に”S-TECH WOOD”。後述。)」/ワンピースネックが採用されています。「ローステッドメイプル」はメイプル材を熱処理で強化したもので、頑丈になって寸法が安定することから、振動伝達とチューニングの安定に優れます。寸法の安定度はかなりのもので、

「寒くて湿度の高いドイツから乾燥して暖かいカリフォルニアにAZを持って行っても、チューニングは狂わなかった」

と伝えられています。頑丈なネックを作る工夫としては、何枚も木材を貼り合わせる「多層構造」/「チタン・ロッド」による補強、などが一般的ですが、ローステッドメイプルネックはこうした工夫に頼らず、しかもワンピース(ヘッドの先からネックの末端までが一本)で、現代のハイエンドギターに求められる頑丈さを達成しているわけです。

「AZ Oval」と名付けられた新しいネックグリップは「太すぎず、薄すぎず、ちょうど中間」という絶妙なところで、特定のジャンルやプレイスタイルに特化することなく、コードを奏でるのもリードを取るのも、あらゆるプレイをバランスよくサポートします。

このほか、

  • オイルフィニッシュ:しっくりくる握り心地
  • ステンレス製ジャンボフレット:弾きやすく、音が立つ
  • 蓄光サイドポジション:大きめで見やすい
  • GOTOH製ロック式ペグ:軸の高さを調節できる

といった特徴があり、ネックとしての高い性能と演奏性を達成しています。


Between You and Me (Martin Miller) – Ibanez MM1 Signature Guitar Playthrough
シグネイチャーモデルを演奏するマーティン・ミラー氏。複雑なコードもジャジーなリードも弾きこなしています。しかしいくらAZが弾きやすいからといえ、ここまでの領域に達するにはかなりの修練が必要です。

2) 新開発のネックジョイントなど、ボディ各部の特徴

ネックジョイント ジョイント部には、たいへん大胆なカットが施されている。

AZで採用されている「スーパー・オールアクセス」ネックジョイントは、アイバニーズの最高グレード「j-custom」シリーズに採用されている「オールアクセス」ネックジョイントをもう一歩前進させています。ネックヒールがボディバック面から8mm掘り下げられ、また滑らかな球面加工が施されることで、左手にかかるストレスが大幅に軽減されました。

その一方でネックポケットの回りを削りすぎないようにして強度を確保し、またネックがボディに接する面積を従来品より増やしています。ヒールをあまり大胆に削ってしまうと音響性能を犠牲にしてしまいがちですが、AZではこうしたことで音響上の性能が損なわれないようにしています。

ボディバック面には定番モデル「RG」ゆずりの深いコンター加工が施され、またエッジ(外周)部分は丸みを帯びた仕上げになっており、プレイヤーの身体に優しくフィットします。


Polyphia | 40oz (Official Music Video)
AZを使用するツインギターによるギターインスト。現代のテクニカルなギタリストは、ハード/ヘヴィの枠にひきこもることなく、このようなクリーン/クランチ形のサウンドもしっかり使い切ります。

3) GOTOHと共同開発した専用ブリッジ

GOTOH T1802 AZ専用に開発された「T1802」。一見するとオーソドックスな2点支持タイプだが、さまざまな秘密が。

AZに搭載されるブリッジは、品質の高さで知られるGOTOH社製「510」ブリッジを基に、アイバニーズとの共同開発で完成されました。このブリッジに採用されている「10.5mmの弦間ピッチ(弦と弦の間隔)」はピッキング技に有利とされ、現代的なスタイルのギターで多く取り入れられています(ちなみにレスポールと同じで、旧式のストラトより狭く、フロイドローズと同じかやや狭い)。

アームは軽いタッチで動かすことができて可変域も大きいため、「クリケット奏法」がやたら映えるほか、繊細なビブラートから大胆なアームダウンまで可能です。楽器本体の安定度も手伝い、チューニングの安定度はかなりの水準です。

Prestige版で採用されている「チタン製サドル」は音の伸び、振動の安定性ともに優れ、どっしりとした低域が得られ、かつ錆びにくいという特徴があります。GOTOH社製のチタンサドルはパーツ単体での販売がなく、今のところAZだけの仕様です(Premium版では鉄製サドル)。

このほか、

  • スチール製トレモロブロック:伝統的な仕様で、ストラトで好まれやすい音を作る。
  • アームのトルク調節が可能。
  • カーボン製ウルトラライト・トレモロアーム(別売)を使用できる。
  • ブリッジ下がザグられ、アームアップが可能。
  • スタッド・ロック機構:スタッドをボディにがっちりと固定する。
  • トレモロスプリングにミュートが付けられており、余分な残響をカット。

といった数々の特徴を持つ、サウンドと性能を両立させた欲張りなブリッジです。


CHON – Waterslide (Official Music Video)
いろいろなサウンドを駆使するバンドでも、AZなら「探している音が必ず見つかる」と言われます。クリーン系のサウンドはアタックが立ち、ソリッドな音作りにフィットしますから、タイトなグルーヴにはとてもよく合います。

4) 専用ピックアップと特殊配線

セイモア・ダンカン社製「Hyperion(ハイペリオン)」は、「欲しい音」に対してAZの木材だけでなく形状まで考慮して設計されたという、まさにAZ専用のピックアップです。配列には「HH」と「SSH」の2タイプがあり、

  • ピッキングへの追従と再現
  • トータル的なバランス
  • エフェクトの乗りの良さ

を重視して開発されたと言われています。

カバーできるサウンドは広く、フルアコの甘いトーン、透明感のあるクリーン、ファンキーなクランチ、攻撃的なディストーションサウンドまで、演奏者の欲しい音にしっかり応じてくれます。その性能と柔軟性は、AZをベースとしたアーティストモデルでそのまま採用されている例が多いことからも、充分に測り知ることができます。

スイッチングシステム 1V1T、5WAYセレクタ、そしてAlterスイッチというシンプルな操作系。

「Hyperion」は5Way セレクタスイッチと「Alter(アルター)スイッチ」の組み合わせで、バリエーション豊かなサウンドを得ることができます。

HH配列の場合

Standard Humbucker + mode ①Standard Humbucker+ mode

Tap mode ②Tap mode

HH配列ではAlterスイッチにより、
①「スタンダード・ハムバッカー+」モード
②「タップ」モード
の2モードに切り替えられます。

「スタンダード・ハムバッカー+」モードでは、一般的なハムバッカー2基の組み合わせに加え、内側同士、外側同士のミックスが使用できます。
「タップ」モードでは通常のコイルタップに加え、低域の迫力が強化された「パワータップ」が使用できます。

SSH配列の場合

①Standard Humbucker+ mode

②2Hum/Tap mode

SSH配列ではAlterスイッチにより、
①「スタンダード・ハムバッカー+」モード
②「2ハム/タップ」モード
の2モードに切り替えられます。

「スタンダード・ハムバッカー+」モードでは「リア+センター」でシングルコイル同士のハーフトーンができるため、ストラト的な使い方がしやすくなっています。
「2ハム/タップ」モードではフロント+センターで「疑似ハムバッカー」を作ることで、HH配列のギターのような使い方ができます。こちらの場合、「どちらのモードでもリアはハムバッカーとして使用できる」というのもひとつの特徴です。

電気系統 AZ2420の電気系。複雑な組み合わせを可能とする5WAYセレクタースイッチは、基盤にマウントされている。この基盤が配線をスッキリとまとめてくれているようだ。ボリュームポットに付いている粒状の部品は、ハイパスフィルター。音量を絞っても高音域は残される。


以上、各部位のパーツに注目してAZの特徴をチェックしていきました。こうしたパーツ単体の仕様は分かりやすい特徴ですが、ギターの音や性能はそれらパーツが組み合わさった、トータル的なものです。動画を観たり実際に試奏したりして、AZの感触を確かめてみてくださいね。
次のページからは、「AZ」のラインナップをチェックしていきます。

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