《英国ゆずりの新しいスタンダード》Kz Guitar Works訪問インタビュー

[記事公開日]2018/4/5 [最終更新日]2021/6/1
[編集者]神崎聡

代表、伊集院氏インタビュー

「工房取材編」と「試奏とモデル説明編」では、「Kz Guitar Works」のギターがどのようにして作られるのか、またどういう特徴があってどんなサウンドなのかを見てきました。サウンドもルックスも美しいギターでしたが、ここからは代表の伊集院香崇尊(いじゅういん・かずたか)氏におこしいただき、もっと深いところのお話をうかがいます。

伊集院香崇尊 伊集院香崇尊(いじゅういん・かずたか)
東京都町田市に生まれ、若くしてQUEENの魅力に取りつかれる。念願かなって2007年から2010年にはQUEENのギタリスト、ブライアン・メイの愛器「レッド・スペシャル」のオフィシャルシグネチャーモデルを手掛ける。次のステップとして、2015年にオリジナルモデル「Kz One」を発表。新しい時代のスタンダードを目指している。

「レッド・スペシャル」を作りたくて楽器製造を始めた

──「Kz Guitar Works」のブランドコンセプトは、どういったものでしょうか。

伊集院香崇尊 「弊社のオリジナルギターを世の中に広めたい」と思って、頑張っています。「Kz One」シリーズを発表してまだ3年目ですから、弊社はまだオリジナルギターのメーカーとしては周知されていませんし、ストラトでもレスポールでもないというところからのスタートです。オリジナリティだけじゃなくて品質も性能も優れたギターができましたから、次は多くの人に知ってもらう、受け入れてもらう、ということに努力しています。
レスポールモデルやストラトモデルを製作しているメーカーはいっぱいありますし、弊社がそれをやる必要はないと思います。それに僕自身が、ストラトやレスポールを作ってきたわけではありません。僕の興味はもともとそこにはなく、そもそも「レッド・スペシャル」を作りたくて楽器製造を始めたんです。

──何と!最初からそこだったんですね!

伊集院 はい、そういうことです(笑)。物を作るのが好きで、ギターは弾くよりバラして組みなおすようなことばかりやっていました。学生時代からQUEENが好きで、レッド・スペシャルが好きだったんですが、このレッド・スペシャルは50年も現役で使われている、本当にすごいギターなんです。楽器製造の素人が作ったギターだというのに、それだけ長期間の使用に耐えるクオリティがあったんです。
コピーモデルは出回っていたんですが、そういうものでは満足ができませんでした。なんとなく似ているものではなくて、同じものが欲しかったんです。でもそんなものはどこにも無いと分かったので、「自分で作るしかない」と考えて、ギター製作の専門学校に通いました。自分で作る際には写真やビデオを凝視するなど苦労したんですが、ちょうどその頃インターネットが普及してきて、世界中にいるレッド・スペシャルのファンと交流することができ、仕様や構造などいろいろなことを知ることができました。

クロちゃん さっきまで寝ていたクロちゃんも、
ご主人さまがいると元気になります。

工房を立ち上げる頃、2001年だったかな、QUEENのマネージャーに「レッド・スペシャルを作りたいから、許可をください」とメールを送って「公式な許可はできないが、こちらの名前を使わなければ、禁止もしない」といった返事をもらいました。その後、グレッグ・フライヤーさんに会いに行きました。この人はメールを使わないので、連絡には手書きのFAXを使いました。僕の作ったプロトタイプを気に入ってもらえて、「将来一緒にやろう」とまで言ってもらえました。それが実現したのが2006年です。

参考:グレッグ・フライヤー
オーストラリアはシドニー在住のギター職人。メイ氏の自宅に泊まり込んで、かの「レッド・スペシャル」を2~3か月がかりで修復したことで、QUEENマニアの間では大変に有名。このとき得られた様々なデータが、のちのレプリカ製作に大きな助けとなりました。

伊集院 弊社の「Kz One」は、十年以上もレッド・スペシャルを作り続けてきたノウハウを生かして、その良い部分を取り入れ、使いにくいところを改良して、多くの人に弾きやすく感じてもらえるギターを届けようとしています。レッド・スペシャルに対するこだわりというより、今では純粋に「楽器としての良さ」というところに興味を持っています。オリジナルデザインなのにどうしても「レッド・スペシャルに似ている」と言われることに、最初はジレンマを感じていました。けれどずっと追いかけてきたギターでしたし、その影響が出るのはむしろ自然なことなのだと思っています。

──オリジナルギター発表以来、NAMMショウには毎年出展していますね。

伊集院 弊社がNAMMに出展するのは、海外のコミュニティーとつながって、ブランドとしての信頼を築き上げるためです。今年で3回目でしたが、向こうで知り合った相手との信頼関係が年々深まっていく、輪が広がっていくのを感じています。そのためだけでも、NAMMには参加する意味があります。

こだわりをそぎ落として、最後に残ったのが「ピックアップ」と「楽器本体の良さ」

──NAMM出展モデルは、とても美しいギターで、かつ素晴らしいサウンドでした。操作系についても、実際に触ってみるととても合理的で、扱いやすいと思いました。

伊集院 楽器にはサウンドと弾きやすさが最も重要ですが、手に取ってもらおうと思ったら見た目も大事ですね。最初はまったく逆の考えで、「木の美しさを売りにするギターメーカーにはなりたくない」と思っていました。「音の良さ、弾きやすさ」という楽器としての本質に注目してほしくて、見た目で主張する木材はわざと使わなかったんです。けれど、新しいメーカーとしてたくさんの人に知ってもらう、また手に取ってもらうためには、見た目の美しさも重要な要素です。

またそのほかセミホロウボディ構造、ピックアップ直列のみの配線、ケーラーブリッジなど、「エゴ」のようなこだわりをそぎ落としていくのも重要で、お客さまに対して選択肢を提供するべきだ、ということを学びました。ホンジュラスマホガニーに対しても強くこだわっていたんですが、そういうこだわりを貫くよりも、良いギターを広げていきたいと思っています。

──いろいろなこだわりをそぎ落として最後に残った「良いギターの条件」とは、何でしょうか。

伊集院 こだわってきたところをどんどん捨てていった先で、ようやく一番大事なポイントがわかってきたのだと思います。最後に残ったのは「ピックアップ」と「楽器本体の良さ」です。この二つを導く、手に取ったら感じることのできる「木工の良さ」、ネック周りやフレット周りの「仕上げの良さ」、ピックアップや配線など「電気系の良さ」などが集まった「総合的な良さ」のあるギターが、弊社の提唱する「良いギター」だと思います。

「5-wayレバースイッチ・コントロール」採用モデルを投入したのも、たくさんの人に触っていただいて、弊社のギターが持っている「総合的な良さ」を感じていただきたいからです。これまで推していた「3トグルスイッチ・コントロール」は「操作が難しい」という印象を持たれやすかったし、「選択肢が多くて頭の整理が追い付かない」と言われることもあって、とっつきにくさになってしまっているとも思っています。しかしそういう人にも、楽器としての良さやピックアップの良さを体感してほしいんです。
今後はこの「5-way」がメインになる予定です。ストラトみたいに使いながら、ハーフトーンの位置でシリパラを選択できますから、とても扱いやすい設計です。レバースイッチモデルは、11種類のサウンドを持っています。これだけあれば、おそらく99%の人はどんな現場にも対応できるでしょう。「3トグルスイッチ・コントロール」の持つ23音色は、残り1%の人への可能性として、またベストな音を見つける楽しさのために残しています。

──ピックアップには尋常ではない良さがありますね!シングルコイルの音、ハムバッカーの音、どちらもちゃんと美しく響き、テレキャスター風のサウンドが出せる裏技までありました。

伊集院 弊社のピックアップは、メチャクチャ良いんですよ。本当にものすごく良いピックアップができたと思っています。この音の良さを分かっていただくために、受け入れていただきやすいモデルの開発に頑張っています。TOMとシンクロの2タイプのニューモデル「Kz One Junior」はまさにそれで、

Kz One Junior 3S11 T.O.M TOMブリッジモデル「Kz One Junior 3S11 T.O.M」はアフリカンマホガニーボディ&ネックで、レスポールスペシャルと同じ木材構成、

Kz One Junior 3S11 Synclo シンクロナイズドトレモロモデル「Kz One Junior 3S11 Synclo」

伊集院 シンクロナイズドトレモロモデル「Kz One Junior 3S11 Synclo」はアルダーボディ&メイプルネックで、ストラトキャスターと同じ木材構成となっています。こうすることで、楽器としてのイメージが湧きやすく、他社のギターと比べやすいと思います。

TOMモデル:TVイエロー
シンクロモデル:レークプラシッドブルー

というキャッチーなカラーリングも今後発表します。また、シンクロモデルには、

メイプルネック&指板、アッシュボディ、ホワイトブロンドカラー

というモデルも投入して、既存のギターにぶつけやすくしていきます。安っぽいギターではないですが決してお上品でもなく、ラフにガチャガチャ弾くのもかっこいいんです。他社のギターと比べたらきっと、楽器の作りの良さやピックアップの良さ、操作系の面白さがわかってもらえると考えているんです。

Kz One Standard:セミホロウ フラッグシップモデル「Kz One Standard Semi-Hollow」

伊集院 いっぽう、弊社のフラッグシップは「Kz One Standard」の「セミホロウ」モデルです。このギターの持つふくよかさや広がる感じのある音が、「Kz Guitar Works」でいちばん世に訴えたいサウンドです。とはいえソリッドモデルも納得のいく仕上がりになりましたから、今ではその両方をトップに据えていて、その入り口として2タイプの「Junior」があります。

オリジナルピックアップ「KGW」の構造

KGWピックアップ 「耳」のない、独特の風貌をもつオリジナルピックアップ「KGW」

──ピックアップは、寸法から独特ですね。

伊集院 オリジナルピックアップを作っているメーカーはたくさんありますね。しかしどれも一般的なシングルコイルやハムバッカーですから、開発の段階で既存のピックアップを採用することもできたんです。しかし弊社の場合、その枠に収まらないものが必要でしたから、オリジナルで作るしかありませんでした。
内部のボビンとか磁石とか、アンダープレート、ケースなど、部品はどれも特注です。サイズも特別ですから既存のギターには付けられません。既存のピックアップのどれとも違う、というところを市場に受け入れてもらうのはひとつのチャレンジです。弊社のギターはこのピックアップに合わせて材木を選んでいるので、このピックアップを他のどのギターよりも活かすことができます。

──どれとも違うけれど、どの方向にも行ける音でした。ソリッドなのにセミアコのような甘い音が出せましたし、セミホロウでもソリッドのような鋭い音を出すことができました。何でもできる一本を検討している人にとって魅力的なギターだし、スタジオミュージシャンならば、これ一本で十分仕事ができると思います。

伊集院 それは僕もそう思います。いろんな音が出せるし、それぞれのサウンドクオリティが中途半端ではなく、しっかり突き抜けていることを目指しています。

弊社のピックアップ「KGW」は、従来のシングルコイルと違って内部のボビンをアースに落としています。カバードのハムバッカーのようなノイズ対策が内部で行われている、外部からのノイズに対して強い構造のピックアップです。見た目は三つとも同じですが、それぞれのポジションに合わせて巻き数を変えています。弊社の3シングルモデルには、すべてこの「KGW」が載っています。

──これまで作ってきたレッド・スペシャルのピックアップとは違うのでしょうか。

伊集院 影響は否定しませんが、全く違うピックアップとして仕上がっています。60年代のブリティッシュピックアップが出発点ですが、「ヘヴィ、ダーク、ウェット」という英国風のテイストを残しながら現代的な感触を加えて、現代のプレイヤーにとって扱いやすいサウンドにしています。そのためには構造上この大きさでなければなりませんでした。コイルの幅が広くて薄いこのサイズだからこそ、ワイドレンジなサウンドができるんです。幅が狭くて背の高い、フェンダースタイルのシングルコイルとは全く別の方向を向いています。

磁石自体がポールピースになったピックアップ

──おお。これは本当に独特なピックアップですね。磁石自体がポールピースになっています。

伊集院 このピックアップは国内のピックアップメーカーさんとの共同開発で、既存のブリティッシュピックアップをいくつも分解して計測し、サウンドデザインを研究することから始めました。この磁石が真ん中で分かれているのがポイントです。こうすることで中央部分の磁力が強くなり、指板のRに合わせて弦振動をキャッチすることができます。ですから、ポールピースの高さ調節をしなくていいんです。

ピックアップ・パーツ 全てが特注パーツ!

Kz Guitar Worksのギターを「スタンダード」の一つにしたい

──「Kz Guitar Works」は、今何を目指しているのでしょうか。

伊集院 弊社のギターを「スタンダード」の一つにしたいと思っています。ギブソン、フェンダー、PRS、これらに並ぶブランドにまで成長したいです。

──それだけの個性とパワーのあるギターだと思います。では、事業規模拡大のために求人を出すとするなら、どんな人に来てほしいですか?

伊集院 いろんな人が同じことを言うと思うんですが、「自分で考えられる人」です。まだまだ弊社の規模は小さいですから、言われたことを言われたままやるような人の世話まではできません。自分で考えて動くことができる人が欲しいですね。工法や開発にアイディアを出してくれるとヒントになりますから、こちらも助かます。

クロちゃん・フレームイン クロちゃんはガンガンにフレームインしてきます。
たいへんほのぼのとした取材でした。

──いつもお忙しいとは思いますが、休日はどう過ごしているのでしょうか。

伊集院 日曜と祝日を休みにしていて、休日に子供や愛犬クロと遊ぶのが何よりの楽しみです。

──一流のギター職人も、家庭ではお父さんなんですね!本日はありがとうございました!

伊集院 ありがとうございました。


以上、神奈川県逗子市「Kz Guitar Works」から、各モデルの仕様、作業内容からどうでもいいことまで、いろいろなことをうかがいました。温かい雰囲気の工房でほのぼのとした取材をさせていただきましたが、依然としてスタンダードモデルに人気が集中する「エレキギター」という分野に、突き抜けたオリジナリティと高いクオリティを持ったギターで挑戦する「攻めた」姿勢を見ることができました。ショップで「Kz One」を見かけたら、ぜひそのオリジナリティに触れてみてください。

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