《陶酔できるサウンド》Euphorealピックアップ訪問取材

[記事公開日]2023/2/17 [最終更新日]2023/2/17
[ライター]小林健悟 [撮影者]神崎聡 [編集者]神崎聡

Euphorealピックアップ

「Euphoreal(ユーフォリアル)」は、プレイヤーが陶酔(Euphoria)できるサウンドを現実(Real)のものにすることを目指した、ハンドメイド・ピックアップのブランドです。美しい彫金も特徴で、彫金を施した金属パーツも取り扱っています。このたびギター博士取材班は奈良県大和郡山市、Euphorealの事務所を訪問して代表の藤野州豊さんにお話を伺いました。

藤野州豊

藤野州豊(ふじの・くにと)
大阪府出身。株式会社ボクノヒミツキチ代表。
スタジオ勤務時代にはレコーディングも経験、そこからギターメーカーのビルダーに転身する。しかし家族との時間を確保するためいったん音楽とは異なる職に就き、趣味の延長で土日に作業するスタンスでEuphorealを立ち上げた。ほどなくして独立、現在ではEuphorealのプロデューサーを務めるかたわら、新発想のピックアップを提唱するEVERTONEプロジェクトにも参画している。オフの時は家族とキャンプに行くなど、良き父親。

Euphorealではどんな製品を作っているのか

Euphoreal ユリをモチーフにした精緻な彫金。レーザー加工機で正確に刻まれる。

──宜しくお願い致します。Euphorealでは、どんなものを作っているのでしょうか。

藤野州豊(以下、藤野):宜しくお願いします。Euphorealは受注生産でハンドメイド・ピックアップや彫金した金属部品を作っています。ギター用ピックアップにはPAFタイプのハムバッカー、ストラトキャスタータイプ、またテレキャスタータイプのシングルコイル、P-90タイプ、そしてジャズマスター用シングルコイルがあります。ギターサウンドの原点に回帰するようなヴィンテージ系のサウンドや、出力を上げた明るくモダンなサウンドなど、それぞれにキャラクターを設けています。

ブラス製ジャックプレート ブラス製のジャックプレート。見た目の美しさはもちろん、道具としての頑丈さも持ち合わせている。

藤野:音楽にはファッションの要素がありますよね。ですから見た目が面白いものを作りたいと思っていて、Euphorealは彫金ありきです。彫金のモチーフは特にこだわっていないんですが、デザインはシルバーアクセサリーから着想を得ています。今のところ草花のモチーフが多くなっていますね。

ジャズマスター用ピックアップ ジャズマスター用は2モデルある。JM-Twins(左)はギターでは極めて珍しいスラントポールピース仕様。広く複雑な磁界が作られ、明瞭さと分離間のある立体的で独特なサウンドを作り出す。JM-Flatter(右)は一般的なJM用ピックアップより厚みを押さえた独自設計により、ファットでクリスピーなサウンドを獲得した。両モデルとも、ジャズマスターへの並々ならぬ愛情が伝わってくる。

藤野:ずいぶん若い頃の話になりますが、ショップで見かけたものすごくかっこいいギターが気になったんです。それで店員さんに話しかけて、「すいませんこのギター何ですか?」「ジャズマスターって言います」「ジャズのためのギターなんですね?」「いや、ジャズの人は使わないみたいです。弾いてみます?」みたいなやりとりがあって、弾いてみたら好きな音が出たのでその場で買って帰りました。ブームになる前の不人気な時代でしたが、それ以来ジャズマスターが大好きなんです。

プラスチック製カバー こちらはプラスチック製のカバーで、彫金ではなくUVプリントが施されている。

「陶酔できるサウンド」は、どのようにして作るのか

P-90タイプ・ピックアップ ハムバッカーサイズのP-90。

藤野:ピックアップの構造は非常にシンプルで、磁石に巻かれたコイルから発生する誘導電流をアンプで増幅してスピーカーで鳴らしているだけです。Euphorealではプログラム制御でコイルを巻いていますが、手で巻いて作った事ももちろんあります。しかしそれだけに音の違いはびっくりするほど無段階で、イメージ通りの音を安定して量産しようとするとなかなか大変です。

コイルと磁石だけでどうやって狙った音にするのか、という話なんですが、これについては試作を重ねてトライ&エラーを重ねました。試作に使った材料は再利用できません。作って、取りつけて、弾いて、検証して、イマイチなものは捨てて、の繰り返しです。

その結果、「こうしたらこうなる」という原理が分かるようになりました。特にギターのサウンドは中域で個性が決まるところがあるので、中域を変化させてバリエーションを作っています。

「ヴィンテージや良い音に対するロマンはいったん
置いておいて、何が起きているのかを探した」
という藤野さん。

EuphorealのWEBサイトでは今のところ各モデルのサウンドイメージを文章で紹介していますが、音を文字で伝えるのはとても難しいですね。例えば僕の云う「ファット」と読み手の思う「ファット」が同じとも限りませんし、「芯が残る」とか「バイト感」とか、なかなかこちらの意図の通りには伝わらないのかな、と思っています。

そこで今、現ラインナップを全てプレイヤーさんに貸し出して、各モデルのサウンドサンプルを作ってもらっているところです。僕が鳴らすより、ちゃんとしたプレイヤーが鳴らした方が伝わりやすいですから。

藤野さん提唱「エレキギターの5大元素」

アルミ、ニッケル、コバルト、銅、炭素 左から、アルミ、ニッケル、コバルト、銅、炭素の結晶。

藤野:基本的な回路が完了できるアルミ、ニッケル、コバルト、銅、炭素が「エレキギターの5大元素」だと考えています。磁石のアルニコはアルミ、ッケル、バルトの合金で、元素の配分でIIやVといった数字が付けられ、この違いが音の違いを生みます。不純物の含有率で音が変わると言う説もありますが、不確定な要素を考慮するよりも物理的な質量の違いの方が大事と考えています。

アルニコ アルニコ磁石の材料となる、アルミとニッケルとコバルト。

藤野:試験管を振ることで、各元素の音が確認できます。物理的に鳴らした音は、電気的な音に通じるものがあると考えています。エレキギターの音は、電気と物理の現象によって作られるんです。

ヴィンテージの実物を分析することで、経年変化についての解析も終わっています。元素に切り分ければ劣化するものとしないものが分けられ、例えば炭素は経年変化しません。

ギター本体ではなく「ピックアップ」に注目したのは?

Euphoreal ST-Plus Euphoreal ST-Plus(Floral-B)。写真はEuphorealサイトより引用。

藤野:木材や塗装など、ギター本体によって弦の挙動すなわちエンベロープは変わるんですが、倍音はほぼ変わりません。本体に由来する倍音構成の違いは、無視できるほど微細なんです。

いっぽうピックアップでは、磁石が変わるだけで倍音は激変します。僕はメーカーで楽器も作っていたので、楽器本体の良しあしや重要性は重々承知しています。それを分かったうえで、比重で言うと余計にピックアップの重要性を感じています。

アメリカにはセイモア・ダンカンやディマジオなど、ピックアップ単体で販売しているメーカーがいっぱいありますね。しかし日本のメーカーはピックアップをそこまで重視していなくて、ピックアップメーカーは出荷するギターのあくまで部品(パーツ)を作るだけという現状です。日本はアメリカに次ぐほどエレキギターが普及しているのに、代表的な「ピックアップブランド」がないんですよ。そこに気が付いて、じゃあ自分が日本で最初のピックアップブランドになれたら良いなと思ったんです。

楽しみながら続けるのが、Euphorealの未来。

Euphorealサイトでは「ハンドメイドでエレキギター用ピックアップを製作しています。趣味の延長線上で楽しく拘って製作してるので、基本的には受注生産で[ある時にある分だけ]のスタンス」と表示しているが・・・?

藤野:嘘偽りなく、土日休みの仕事をしながら趣味の延長として、Euphorealを副業でやっていました。今は独立して本職にしていますが、趣味でなくなったらやめてしまうと思います。今はEVERTONEもやっていますが両者は共にあると思っていて、それぞれの開発やフィードバックで得た技術や知識を積み上げて、それぞれの製品に反映させています。

Euphorealは見た目もそうですが前衛的で攻めたコンセプトのものが多く、とにかく他にはない斬新なものを作りたい、ニッチな所にリーチしたいと言う願望があります。一方EVERTONEは数ある録音作品の中に明確にある良い音、エンジニアが適正に加工して仕上げた音をピックアップでデザインするというコンセプトです。ブランドのコンセプトや設計理念が違いますから、住み分けもできています。

Engraved JM-Trem Euphoreal「Engraved JM-Trem」

藤野:Euphorealは彫金とピックアップのブランドですが、僕自身はそれだけを見ているわけではありません。音楽業界全体も、その中で使われる楽器自体も見てるし、良いギターが作られることを望んでいます。しかし僕自身が全部作らなくてもよくて、例えば楽器本体なら良いものを作ってもらえる人に頼んで、そこに載せるピックアップを作って完成させればよいと思っています。

──ありがとうございました!

以上、奈良県大和郡山市より、Euphorealの藤野さんにお話を伺いました。彫金などルックスの良さが注目されやすい印象に対し、「5大元素」の提唱やヴィンテージ楽器の研究など、音に対して科学的に取り組んでいるのが分かりました。Euphorealは単体での販売のほか、国内メーカーのギターに搭載されることがあります。アーティストの使用例もあり、注目度が上がっています。ぜひチェックしてみてください。

ピックアップの専門家に、いろいろ訊いてみた。

藤野さんの仕事場。ピックアップ制作のほか、リペアを受けることもある。

取材班はこれまでに、ピックアップを開発しているギターメーカーを訪れることはありました。しかしピックアップ自体を主力としているメーカーを訪れたのは初めてです。そんなわけで、引き続き藤野さんにご登場いただき、ピックアップについてのいろいろな質問に答えていただきました。

「磁石」にこだわる意味って、何でしょうか?

──ヴィンテージ系ならアルニコII、モダン系やハイゲインならアルニコVなどと言われますが?

藤野:アルニコ磁石は、数字によって倍音に違いが出ます。倍音の構成によってアンプから出る音が変わりますから、そこに好き嫌いが生まれます。そのジャンルのギタリストが、その倍音成分が好きなんです。また、アルニコ磁石に対してセラミック磁石には倍音こそありませんが、「音が早い(アタックの終息が早い)」という特徴があります。激しく歪んだドライブサウンドでBPMが早く音数も多いようなジャンルでは非常に有効です。

ピックアップの出力は、どうやって上げるんでしょうか。

藤野:コイルの巻き数を上げれば上げるほど、音量は上がります。しかしアンプに負荷がかかりますから、限界はあります。また同じ歪むにしても、アンプでゲインを上げるのとピックアップの出力を上げるのとでは歪みの種類が違います。ピックアップの出力を上げるのは、クリーンブースターで音量を持ち上げるのに近いですね。

また、磁力の強い磁石を使ったほうがパワーは出ます。アルニコVやアルニコVIIIを使うと大量の電気が流れますから、それだけパワーが出るわけです。こうした違いは抵抗値(DCR)では正確に表示しにくく、最近ではそれに代わる指標として「インダクタンス(H)」を表示するメーカーが出てきています。

今使っているピックアップなら、高さを上げて弦に近づければ音量は上がります。弦が磁石に引きつけられることもないことはないですが、リア側はフロント側ほど影響しません。ピックアップの高さはそのピックアップが一番良い音が鳴る点を探して調整するのですが、ピックアップ同士のバランスがあるので、まずメインで使うピックアップの高さを決めて、それに合うようにその他のピックアップの高さを決めてください。

いまだに旧式のスタイルが重宝されている現状について

Euphoreal ST-Plus Euphoreal ST-Plus / Bridge。写真はEuphorealサイトより引用。

──ストラト用のランダムポールピースについてです。3弦が突出しているのは、3弦が1弦より細い芯を使ったワウンド弦だった時代の名残ですよね?なぜいまだにこのままなのでしょうか。

藤野:最初にネジにしなかったからですね。その楽器で完成された音楽を聞いてきた以上、それを真似しようとして時代を遡っていった結果です。シングルコイルのランダムポールピースは、今では固定観念になっています。エレキギターはヴィンテージに価値がある分野ですから、新しいものは受け入れられにくいんです。

「ピックアップ交換」は、難しいんでしょうか?

ピックアップ交換 ちょうどピックアップ交換作業を控えていたので、撮影させていただいた。

──ピックアップの交換って難しいような気がするんですが、自分でできるものなんでしょうか。

藤野:はんだ付けができれば大丈夫です。はんだ付け自体も、やり方を覚えれば誰でもできますよ。ピックアップの交換は、ボーカルがマイクを替えるのと同じようなものです。カラオケ用の安いマイクで歌うのと、録音用の高級マイクで歌うのとでは録り音が違いますよね。ぜひチャレンジしてみてください。

──ありがとうございました!


以上、Euphorealの藤野さんに、ピックアップについての質問に答えていただきました。ピックアップはアーティストモデルがリリースされるほど、ギタリストがこだわる分野です。しっかりこだわっていきましょう。

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