ハムバッカー・ピックアップのカバーを外したら、どういう効果が得られる?

[記事公開日]2017/2/5 [最終更新日]2023/5/27
[編集者]神崎聡

ハムバッカーのピックアップのカバーを外したら、どういう効果が得られますか? – (2011/9/13)10~19歳(高校生・中学生・小学生)

レスポールはピックアップカバー外すのをよく聞きますが、ストラトは外しても問題ないですか? – (2015/8/27)14歳 けんたろうさん(男性)

ハムバッカーではサウンドが変化しますが、シングルコイルでは理論上変化がありません。シングルコイルのカバーが通常プラスチック製なのに対し、ハムバッカーのカバーは金属製であることに秘密があります。
今回は、ハムバッカーピックアップのカバーについて考えてみましょう。カバーの有無でサウンドもルックスも変わりますから、ギターのカスタマイズに興味がある人にとってはしっかりチェックしておきたいポイントです。

なぜピックアップカバーがあるのか?

1952年に発明され、1957年にレスポールに採用されたハムバッカーピックアップの本来の姿は、ピックアップカバーのある状態でした。カバーの付いた従来のものを「カバード」、カバーの付いていないハムバッカーを「オープン」と呼ぶようになったのは、カバーを外すという改造が流行してからです。外してしまうくらいなら付けなくてもいいのに、なぜピックアップカバーは付けられたのでしょうか。

シングルコイル・ピックアップのカバー 左:シングルコイルピックアップ、右はカバーを外したもの(細い銅線がぐるぐる巻きつけられている)

ハムバッカーのカバー 左:カバード・ハムバッカー、右:オープン・ハムバッカー(テープが巻かれている)

ピックアップカバーは、

  • 1) コイルの保護
  • 2) ノイズ対策

この二つの目的で付けられます。

ピックアップは非常に細い銅線をぐるぐる巻きつけたコイルを使いますが、この線が切れてしまうと再起不能になってしまいます。そこで金属のカバーをかぶせてしまって、完全に保護しようというわけです。オープンタイプとして生産されるピックアップには、カバーを付ける代わりにテープが巻かれます。

また、エレキギターのピックアップは、空気中の電磁波を拾ってしまいやすい構造になっています。拾われた電磁波は、ノイズのもとになります。金属製のカバーはピックアップの裏側でアースとつながっており、ピックアップに入り込もうとする電磁波のいくらかをとらえてアースに流す働きをしているのです。


Led Zeppelin – “Whole Lotta Love (Rough Mix With Vocal)” (Official Music Video)
いわゆるレスポールの太く甘いサウンドは、カバードのハムバッカーによるものです。1957年のデビューから現代にいたるまで、カバードのハムバッカーはロックの歴史に重要な役割を担っています。シンプルに「カバードのルックスが好き」というギタリストも多くいますが、50年代や60年代をリスペクトしてカバードを愛用する、というギタリストも多くいます。

ピックアップカバーの有無とサウンドの違い

ピックアップカバーはノイズをアースに流す働きをしていますが、トレブルよりももっと上の「超高域」も一緒にアースに流してしまいます。このことからカバードのピックアップは、やや甘いサウンドを持つようになります。

ピックアップカバーを外すと、空気中のノイズをアースに流す効果を失う代わりに、それまでアースに捨てていた超高域をアンプに送ることができるようになります。この超高域がザクザクとしたサウンドを作り、音抜けを向上させるのです。ノイズには弱くなりますが、蛍光灯やPCなど電磁波の発生源から離れて演奏すれば問題ありません。

またカバードは、ピックアップカバーの厚みのぶんだけピックアップ本体が弦から遠くなります。「カバーを外したらパワーが上がった」という話があるのは、カバー一枚ぶんピックアップを弦に近づけたセッティングになるからです。


Steve Vai – Stillness in Motion Teaser
ピックアップカバーを外すという改造が流行し出したのは、70年代からだと言われています。パワーと鋭さを併せ持つオープンタイプのピックアップは、時代と共に激しくなっていくロックのサウンドには無くてはならないものになっています。スティーヴ・ヴァイ氏はフロントピックアップの端にテープを貼ることがありますが、これにはアームダウンやハードなピッキングが原因で1弦がフロントピックアップに引っかかってしまうのを防ぐ狙いがあります。

ピックアップカバーを着脱する方法

ある程度の設備と技術を持っていれば、ピックアップカバーは自分の手で付けたり外したりすることができます。しかしピックアップは本来、製造時の状態のままで使用されることを前提に作られています。カバーの外しやすさを考慮して設計されることはほぼありませんから、無理して外そうとするあまり大事なピックアップを破壊してしまうという失敗もあり得ます。また、EMGなど樹脂でがっちりと固められているピックアップのカバーを外すことはできません。設備や技術に自信のない人は、プロのリペアマンに相談してください。

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また、セイモア・ダンカンのAPHシリーズやSHシリーズなどでは、オープンタイプを基本としながらもカバードタイプがリリースされているモデルもあり、中にはゴールドが選べるモデルもあります。カバー着脱よりピックアップ交換の方が作業は遥かにカンタンなので、いっそのことピックアップごと交換してしまう、というのも一つの方法です。


Avenged Sevenfold – The Stage
「アヴェンジド・セヴンフォールド」に所属するシニスター・ゲイツ氏のシグネイチャー・ピックアップ「Synyster Gates INVADER」は、オープンタイプの本体に二列輝く特大ポールピースが目印です。ダンカンのインヴェーダーは分厚い重低音と凄まじいパワーが持ち味で、とにかくパワーが欲しいというギタリストにはうってつけです。ヘヴィメタル/ハードロックといった分野では、パッシブのハムバッカーにはオープンタイプが選ばれるのがほとんどです。

外し方

ピックアップカバーは、ピックアップ本体のベースプレートにハンダ付けされています。このハンダによって、ピックアップカバーにとらえられたノイズや超高域がアースに流される仕掛けです。ピックアップカバーを外すには、まずこのハンダを除去します。このハンダがハンダごてで簡単に溶けてしまえば良いのですが、なかなか溶けてくれないものもあるようです。先述のようにどのピックアップも工場出荷時の状態で使用されることを想定しており、どのメーカーのピックアップのハンダが溶けやすいとか、溶けにくいとかという公式な情報は得られません。あまり長時間ハンダを熱するとカバーやピックアップ本体にダメージを加えてしまうことがあるので、作業は手早く行う必要があります。またハンダがピックアップとカバーの隙間に入り込んでしまっている場合には、金ノコによる切断という手段が有効です。

カバードのハムバッカーは製造時に「蝋(ろう)漬け」という工程が施されるので、ピックアップ本体とカバーの隙間は蝋(=パラフィン、ワックス)で埋められています。ハンダを除去してもこの蝋がカバーに食いついているので、全体を60度以上に加熱して蝋を溶かしたり、また軽く叩いたりして取り外します。カバーを外してから余分な蝋をしっかり除去し、コイルにテープを巻いて保護したら、作業完了です。

付け方

ピックアップカバーの取り付けは、単純にハンダ付けするだけでは終わりません。買ってきたピックアップカバーは汚れが付きにくいように塗装されているのが普通なので、そのままではハンダがなかなかうまく付きません。ピックアップのベースプレートについても同様なので、まずハンダを付ける部分にヤスリがけを行い、ハンダを付けやすくします。

ピックアップカバーが共振を起こしてノイズを発生させることがあることから、ハンダでカバーを固定してから「蝋付け」を行う必要があります。蝋付けは、熱して溶かした蝋(=パラフィン、ワックス)にカバードピックアップを浸し、内部の隙間に蝋を浸透させます。これを冷やして蝋を固化させ、余分な蝋を除去して完成です。心得のない人にとってこの蝋付けはハードル感の高い作業なので、その代わりに両面テープなどで貼りつけてしまうという手段もとられます。しかしこの場合、取り付けたピックアップカバーを外すのがたいへん困難になります。


KURT ROSENWINKEL TRIO JAPAN TOUR 2016 : LIVE @ COTTON CLUB JAPAN (July.2,2016)
「現代ジャズギターの頂点」と言われるカート・ローゼンウィンケル氏。ジャズで使用されるフルアコやセミアコのハムバッカーは、カバードが基本となっています。この分野で求められる甘いトーンには、やはりカバードが必須です。

市販されているピックアップカバー

現在では各ブランドから純正のピックアップカバーがリリースされているほか、いろいろなブランドからピックアップカバーがリリースされています。カバードのサウンドを求めたりドレスアップをしたりと、こうしたカバーには一定の需要がありますが、ピックアップカバーを買う時に注意しなければならないのが、「弦間ピッチ」というキーワードです。

オーソドックスなスタイルのハムバッカーは一見するとどれも同じ寸法のように思えますが、ポールピース間の距離にわずかな違いが設けられています。ポールピースの中心から隣のポールピースの中心までの距離を「弦間ピッチ」といい、メーカーによって違いがあるのです。純正カバーが販売されているものについては心配ありませんが、別のメーカーのものを取り付けようと思ったら、自分のギターについているハムバッカーの弦間ピッチがどれくらいのものか、きちんとチェックしておきましょう。弦間ピッチが適合しないピックアップカバーは、ピックアップ本体にかぶせることができてもポールピースの調節ができなくなってしまいます。

ギブソン・ピックアップ 57Classic / Classic Plus / Burst Buckerではフロント/リア共に9.8㎜だが、490T/498T/500Tのブリッジ用は約10.5mm。いずれのカバーも純正パーツとして販売されている。ヴィンテージギターのハムバッカーには9.91mmのものも
セイモアダンカン 多くのモデルでフロント/リア共に9.8㎜だが、トレムバッカーは広くなっている。カバーは同社製品を取り扱うESPからリリースされている
ディマジオ 弦間ピッチ9.7mmを基本とするが、フェンダーの弦間ピッチに合わせた「Fスペース」のものは10.2mm。ノーマル、Fスペース共に純正ピックアップカバーがリリースされている
ヴァンザント・ピックアップ ヴィンテージギブソンと同じ9.91mm。純正カバーは販売されていない

各メーカーで異なる、ピックアップの弦間ピッチ例

標準的なピックアップカバーが「SCUD」や「YJB PARTS」などから、ヴィンテージピックアップのカバーを再現したりエイジド加工を施したりしたドレスアップ効果の高いものが「MONTREUX(モントルー)」や「VINTAGE CLONE PARTS」などからリリースされています。

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弦間ピッチの算出

手持ちのギターの弦間ピッチが判らない場合には実際に計測してみるのが一番ですが、普通の物差しでは9.91mmと9.8mmと9.7mmの違いなど、ミクロの寸法なんて判りませんね。自分で弦間ピッチを測定するには隣の弦との距離ではなく、1弦ポールピースの中心と6弦ポールピースの中心との距離を測ってみましょう。この長さを5分の1にした値が、そのピックアップの弦間ピッチです。

弦間ピッチ 図:自分で弦間ピッチを割り出す方法

1~6弦の距離 弦間ピッチ
49mm 9.8mm
48.5mm 9.7mm
49.55mm 9.91mm
51.5mm 10.5mm
51mm 10.2mm

表:1弦~6弦の距離から弦間ピッチを算出


以上、ハムバッカーのピックアップカバーについていろいろ見てきました。サウンドの変化もルックスも、ギタリストならばこだわりたいポイントではないでしょうか。大雑把ながら、使用されるジャンルにも関係しているというのが面白いところですね。

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