更なる深淵へ「8弦/9弦ギター」特集

[記事公開日]2021/6/22 [最終更新日]2024/6/23
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

8,9弦ギター Ibanez RG8PB

「汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ」
ニーチェ(哲学者。1844-1900)

スティーヴ・ヴァイ氏の功績により一般化した7弦ギターですが、これにさらにもう一本弦を追加した「8弦ギター(2009年アイバニーズよりリリース)」、またさらにもう一本弦を追加した「9弦ギター(2014年アイバニーズよりリリース)」の存在が、近年のヘヴィ系/テクニカル系プレイヤーの中で存在感を発揮しています。これに伴いさまざまなブランドから新たな「多弦ギター」がリリースされており、今や多弦ギターは群雄割拠の情勢です。今回はこの多弦ギターから8弦と9弦に注目し、その特徴に迫ってみましょう。


  1. 多弦ギターの弦の増え方
  2. 多弦ギターの音域
  3. 多弦ギターは、どんな場面で使用されるのか
  4. 多弦ギターの注意点
  5. 各ブランドの8弦/9弦ギターラインナップ
  6. アコースティックの多弦事情

多弦ギターの弦の増え方

現代の多弦ギターは、

  • 7弦ギター:低音側に1本追加
  • 8弦ギター:低音側に2本追加
  • 9弦ギター:低音側に3本追加

というように、どんどん低音弦を追加させています。

追加されていく弦の基本的なチューニングは、

  • 第7弦:B
  • 第8弦:F#
  • 第9弦:C#

で、ギターやベースが基本としている「4度チューニング」に従っています。

多弦ギターのチューニング・データベース

エレキギターに先駆けて多弦化が進んでいるベースの世界では、通常の4弦に対して

  • 5弦:低音側に1本追加する「ローB」が一般的だが、高音側に追加する「ハイC」も
  • 6弦:低音側と高音側に1本ずつ追加
  • 7弦以上:低音側に1本追加し、残りは高音側にどんどん追加

というように弦を追加していきます。一旦低音側に音域を拡大しながらも、それ以降はどんどん高音側に拡大しているわけです。

「音域を拡大したい」という野望に従い、ギターは低音側に、またベースは高音側に弦を追加していますね。ギターではいまのところ「9弦以上に低い音の弦は、物理的に無理がある」と考えられており、低音弦の追加は9弦までとなっています。そんな中でも9弦にもう1本追加した「10弦ギター」も作られていますが、まだ一般化まではしていません。

多弦ギターの音域

弦が増えていくと、音域はどこまで拡大されるのでしょうか。ピアノの鍵盤を基準に、その音域の増え方を見てみましょう。
音程について

8弦ギターとピアノ鍵盤 ピアノとの関係

ピアノはオーケストラの中では最も音域の広い楽器で、他のどの楽器の音域もピアノの音域に収まります。これによって、アレンジャーはピアノ一台でオーケストラの編曲ができるわけです。この図ではギターもベースもレギュラーチューニングの場合に統一していますが、8弦ギターは4弦ベースに迫る低音が、9弦ギターに至っては4弦ベースよりも低い音が出せるのだといううことが分かりますね。チューニングによっては、ベースと同等の低音を出すこともできます。

こうした低音は通常のギターでも、チューニングを下げれば手に入れることができます。しかしダウンチューニングは、「高音域が犠牲になる」というデメリットを内包しています。どんどん低音弦を追加していく多弦ギターには、「高音域がそのまま残る」という大きなメリットがあるのです。

多弦ギターは、どんな場面で使用されるのか

1) ヘヴィ・リフ


MESHUGGAH – Bleed (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
今や多弦ギターが必須という感のあるジャンル「Djent(ジェント)」を最先端で牽引するバンド「メシュガー」は、暴力的なリフのプレイがとても印象的です。二人のギタリストフレドリック・トーデンダル氏、マルテン・ハグストローム氏共に、アイバニーズの8弦ギターを使用しています。こうしたジャンルではベースと同じ高さの音をギターが演奏するのが普通で、「ギターとベースはオクターブ違い」というこれまでの常識を打破した新しいヘヴィサウンドが作られています。

2) ベース的に使用


ANIMALS AS LEADERS – Physical Education (Official Music Video)
二人の8弦ギターとドラムという変則的な編成のインストゥルメンタルバンド「アニマルズ・アズ・リーダーズ」の中心人物トシン・アバシ氏のプレイでは、しばしばベースの奏法が用いられます。氏は普通のギタープレイのみならずスラップなどベースの演奏技法にも通じている達人ですが、低音弦のベース音に高音弦の音を交えたサウンドは普通のベースにはできない、多弦ギター独自のものです。

3) 両手タッピング


Josh Martin of Little Tybee – “Glitch Tapping” on his Ibanez SIX28FDBG
多弦ギターをあたかも「スティックベース」や「コヤブボード」など「タッピング専用楽器」のようにとらえ、両手タッピングを積極的に取り入れていくギタリストも多くいます。このジョッシュ・マーティン氏はピックに頼らない独特の演奏を得意とし、両手タッピングを活用した音程差の大きなフレーズを使用します。

両手タッピングでは

  • 左手のタッピングで伴奏
  • 右手のタッピングでメロディを奏でる

など、1台のギターで2パート演奏することも多いですが、この場合弦が多い方が両手の割り振りやフレージングに自由が利きます。ヘヴィ系まっしぐらかに思えた多弦ギターのムーブメントですが、クリアな音色でタッピングを駆使し、ハーモニーを大事にした美しい音楽を演奏するギタリストも続々台頭しています。

多弦ギターの注意点

「拡大した音域」による可能性が注目される多弦ギターですが、それだけに注意するべきポイントもあります。弦交換やチューニングが大変だ、という以外にどんなことに留意すべきか、その注意点を考えてみましょう。

ネック幅も弦数に応じて拡大

6弦/7弦/8弦ギター比較 6弦/7弦/8弦、それぞれのネック比較。6弦ギターと比べると、8弦ギターはここまできたかと思わせられるネックの太さ

弦が増えれば、それだけ物理的にネックの幅も広がります。ネック本体の体積が増すことによる音響性能の向上は大きなメリットですが、8弦ギターの一般的なナット幅はクラシックギターに近い「55mm」にもなり、親指を出して握るのはほぼ不可能になります。ネックを下からつまむように構える「クラシカルスタイル」での演奏を余儀なくされるので、チョーキングのフォーム、プレイスタイルやストラップの長さなどが限定されてきます。

できないか、極端に難しくなるプレイもある

多弦ギターでは、ガシっと押さえてジャンっと鳴らすような、通常のギターでラクラク演奏できるオープンコードでのプレイが極端に難しくなります。また不要弦をすべてミュートすることに高度な技術の習得を必要としますから、ファンク系のカッティングオクターブ奏法の難度が上がります。

交換用の弦の選択肢

8弦や9弦はようやく一般化しつつある、まだまだ新しいギターです。アイバニーズやアーニーボールから多弦用の弦はリリースされていますが、今だ選択の幅は十分だとは言えません。7弦用のセット弦にバラ弦を追加するなど、弦にこだわる多弦ユーザーはいろいろな工夫をしています。


もうこうなったら8弦ギター弾いてみた!!

LTD SC-608B

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