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フェンダーのメキシコ工場(バハ・カリフォルニア州エンセナダ/Ensenada)は、USA工場(カリフォルニア州コロナ)に次ぐ同社の直営工場です。「コロナ工場以上」とも言われる生産体制を持ち、昔ながらのスタイルを受け継いだ「Vintera II・シリーズ」、現代的なテイストを盛り込んだ「Player II・シリーズ」、またアーティストモデルなどクオリティの高い製品を生産しています。今回は、このエンセナダ工場で生産されるストラトキャスターに注目してみましょう。
Road Worn™ Guitars and Basses
フェンダーのメキシコ工場(エンセナダ工場)は同社の「スタンダードモデル群を支える主力工場」として、製造から品質管理までを一貫して担う体制を整えています。工場立ち上げから順次、継続的な設備投資と工程の内製化を進めることで、今やその生産規模はコロナ工場以上です。
また、メキシコ工場では長期雇用を重視。熟練工が工程の中核を担うことで、個体差の抑制や製品の安定など、数字では現しにくいクオリティも高めています。地理的にカリフォルニア州のコロナ工場から車で5時間ほどという(アメリカの感覚では)近いことも重要で、両工場の間では長年にわたり製造技術や品質基準、設計思想を共有しています。
このメキシコ工場の存在により、現在のフェンダーは「USAか、そうでないか」の2択では語り切れなくなっています。
1965年にフェンダー社を買収したCBSは、効率化に腐心するあまり製品の質を下げてしまい、売り上げを落としてしまいます。このピンチを乗り切るため1971年に迎えられたのが、「フェンダーの救世主」と称されるビル・シュルツ(1926 -2006)氏です。
シュルツ氏は
などいろいろ頑張りましたが、当時のフラートン工場はCBSの方針で職人のリストラが行われたことから生産技術が追い付かず、うまくいきませんでした。このリストラでは給料の高いアングロサクソン系の職人が退社し、給料の安いヒスパニック系(メキシコ、キューバなどラテン系)の職人が残されたようです。
1984年、とうとうCBSはフェンダー社を手放します。翌年シュルツ氏はかき集めた資金でフェンダー社を買い取りますが、フラートン工場は売り飛ばされてしまっていたので、次なる生産拠点としてコロナ工場が設立されます。シュルツ氏はここにカスタムショップを立ち上げることで高級品を生産する体制を整えますが、反対に低コストでも生産できる拠点としてメキシコに注目、1987年、比較的治安のよいエンセナダに工場を設立します。
操業当初のエンセナダ工場は限定的な工程からスタートしますが、1988年、コロナ工場の技術指導に活躍したフジゲンの技術者たちを迎え、ギター生産の準備に入りました。この技術指導の甲斐あって、翌1989年にエンセナダ工場でのギター生産が開始されます。技術指導が終わってからも、定期的にカスタムショップのマスタービルダーが訪れ、製品の質は保たれるばかりか年々向上していると言われています。
日本には「フェンダー」を、別会社が運営していたブランド「フェンダー・ジャパン」との区別で「フェンダーUSA」と呼ぶ伝統がありした。この延長で、エンセナダ工場で作られるギターに対して便宜上「フェンダー・メキシコ」という呼び方が生まれました。
現在ではその「フェンダー・ジャパン」もなくなり、日本製のラインナップはフェンダーに吸収され、日本製もメキシコ製もアメリカ製も、生産地が異なるだけで等しく「フェンダー」ブランドのギターとして扱われます。とはいえその価格帯は明確に分かれており、USA製は高級機、メキシコ製は標準機という扱いです。そんなわけですから、あまりにも多いフェンダーのラインナップを概観する上では、生産地による区別は意義があると考えられます。
USA製もメキシコ製も同じフェンダーの製品であり、どちらが本物でどちらが偽物(コピー)で、という分け方はされません。では、両者のギターに品質の差はあるのでしょうか。これについては、グレードの上下こそあれ、USA製とメキシコ製という分け方では、製品の「品質」に上下は生まれないと考えられています。メキシコ製フェンダーは廉価版ではなく、フェンダーの標準モデルを支える重要な柱として位置づけられているのです。
それぞれの工場では、使われる木材が同じで、工作機械や製法も同じです。加工精度についても遜色ないという評価を得ています。フェンダー立ち上げ時から頑固に守っているインチ規格も継承していますから、弦長やネジの寸法も同じです。よって、メキシコ製のストラトキャスターにUSA製やヴィンテージの部品を搭載することまで可能です。
USAと共通の木材を使用、またフェンダー設計によるピックアップを搭載していることもあって、音についての評判は上々です。耳の肥えた意地悪なユーザーからも「ちゃんとフェンダーの音がする」と言われます。
メキシコ製に新しいカラーリングを投入したり各モデルごとにピックアップを新規開発したりするのも珍しくありませんが、一方でノイズレス・ピックアップを代表とするイノベーティブな部品は、USA製に優先的に採用されます。メキシコ製に旧モデルのパーツが投入されることもありますが、これは好意的に解釈するとUSA製で一定の評価を得た実績を持つパーツが、手に入れやすい価格のギターに採用されたのだと考えられます。

上:Player II Stratocaster (Transparent Cherry Burst)
下:American Professional Classic Stratocaster (Faded Dakota Red)
余程の目利きでもなければ、外観だけではグレードの上下を判別できない。こういうところもフェンダーの面白いところ。
メキシコ製とUSA製では、グレードの上下こそあれ品質に差はないと言いうのならば、どんなところが同じでどんなところが違うのでしょうか。価格の差はどんなところに由来するのでしょうか。
倍ほども価格差のあるこの二台を比べてみましょう。
フェンダーの歴史上、新しい価値を世界に提案するのは、USA製アメリカン・シリーズの役目の一つだったようです。代表的なノイズレス・ピックアップやS-1スイッチのほか、今ではフェンダーの標準仕様という感もあるモダンCシェイプやナロートール・フレット、2点支持シンクロナイズド・トレモロユニットまで、新しい発想を取り入れたり機能を向上させたりといったイノベーティブな仕様は、USA製に優先的に投入されてきました。
メキシコ製にはUSA製で一定の評価を受けた仕様が採用されるのが基本的な流れで、この体制によって製品の性能を信頼できるとともに、開発費を圧縮させることができます。
木材構成については両モデル共通で、アルダー製ボディ、メイプル製ネック、ローズウッド製指板です。フェンダーでは仕入れた木材をUSA用とメキシコ用に振り分けていると伝えられており、木目や重量などのより理想的な木材がUSAに回され、価格に反映されていると考えられています。
とはいえ、メキシコ用に回される木材もフェンダーのギターに使う木材としての基準を十分に満たしており、「木材による音響上の有意な優劣はない」という見方が一般的です。
ネック関連については両機の仕様に共通点が多く、
ということで、ほぼ同じ弾き心地が得られます。
ボディ仕様は、塗装に違いが見られます。ポリエステルもポリウレタンも「ポリ系」としてラッカーと区別されますが、ポリエステルは乾燥しやすいことから生産性が高く、価格を抑えたモデルで頻繁に使用されます。反面、薄く塗ることはできず、堅く厚い塗膜でボディ材を覆ったタイトな響きになる傾向があります。
ポリウレタンは塗膜をラッカー並みに薄くすることができる、ボディ振動を邪魔しにくい優秀な塗装です。しかしポリエステルに比べて工程が多く、乾燥は遅く、材料費は高くなり、やはり価格差に反映します。
Player IIの「Player Series Alnico 5 Strat Single-Coil」ピックアップとAmerican Professional Classicの「Coastline ’57 Single-Coil Stratocaster」ピックアップに見られるように、近年のフェンダーはシリーズごとにピックアップを開発しています。これらにはグレードの上下こそありますが、どちらが良い音かの判断は持ち主の好みに委ねられます。

メキシコ製はグレードの違いこそあれ、USA製と同じ音響性能の木材を使い、同様にフェンダーの開発したピックアップを搭載した、まぎれもないフェンダーのギターです。
価格の違いは人件費や量産体制のほか、USAで実績を積み上げた仕様を採用することによる開発費の圧縮、木材のグレード分けによる材料費の削減、ボディ塗装の違いに見られます。
大きな価格差はこれらの企業努力によるものであって、やはり製品の品質の上下ではない、と考えられます。
ではエンセナダ工場で生産されるストラトキャスターのラインナップを見ていきますが、その前に2026年時点でのラインナップの全体像をざっと把握しておきましょう。なお、現在のStandardシリーズはインドネシアの提携工場で生産されますが、都合上こちらに掲載しています。
| Player IIシリーズ | あらゆるスタイルに順応できるモダン仕様の標準機 |
|---|---|
| Player II Modifiedシリーズ | Player IIをグレードアップさせた強化版 |
| Vintera IIシリーズ | 現代のプレイヤーに提供するヴィンテージ・スペック |
| Standardシリーズ | 基礎的なスペックでまとめた手に入れやすい現代仕様 |
| アーティストモデル | アーティストのシグネイチャーモデル |
価格帯でグレードを分けると、Player IIを中心として、Player II ModifiedとVintera IIが上位、Standardが下位におり、上位モデルのPlayer II ModifiedとVintera IIは同じくらいで、この上にアーティストモデルが位置します。

Player II Stratocaster
2024年にスタートした「Player II」シリーズは、未来を担う若手ギタリストに向けた、現代的なサウンドと機能を備えた標準モデル。ヒットしたPlayerシリーズを起源に、指板のロールオフ処理を採用して演奏性を向上、かつ支持の厚いローズウッド指板を選択肢に採用しています。
このほかサテン仕上げのネック裏、ナロートール・フレット装備など、ネック仕様を上位モデルAmerican Proffesional Classicにかなり寄せており、かなり近い演奏性が得られます。
11タイプものカラーバリエーションを展開し、またトラスロッドがヘッド側に開口しているので、ロッド調整にもチャレンジしやすくなっています。

Player II Modified Stratocaster
「Player II Modified」シリーズは、標準機Player IIを基礎にパーツをアップグレードさせ、ステージ映えするカラーリングを施した強化版。SSS仕様のストラトキャスターは、ロック式ペグと2点支持シンクロナイズド・トレモロユニットという高機能モデルの定番仕様に加え、トレモロブロックを面取りする(Chamfered Tremolo Block)ことで可動範囲が拡張されており、よりアグレッシブなアーミングが可能です。トーン2のスイッチでフロントピックアップを起動できるため、標準的なストラトでは不可能だったフロント&リア、フロント&ミドル&リアという組み合わせが得られます。
「Vintera(ヴィンテラ)II」シリーズは、予算の範囲内で可能な限りの再現性を目指したヴィンーテージ・モデル。シリーズ共通でグロス仕上げのネック裏、7.25″(184.1mm)Rという丸みを帯びた古き良き指板、やや高さのあるヴィンテージ・トール・フレットを採用し、ナット幅は42㎜です。これらの仕様は上位モデルAmerican Vintage IIシリーズとも共通しているので、ストレスなく持ち替えることが可能です。

Standard Stratocaster
現代のStandardシリーズは、インドネシアの提携工場にて生産されています。音域は伝統的な21フレットながら、裏側サテン仕上げのモダンCシェイプネック、9.5″指板R、ミディアムジャンボフレットといったネック仕様はほぼPlayer IIと共通。2点支持シンクロナイズド・トレモロユニット採用によりスムーズなアーミングが可能で、ヘッド側に開口したデュアルアクション・トラスロッド採用により、順ぞり/逆ぞり両方に調整可能です。
アーティストモデルはPlayer II Modified/Vintella II両シリーズの上位グレードという立ち位置です。より多くのギタリストに訴求する両シリーズと違い、アーティストのこだわりやプレイスタイルに特化した仕様を採用。他のシリーズにない仕様が採用される例が多く、またバンドに馴染みやすいルックスが多いため、アーティストのファンならずともチェックする価値があります。
| アーティスト名 | 基本仕様 | Tone 2 / PU配列 | フレット | ネック裏 / 指板R | ネックシェイプ | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
![]() Mark Speer |
70’s | Middle / HSH | Jumbo / 21F | Gloss Urethane / 7.25″ (184.1 mm) | Custom “C” | ディマジオPU & 特殊配線 |
![]() Ritchie Blackmore |
70’s | Bridge / S-S | Vintage-Style / 21F | Gloss Urethane / 7.25″ (184.1 mm) | U Shape | Seymour Duncan Quarter Pound |
![]() Mike McCready |
60’s | Middle / SSS | Jescar Medium Vintage / 21F | Road Worn® / 9.5″ (241 mm) | Slim “C” | 全身Road Worn |
![]() Jimmie Vaughan |
50’s | Bridge / SSS | Medium Jumbo / 21F | Satin Urethane / 9.5″ (241 mm) | Soft “V” | Tex-Mex Single-Coil |
![]() Robert Cray |
60’s | Middle / SSS | Medium Jumbo / 21F | Gloss Urethane / 9.5″ (241 mm) | 60s “C” | トレモロレス |
![]() Jimi Hendrix |
Late 60’s | Middle / SSS | Medium Jumbo / 21F | Gloss Urethane / 9.5″ (241 mm) | C Shape | 右用で左用のニュアンス |
![]() Buddy Guy |
50’s | Middle / SSS | Medium Jumbo / 21F | Satin Urethane / 9.5″ (241 mm) | Soft “V” | 水玉模様 |
![]() Tom Delonge |
Modern | N/A / H | Medium Jumbo / 21F | Satin Urethane / 9.5″ (241 mm) | Modern “C” | Seymour Duncan Invader |
![]() Tom Morello |
Modern | Bridge / HSS | Medium Jumbo / 22F | Satin Urethane / 9.5″ to 14″ Compound Radius | Modern “C” | FRT & キルスイッチ |
![]() Dave Murray |
60’s | Middle / HHH | Medium Jumbo / 21F | Gloss Urethane / 9.5″ to 14″ Compound Radius | C Shape | FRT |
表:メキシコ製アーティストモデル・ストラトキャスター(2026年版)
「Tone 2」は、二つ目のトーンポットがどのピックアップに効くか。「Middle」ならばブリッジにはトーンなし。「Bridge」ならば1つ目のトーンはネック&ミドルの両方に効く。
ほとんどのモデルが21フレット仕様であることからも判るように、多くのアーティストモデルがトラッドなストラトキャスターの設計を主発点にしているのは興味深いポイントです。またモダン仕様のモデルであっても、ヒールカットは非採用です。
フレット、指板R、フィニッシュなど、ネックまわりの仕様にバリエーションがあるのも興味深いポイントです。特に以下のモデルはネック仕様に他モデルにはない特徴があり、刺さる人に深く刺さると考えられます。
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