《プロと同じものをお渡しする。》ZODIACWORKS訪問インタビュー

[記事公開日]2021/12/10 [最終更新日]2022/2/10
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ZODIACWORKS

ZODIACWORKS(ゾディアックワークス)は、東京都目黒区に工房を構えるギターメーカーです。布袋寅泰氏はじめ名だたるアーティストのギターやベースを手掛けていることで特に名高く、柔軟な発想のオリジナルモデルも話題を呼んでいます。今回はこのZODIACWORKS工房を訪れ、CEOの松崎淳さんにいろいろなことをお訊きしました。

松崎淳 松崎淳(まつざき・あつし)株式会社ゾディアックワークス最高経営責任者
フェルナンデスでリペアや研究開発を担当したのち、1992年に27歳の若さで独立、五反田にZODIACWORKSを設立する。約10年後には神奈川県に自社工場を設立、木工から完成までの全工程を自社で完結させている。現在の工房は、目黒区にあるビルの8階。趣味はステンドグラス製作やカッパークラフトなど、やはり作ることが好き。

「ZODIACWORKS」は、どんなギターを作っているのか。

──宜しくお願いします!ここは渋谷からも近いし、アーティストさんの仕事を受けるのに理想的な立地条件ですね。

松崎:宜しくお願いします。確かに、このエリアはアーティストさんが多くお住まいですね。

以前は渋谷に工房があったんですが、再開発のため退去したんです。しかし渋谷から離れたくなくて、今の物件に納まりました。ここから渋谷へは歩いて15分、駅は反対方向なので、下手に電車を使うより早いですよ。

弊社の作るギターはオリジナルモデルとアーティストモデルが主軸ですが、一般の方からのオーダーメイドも受けています。神奈川県にある工場で木工と塗装を行い、ここ目黒では組み込みと修理をやっています。

リペアもやっていて、アーティストがツアーで使うギターのメンテナンスも受けています。今年は布袋さんもHYDEさんもツアーがあって、GLAYも動き出しました。ツアーには何本もギターを持ち出しますし、メンテナンスはツアーに間に合わなければなりませんから、大忙しです。

実は、布袋さんのギターテックをやったことはないんです。フェルナンデスに入社する前だったら、ほかのアーティストさん担当で2年ほどやっていました。「ギターテック」という言葉が普及する前の時代で、当時はローディーと呼ばれていました。

布袋寅泰モデルのサンプル「TC-HOTEI WHITE LINE」

TC-HOTEI WHITE LINE

多くのギターキッズを虜にした、布袋寅泰氏を象徴する1台。常に進化しているものの、基本的な設計に変更はない。これは使い込まれている様子からやや古い型のようだが、ご本人がステージで使用するものと同じ仕様。

松崎:今はメイン1本で行くとご本人はおっしゃるんですが、そこに至るまではいろんなトライがありました。現在ご本人が使っているメインギターは、フェルナンデス時代に作ったボディを昔から変わらず愛用しています。ボデイ以外は配線だったりスイッチだったりパーツの一つ一つだったり、見えないところまで少しずつ変更を加えてアップデートを繰り返し、ネックほか全てのパーツが入れ替わっています。

TC-HOTEI WHITE LINE:ヘッド

ローポジションは肉厚、ハイポジションが薄め。フレーズは薄めのグリップで弾きたいが、ローコードを弾くときはガッシリと握りたい、そんな意志が感じられる独特のグリップ。もともと太いネックから、ネックをリシェイプしたのだろうか。

松崎:布袋モデルはずっとそのシェイプで、ナット幅が1ミリだけ細くなっている以外、フェルナンデス時代から変わっていません。最初の一本目は僕じゃないので、どういう経緯でこうなったのかは分かりません。

TC-HOTEI WHITE LINE:ボディ

この独特のラインは、布袋氏自身によるデザイン。若い頃は何本もギターを持っているかのように見せたくて、頻繁にペンキを塗り重ねていたという逸話がある。ラインのボコボコした感じは、若き日の手作業ゆえ。

ピックアップはEMGのSAが2基。サンプルなのに、EMGのロゴが摩耗している。よほどいろいろな人の試奏を受けてきたに違いない。

TC-HOTEI WHITE LINE:ブリッジ

ブリッジはブラス削り出しプレートに、ブラス製のブロックサドル。これはZODIACWORKSオリジナルの「BRIDGE ZGB-I」。

エディのフランケン柄を真似た人も多かったが、このラインを自分のギターに施した人も跡を絶たなかった。ファンにとっては信仰の対象ですらある、まさに憧れのギターがここにある。いやはや感慨深い。
いかついルックスに反して構えてみると軽量で、長時間の演奏にも疲れにくい印象。ローランドJC120に繋いでコーラスをかけると、まさにあの音が。都会的な、澄み切って雑味のない、そしてしっかり引き締めたタフな音。

松崎:ピックアップは両方ともストラト用のアクティブで、ボディにダイレクトマウント。6連サドルに重たいブリッジプレート、といった仕様です。いわゆる「テレキャスターの音」とは真逆の音がしますね。

バックパネルはアルミ製で、これはノイズ対策と強度の確保、両面の目的があります。アルミテープを貼った塩ビ板よりもシールド効果が強く、よりしっかりとノイズを除去できます。また内部に電池が入っていることもあり、塩ビ板では数年で膨らんできてしまうんです。

この個体はローズ指板ですが、現在のご本人仕様はエボニー指板です。今はコレのバックオーダーがものすごく溜まっていて、皆様をお待たせしてしまっています。

紫のテレ「ZTC-CUSTOM」

ZTC-CUSTOM

パープルというカラーリングは斬新だが、おおむねトラッド風味な印象のテレキャスタータイプ。

ZTC-CUSTOM:ヘッド

オリジナルのヘッド形状。

ZTC-CUSTOM:ボディ

アッシュ、ウォルナット、アッシュという3層のボデイ構造は、フェンダーのオールローズを意識した作り方。内部には空洞があり、エレキギター弾きならぱ重さが気にならないくらいに軽く、ボディバランスがよい。

ZTC-CUSTOM:ジョイント部分

一見トラッドなピックアップ。甘く太いフロントと、軽やかに立ちあがるリア。くっきりとした音がスパーンと飛んてくる、いわば「音が速い」。

ハカランダ指板

あるところにはある、ハカランダ指板。

松崎:ギターを作る人なら、ハカランダは見ただけでわかります。今はハカランダの伐採が禁止されている状況てすが、ブラジル政府の許可を取れば古材の輸出入は可能です。

向こうではローズウッドを床材に使うことがあるんですが、古い家を解体したときに出てきたやつを、100枚ほど確保できました。ハカランダ特有の甘い香りは控えめですが、長期的に寝かされた、ヴィンテージとほぼ同じ状態です。

ネック裏はグロス仕上げだがスベスベした感触で、ポジション移動に抵抗を感じさせない。
クリアにまとまった、スッキリしたストレートな音。特に欲しい低域をしっかり確保しながらも、響きを曇らせる余計なところは整理されている。ピッチの安定感もあり、これならエフェクターの使い甲斐があるし、シンセや打ち込みとのアンサンブルも安心。

テレキャスターへのこだわり

松崎:弊社はテレキャスタータイプのリクエストを多く頂きます。この個体は楽器屋さんの指定したボディカラーで、ピックガードを付けるかどうかを検討中てす。レオ・フェンダーの設計は見事なんです。例えばテレキャスターのピックガードでは、ネックエンドとコントロールプレートにピタリと接するような作りです。誰がやっても、絶対にここにしか付かないんです。

ローポジションからハイポジションまで綺麗にコードが響くのは、このサドル「FINETUNETELY BRIDGE SADDLE(ファインチューンテリー・ブリッジサドル)」のおかげ。積極的に上の方を攻めたくなる。ブリッジプレートのキズ防止のためにシートが挟まっているが、コレを外したらもっとアタックが速くなるのだとか。このギターの真の音は、買った人だけのお楽しみ。

松崎:テレキャスターは、シンプルだからこそ作り手が試される、ごまかしの効かないギターだと思っています。シンプルであるがゆえに、しっかり音のイメージを持って素材の組み合わせを考えないと、ギターとして成立しなくなってしまうんです。

またブリッジプレートにピックアップが載る設計なので、リアピックアップの位置が変えられず、位置で音を調節したり個性を出したりができません。しかしむしろそれだからこそ、僕はこのプレス成形のブリッジにこだわっています。6連サドル仕様だと、よく言えば重みが出て、悪く言うとトーンが下がります。テレキャスターっぽいキレを求めるなら、プレス成形のブリッジが必要です。

正確なピッチが得られる「FINETUNETELY BRIDGE SADDLE」

FINETUNETELY BRIDGE SADDLE

こちらはここ数年の新製品。その秘密は・・・?

松崎:「FINETUNETELY BRIDGE SADDLE(ファインチューンテリー・ブリッジサドル)」は、テレキャスターでシビアなピッチが得られる、オリジナルの3連サドルです。左右で弦を受け止める「山」の位置を変えることにより、弦ごとにオクターブ調整をしたのと同じ効果が得られます。サウンドとサスティンを向上させる効果もあり、弊社のテレキャスターには必ずこのサドルが付きます。

出典:ZODIACWORKS

「S45C」と「C3604B」は、金属そのものの正式名称。紫のテレには、左の「STEEL S45C」が搭載されている。

松崎:従来品は溝が刻まれた60年代式をベースに、鉄製とブラス製の2モデルがあります。鉄製はローエンドとハイエンドが加わります。ブラス製はミドルが豊かになり、輪郭がはっきりします。新製品は50年代式の質量に合わせており溝がありませんから、ビンテージ仕様にこだわる方もお使いいただけます。

こちらがニューモデルの50年代式サドル。溝はなく、本体が60年代式よりやや太い。

松崎:普通のブラスサドルは、材料に圧力をかけてひきのばす「圧延加工」で作られます。これに対し、弊社はブラスサドルを「削り出し」で作っています。物質的には同じブラスですが、削り出しの方が倍音が豊かに響くんです。

例えば70年代のロックバンドってたいがいベースとギターだけだから、多少ピッチが甘くても平気だったんです。しかし今は、シンセやシーケンスありきなんです。ピッチに対しては、みんながシビアになっています。それが進化なのかどうかは別として、タイト感とかスケールの安定性など、時代ごとに求められる音は変わっていきますね。

27インチモデル「ZPG The Monray Custom 27 inch」

ZPG The Monray Custom 27 inch

長ーいネックを最大の特徴とする、オリジナルモデル「ZPG The Monray 」の27インチ仕様。普通のギターにマイナス1フレットが追加されたくらいの弦長。コリーナ製ホディにコリーナ製ネックをセットイン、キルテッドメイプルトップ、という本体。フロントにP-90、リアにハムバッカーを搭載。本体は軽量。竿が長いのに重量バランスが良好で、違和感なく構えられるのはさすが。

ZPG The Monray Custom 27 inch:ブリッジ

アルミテールピースはオリジナルで、ブリッジはゴトー製。

松崎:見た目のかっこ良さと重量バランスの両方を考えながら、外周のデザインを決めています。本機の場合は1フレットが遠くに行きすぎないように、というところにも気を付けています。

独自設計のセットネック

セットネックだというのに、この大胆なカッタウェイ。強度に問題はないのだろうか?

松崎:ネックエンドがリアピックアツプの真下にまで達する、超ディープジョイントです。ネックはローポジションからハイポジションにかけて徐々に太くなっていきますが、そのままのペースで末端まで太くなっています。この形状に合わせてボディを彫り、ネックエンドをぴったりと密着させています。かなり手間のかかる設計なんですが、ここまでやった方が音が良いと感じています。

極端に深いジョイントのセットネックは他社さんでも見られるんですが、ネックエンドとボディのざぐりを密着させるのは、今のところ弊社だけだと思います。その上で、メイプルをトップに貼り付けています。

GARY HISASHI

松崎:HISASHIモデルもコレと同じジョイント法です。カッタウェイが24フレットまで来ている、普通のセットネックではありえない設計です。HISASHIモデルにトップは貼っていないので、ピックガードを外したら接合部を見ることができます。しかしピッタリと貼っているので、良く見ないと判らないでしょう。このモデルも人気商品で、ご予約のお客様にはお待ちいただいている状況です。

「弦長27インチ」の可能性

とにかくドロップDの低音がタイトに響いて、低音を軸としたリフの気持ちの良いこと、この上ない。ドロップDチューニングの泣き所であった6弦の曇りが、完全に解消されている。

松崎:昨今のヘヴィサウンドにレギュラーの弦長では、音がヨレてしまいがちてす。その点27インチは、ものすごくハッキリとしたサウンドが出ます。コードを弾いたときの音のボケみたいなものが無くなって音の輪郭が見えるので、よりヘヴィに聴こえます。

基本はダウンチューニングで使用することを想定していて、半音下げでチューニングで普通のテンション感です。しかしK.A.Z(Oblivion Dust所属)さんは27インチをレギュラーのドロップDで演奏しています。27インチの用途は、非常に幅広いと感じています。

サウンドチェックのため、さまざまなアンプが集まって壁を作っている。

クールな意匠も魅力の一つ

見るからに特別なギターたち。モノトーンのイメージが強いブランドだが、もちろん鮮やかなカラーリングのモデルもある。

エッチングを施した金属製ピックガード

金属製ピックガード

石垣愛(いしがき・あい)氏のモデルと同じ、金属製ピックガード。何ともクール。

こちらはOblivion Dust所属、K.A.Z氏がかつて愛用していたギターと同仕様のピックガード。

松崎:こちらは「エッチング」で装飾を施した、銅製のピックガードです。「彫金」はアルミを刃物で彫るんですが、エッチングは溶剤の侵食を利用します。マスキングして溶剤に浸けると、露出したところだけが溶かされて凹むわけです。銅はそのまま使うと黒ずんでしまいますから、ニッケルメッキを施しています。しかし最近は金属の値段も上がってきていますね。木材も金属も、何もかも高いです。

侵食させたところをよく見ると、こんな感じ。線が柔らかい。

侵食させたところを黒く塗ると、こんな感じ。

松崎:装飾のデザインが求められることも、こちらから提案することもあります。

昔は気分転換のため東急ハンズに行くことが多かったんですが、ステンドグラスを見ていたら、自分にもできるんじゃないかって思えたんです。それで趣味としてステンドグラスを作るようになったんですが、そこからカッパークラフトに行き着き、これはギターに使えるんじゃないか、と思いついたんです。

ひじょうに細かく、繊細な図柄。

松崎:ピックガード本体は肉厚で重みがあり、その分ロー感がぐっと伸びます。アルミでやったこともあるんですが、弊社のギターとしては音抜けに不満がありました。材料を洗いざらい試してみたところ、銅が一番しっくり来たんです。

カーボン製未来ギター「DARK STAR」

ZODIAC DARK STAR

工房にはサイン入りの写真が飾ってある。

松崎:布袋さんは未来系のトライが大好きな人で、いつも新しいアイディアをお寄せになります。弊社はそれを実現させてきましたが、今まで何本作ったか覚えていられないくらいです。

こちらは「ダークスター」というタイトルで、ボディー、ネックの必要な部分はトーンウッドを使い、カーボンメインで作ったギターです。ボデイトップが立体的なアーチを絵描くボルトオンモデルで、限定で20本くらい作りました。材料から特別でしたから、ものすごく手間がかかりましたよ。

TC-HOTEI LED搭載機

松崎:プロモーションビデオの撮影用に、「白いラインがLEDで発光するギター」という注文もありました。LEDは回路からノイズが出てしまうんですが、ギターにノイズが乗る回路と乗らない回路の違いが判明したので、どうにか実現できました。これは勉強になりましたよ。ノウハウ化されているものではありませんでしたから、試行錯誤の連続でした。

弊社のfacebookに投稿しているのは、2016の楽器フェアのために布袋さんからお借りして、展示したときのものです。開催中、ずっと光ってました。この光が走るものの他に、全部が点灯するのと、全部が点滅するもの、3パターンで作りました。

スワロフスキー特別仕様機

スワロフスキー・ギター

松崎:スワロフスキーを並べたギターは、20週年記念で作ったアニバーサリーモデルです。もともと白黒でデザインを入れておいて、黒いところには黒い、白いところには白いスワロフスキーを並べています。

いろいろなことに手を出していて、確かにギターメーカーの範囲を逸脱しているかもしれません。ですがこうした特別なチャレンジは面白いし、面白い方が楽しいんです。売れるか売れないかより、楽しいか楽しくないかだと思っています。このような特別仕様はアーティストの注文のみ受ける、という姿勢でもありません。アマチュアのお客様からでも、こういうのは作れないか、といったお話をお聞きします。

プロと同じものをお渡しする。

松崎:ZODIACWORKSは、プロが使っているのと同じ材料と工程で、すべて同じ物をお出しすることをコンセプトの一つにしています。そしてプロアマ問わず、できる限りのオーダーをお受けします。そのかわり、材料のグレードを下げて安く作ってくれ、といったオーダーはお受けしません。

自ら打ち出しているわけではないんですが、弊社は白、黒、シルバーのイメージが定着しているのだと思います。モノトーンのギターがよく売れるので、そうじゃないギターがここにあります(笑。また弊社のギターは、特にロック系のアーティストさんが多くご利用です。今はヘヴィロックの人も、ライトなロックンロールの人もいらっしゃいます。

松崎氏の作業場。ご本人は「散らかっている」とおっしゃるが、必要なものが作業しやすいように配置されている印象。

チーフエンジニアの播木努(はりき・つとむ)氏は、導電塗料を塗る作業中。

松崎:努力はしているんですが、生産ペースは上げにくく、オーダーに追い付いていないのが現状です。月ごとの生産数はまちまちで、15本出荷できる月もあれば、3本しかできない月もあります。忙しいからって、技術のある人材を急に増やせるわけでもありません。頭数だけ揃えていい加減なものを出してしまうより、お待ちいただく方がまだ良い、という判断です。バックオーダーは現状で100本以上あって、大変申し訳ないことなんですが、すごくお待ちいただいています。

来年で30周年ということから、普段は分業制で作っているところを全部私一人で作る「3本限定のアニバーサリーモデル」をやる予定です。30周年だからといって、30本はとても無理ですよ(笑。

「できる限りのオーダーを受ける」その真意

松崎:オーダーではまず「欲しい音」をお伝えいただければ、そのゴールに向けて仕様を絞り込んでいきます。その上で、どんなオーダーであってもその理由や意図を確認した上でお受けします。逆にお客様の求める音がそっちじゃない場合には、再検討をお願いしています。

ボディとネックだけは、後で交換するわけにはいきません。ボディにメイプルを貼るのか貼らないのか、指板材はとうするのかなど、欲しい音のために木部をシビアに検討するのが第一です。しっかりとした本体を作った上でならば、ピックアップなどパーツの組み合わせで、しっかりとストライクゾーンに投げ込むことができます。

オーダーはショップからできます。直接こちらでも受けますが、だからといって順番が早まるわけではありませんよ。

松崎:今は、ネットで音を判断してしまう人がとても多いと感じています。誰かの「コレが良い」という発信から、それが絶対的に良い物なんだと信じ込んでしまう人もいます。たとえばピックアップについて、誰かがコレが良いって言えば、同じように思ってしまう。こっちではコレが良いって言って、あっちではアレが良いって言ってて、全部混ぜたら最高なのかというと、決してそうではありません。

部分的な仕様にこだわるのは、私たちメーカーの仕事です。オーダーされる方は、欲しい音を第一に検討いただければと思っています。

──ハンバーグやトンカツにカレーをかけたら美味しいですけど、お寿司にカレーをかけたら駄目でしょ、ということですね。

松崎:お店なら、「出ていけ」って言われますね(笑。

ZODIACWORKSの歩み

松崎:フェルナンデスにはリペアマンとして入社して、そこからR&D(Research and Development。研究開発)に転属し、製品企画やアーティストリレーションを担当しました。アーティストモデルの開発も行うんですが、会社の意図とアーティストさんの思いとに挟まれる立場だったんです。

アーティストさんは理想の音を求めているんですが、会社としては他所のメーカーが扱うパーツは使ってほしくないんです。その板挟みが嫌になって、だったら会社の言うことを聞くよりアーティストの音を作ったほうが楽しいな、と思ったんです。

工房では、グッズを買うこともできる。

松崎:そんなわけで、若いときだからできたんでしょうが27歳で退社して、五反田で「ZODIACWORKS」を始めました。その時の物件は2部屋で、住居と作業場を兼ねていました。さっそくギターを作ったんですが、当時の相場で20万円とはけしからん、売れるわけがない、なんてさんざん言われたものです。

アーティストさんとのつながりは、全てフェルナンデスに引き継いでいました。独立した時点で得意先のアーティストはゼロでしたから、最初は全然仕事がありませんでした。見るに見かねたムッシュ(かまやつ氏)が「俺のギター治して」って言ってくださいました。ムッシュには大変お世話になりました。

Rock Free Concert – ノーノーボーイ(feat. ムッシュかまやつ)
かまやつ ひろし / ムッシュかまやつ(1939~2017)
ザ・スパイダースでヒット曲を多数作曲するなど、日本のGSブームを牽引した。映画やTVドラマの俳優としても活躍。時代の最先端の音楽に取り組みながら、若手ミュージシャンとも積極的に共演した。

松崎:日本のロカビリーブームが湧き上がった時代でしたが、グレッチを扱っているところが他にどこにもなくて、ずーっとグレッチの修理をやっていたこともありました。かつて担当したアーティストさんがZODIACWORKSに興味を持ってくれて、アーティストさんとオリジナルを作るようになったんですが、それでも今ほどの注文はありませんでしたから、大阪の専門学校でギタークラフトの講師もしていました。

布袋寅泰氏も、フェルナンデス時代からのお付き合い。

松崎:しかし、少子化で生徒の絶対数が減ってきたのと、LM(軽音楽。ロックやポップス)よりダンスの生徒が多くなったのとで、クラフト科の閉鎖が決まりました。ギターの注文が増えてきた時期でもありましたから、クラフト科の機材を一通り買い受けて、またほぼ同時期に浜松の塗装屋さんが廃業するという話を聞いて設備を買い取り、それで自分の工場を作ることができました。その頃は30代後半で、工房は下北沢に移っていました。

それまでは外注したボディ&ネックを組み立てて作っていたのですが、工場ができてからは自分たちのギターを木材から作れるようになりました。そうするとネックジョイントの設計とか、いろいろな試作ができるようになり、面白い発見がいっぱいできました。さきほどの「ZPG The Monray」の超ディープジョイントでも、雑に入れるのとピッタリ入れるのとで、音は全然違うんだと確認できるんです。

ギター職人への道は、一つではない。

松崎:求人するなら、やる気があって辞めない人に来てほしいですね。ギターを作れる人材に越したことはないんですが、学びたいから働かせてくれと言う人もいました。こちらとしては「ギターの作り方を知りたければ、教えますよ」というスタンスです。スタッフの働き方もいろいろで、ツアーのテクニシャンと兼任で木工を担当している人もいます。

ギターを作る学校では、売り方までは教えてもらえません。そもそもビジネスの方法論は、学校で教えてもらうものではありません。私はメーカー勤務時代、新製品の説明会で営業の人と日本中をまわりましたし、そういう機会に小売店さんとのコミュニケーションを取ることもあって、実地でビジネスのやり方を勉強できました。しかし今はクラフト科を卒業していきなり独立している人が多いし、一人でやってる人も多くて、それで成功している人もいます。若い人たちは新しいやり方で、ビジネスを展開しているのだと感じています。

──ありがとうございました!


以上、東京都目黒区、ZODIACWORKS取材の模様をお伝えしました。ロック系を中心とした多くのアーティストから信頼される、また前例のない設計や材料を積極的に使う、技術の高さと熱い野心を感じさせるメーカーでした。

現在のZODIACWORKSには、日本中から注文が殺到します。しかし最初は仕事が無くていろいろ苦労したのだという、現在と真逆の歴史があったというのが印象的でした。

今やZODIACWORKSのギターはショップからの注文の時点でほぼ買い手が付いており、店頭に並ぶことすら稀です。実物と対面するのはなかなか難しいですが、展示会など実機に触れる機会もあります。興味が湧いた人は、ぜひ注文を検討してみてください。


お悔やみ
取材を受けてくださった松崎淳さんは、令和4年2月6日、出張先の福岡にて長い旅を終えられました。
ブランド立ち上げ30周年を目前に控える元気なお姿を拝見したばかりのことでしたので、にわかに受け止めがたい突然の訃報でした。松崎さんはギター職人として音楽シーンを支え、私たちに夢を見せてくださいました。その夢の続きが見られないのが、残念でなりません。松崎さんへの敬意と感謝を以って、謹んでご冥福をお祈りいたします。
令和4年2月9日 情報サイト「エレキギター博士」スタッフ一同

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